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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第449話 ギリシャの風雲

ユーロの東、バルカン半島南端に位置するギリシャ。


古代には海洋交易によって栄え、高度な文明を産み出した。その文明はローマへと受け継がれ、ユーロ文明発祥の地と認識されている。

そしてローマが東西に分裂する中、東のローマの拠点となり、宗教的には西の教皇派に対抗する東方教会の地となって、バルカン半島に移住したスラブ人の改宗を得た。

彼等を取り込む事で南から侵入したアラビア勢力に対抗し、東方との交易の拠点として繁栄したものの、中世スラブ人の自立とオッタマ帝国の侵入により領土を失い、都市国家同然となった東ローマはついに陥落。ギリシャもオッタマの支配を受けた。


宗教的には東方教会信者としての宗教的自治を認められてはいるものの、常に圧迫の元にあり、マーモとニアが育った村も弾圧を受けた。

ロシア人は中世スラブ人の間に広まった東方教会を受け入れ、ロシア帝国の成立とともに、分派とも言うべきロシア正教会を設立。

海への出口を求めるロシア帝国は、ノルマン海方面への進出を試みて北方戦争で挫折した後、黒海方面から地中海への進出を目論み、バルカン半島を南下すべくオッタマへの進出を開始。そこに住むスラブ人とギリシャ人への独立支援もその一環である。



フェリペ皇子の部下の一人でギリシャ出身のマーモを頼って来た、彼の幼馴染のニア。

彼女はオッタマ帝国に追われた村の人たちを救うため、村人たちを保護したアテナ修道会への協力を求めてきたのだ。

彼等の目的はギリシャの独立。

エンリの率いるタルタ海賊団とフェリペのマゼラン海賊団が招集され、ポルタ城での会合は続いた。

ニアたちの求めに応ずるか否か。

下手に関われば、ロシアの覇権に手を貸す事になってしまう。


エンリは語った。

「東方教会の信者としての繋がりでギリシャがロシアの支配下に入れば、ロシアは地中海へ押し寄せる。だからイギリスとスパニアでオッタマを裏から支えているが、この動きが表面化すれば、ユーロ全体への裏切りとロシアは宣伝するだろうな。ユーロ文明発祥の地ギリシャを解放する・・・というスローガンは、容易にユーロ人の感情に訴えるものさ」

「だったらギリシャは独立すべきでは無いという事なのでしょうか?」

そうマゼランが問うと、エンリは「いや、一つ言える事は、独立はその地に住む民にとっての権利だ」


「けど、ロシアの宣伝って嘘っぱちよね? ロシアだって多くの民族を支配し弾圧してきたのだから」

そうニケが言うと、エンリは言った。

「けどね、その理念の正しさはその言葉自体の如何によるものであって、それが誰によって語られたかの問題では無い。それを唱えた者が誰であるかを理由にその理念そのものの価値を否定は出来ないぞ」

「つまり、ギリシャの独立は支持されるべき。但し、本当に彼等のためを思う者によって・・・という事ですね?」とチャンダ。



「ロシアによる援助の受け皿は東方教会の関係者。それとは別の、ニアさん達を保護してるアテナ修道会って?・・・」

そうヤンが言うと、ニアは「公式には存在しない事になっています」

「けど修道士って・・・」とライナが疑問顔で・・・。

「身寄りの無い子供たちを育てる養護事業です。そこで育った少年たちの中から選ばれて・・・」とニア。

タルタが「希望者がなるんじゃ無くて?」

若狭が「選ばれる基準とかあるの?」

リラが「もしかして戦いに秀でた?」

「それは・・・」とニアは口ごもる。


「身寄りの無い子供って事は、どこで死んでも誰も困らないって事だよね?」とエンリが指摘。

「つまり、修道会に名を借りた軍隊みたいな?」

そうタマが言うと、ニアは語気を強めて「彼等は奴隷じゃ無いです」

「・・・・・・」

「そこを運営する費用って、寄進?」

そうルナが言うと、タマが「壺を売って信者が全財産差し出すとか?」

ニアは更に語気を強めて「アテナ様はギリシャ商人の娘として生まれ、その経済力は父君の資産です」


エンリは溜息をつき、そして言った。

「彼等に会って確かめるしか無いね」



タルタ海賊団の出動が決まった。

だが、エンリはこの作戦に一抹の懸念を抱えていた。


ヤマト号で地中海に乗り出すべく出港準備を進める中、エンリは彼の部下たちとマゼラン、そしてフェリペ旗下の二人の航海士に方針を伝えた。

「フェリペ皇子は連れて行かないんですか?」

そうマゼランが怪訝顔で言うと、エンリは「まあ、学業もある事だし」

「っていうより、醜い現実を見せたく無い・・・って事ですよね?」とアーサー。

「もしかしたら戦闘奴隷を使っているのかも知れないという事ね?」

そうニケが言うと、ヤンは「ニアさんは奴隷じゃ無いって言ってましたけどね」


「広義の奴隷ってのもあるからなぁ」とエンリ。

するとアーサーが「けどそれ、宣伝戦争で相手国を加害する目的で、昔の軍隊向け風俗業を"実は軍が強制連行した女性"なんて歴史捏造で性奴隷制呼ばわりする、汚い攻撃欲正当化のための、果てしない拡大解釈ですよね? それで"全ての売春婦は広義の性奴隷だ"とか言い出した国が、出稼ぎ売春を指摘されて大恥かいたって・・・」

