第45話 闇夜で海戦
秘宝の情報を求めてジパングに来たエンリ王子たちは、天下統一を進める織田信長に招かれ、毛利水軍と戦う信長の安宅船に同乗する事になった。
エンリたちが同行した織田信長の一行が大阪に到着した。
丘の上に建ち並ぶ大規模な建物群が見える。周囲を石垣で囲まれている。
それを指して信長は言った。
「あの岡が敵の根城、石山本願寺だ。あれを攻めているが、背後の海を海賊に支えられていてな」
ニケは「あんな城、ファフを使えばイチコロじゃない」と言い出す。
「他国の戦争に安易に介入しない方がいいよ」とエンリ王子はニケを窘める。
「何言ってるのよ、あんなに良くして貰ったじゃない。犬だって三日餌をやったら一生恩を忘れないのよ」とニケ。
カルロがタルタに「ニケさんってこんなキャラだっけ?」と、ひそひそ・・・。
「忘れたのかよ、どーせそのうち報奨金とか言い出すから」とタルタ。
案の定、ニケは「そして報奨金ガッポガッポ」
「ほら来た」とタルタが笑う。
「安易に動かないほうがいいですよ。この国にだって魔導士的な奴は居るんだから」とアーサーが言った。
港には何隻もの軍船が停泊している。その中心にあるのは、あの安宅船だ。
沖合には何隻もの海賊船。
信長とその家来たちは安宅船に乗り、エンリたちも一緒に乗り込む。
船に一人のイタリア人が居る。
信長は彼をエンリたちに紹介して「バテレンから借りた戦力で、魔法使いだそうだ」
「あなた達、ポルタの人ですね?」と、そのイタリア人はエンリに・・・。
アーサーが彼に「聖堂騎士団の魔導士ですか。あの騎士団は解散したと聞きましたが」
「活躍の場があると聞いて、ここまで来ました。海外は布教の新天地ですから」とアーサーに答えるイタリア人。
他の軍船を率いて出撃する安宅船。
沖合に居る海賊船と大砲を撃ち合う。やがて海賊船は撤退した。
日が落ちる中、エンリは信長に訊ねた。
「港に戻らないんですか? 夜襲されるんじゃ・・・」
信長は「それが狙いだ。返り討ちにしてやる」
緊張の中で食事を終え、夜が更ける。
突然、砲声が響き、船内に敵襲を告げる声が響いた。甲板に出ると、周囲に無数の海賊船。至近距離からの砲撃が始まる。
イタリア人魔導士が杖を高く掲げて呪文を詠唱した。
「光あれ」
そう彼が叫ぶと、いくつもの光が周囲に浮かび、一帯を真昼のように照らした。
安宅船が率いていた軍船の中の一隻が既に火の手を上げている。
そして、船を囲む海賊船団の布陣が明かされる。
「夜闇に乗じるつもりが生憎だったな」と強気な信長だが・・・。
エンリは「けど、あんなにたくさん」と、照らし出された敵船を見て呟く。
近距離に大砲を積んだ多数の小舟。少し離れて中距離をとった所に大き目の海賊船。
安宅船の多数の大砲が近距離の小舟に向けて火を噴くが、何しろ的が小さい。
「それにこの船の防護鉄板も、こんな至近距離で撃たれたら」とアーサーが顔を曇らせる。
砲弾が何発も命中し、立て続けに衝撃が来る。
秀吉が「これはまずいか」と呟く。
不安顔の光秀が「殿」と信長に・・・。
信長は「うろたえるな。勝負は時の運だ」となお強気だ。
エンリは仲間たちに「なあ、至近距離に居る船だけでも何とかならんかな」
するとリラが「王子様、私がやります」
リラはいくつもの爆雷を抱え、人魚の姿になって海に飛び込んだ。
信長はそれを見て「あの娘、人魚か」と驚き顔になる。
接近していた船に次々に爆発が起こる。
小舟は警戒して距離をとった。
安宅船の多数の大砲の標的は、中距離に居る敵船に移った。港からも味方の船が駆け付ける。
その時、敵船との間の水面から巨大な何かが出現した。
真っ黒な大きな頭と、光る二つの目を持つそれが、安宅船に向かって手を伸ばす。
舵をとる味方の海賊が「海坊主だ」と恐怖の声を上げた。
「敵の陰陽師が操ってるんだ」と秀吉の表情が強ばる。
「ファフ」とエンリ。
「任せて」
そう言ってファフがドラゴンとなって海坊主に襲いかかり、二匹の巨大な魔物の格闘が始まった。
信長はそれを見て「あの小娘、龍か」と驚き顔になる。
エンリは参戦を決意して仲間たちに呼びかけた。
「こうなりゃ総力戦だ。みんな、全力で加勢するぞ」
アーサーは船べりに立ち、呪文を詠唱。
「汝、水の精霊。世界の根源たる螺旋の王よ。大いなる海の流れとなりて、その姿を示せ。汝の名はスパイラルフォール」
スパイラルフォールの魔法で起こす巨大な渦巻が敵船を呑み込む。
その時、敵船の船べりに居た三人の僧侶がマントラを唱えた。渦潮の勢いが弱まる。
