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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
444/552

第444話 悪戯の教室

全ての国民に教育を施す事を目標に、試験的に創設された小学校。ここで始まった人魚姫リラの教師生活。

生徒たちも彼女になつき、順調にスタートした。

その中で繰り返される、子供たちの悪戯。



一日目は教室の入口の戸に仕掛けた黒板消し。

翌日は・・・。


「また黒板消しかよ」

教室の入口に黒板消しを仕掛けるロイにジュドーが言うと、ロイは「・・・と思わせて、実はこれはダミーなのさ。不発に終わって安心した所を、これ」

そう言ってロイが取り出したものを見て、同級生たちは納得顔で「バナナの皮かぁ」


始業の鐘が鳴り、担任のリラは教室に向かう。


リラが教室の入口の前に立つと、昨日と同じく、戸に隙間。上に昨日と同じ黒板消し。

戸を開けると目の前で黒板消しが落ちる。

落ちた先にバナナの皮。

リラはそれを拾ってゴミ箱へ・・・。

そして生徒たちに「生ごみを散らかすのは止めましょうね」

生徒たちはがっかり顔で「ダミーのつもりが逆効果じゃん」



その翌日の早朝。

生徒たちは教室の戸口で、悪戯の仕掛けを巡って、あれこれ・・・。


「罠は戸を開けて入る時に発動する訳だよね?」

そうベンが言うと、ジュドーが「入る時には既にバレてる、ってのは駄目だろ」

ロイが「ってか、戸を開けた瞬間に発動するんだから、その時、廊下側に居るターゲットをどう狙うか・・・じゃないのか?」

「つまり、入口の廊下側の天井に仕掛ける?」とアルセラ。

「籠を吊るすってのはどーよ」

そうレンが言うと、ミントが「ネズミ捕りと同じ仕掛けだね?」


生徒たちは教室の入口の廊下側の天井に、人が余裕で入るような大きな籠を仕掛けた。

ドアを開けると紐が引かれて籠が落ちる。

「完璧じゃん」と口を揃える生徒たち。



始業の鐘が鳴り、リラが教室に向かう。


ドアの前に大きな籠が吊るされて、床上1mあたりに籠の下側。

リラはその前に立ち、籠に手を当てる。

そして「籠が邪魔で教室に入れないんですけど」

そう言ってリラは籠を降ろし、罠の紐を外して教室の中へ・・・


生徒たちは溜息をついて「これ、天井の高さが足りてないんだよ」



そしてポルタ城の執務室では・・・・・。

仲間たちと、そんな話題で盛り上がる、エンリ王子とリラ。


「やっぱり子供だよね」と笑うタルタ。

「少しはひっかかってやったら満足するのでは?」

そう若狭が言うと、ジロキチが「逆に調子に乗るだけだと思うぞ」

そんな彼等にリラは「けど、そうやって工夫しながら、成功に向けて努力する事を学ぶんじゃないかと思うんです」

するとカルロが「けど、フェリペ皇子には聞かせられない話だよね?」


その時、姿を消して様子を伺う何者かが、執務室の物陰に存在した。



「父上たちがそんな話を?」

ポルタ城のフェリペの自室で、ロキが語るエンリたちの執務室での会話に、フェリペは喰い付く。


リラの生徒たちの残念な悪戯について、面白おかしくフェリペに吹き込むロキ。

そして彼は「主よ。これは久しぶりに面白いネタだと思うぞ」

フェリペは悪戯心全開で、楽しそうに言った。

「そうだね。その生徒たちに、カブ流悪戯道の極意を見せてあげるとしよう」



そして小学校で・・・・・・。

いつものように朝早く、教室に集まった12人が、あれこれ悪戯の算段をしている所に、彼はやってきた。

「やってるね」


「君は?」

そう怪訝顔で言う生徒たちに、彼は言った。

「僕はフェリペ。君たちが担任のリラ姉様を相手に悪戯しようと悪戦苦闘していると聞いて、知恵を貸してあげようかと思ってね」

「リラ姉様って事は、もしかしてエンリ王子の・・・・・」

そうロイが言うと、フェリペは「長子にしてカブ流悪戯道師範」


「何だよ、そのカブ流悪戯道って」

そう怪訝顔で言うジュドーを他所に、フェリペは生徒たちに語った。

「悪戯は子供の特権さ。けど、成功するにはコツってものがある。先ず、何段にも仕掛けを施し、一つの仕掛けが次の仕掛けにとってのダミーとなる」

「そう思って、黒板消しの次にバナナの皮を・・・」

そうロイが言うと、フェリペは「それはいいんだが、仕掛けは見えないようにしないとね」


ベンが「ターゲットの上に落ちて来る場合、頭の上には目は無いよね?」

「けど、そこに行く時に見えるようでは意味が無いよね。例えば黒板消しだけど、ドアを開けて入って来る時、ドアの内側の天井から落ちて来るなら、先ず見えない。けどその時、ターゲットは罠の真下に居ないといけない。そのタイムラグをどうするか。タイミングが大事だよ」と、得々と語るフェリペ。

