第446話 はじめてのでーと
試験的に開設された小学校の12人の生徒の一人、ロイ。
担任となった人魚姫リラに恋をした彼は、エンリ王子に決闘を申し込み、野球拳の勝負を挑んだ。
そしてロイはエンリを破った。
決闘で勝ったロイは、なし崩し的にリラとデートする事になり、クラスでは、その話題でもちきり状態。
「明日はリラ先生とデートだね」と言って盛り上がる女子たち。
「それでデートコースは?」
そうルイゼが言うと、ロイは「カルロさんがプランを立ててくれたんだ」
アルセラが「コーディネートはきちんとしなきゃだよね」
「勝負服ってやつだろ?」
そうロイが言うと、レンが「兄貴から借りて来た特攻服があるぞ」と言って丈の長い黒い上着を出す。
背中に白字で大きく「夜露死苦」と・・・。
ロイはドン引き顔で「そういう怖いのは要らない」
「年下は可愛さをアピールすべきよ」とスーザは言い、衣服の包みを出す。
ロイはそれを手に執ると、ズボンの代わりにスカート。
「これって女装だよね? 俺、ノーマルなんだが・・・」
そうロイが困り顔で言うと、スーザは「女子の価値観に寄り添う女装男子は最強よ」
ロイはドン引き顔で「勘弁してくれ」
「参考にすべきは、女を口説くプロだと思うよ。という訳で、従兄から借りて来たホストクラブの制服だ」とケインが言い、衣服の包みを出す。
ロイがそれを手に執ると、かなり気合の入ったスーツだ。
彼はその上着に袖を通してみる、・・・・が。
上着は大人サイズでロイが着るとぶかぶか。
彼は残念顔で「サイズが合わないんだが」
マナが言った。
「それより会話よ。デートって、つまりおしゃべりだよ」
「俺のコミュ力舐めんな」
そうロイが言うと、ジュドーが「けど、ロイの話題ってゲームとかアニメとかだよね? オタクの趣味ネタは一番引かれるぞ」
「大事なのはユーモアのセンスさ。って訳で参考書だ」とギースが言い、一冊の本を出す。
表題は「世界のジョーク100選」
ロイはページをめくる。
「どれどれ?・・・・・。"隣の家に垣根が出来たってね。へー"」
残念な空気が流れる中、ロイはその本を放り出して「役に立つか! こんなもん」
ミントが「それで待ち合わせは?」
「明日の十時だ」
そうロイが答えると、ギースが「女を待たせるのは最悪だぞ」
ロイはお気楽顔で「大丈夫。五分前行動って、先生も言ってたじゃん」
「けどそれだと、相手が十分前に来たら、五分待たせる事になるよ」
そうギースに言われ、ロイは「そりゃそーか」
すると「これを貸してやる」とゼロが言って、大きな何かが入った袋を出す。
ロイは中身を確認。そして「テントだよね?」
ゼロは言った。
「叔父さんがアニメイベントで泊りがけでオープン待ちする時に使うんだ」
ロイは頭を抱えて「勘弁してくれ」
そしてデート当日・・・。
九時50分、待ち合わせ場所に姿を見せたリラを見つけて手を振るロイ。
「リラ先生」
「ロイ君、もう来てたのね」
そうリラが言い、ロイは「待ちきれなくて。今日はよろしくね」
「じゃ、行こうか」
そう言ってロイの手を握るリラ。その感触にロイは思った。
(母さんとお出かけする時みたい)
公園に行き、喫茶店に行き、大道芸を見てレストランで食事。
会話は自然とエンリ王子の話題になる。
海賊団でともに戦い、仲間と出会い、魔剣を手に入れ、世界中に出かけて、人々を助けながら、新しい時代を切り開いてきた、エンリ王子とリラ。
「凄い人なんですね」
目を輝かせながらそう言うロイに、リラは「そうよ。魔剣を振るう海賊王だもの」
ロイは「だから好きになったんですか?」
「それは違うわ。あの人は海が大好きで、いつも海を見ていて、私は人魚だから、そんな彼が好きになったのね」とリラは答える。
「でも王子なんですね?」
そうロイに言われ、リラは言った。
「最初は彼が王子だなんて知らなかったの。ただ、とても可愛い子供だな・・・って」
「子供ですか?」
