第450話 聖衣の教団
フェリペ皇子の部下マーモを頼って来た、彼の幼馴染ニア。
オッタマ帝国による弾圧を逃れて、教団組織の保護を受けた村人たちを守る戦いに協力して欲しいという、彼女の求めを受け入れたエンリ王子。
その教団の名は「アテナ修道会」
このエンリの行動の裏には、不可避であろうギリシャの独立を、従来の支援国であるロシア帝国の影響を受けない勢力に主導させようという、イザベラ等の戦略があった。
エンリは部下たちと、フェリペの部下たちも加え、ニアを案内役としてヤマト号に乗ってギリシャを目指した。
エーゲ海に入り、とある島に上陸する。
しばらく陸上を移動する。
「ここがマーモとニアさんの故郷かぁ」
村の入口に立って、そう感慨深そうに言うヤン。
だが彼の仲間たちは「廃墟だよね」と残念そうに・・・。
誰も居ない街に、石造りの崩れた建物が並ぶ。
「みんなはどこに行ったの?」
そうマーモが問うと、ニアは「アテナ修道会のあるグラコビスの町に居ます。これからそこに皆さんをご案内します」
「あそこにはグリード商会というギリシャ最大の商人が居る筈だが」
そうエンリが言うと、ニアは「それがアテナ修道会の表の顔なんです」
ヤマト号でギリシャ本土に向かう。
そしてグラコビスの港に上陸。
広場にテントが建ち並び、避難民らしき疲弊しきった多くの人達。
何人もの昔馴染みと再会するマーモ。
彼等との思い出話に花が咲く。
炊き出しをしている何人かの少年たちが居た。
エンリは彼等を見て「あれが修道士って訳か」
マーモとニアが修道士のリーダーらしき人物と話し、彼をエンリの所へ連れて来た。
「あなた達が味方になってくれるという方々ですね?」
修道士のリーダーにそう言われ、エンリは名乗る。
「ポルタから来たエンリだ」
「アテナ様の元へご案内します」
そう言って建物の入口を示す修道士のリーダーに、エンリは広場に居る人たちを指して、言った。
「それより、あの人たちは信者なのですか?」
「彼等は庇護民ですよ」とリーダーは答える。
修道士のリーダーに案内されて、エンリ王子たちはグリード商会の大きな建物に入り、地下へと降りて行く。
闘技場らしき施設があり、二人の少年が向き合っていた。
一人は大柄マッチョ。もう一人は小柄だが、強靭なオーラを感じせる。
ほぼ無人の観客席に、白いドレスのような衣を纏い、杖を持った一人の少女。
その横には翼の生えた天馬を模ったらしきオブジェ。
「あれは?」
エンリがオブジェを指して、そうリーダーに問うと、彼は「勝ち残った者にクロスを授けるのです」
「クロスって?」
そうエンリが問うと、「コスモを力へと変える鎧の宝具です」
「コスモって?」
そうエンリが言うと、アーサーが「多分、オーラの事だと思いますが・・・」
「だったらオーラって言えばいいのに」
そうエンリが言うと、アーサーは「そこはお約束という奴かと」
「で、あれが? 馬の置物だろ。鎧には見えんが」とエンリはオブジェを見て首を傾げる。
「それで今闘ってるのは?」
そうタルタが言うと、リーダーは「決勝戦ですね。デカいのがカシオス。もう一人がセイヤです」
カシオスと呼ばれた大柄の少年が、セイヤと呼ばれた少年を怒鳴り声をあげて威嚇する。
「痛い目を見たくなければ降参しろ。でなきゃ、お前の右耳を削ぎ落してやる」
そんな物騒なカシオスの台詞に、セイヤは「下っ端の悪役らしい台詞だな」
「黙れ!」
全力で殴りかかるカシオスをセイヤは軽くかわすと、一瞬で詰め寄ってカシオスの右耳の所へ。
そして彼の耳元で大声で「わーーーっ」
カシオスは思わず飛びのくと、右耳を押えて「耳が、俺の右耳が・・・。卑怯だぞ。正面からぶつかってみろ。俺のパワーが怖いか、このチビ!」
セイヤは余裕顔で「お前、ウドの大木って知ってるか?」
「黙れ!」
全力で殴りかかるカシオスの拳を拳で受け止めるセイヤ。
二つの拳がぶつかり合う衝撃波で、カシオスは気絶した。
アテナと呼ばれた少女は宣告した。
「闘いの勝敗は決し、神の審判は下りました。勝者セイヤ、あなたにペガサスのクロスを授けます」
セイヤはアテナの前に進み出る。
アテナは杖をセイヤの額に翳し、古代語の呪文を唱えた。
セイヤの額に立体魔法陣が浮かび、それは彼の全身を覆った。
「では、呼びかけなさい」
そうアテナに促され、セイヤは呪句を唱えた。
「目覚めよ、ペガサスのクロスよ」
天馬のオブジェが分裂し、部品となって宙に浮かぶ。
それはセイヤの全身を覆って鎧となった。
セイヤは右手を握りしめ、拳から立ち上る闘気を感じ、そして呟いた。
「これがペガサスのクロス」
全身に漲る力を感じ、セイヤは闘技場の反対側に向けて必殺技を放った。
「ペガサス流星拳」
衝撃波で反対側の客席が破壊される。
「これがペガサスの力・・・・・・」