「そうなんだけどね、でも、イェニチェリを排出する土地柄だからなぁ」とエンリ。

マーモは「あれはオッタマの制度で、異民族の子供を奴隷として買って戦士として訓練するっていう、マムルーク制の延長ですよね?」

エンリは言った。

「けど、子供を戦士として訓練するって点では同じだよね。とにかくフェリペには出港日時を秘密にしておいてくれ」



だが・・・・・・・・・・。


「明日、出航ですよね?」

出港の前日の夕食時にフェリペにそう言われ、戸惑うエンリ王子。

「・・・・・・・」

「僕たちを置いていくんですか?」と寂しそうに言うフェリペ。

「誰から聞いた?」

そうエンリが問うと、隣にロキが現れて「俺は神様だからな。隠し事しようなんて無駄だぞ」


「マーモは僕の仲間です」

そう言うフェリペに、エンリは「世の中には子供に理解出来ない事ってのがあるんだよ」

「知ってます。大人は汚いんですよね?」とフェリペ。

「そういう事だ」

「僕に嘘をつくなって言って。自分は嘘をついて」とフェリペ。

「・・・」


困り顔のエンリに、フェリペは「島の人たちを助けるため、でしたよね?」

「お前・・・」

そしてフェリペは「そういう時のための闇のヒーローですよね?」

「解ったよ。一緒に来るか?」

そうエンリが言うと、フェリペは「連れて行って下さい」



エンリはイザベラに通信魔道具で連絡をとる。


「ギリシャの独立の件なんだが、とりあえずスパニアとしての立場について確認したい」

そうエンリが言うと、イザベラは「ロシアの南下を阻止するため、イギリス・フランスと共同であの国を牽制する、って、これに尽きるわね」

「ユーロ文明発祥の地とかいう謳い文句については?」とエンリ。

イザベラは「ユーロという単位にどれだけ重きを置くか・・・という事だと思うわよ。教皇庁の権威を中心とする西側がこれまで、私たちの世界だった。けれども支配原理としての宗教はもう重みを失っているわ」


「オッタマの脅威については?」

そうエンリが言うと、イザベラは「あの国はユーロを脅かす力を失いつつあるわ。だから、とりあえず現状の維持が優先って所かしらね。それが、大きな力による現状変更を恐れる国々にとっての頼りという事になる」

エンリは「それでいいのか? 群小の支持なら独立国家対等の保障こそが優先事項だと思うが」

「それだと、スパニアが小国を侵略出来なくなるじゃない」とイザベラ。

「おいおい」

「バルカンへの進出を狙う勢力として、ドイツ皇帝が居るわよね」

そうイザベラが言うと、エンリは「ロシアへの対抗馬って訳か。けどあそこは強くないよね?」


イザベラは言った。

「下心で進出を支持して煽るのは簡単よ。プロイセンあたりは盛んにやっているわ。ドイツ皇帝の関心が東へ向けば、プロイセンはドイツ国内で好き勝手できるもの」

エンリは「皇帝がバルカン半島で大きな領土を手にするって事になるが?」

「宗教も民族系統も違う小さな国々よ。まとめるのは一苦労よ。逆にお荷物になって足を引っ張られるって事になる。フリードリヒはそれを期待しているわ。あの女はちょっと煽ればイチコロだもの」とイザベラ。

「もしかしてお前も?」

そうエンリが言うと、イザベラは「プロイセンに反撃するための地盤を手に入れるチャンスって煽ったり」


エンリは「逆にドイツが本当に強くなったら?」

「大丈夫。ドイツが進出したとして、支持するのは教皇派とゲルマン系民族で、むしろセルビアみたいな東方教会とスラブ系が多数派よ。ロシアと取り合いになったら、かなり苦労すると思うわよ」

そんなイザベラの言に、エンリは脳内で呟く。

(この女は・・・)

エンリは「それって負け馬に賭けるって事なんじゃないのか?」

「勢力を均衡させて対立を長引かせるのよ」とイザベラ。


「けど、今回の主役は、ロシアが支持しているのとは別の勢力なんだが」

そうエンリが言うと、イザベラは「アテナ修道会というのよね」

エンリは言った。

「その土地の主はそこの住民であるべきで、独立は不可避であり支持すべきものだ。だったら、ロシアを頼る以外の勢力がそれを主導するのは良い事だと思うぞ」

「宗教勢力なのよね? 大丈夫なのかしら」

そうイザベラが問うと、エンリは「そこは見極めながら・・・って事になるだろうな」

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