第448話 海賊の婚約者
その日、ポルタ大学魔法学部でのライナ・リンナ・ルナ・・・フェリペ皇子付の女官だった三人は、大学の正門前の庭園で、魔法学部の仲間たちとわいわいやっていた。
「やっぱり男は年下よね」
そうルナが言うと、ライナが「同年代だと思うけど」
するとリンナは「むしろ年上じゃないかな」
「恋愛対象としての価値は、年とともに低下するって言うわよ」
そうルナが言うと、チノが「それはショタ属性のルナの基準じゃないの?」
「けど解る」
そうジョルドが口を挟むと、チノは不機嫌そうに「まさかジョルドってロリコン?」
ジョルドは困り顔で「何でそう極端に走るかなぁ」
「だって男は大抵年下狙いでしょ?」
そうチノが言うと、ジルは「そうでもないぞ。大人の女性が好きって奴も居るし」
ルチアが「そういうのは、大人だと性嫌悪とか卒業してそうで、甘えさせて貰えてあんな事やこんな事を・・・って」
男子たちは口を揃えて抗議声で「男の恋愛が性欲しか無いみたいな発想は止めてくれ」
「けど、浮気性で四六時中ナンパしてる奴が、女性に声をかける時って、大抵"お姉さん"って言って、いきなり抱き付いて殴り飛ばされたり」
そうルチアが言うと、「そんなの漫画やアニメの中だけ」とロイデが突っ込む。
ジョルドも「ってか、そんなのを基準に男を見ないで欲しい」
男子たちの不機嫌モードで、女子たちも些かしゅんとなる。
そして・・・。
「そうよね。マゼランさんとか・・・」
そうライナが自慢顔で言い、チノがヨイショ顔で「あの人は誠実に手足の生えたような人だからなぁ」
するとルナが「けどさ、リラさんとかに妙に優しいよね?」
「彼は誰にだって優しいけどね」
そうルチアが言うと、ロイデが「で、その一人がライナ・・・」
ライナ以外の女子全員、ロイデをハリセンで叩く。
落ち込むライナにロイデが「悪かったって。マゼランにとってライナは特別だよ」
ライナが「本当にそう思う?」
「あいつに大人女子の関係者なんて居るもんか」とロイデが御機嫌取りモードで・・・。
その時、彼等の会話を小耳に挟んだらしき、一人の大人の女性が話しかけた。
「あの、皆さん、マゼランさんを御存じなのですか? 彼がここに居ると聞いて来たんですが」
ライナはいきなり険しい表情になって「彼とどんな関係の方ですか?」
女性はおろおろ顔で「私、何かまずい事を言いました?」
そんな彼女にロイデが「気にしないでいいですよ。ただの嫉妬の鬼なので」
ライナは口を尖らせて「誰が嫉妬の鬼よ!」
何やら妙な誤解をされているらしい・・・と感じたその女性。
「いや、別にマゼランさんと何かあるって訳じゃ無いですから」と誤解の解消を試みる。
「じゃ、あなたは何?」
そうライナが問うと、女性は「幼馴染です」
ライナたち九人の学生、額を寄せて小声であれこれ・・・。
リンナが「幼馴染って最強って言うよね」
「どんな幼馴染かって事にも依ると思うが」とロイデ。
ジョルドが「貴族令嬢には見えないけどなぁ」
「世話係のメイドとか?・・・」とルチア。
「で、思春期の頃まで御屋敷に居て、初体験の手ほどきを・・・」
そんな妄想をジルが語ると、ライナは「だって彼はまだ童貞だって・・・・・・・・」
そしてライナは女性に向き直り、言った。
「あの、どういう幼馴染なんですか?」
「結婚の約束を・・・」
そう女性が言いかけると、ライナは思わず口走った。
「マゼラン様の童貞は私が貰うんです!」
残念な空気が漂い、周囲のドン引きな視線を浴びて、ライナは真っ赤に・・・。
そして女性は残念顔で言った。
「いや、マゼランさんじゃ無くて、私が合いたいのはマーモです。私はニア。彼がマゼラン海賊団という所に居ると聞いて。彼の居場所を知りたいんです」
ライナたち九人の学生、額を寄せて小声であれこれ・・・。
「なーんだ、そういう事かよ。つまり婚約者に会いに来たと・・・」
そうドミンゴが言うと、リンナが「けど、何しに?」
ジルが「そりゃ結婚を迫りに来たに決まってるじゃん」
するとリンナが指摘した。
「けどマーモさん、奥さん居るよね?」
「あ・・・・・・」
チノがあきれ顔で「婚約者を放り出して別の女と・・・」
