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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
442/554

第442話 人魚の女教師

全ての国民の子供に教育を施す学校設立構想が、エンリ王子の元で本格的に動き始めた。

多くの人が認識する「子供の教育は親の仕事」という既成観念がその構想に待ったをかける中、ファフの遊び友達の鍛冶屋の子供が、実は機械職人の才能を持っていた事を知る。

「どこに居るか解らなかった人材を探し出して育てる事で、世界を大きく前に進める力になる。それには、世の中にどんな知識があるのかを教え、いろんな知識の初歩を身につける学校を建てよう」

エンリはこれを「小学校」と命名し、その設立を決定した。



教育局を新設し、学校組織の具体化作業が始まるが、役人たちはまだその意義を完全に理解してはいない。

執務室でエンリは、小学校の具体化について、仲間たちとあれこれ話す。


「教える内容なんだが、何が必用かな?」

そうエンリが言うと、カルロが「やっぱりモテ術ですよ。女の子の口説き方をマスターして、ヒモとして面白おかしい人生を・・・」

エンリ、すかさず「却下!」

ジロキチが「剣術ですよね?」

「四刀流の後継者とか却下な」とエンリが駄目出し。

アーサーが「魔法ですよね?」

タルタが「むしろ科学だろ」

ニケが「そうね。いろんな仕事に必用な科学知識ってあるわよ」


「数学は?」

そうエンリが言うと、リラが「読み書き計算は先ず基礎ですよね」

「それでどんな仕事?」

そうタマが言うと、タルタが「幾何学で機械を設計するよね」

アーサーが「道具や部材の強度計算は必用かと」

カルロが「料理で加熱する温度とか」

ニケが「薬剤の成分の配合とか」


「そして医術ですよね?」

そう若狭が言うと、ムラマサが「医は算術って言うでござる」

「それは違うと思うんだが」とエンリは困り顔で突っ込む。


「それで、誰にやって貰うんですか?」

そうリラが言うと、全員、考え込んだ。



エンリは仲間たちを連れて、ポルタ大学の人文学部へ。

教授たちを集めて、小学校の趣旨を話すエンリ王子。


「子供向けの小学校ですか?」

そう教授の一人が言うと、別の教授が「普通、子供は親が仕事を教え込むんですよね? 子供の教育は親の仕事かと」

「けど、親ってのは自分の仕事に関してはプロだが、子供を教え育てる親としてプロと言える奴は居ないと思うぞ」

そうエンリが言うと、教授の一人が「確かに、子供が中二病に育つと親は苦労しますからね」


残念な空気が漂い、エンリはいささか感情的な声で「お前等はどうなんだよ」

教授たちは声を揃えて「苦労しっぱなしですよ」


教授の一人が「うちの子が万引きをやらかしまして」

別の教授が「近所の子供をカツアゲとか」

更に別の教授が「私なんて子供から"ウザイ死ね"って言われたんですよ」

その隣に居た教授が涙目で「お父さんの後のお風呂は嫌だと娘が・・・」

更にその隣に居た教授が目をハンカチで覆いながら「うちの娘なんか、家にボーイフレンドを連れて来ちゃうんですから」

エンリ、困り顔で「だんだん話が駄目親の愚痴になってきたんだが・・・・・」


エンリは言った。

「自然が解き明かされれば、新しい学問が産まれ、そこから新しい仕事が産まれる。そういうのを担える、いろんな知識を持った人材が必要になるんじゃないのか?」

「それで何でうちに?」

そう一人の教授が言うと、エンリは「お前等って何でも屋だよね?」


一瞬、残念な空気が場を覆ったが、間もなく神学科の教授が立ち上がり、ドヤ顔で言った。

「お任せ下さい。貴族の身分を得ても恥ずかしくない立派な教養人にするための、神学と文芸教養を・・・・」

エンリは困り顔で「そういうお飾り教養は要らない。実学重視で行こうよ」

「聖書をそらで覚えるとかは?」と先ほどの神学教授は未練顔で・・・。

「要らないから。それって、実用的に役立つ知識じゃ無いよね?」

そうエンリが言うと、神学教授はドヤ顔で「いえ、役立ちます。悪魔を倒すために最も効果的なのは、致死節の詠唱です」

「そういう他所のアニメのネタは要らないから」と、エンリはうんざり顔で突っ込む。


学部長は困り顔で「まあ、ある程度の社会的常識は必用かと」と、一般論で収拾を図った。



小学校教育の創設を任された人文学部では、教育科を設立。

教授たちは検討を重ね、様々な学部の教授たちの協力を得て、必用な教科とその内容が絞り込まれた。



小学校設立計画が形になって来たと、教育科の教授が執務室に報告に来た。

仲間たちと、報告を聞くエンリ王子。


教え方と授業内容について一通りの報告を終えた後、教授は言った。

「試験的な学校開設に向けて、重大な問題がありまして」

「問題ってどんな?」

そうエンリが質すと、教授は「教員の選定ですよ」


「お前等がやるんじゃ無いのか?」

そうエンリが問うと、彼は「我々にはモンスター退治の経験がありません」

「いや、学校にモンスターなんて出ないだろ」

そうエンリが突っ込むと、教授は「いえ、凶悪なモンスターが出るのです」


ジロキチが「魔法学校の地下のダンジョンとか?」

「そういうのじゃ無くて」と教授は困り顔で・・・。

若狭が「花子さんとか歩く人体模型とか?」

「もっと恐ろしい、モンスターペアレントというのが・・・・・」

そう教授が答えると、「確かに怖い」と口を揃えるエンリの仲間たち。


そして教授は「それで、モンスター狩りの経験のある冒険者の方を・・・」

「いや、冒険者ってヒャッハーとか叫んで大剣を振り回すマッチョだろ。子供に教えるような知識なんて無いと思うぞ」

そうエンリが言うと、リラが「僧侶なら学問はありますけどね」

「それだと授業が全部宗教になるぞ」とエンリが突っ込む。

「ってかモンスターペアレントって生徒の親ですよ。自分の子供が非行をやらかして指導を受けたら、子供が濡れ衣着せられたとか。剣術スキルや攻撃魔法で対処は逆にまずいかと」とアーサーが指摘。


