第445話 初恋は人魚先生
全ての国民に教育を施す事を目標に、試験的に創設された小学校。ここで始まったリラの教師生活。
12人の生徒たちの連日の悪戯。
その挙句、自分たちが掘った落とし穴に気付かないロイを助けようとして、それに落ちてしまったリラ。
リラの学校での数日間の松葉杖生活は、自分達の悪戯のせいで怪我をさせたと、生徒たちに反省を促した。
特に責任を感じたロイは、リラの周りをうろうろするようになり、教室に向かう時は荷物持ちを買って出た。
そんな彼等を見て、リラは思った。
(随分と反省したようだし、明日あたり全快宣言という事でいいかな?)
そんな中で・・・・・。
下校時間となり、子供たちが帰宅する。リラが校舎を見回ると、教室にルイゼとロイが残っていた。
「そろそろ帰りなさい」とリラは二人に帰宅を促す。
「はーい」
雨が降っており、二人で傘をさして生徒玄関を出る。
そんな二人を見送るリラ。
だが・・・・・。
二人が学校の門を出た所の水路の橋を渡った時、いきなり強風が来て、傘を飛ばされそうになるロイ。
よろけた拍子に彼は水路へと投げ出された。
「ロイ君!」
リラは松葉杖を投げ捨てて全力疾走。
もがきながら流されていくロイを助けようと、リラは人魚の姿になって水路へ飛び込んだ。
ユキチ校長も駆け付ける中、リラはロイを担ぎ上げる。
意識の無いロイを仰向けに寝かせ、ユキチは呼吸を確認。
「水を飲んでいる。人工呼吸が必用だな」
そう言うとユキチは数回、ロイの胸を押すと、呼吸を確認。
交代してリラが胸を押しながら「ロイ君、しっかり」
間もなくロイは水を吐いて意識を回復。
「先生・・・」
朦朧とした目で自分を見るロイに、リラは「良かった。もう大丈夫よ」
「それより先生、足は大丈夫?」
ルイゼのその言葉で、リラは怪我のフリをしていた事を思い出した。
「それは・・・」
どう誤魔化そうかと必死に思考するリラに、ルイゼは目をキラキラさせて「もしかして愛の奇跡?」
「そそそそうなの。ロイ君の危険が危ないと思ったら、急に回復パワーが・・・・・」
リラのその言葉を聞いたロイは、戸惑い顔で「先生、僕の事・・・」
リラは笑顔で「大好きよ。ロイ君もみんなも」
「先生、人工呼吸でロイ君を助けてくれたのよ」
そうルイゼに言われ、ロイは脳内で呟き、顔は真っ赤になる。
(それって・・・マウスツーマウス)
ロイは忘れていた。人工呼吸には二種類あるという事を。
そして彼はリラに恋をした。
帰宅してロイはベットの上でリラを想う。
(僕、先生が好きだ。大人になったら先生と結婚するんだ。けど先生には恋人が居る。あのエンリ王子・・・・・・)
そして数日後・・・。
執務室のエンリに家来が報告に来た。
「リラさんの生徒だという小学生が王子宛てに手紙を・・・」
その場に居る仲間たちの興味津々な視線の中、エンリが手紙を開けると、一言。
「けっとんしてください」
エンリ、疑問顔で「けっとんって何だ?」
若狭が「"と"と"こ"を間違えたのではないかと思いますが」
「つまり結婚?」と仲間たちは興味津々モード全開で口を揃えた。
タルタが楽しそうに「持って来たのは小学生だよね?」
「俺はロリコンじゃないぞ」とエンリ。
「リラさん、生徒に王子の事は話した?」
そうアーサーが問うと、リラは「まあ、色々と・・・」
「それで憧れられたって訳かよ」とジロキチ。
カルロが「JSはブームだからなぁ」
「けど犯罪よね?」
そうニケが言うと、エンリは「ちゃんと諭して諦めさせるさ」
「とか言いつつ、何で嬉しそう?」
そうタマに突っ込まれ、エンリは「違うって」
会って欲しいと指定された時間、指定された場所に行く。
無理やりついて行く仲間たち。
そして、待ち合わせ場所で待っていたのは、男の子だった。
エンリ、思いっきりのがっかり顔で「子供がませてるのは悪いとは言わないが、俺はホモじゃ無いぞ」
「僕もノーマルですが、ませてるって何ですか? 手紙はちゃんと読んで貰えました?」
男の子にそう言われ、エンリは「読んだけど、"けっとん"って何だ?」
その男の子=ロイにエンリは手紙を返す。
それを見たロイは「間違えました」と言って、"ん"を"う"に書き直した。
そして「僕と決闘してください」
残念な空気が漂う中、仲間たちは互いに顔を見合せ、小声で「結婚じゃなくて決闘かよ。マセガキって訳じゃ無かったのか」
そしてロイは言った。
「エンリ様はリラ先生の恋人なんですよね? 僕、リラ先生が好きです。先生をかけて決闘して下さい」
その場に居る全員、唖然。
そして小声で「やっぱりマセガキじゃん」と呟いた。
リラは困り顔で彼に言った。
「あのねロイ君、気持ちは嬉しいんだけど、先生はオバサンだし・・・」
「それでも僕、先生が好きです」と言葉に力を込めるロイ。
そんな彼を見て、タルタが「まあ、大人の女性に憧れるって、あるよね?」
「ってか女は賞品じゃ無いぞ」
そう、うんざり顔で言うエンリを他所に、面白半分顔で盛り上がる、エンリの仲間たち。
若狭が感動顔で「こんな年で命がけの恋を・・・」
人の姿のタマがタルタの上着の裾を掴んで「タルタも少しは見習ってよ」
エンリは更にうんざり顔で「そういうマッチョな恋愛観は要らない」
「要は勝てばいいだけの話よね?」とニケも楽しそう。
「お前等面白がってるだろ」
