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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
441/552

第441話 小学校の誕生

意思を持ち人語を話す魔剣と、その理想の主としての獣人族の姫フラン。

その仲をエンリ王子が取り持った縁で、ポルタ王家と獣人族の同盟が成立した。

この件をきっかけとして、獣人族内で設立された、子供全員を対象とした学校。

それはエンリ王子に決断を促し、ポルタでの国民向け学校設立計画が本格的に動き出した。



議会と財務局を説得するエンリ王子。

財務局長室でエンリは長官と談判する。


「大学なら既にありますけど」

そう言う財務長官に、エンリは「趣旨が違うだろ」

「貴族学校と神学校を統合したばかりですよね?」

そう言って新たな支出を要する事業に抵抗する財務長官。


「じゃ無くて、庶民を含めた全ての子供に、一定の教育を施すんだよ」とエンリ。

財務長官は「庶民の教育は親の仕事であり、公の介入など無駄だと思いますが」

「それは貴族の発想だ。そういう身分意識は時代遅れだと思うぞ。ボルタを盛り立てているのは商人で、彼等は庶民だ」

そうエンリが語ると、財務長官は「庶民自身の意見を聞いてみてはどうかと」



議会の議事堂の会議室に商人議員を集め、エンリは仲間たちとともに、話を聞く。


「庶民の教育は親の仕事かと・・・」

そう主張する議員たちに、エンリは「それでいいのか?」

一人の議員が「うちの子は私の商会を継ぎますから、子供のうちから仕事を手伝わせてますよ」

「読み書きと計算も必用だと思うぞ。文字を憶えて本を読めば、いろんな知識が身について、きっと役に立つ」

そうエンリが言うと、その議員は「読み書きは契約書に必用だし、計算は金銭取引に不可欠だから教えてますけどね」


「けど、文字を読めない奴って多いよね?」とタルタ

別の議員の一人が「どんな本を読むかって問題もあると思いますけど」

「読むとしたら娯楽小説でござろう」とズレた事を言うムラマサ。

するとその議員は「うちの娘に文字を教えたんですが、"週間私の騎士様"とかいう女の子向け恋愛小説雑誌に嵌って、家の手伝いも放り出して・・・」

「あんなの仕事の役に立つ訳無いよね」と、更に別の議員が・・・。

「けど、孫の顔は見たいよね? 嫁を貰うには女性と恋愛しないと。小説は恋愛の教科書だ」

そうエンリが言うと、その議員は「けど、あそこに出て来る恋愛って、主人公の地味な非モテ女子に超絶モテイケメンが勝手に夢中になって、言い寄る女を全部振って根性で口説き落としてくれる、都合よすぎる展開だものなぁ」


エンリは「もっと実用的な本だってあるだろ」

ジロキチが言った。

「ジパングに金次郎という偉い人が居るんだが、子供の時から本が好きで、アルバイトの薪売り中に薪を背負って歩きながら本を読んで、知識で出世してジパング中の寺子屋に銅像が立っているぞ」

するとタマが「それ、歩きスマホと同じよね? 事故の最大の原因よ」

エンリは少々イライラ気味な声で「計算は必用だよね? みんなが計算くらいちゃんと出来なきゃ」

ニケが「それだと釣銭を誤魔化せなくなるじゃないのよ」

「あのなぁ!」


エンリは思った。

(もっと下の労働者階級なら、どうだろう)