そんなセイヤの後頭部をアテナはハリセンで思い切り叩いた。
「あれ、誰が直すんですか?」
セイヤは平身低頭。
「すみません、アテナ」
そんな彼女の前に、修道士のリーダーはエンリたちを連れて行く。
「アテナ、協力者の方をお連れしました」
「ポルタから来たエンリです」
そう名乗るエンリ王子に、アテナは言った。
「私はアテナ修道会を引き継ぐ者です。言っておきますが、私たちはカルトではありません」
「信者とかは?」
そうエンリが問うと、アテナは「そんな者は居ません」
「お布施とかは?」
そうエンリが問うと、アテナは「ここの財政を支えるのはグリード商会の財力です」
「彼等は子供の時にここに来て、戦士として仕込まれたのですよね? ちょうどイェニチェリのように」
そうエンリが問うと、アテナは言った。
「あれは征服者の道具になるために金で買われた者たちです。ギリシャの神の戦士として、親を失った子供たちを引き取って育ててきました。クロスの担い手とするために」
「クロスとは?」
そうエンリが問うと、アテナは語った。
「空に浮かぶ星座の力を宿し、音の速さで戦う。古代より受け継がれた神の鎧。それを守ってきたのが私たちです」
「なあ、アーサー。星座って、宇宙に浮かぶ星の目立つ奴が、ここから見てたまたまその形に並んで見える・・・ってだけなんだよね?」
そうエンリに言われ、アーサーは困り顔で「それは言わない約束かと・・・」
そしてアテナは言った。
「ペガサスの聖闘士の誕生により、五つのクロスの使い手が揃いました」
セイヤと同様の鎧を来た五人の聖闘士が集められ、アテナはエンリたちに彼等を紹介した。
「彼等が五人の聖闘士です」
「ペガサスのセイヤ」
白と赤の鎧をまとった先ほどの少年だ。
「ドラゴンのシリュウ」
緑色の鎧をまとい、左手に丸い楯を装着している。
「キグナスのヒョゥガ」
白い鎧の額当ての両側に白鳥の翼を模った飾りが目立つ。
「フェニックスのイッキ」
青い鎧の背後からフェニックスの尾を模った四本の飾り。
「アンドロメダのシュン」
肩当ての大きなピンク色の鎧に鎖をまとう。
エンリはシュンを見て、「女の子ですね?」
イッキはシュンの肩に手をかけると「こいつは俺の妹だ。同じ場所に立つ以上、シュンは俺が守る」
そんなイッキの手を執って、シュンは「兄さん・・・」
イッキはシュンを見つめ、そして「シュン・・・」
シュンはイッキを見つめ、そして「兄さん・・・」
二人の世界に浸るイッキとシュンに、他の三人は困り顔で「そういうのは後にして」
エンリたちはそんなイッキとシュンを見て「もしかして、こいつらってブラコンにシスコン?」
ヒョウガはペンダントの蓋を開け、うっとりした表情でそれに語りかける。
「ママーン、俺、ついに聖闘士になったよ。きっとこの力で、氷漬けになってるママーンを助けてあげるね」
エンリたちはそんなヒョウガを見て「もしかして、こいつってマザコン?」
「って事は他の二人も・・・」
そう言ってエンリたちはセイヤとシリューに視線を向ける。
セイヤとシリューは困り顔で「言っとくけど俺たちはノーマルだから」
「それで、これからどうするんですか?」
そうエンリが訊ねると、アテナは「ここを出ます」
「出るって・・・」
唖然とするエンリに、アテナは言った。
「もうすぐここにオッタマの軍が弾圧に来ます。私たちだけならいくらでも戦える。けれども庇護民たちを残せば、彼等は迫害を受けます。五人の聖闘士は誰にも負けません。ですが、五人では庇護民たちを守り切る事は出来ない。一緒に彼等を守って欲しいのです」
「それでどこに行くのですか?」
そうエンリが訊ねると、アテナは「サンクチュアリ。パルテノンの山岳に古代からの結界があり、そこに入れば彼等は安全です」
エンリは思った。守りに徹するだけで良いのか?・・・と。
そして「けど、これってギリシャの独立のための行動なんですよね?」
「あそこで彼等のクロスを完全なものにします」
そう答えるアテナに、エンリは「今はまだ不完全なんですか?」
「彼等が身に着けているのは青銅のクロスです。それを白銀のクロスに、そして黄金のクロスに変える事で、クロスは完全なものになります」
そうアテナが答えると、五人の聖闘士は眼を輝かせた。
ヒョウガが「このクロスが完全な力を?」
セイヤが「音の速さよりもっと早く・・・って。きっと光の速さで動けるんだ」
シリューが「そして宇宙創造のビックバンの力で・・・・・」
五人は声を揃えて「アテナ、黄金の聖闘士に俺たちはなります」
そんな話を聞いて、ニケもテンションが上がる。
「ちょっと待ってよ。それって錬金術じゃないの? どうやって? きっとオリンポスのダンジョンに賢者の石があるのね? そしてその秘密も・・・。それを手に入れて屑鉄を金に変えて、お金ガッポガッポ」