そう言って口を尖らすエンリだが、仲間たちは更に盛り上がった。
「ねえねえ。何で勝負するの?」
そうファフがロイに言うと、エンリは「勝手に決めるな! ってか、まさか剣を交えてとか言わないよね?」
「僕、愛のためなら死ねます」
そう真顔で言うロイに、エンリは「そういう台詞は本音と建て前の使い分けが出来る年になってから言え」
アーサーは困り顔で「あの、王子。大人の汚さをドヤ顔でアピールするのはどうかと」
そんなエンリにリラが「何かスポーツで・・・というのはどうでしょうか」
エンリは溜息をつくと、ロイに「種目はお前が決めていいぞ」
ロイはクラスの仲間に相談する。
大盛り上がりなクラスメートたち。
ルイゼが「好きな人をかけて権力者と決闘? かっこいい!」
他のクラスメートたちも「全力で応援するね」と声を揃える。
「けど何で勝負する?」
そうレンが言うと、ジュドーが「そりゃ、俺たちがいつもやってる奴だろ」
ベンが「やっぱり野球だよね」
「けど九人必用なんだが・・・」
そうロイが言うと、全員、口を揃えて「俺たちが手伝ってやるよ」
「みんな協力してくれるのか?」とロイ。
ケインが「もちろん。俺たち、友達だろ?」
じーん・・・といった表情で仲間たちと手を執り合うロイ。
するとミントが「けど、エンリ王子も九人揃えるよね?」
「誰が来るんだ?」
そうロイが心配そうに言うと、ギースが「そりゃ、タルタ海賊団の人たちだろ」
「って事は、鉄化のタルタさんとか・・・」とゼロ。
「四刀流のジロキチさんとか・・・」とレン。
彼等は一様に脳内で呟いた。
(勝てる気がしない)
ジュドーはロイの肩に手を置き、そして言った。
「やっぱり自分の恋は一人で叶えなきゃ」
ロイはあきれ顔で「お前等なぁ」
その時、ミントが言った。
「あのさ、一対一でやれる野球もあるって聞いたんだけど・・・・・・」
そして決闘の当日・・・。
指定された決闘場所へ、エンリは仲間たちと向かう。
何やら物々しい格好のエンリに、アーサーは「王子、何だか不審者みたいなんですけど」
エンリはドヤ声で言った。
「お上品にやっても仕方ない。決闘ってのは情け無用の勝負の場だ」
指定された場所に着くと、11人のクラスメートたちと共に、ロイが待っていた。
双方の立会人が見守る中、向き合うエンリ王子とロイ少年。
「いきますよ」とロイ。
「いつでも来い」とエンリ。
そしてエンリとロイは掛け声を合わせた。
「野球ーをすーるならーこーゆー具合にしやしゃんせ。アウト、セーフ、よよいのよい」
エリンはパー、ロイはチョキ。
エンリは右手の手袋を脱ぐ。
二回目。
エンリがグー、ロイはパー。
エンリは左手の手袋を脱いだ。
さらに回数を重ね、エンリは負け続けた。
マスクを脱ぎ、サングラスを外し、ニット帽をとり、マフラーを外すエンリ。
タルタは勝負の場に立つエンリに、不審声で「王子、何でそんなに着ぶくれしてるの?」
「俺は寒がりなんだよ」と見え透いた言い訳をするエンリ王子。
ニケはあきれ声で「要するに、たくさん着込めば負けが込んでも大丈夫・・・って事なのよね?」
ジロキチもあきれ声で「王子セコ過ぎだろ」
「けど王子って、こんなにジャンケン弱かったっけ?」
そうタルタが言うと、カルロが解説した。
「ジャンケンというのは単純なように見えて、実は複雑な駆け引きなんです。グーを出して勝ったから、相手はそれに勝つパーを出す。それを見越してチョキを出すだろうと。相手はそれを見越してグーを出す。王子は常に相手が前回出した手に勝つ手を出そうとして、裏をかかれているんですよ」
「それって駆け引き以前に、単に王子が馬鹿ってだけなんじゃ・・・」とタマが突っ込む。
王子は更に負け続けた。
コートを脱ぎ、上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ・・・・。
遂に全裸になった王子は、がっくりと地面に膝をついた。
「完敗だ」
「やりました。リラ先生」
そう言ってリラに駆け寄るロイ。
リラは困り顔で「王子様ったら・・・」
そしてエンリは服を着ると、「負けた以上は仕方ない」と言って、ロイにお金の入った袋を差し出す。
ロイは怪訝顔で「お金で解決する気ですか?」
「じゃ無くて軍資金だ。リラとデートするんだよな?」とエンリ。
ロイは天使が飛び交う幻想の中で「リラ先生とデート・・・」
だが、リラは目一杯の困り顔。
そして「あの、デート代なら私が・・・」と、年上としての立場を気にする女教師リラ。
ムラマサも「そうでござる。男女平等に反するでござるよ」
そんな彼等にエンリは言った。
「解って無いな。こういうのは女に奢るのが気持ちいいんだよ。女は奢られるのが気持ちいい。それで二人で気分のいい時間を過ごして仲良くなるのがデートだろ」
そんなエンリに、ロイが困り顔で言った。
「あの・・・・・デートって何をするんですか?」
エンリも困り顔で「何をするんだっけ?」
残念な空気が流れる。
そして彼は「リラ、エスコートしてやれ」と彼女に丸投げ。
リラは「解りました。けど、デートって何をするんですか?」
残念な空気が流れる。
するとカルロがワクワク顔で「プランなら俺に任せて下さい」
「あまり変な事はさせるなよ。何しろ、相手は小学生だ」とエンリは釘を刺した。