「なるほど・・・・・」と納得顔の12人。

更にフェリペは「もう一つの手がある。ドアの内側の上から吊るした紐の先にコンニャクを付けて、天井に仕掛けるのさ、ドアを開けた瞬間、上から落ちるんじゃなくて、弧を描いて顔の所へ飛んで来る」

「なるほど」と感心顔の12人。


そして、更にフェリペは「もっと面白い手があるぞ。決まった軌道で飛んで来るのではなく、自由に走り回る」

「もしかして虫?」と言って目を輝かせるレン。

「こいつさ」

そう言ってフェリペが出した虫籠の中に、何匹ものゴキブリ。



始業の鐘が鳴り、リラが教室に向かう。

彼女は入口の前に立つが、ドアの所に何かを仕掛けられた様子は無い。

(諦めたのかな?)


教室に入ると、教卓の上に箱がある。

「毎朝悪戯で迷惑をかけたお詫びで、僕たちからのプレゼントです」

そうロイが言うと、リラは感動顔で「あなた達・・・・・」

「開けてみて下さい」とルイゼが促す。


リラが箱を開けると、中には何匹ものゴキブリ。

絹を裂くようなリラの悲鳴。

そして生徒たちの歓声が教室に響いた。

「やったー」

「悪戯大成功」


だが、生徒たちの大喜びはすぐに終わった。

ゴキブリたちは箱から飛び出し、生徒たちの机の上に・・・。

12人の歓声は悲鳴に変る。

ゴキブリから逃げ回る女子たち。飛んで来るゴキブリを叩き落とそうと必死にハエ叩きを振り回す男子たち。


そして、そんな教室での大騒ぎを、校舎の外から見て大笑いするフェリペ皇子が居た。



リラを相手にした悪戯で痛い目を見た12人の生徒は、ターゲットをケットシーの校長に変更した。

真夜中、示し合わせて家を抜け出して、シャベルを持って小学校の校門前に集合する12人。


学校に向かう通路。

校門の手前で脇道が合流している。そこからすぐの所を指して、レンが言った。

「校長先生、ここを通って学校に来るよね?」

ロイが「だったら、仕掛けるのはここだな」


彼等は協力して穴を掘り、落とし穴を仕掛ける。



翌朝、ユキチ校長が出勤し、落とし穴の所を通りかかる。

掘ったばかりの土の湿った匂い。地面の土の色が変わっている。

子供の掘った落とし穴だと、すぐに気付き、ユキチは呟く。

「猫は知っている。人間は猫ほど土の変化に敏感ではない。自分が掘った落とし穴に引っかかるような間抜けは、けして少なくない。放置すると生徒の誰かが落ちる」


危険なので、柵を巡らして立ち入り禁止の札を立て、埋める準備をしていると、リラが出勤して来た。

「おはようございます。校長先生、この柵って・・・」

そうリラが問うと、ユキチは「生徒が悪戯して落とし穴を掘ったのさ」

リラ、唖然顔で「あの子たちったら・・・」



ユキチが道具を取りに行く間に子供たちが次々に登校。

その場に居たリラに、生徒たちは「おはようございます」

そう挨拶しながらも、柵に気付いて、小声であれこれ言う生徒たち。

「あれって落とし穴の所だよね?」

「もうバレちゃったんだ」

そんな生徒たちにリラは、お説教口調で「後でみんなにお話しがあります」


ロイとジュドーが登校。

前を走るロイがふざけて「ほーら捕まえてみろ」と言って、体操着の袋を右手で振り回し、後ろを走るジュドーをからかいながら、前を殆ど見ずに真っ直ぐ落とし穴の柵の方へ。


「危ない!」

リラはロイを止めようと駆け出し、足元の柵に躓いた。

「リラ先生!」

その場に居た生徒たちの叫び声も空しく、リラはそのまま落とし穴に顔面から突っ込み・・・。


生徒たちは落とし穴の周りに駆け寄り、穴の中のリラに「大丈夫ですか?」

立ち上がろうとして右足首に痛みを感じるリラ。

生徒たちは大騒ぎ。ユキチが聞きつけてリラの足首を診る。

「捻挫ですね」



リラは保健室でユキチの手当を受け、回復魔法をかけて貰う。

「どうやら痛みはとれたようです」と、リラはほっとした声で・・・。

「それは良かった」

そう言いながらユキチはリラの足首に包帯を巻いてギプスを嵌め、松葉杖を・・・・・。


「あの・・・・・、普通に歩けますけど」

そう怪訝顔で言うリラに、ユキチは言った。

「大層な怪我って事にしておけば、生徒は大事になったと反省しておとなしくなる。猫は知っている。人間の子供は実際に深刻な事態にならないと、容易に反省などしないものだ」

「・・・・・・」



リラが松葉杖をついて教室に入ると、生徒たちは神妙な表情で声を揃えて「先生、ごめんなさい」

そんな生徒たちにリラは「いいのよ。その代わり、もう危ない事はしないでね」

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