「一種のアンチ魔法だな」とアーサーが呟く。
僧侶の一人が数珠を握った手を突き出して叫んだ。
「色即是空空即是色、喝!」
渦潮が嘘のように消失した。
「あいつら手ごわいぞ」とアーサーの表情が強ばる。
さらにマントラを唱え続ける僧侶たち。
一帯を照らしていた光球がぼやけ始め、「光魔法が破られるぞ」とエンリが叫んだ。
「暗闇になったらこっちが不利だ」とジロキチ。
「加勢します」とアーサーが言って一緒に光の呪文を詠唱。
イタリア人魔導士とアーサー対敵方僧侶の、アンチ魔法と光魔法の力比べが始まる。
その時、ニケが上空を見て「空から何か来る」
「式神烏だ」と秀吉が叫んだ。
真っ黒な巨大な烏が数羽。いずれも背中に人を乗せている。
烏の背中に居る兵たちが鉄砲を構え、一斉射撃で信長を狙う。
鉄化したタルタがその前に立ち塞がって銃弾を弾いた。
「撃ち落とせ」と信長が甲板上の兵たちに号令。
甲板に居る信長の鉄砲隊が応戦し、銃撃戦が始まるが、味方が次々に倒される。
「何だよ、あいつ等の命中率は」とエンリの表情が曇る。
ジロキチが「根来衆だ。手強いぞ」
「まかせて」
そう言うと、ニケは二挺の短銃で次々に空中に居る敵を撃ち落とす
飛来した敵を倒している隙に、船べりから何人もの敵が船側を登って、指揮する信長とその家来たちに襲いかかった。
「忍か」と信長は言って槍を手に取る。
襲って来る忍者たちに刀を抜いて応戦する家来たち。
彼らと斬り合う数人の暗殺者の背後から一人の黒づくめが忍刀を翳して跳躍した。
「信長殿、お命頂戴する」
そう叫んで空中に舞う敵を、槍を翳して一突きする信長。
さらに周囲から襲いかかる敵の前にジロキチが立ち塞がり、四本の刀が一閃して敵を薙ぎ払った。
切りかかる忍刀を鋼鉄の体で受け止めるタルタ。刀を折られた敵は信長の手勢が仕留めた。
その時、安宅船を囲む敵船団のさらに外側から砲声が上がる。
「ようやく来たか」と呟く信長の表情に明るさが戻る。
味方の船団が敵を外側から包囲したのだ。
敵船団の陣形は崩れ、その中枢に居る海賊大将の船に向かって突入する味方船団。
そんな様子を見て信長は「勝負あったな」
生け捕りになった海賊大将が引き出された。
「お前が信長か。敗れた以上、この世に未練は無い。さっさと斬れ」と海賊大将は言った。
すると信長は彼に「その前に、この者たちが聞きたい事があるそうだが」と言ってエンリ達を引き合わせる。
海賊大将は彼等を見て「異人ではないか」
エンリは「"ひとつながりの大秘宝"というのを知ってますか?」と尋ねた。
「知らぬな」と海賊大将は一言。
「では大海賊バスコは?」とエンリ。
海賊大将は「バテレンの海賊だな。聞いた事がある。南方より来りて、東方の海に向かったと」
エンリは隣に居るアーサーに「って事は、オケアノスの海だ」
「何をするとかは?」とエンリは海賊大将にさらに訊ねる。
「秘宝を眠らせに行くと」と海賊大将。
「ひとつながりの大秘宝だ。本当にあったんだ」
そう言って喜ぶエンリとタルタと仲間たち。
「それで、その秘宝とは?」とエンリは海賊大将にさらに訊ねる。
海賊大将は「それは知らぬ。ただ、金銀財宝の事ではあるまいよ」
「そうだろうな」とエンリ。
ニケは「えーっ、違うのぉ」
エンリはあきれ顔で「ニケさん、空気読みなよ」
引き立てられていく海賊大将。
その後ろ姿を見送ると、ニケは揉み手しながら信長に迫る。
「それで信長様ぁ、私たちぃ、お役に立てましたよねぇ?」
「褒美でも欲しいのか?」と信長。
「いや、別に催促している訳じゃ」と勿体つけるニケ。
「要らぬのか」と信長。
ニケは慌てて「要ります。ご褒美欲しいです」
「何が欲しい?」と信長。
「それはまあ」と勿体つけるニケ。
信長は「金か?」
「解りますぅ?」とニケ。
「顔にそう書いてある」と信長。
エンリはそんなニケを見て、困り顔で信長に「すみません、こういう奴なんで」
信長は「いや、手柄を立てた者には金子を褒美とする主義なのでな」
「さすが太っ腹」とニケ。
「下手に領地でも与えて自立されたら敵わん」と信長。
「確かに」とエンリ。
そして信長はエンリに言った。
「それで、その秘宝とやらは解ったのか?」
「はい、すぐにでも探索に立ちたいと」とエンリ。
すると信長は「そう急ぐ事もあるまい。その娘、人魚であろう」と言ってリラを指す。
「はい」とリラ。
「この国にも居るらしい。伝説なのだがな」と信長。
「人魚がですか?」とエンリ。
信長は「探してみるか?」
「居るなら、会いたいです」とリラは答えた。