リラは「人魚は長命だから、私を追い越して大人になったのね。そんな彼を見ながら、これが恋だって・・・」
「そこに連れて行ってくれますか?」とロイ。
「いいわよ」
食事を終えてレストランを出て、海岸に向かうリラとロイ。
砂浜に立つ二人。
水面には、いくつもの大きな岩が顔を出している。
「ここで王子は海を見ていたんですね?」
ロイがそう言うと、リラは水面にある岩の一つを指して「私はあの岩陰から、彼を見ていたの」
ロイは「子供だったんですよね?」
「そうよ」
ロイは「けど、それが恋になったのは、大人になってから、なんですよね?」
「そうね」
「僕はまだ子供だから・・・」
そうロイが少し寂しそうに言うと、リラは「けど、私はロイ君たちが大好きよ」
ロイの頭を撫でるリラ。
その後、演劇を見てレストランで夕食を食べ、ホテルで・・・。
リラと一緒のベットで横になるロイは、両親の間で川の字で寝た時の事を思い出した。
ロイは隣に居るリラに「何だか母さんみたい。恋愛ってこんななの?」
「そうね。恋愛って、家族になるためにするんだって、誰かが言ってたわ」とリラ・・・・・。
いかにもオバサンな母親を思い出し、ロイは少しだけ萎えた。
翌日・・・・・。
学校に戻ったロイを囲んで、盛り上がるクラスメートたち。
「で、リラ先生とデートって、どんなだったの?」
そうルイゼが言うと、ロイは曖昧な記憶を辿って「大道芸を見て演劇を見て喫茶店に行ってレストランに行って・・・」
「美味しいものを食べたりするんだ。いいなぁ」とマナ。
ロイが「手を繋いで・・・」
「いいなぁ」とアルセラ。
ロイは「頭を撫で貰って・・・」
「・・・・・・」
「夜は一緒のベットで寝て・・・」
そうロイが言うと、ミントがはしゃぎ声で「大人の階段だぁ」
「けど、母さんみたいだった」とロイ。
「そりゃ、子供は親と一緒に寝たりするけど」
そうケインが言うと、ギースが「けど、一緒に寝ただけ?」
「他に何するんだ?」とロイ。
全員、首を傾げて「何をするんだろう・・・・・・」
「何だか、家族でお出かけするのと変わらん気がするんだが」
そうベンが疑問顔で言うと、ロイは「実際、母さんみたいだった」
レンが「いいのか? それで」
ロイは「けど先生、言ってた。恋愛は家族になるためにするんだって」
「・・・・・・」
「どんな話をしたの?」
そうスーザが言うと、ロイは「エンリ王子の話」
ジュドーが「いいのか? それで」
「けど、楽しい所にいっぱい行ったんだよね? 今度連れて行ってよ。デートで廻った所」
そうルイゼが言うと、女の子たちは口を揃えて「私も行きたい」
「だったらみんなで行こうよ」とジュドー。
「けど、レストランはお金がかかるよね?」
そうミントが言うと、レンが「公園や海で遊ぶのはただだぞ」
ケインが「だったら、魚とりをしようよ」
ゼロが「木の実がなってる所を知ってる」
アルセラが「夜にキャンプとかお泊り会とか」
ロイとリラは生徒と教師の関係に戻った。
12人の生徒たちは仲良くなり、いつも12人でわいわいやる。
エンリとリラが連れ立って街を歩いていると、ロイとルイゼが手を繋いで歩いている所に出くわした。
リラたちに気付いてお辞儀をする、ロイとルイゼ。
リラは手を振って応える。
去って行く二人を見て、エンリは言った。
「あいつ、お前を好きだった奴だよな?」
リラは「今は子供たちどうしで、すっかり仲良しですよ」
「ま、年相応の相手と・・・って訳か」と言ってエンリは顔を綻ばせる。
「けど、私があの海岸で王子様を始めて見たのは、王子様が子供の頃ですよ」
そうリラが言うと、エンリは怪訝顔で「子供って?・・・」
「人魚は長命ですから」とリラ。
エンリは少しだけ焦り顔で「じゃ、お前って、もしかしてショタ属性とか?」
「どうでしょうか」
そう楽しそうにリラが言うと、エンリは「どうでしょうか、じゃ無いだろ」
「けど私は今の王子様が大好きですよ」
そう言ってリラはエンリの左腕を抱きしめた。