「それで適任が居るのですが、そちらのリラさん・・・・・」

そう教授が言うと、エンリは困り顔で「彼女は確かに優秀な魔導士だけど、だからって・・・」

「もう一つ。恋人が王太子」と教授は続ける。

「はぁ?」

教授は「親が抗議とか言って押しかけて無茶を言った時、権力で黙らせて貰える」

エンリ、憤懣顔で「お前等、王太子を何だと思ってる!」



残念な空気が漂う中、エンリは「リラはどう思う?」

「止めたほうがいいよ。小学生なんて動物と同じで、すぐ学級崩壊を起こすから」と止めに入るタルタ。

するとカルロが「大丈夫ですよ。子供を扱うなんて簡単です。男子は下ネタ、女子は恋バナで大喜び」

「それで子供に手を出したり?」

そうエンリが突っ込むと、カルロは「勘弁して下さいよ。それより、リラさんにはぴったりだと思います」

「そうかな?」と仲間たちは首を傾げる。


「女教師は大人女子三大ブランドの一画です」とノリノリなカルロ。

「何だよ。その三大ブランドって」

エンリがあきれ顔でそう言うと、カルロは「残る二つはナースとスッチー」

「そんな事は聞いてない。ってかスッチーって何?」とエンリ。

タマが「空飛ぶバスガイドって奴よね? 国際化バブルの破綻でブランド価値が暴落したけど」

「いや、体験したいベスト100の中にも、彼女たちと合コンするってのがあります」とカルロが反論。

エンリは更なる困り顔で「だから何の話だよ」


するとリラが言った。

「私、やってみたいです」

「スッチーを、でござるか?」とムラマサ。

リラは「じゃ無くて女教師を。子供って可愛いじゃないですか。フェリペ皇子を見て思ったんです」

「まさかリラさんってショタ属性?」とカルロ。

ニケがハリセンでカルロの後頭部を思い切り叩く。


「エンリ様と三人で川の字で寝た時、言ってくれたんです。母親より母親っぽいって」とリラは続ける。

タルタが「いい話だなぁ」

ジロキチが「やっぱり女は母性だよね」

「それに、ファフちゃん」とリラは更に続ける。

「女のロリ属性ってブームだものね」とカルロ。

ニケがハリセンでカルロの後頭部を思い切り叩く。

「エンリ様に甘えるのを見て、いいなぁ・・・って」と、リラは遠い目で・・・。


その時、ファフが執務室に駆け込んでエンリの膝の上に座ると「主様、お腹空いた。おやつまだぁ?」

場は残念な空気に包まれる。



試験事業としての小学校設立が公表され、生徒の募集が始まった。

応募した子供は12人。

教育局長官とその部下が執務室に報告に来た。


役人たちの説明を聞いて、エンリは「教師は担任のリラ一人かよ」と言って、横に居るリラと顔を見合せる。

長官が「教える中味は大学と教育局が用意しております」

長官の部下が「教科書というのを作りましたので、それを読んで聞かせるだけの簡単なお仕事です」と補足。

そして長官が「それと、責任者として校長が任命されます」

「どんな人なの?」

そうリラが問うと、長官は「デキる奴だと聞いております」



顔合わせの段取りとなり、エンリとアーサーがリラに付き添う。

そして、教育局の役人とともに、そこに来たのは・・・。


(サイズ的には殆ど熊なんだが)と、その校長になるという者を見て、エンリが脳内で呟く。

「あなたは?」

そうエンリが彼に問うと、彼は「吾輩は猫である」

サイズはともかく、絵柄的には見るからに猫・・・という彼に、エンリは「見れば解ります。名前は・・・まだ無いとか言いませんよね?」

「名前はフクザワユキチ」

そう彼は答え、エンリは(どこかで聞いたような名前なんだが・・・)と脳内で呟く。

「フクザワは吾輩の飼い主の姓だ」と彼は補足。


「それで何で猫?」

そうエンリは役人に問うと、猫のユキチはドヤ顔で言った。

「ただの猫では無い。猫の貴族、ケットシーだ。しかもただのケットシーでは無く、デキるケットシーだ」

「何が出来るんですか?」

そうリラが言うと、ユキチは「何でもだ。料理に掃除洗濯大工仕事にマッサージ・・・」

「校長の仕事じゃ無いと思うんだが・・・」とエンリは突っ込む。


役人は弁解顔で言った。

「生徒に教えるのは教員ですので、それ以外の仕事が出来る人材を・・・という事で」

「人材じゃ無くて猫材だけどね」とアーサーが突っ込む。

「生徒が12人なので、採用は二人までと財務局が言うもので、二人で全部の仕事をこなすため、猫の手も借りたい」

そう役人が言うと、エンリは「校長は手を貸す方じゃ無くて、手を借りる立場なんだが・・・」

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