ルチアが憤懣顔で「これだから男は」
「最低!」と。女子たちは声を揃える。
ライナたち三人がニアを連れて、人文学部のマゼランたちの所へ・・・。
彼等にニアを紹介し、彼女がマーモと結婚の約束をした幼馴染である事を話す。
話を全く理解出来ていないフェリペを含む七人は、額を寄せてあれこれ・・・。
「あの男、とっちめてやる」
そうライナが憤懣顔で言うのを、マゼランは制した。
「いや、彼は悪くないのかも。あいつはギリシャの生まれ故郷を追われたんだよ。オッタマに反乱の疑いをかけられてね。幼馴染と生き別れて、彼女が生きていると知らないのかも」
ライナは口を尖らせて「じゃ、彼女に諦めろと? ずっとマーモさんを想い続けて来たんですよ」
「重婚って訳にもいかないしなぁ」とチャンダ。
「けど、国教会は恋愛自由だよな」
そうシャナが言うと、リンナが「いや、結婚と恋愛は違うから」
マゼランはニアに向き直り、そして言った。
「あの、ニアさんって、彼とどうしても結婚したいですか?」
「それってどういう・・・」
そうニアが困り顔で言うと、マゼランは「実は彼、既に結婚していまして」
「・・・」
ニアは何か言おうとしたが、それを待たずにルナは彼女にドアップで「他にいい男はいくらでも居ますよ」
「あの・・・」
リンナもドアップで「そうですよ。いくら生き別れになったからって」
「あの・・・」
ライナもドアップで「故郷の婚約者を忘れて他の女と結婚しちゃう男なんて」
「あの・・・」
ニケもドアップで「いい婚活サイトを紹介するわ。お安い紹介料で高学歴高収入のハイスペ男がこんなに」
チラシの束を持って話に割り込むニケの登場に、全員唖然。
残念な空気の中、チャンダが困り顔で「何でニケさんがここに?」
「商人学部の特別講師よ」
そうドヤ顔で言うニケに、マゼランは困り顔で「エンリ王子から出入り禁止を言い渡されてましたよね? 今度はどんな詐欺商法を学生に教えるつもりですか?」
ニケは更なるドヤ顔で「失礼ね。新興宗教は立派なビジネスよ。心の隙間はお金じゃ埋まらないのよ」
全員、溜息をつき、そして「駄目だ、この人」
そしてニアは言った。
「そうじゃ無くて、助けて欲しいんです。海賊団の皆さんに・・・。オッタマの軍に追われた村のみんなのために」
全員、顔を見合せる。
「マーモさんの故郷ってギリシャだよね?」
そうマゼランが言うと、ニアは「村を追われた私たちは、ある教団の保護を受けているんです」
ライナが「教団ってまさか、壺とか売ったりする所じゃ・・・」
「どういう教団ですか?」
そうチャンダが訊ねると、ニアは「アテナ修道会」と・・・・・。
「それ、異端ですよね?」とマゼラン。
「知ってるの?」
そうルナが言うと、マゼランは「具体的には知らないけど、アテナというのは唯一神以前のギリシャの多神教で崇拝された秩序神だよ」
「って事は新興宗教みたいな?」とチャンダ。
ニケが「つまり信者を騙して勧誘して全財産寄進させてお金ガッポガッポ」
「頼むからそーいうのは止めて」
そう言ってニケを止めに入るエンリ王子と仲間たち。
マゼラン、唖然顔で「何でエンリ殿下たちまで?」
「授業参観ですよね?」と嬉しそうなフェリペに、ルナは「多分、違うと思います」
エンリは溜息をついて「俺たちでなきゃ、ニケさんを止められないだろ」
マゼランはニアの件をエンリに伝え、ポルタ城で、改めてタルタ海賊団とマゼラン海賊団の全員が集まる。
そこでニアはマーモと再会。
子供の頃の思い出話に花を咲かせる二人。そして、あれこれ突っ込みを入れるヤンとタルタ。
「結局、婚約って子供の遊びみたいなものだった訳かよ」
そうタルタが言うと、若狭が「けど、それを信じて一途に想い続ける人だって居るんですからね」
そしてエンリはニアに問うた。
「で、本題なんだが、これってつまりはギリシャの独立運動絡み?」
「はい」
フェリペは目をキラキラさせて「つまり父上、これって独立を助けて悪い支配者を追い払うヒーローの仕事ですよね?」
「そう簡単な問題じゃ無いと思うぞ」と困り顔のエンリ。
「それはどういう・・・」
そうマゼランが真剣な目で尋ねると、エンリは「独立運動の背後にロシアが居るんだよ」