城に戻るエンリ王子。

執務室で、いつものハンコ突き。

ソファーには彼の仲間たちが、いつもの如くダラダラと・・・・・。


やがて、外で遊んでいたファフが戻って来る。

「ただいま、主様。お腹空いたの」

リラが「おやつ用意しますね」と言って戸棚を開け、作り置きのクッキーを出す。

ついでにみんなにお茶を入れてあげるリラ。

それを飲んで一息つきながら、エンリは上機嫌でクッキーを食べるファフを見て言った。

「子供は気楽でいいよなぁ」

するとファフは「そうでもないよ。公園で一緒に遊んでた男の子なんだけど、鍛冶屋さんの仕事を継ぎたく無いって、悩んでいたよ」


エンリは暫し思考する。

そして真面目な顔で「なるほど。親が子供に継がせようとしても、子供がそれに向いてるとは限らないんだよな」



「王子・・・」

全員が心配顔でエンリの手を執る。タジタジとなるエンリ王子。

「どうしたんだよ」

ジロキチが「今まで散々、いじるような事を言っちゃってたけど、そんなに気にしていたんですか?」

カルロが「変態だとか中二病だとかロリコンだとか・・・」

「あのなぁ!」

「それで王様に向かないなんて事は無いですから」とアーサーが・・・・・。


エンリは頭痛顔で力説した。

「そうじゃ無くて、ってか俺の事はいいんだよ。要は子供が仕事を選べるようにする必要があるんじゃ無いか?・・・って事だよ。そのための国民向け学校だろ?・・・って」

暫し、残念な空気が場を覆い、やがていつもの空気に戻る中、アーサーが言った。

「そういう子供がどれだけ居るか、って問題もありますよね?」

「子供を集めて話を聞けるといいんだが」とジロキチ。


エンリは思い出したように「そういえばジロキチ。ジパングに寺子屋っていう、庶民向けの学校があるんだよね?」

「国が創ってる訳じゃなくて、学問のある人が個人的に塾を開いてるんですよ」とジロキチは答える。

「寺ってのは、あの偶像を祀ってる?」

そうタルタが言うと、若狭が「農村で学問のある人といえば、お坊さんですからね」

「ポルタで言えば教会ですよね。神父が子供を集めて説教したりするけど」とリラ。



首都の教会の神父たちを聖堂の会議室に集めて、意見を聞くエンリ王子。


趣旨を説明すると、神父たちはノリノリで言った。

「お任せ下さい。子供に教育を施すのは、我々教会の仕事ですから。幼い頃から神の教えを刷り込み、敬虔な信者に・・・」

「それで大人になったらお布施ガッポガッポ」と、目に$マークを浮かべる神父たち。


エンリはうんざり顔で「そういう教育が一番要らない」と呟く。

「何か仰いました?」と一人の神父が怪訝顔で・・・。

エンリは慌てて「いや、何でも無い」

そして「とりあえず、教会に来た子供たちから話を聞きたいんだが・・・」



次の日曜日にエンリは、仲間たちを連れて、神父が子供たちを集めて説教をする教会に出向いた。

説教が終わると、エンリは子供たちに訊ねた。

「君たち、大人になったら何になりたい?」

何人かの子供が答える。

「パン屋」「花屋」「仕立て屋」

そんな子供たちにエンリは「それってお父さんがやってる仕事の跡を継ぐんだよね? 君たち自身、なりたい仕事って無いの?」

すると、また何人かの子供が答えた。

「スポーツ選手」「アイドル」「お笑い芸人」「小説家」

「・・・・・・・・・」


タルタはお気楽顔で「子供の将来の夢なんて、そんなもんだよ」

「けど、どれも売れるのはごく一部よね」とニケ。

ジロキチが「パクられたとか言って放火に走らなきゃいいんだが」


「末は博士か大臣か・・・って言うよね?」

そうエンリが子供たちに言うと、一人の子供が「けど、博士って大学教授とかだよね? 変な嘘ばっかり広めてる人たちなんだけど」

もう一人の子供が「魚がいっぱい獲れた時の漁師さんの旗が戦犯旗だとか言って、怒鳴り込んで"無知なお前等に教えてやるんだ"とか威張り散らして"妄想DE憎悪"な思い込みを押し売りしまくって世界中に迷惑かけまくるとか」

カルロが「女の人の髪が長いのは、後ろから追いかけて来た人に捕まえて貰ってエッチな事して貰うのが目的だとか」

タルタが「敵が攻めて来るのに備えて法律作る政治家は、人間じゃ無いから叩き切るんだとか」

ニケが「風俗店を経営する商人が兵隊さん向けのお店を経営して、そこのお姉さん向けに軍隊のお医者さんが病気を心配して検査したら、軍が風俗に関わった事になるから、あのお姉さんたちは実は軍が拉致して経営するお店の性奴隷って事になるんだとか」

エンリは溜息をついて「学問と無関係な扇動屋が"有名だから"ってだけで大学に雇われたりするからなぁ」


「大臣は?」

そうアーサーが言うと、一人の子供が「政治家ってもなぁ」

もう一人の子供が「この国の王太子って、お魚フェチっていう変態さんなんだよね?」

「・・・・・」



エンリは城の執務室に戻り、考え込んだ。

そして「やっぱり全ての国民に教育とか不要なのかな?」と呟く。


机の上にはいつもの書類の山。そしてソファーでまったりしている部下たち。

その中に居るファフにエンリは訊ねた。

「なあファフ。お前に親の仕事を継ぎたくないって言った子供が居たよな?」

「鍛冶屋さんの子供だけど」

そう答えたファフに、エンリは「それで、何になりたいって言ってるんだ?」


「時計職人だよ。すごく手先が器用なの」

そうファフが言うと、リラが「時計って、細かい機械の集合体ですよね?」

「織物機械みたいに、様々な作業が機械に置き換われば、世の中滅茶苦茶便利になるよね」とエンリは呟く。

ジロキチが「弓射り人形とか?・・・」

「あれの元も時計の仕組みだったよね?」とアーサーも・・・・・。



エンリはファフを連れて、その子供の家に行き、親に話して子供を連れ出した。

「どこに行くんですか?」

そう訊ねたその子供に、エンリは「見せたいものがあるんだ」


若狭の実家へ行き、その子の前でムラマサに弓射り人形を実演させた。

まるで生きている小人のように、弓に矢をつがえて放つ人形を見て、目を輝かせる男の子。

「機械でこんな事が出来るなんて」

そんな彼にエンリは言った。

「いろんな機械を工夫すれば、仕組み次第で何だって出来るぞ。ボルタ大学の職工学部に機械職人科があるが、行ってみるか?」

「お願いします」



彼を両親と一緒に機械職人科の教授の元へ。

そして、教授に研究施設を案内させる。


男の子は目を輝かせ、機械に触ってみる。

教授は動かし方を教え、動く仕組みを教える。

彼はあれこれ質問し、機械を動かしてみる。


そんな彼の夢中な様子を見て、教授は彼の親に言った。

「この子は有能な機械技師になれる素質があります。うちで学んでみませんか?」

「お願いします」


エンリは思った。

(やはり学校は必用だ。どこにどんな人材が居るか解らない。それを探し出して育てる事で、世界を大きく前に進める力になる。そういう人材が自分に出来る事を見つけて実現するには、知識が必要だ。読み書きが出来るようになって、本をいっぱい読めば、様々な知識を得る事が出来る。けれども、どんな知識が必用なのか、世の中にはどんな知識があるのか。先ずそれを知るために、いろんな知識の初歩を教える学校を建てるんだ)



エンリは国民向け学校の設立を決定した。


執務室で仲間たちと構想を語り合うエンリ王子。

「それで、どんな名前の学校にするんですか?」

そうアーサーが言うと、エンリは「それなんだが、大企業があれば中小企業がある。大型船があれば小型船がある。ここにはポルタ大学がある。大学があれば小学というのもあっていいよね」

「小学校・・・・・ですか」と頷く仲間たち。

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