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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第44話 黄金の城塞

エンリ王子たちの船がミン国を出て、海賊の本拠があるジパングに向かう。

ミン国でのケンゴローとの闘いで刀を砕かれたショックから、ようやく立ち直ったジロキチ。



甲板上で、目的地について、あれこれ話すエンリたち。

それは必然的に、ジパングを故郷とするジロキチに問う形となる。


「海賊の根拠地ってどこにあるんだ?」とタルタ。

「九州の北の五島って所にあるんだが・・・」とジロキチ。

「じゃ、早速」とニケが進路を定めようとするが・・・。


ジロキチは「けど、その北の海峡の向こうには、あの国があるからなぁ」

「変な国なのか?」とエンリ。

「絶対近づきたくない」とジロキチ。


「他に無いの?」とアーサー。

「あとは瀬戸内」とジロキチ。

「じゃ早速」とニケが進路を定めようとするが・・・。

「二つの海峡のどちらかを通るんだが、絶対暗礁とかあるだろうなぁ」とジロキチ。


「他に無いの?」とニケ。

「あとは紀伊だな」とジロキチ。

「じゃ早速」とニケが進路を定める。



途中で漁船に遭遇し、ジロキチが港の場所を聞く。

そして「あのへんに海賊の港があるそうだ」



港に入ると、それらしい船が並んでいる。その船の上に居る人たちに、タルタが呼びかけた。

「皆さん海賊ですよね?」

エンリは慌ててタルタに「おい、そういう聞き方はどうかと思うぞ」


向うの船の海賊が「確かに俺らは海賊だが」

「お前ら異人だな。何しに来た」ともう一人の海賊。

タルタの能天気に「宝物ゲットしに来ました」

「お前なぁ」とエンリはタルタに・・・。


向うの船の海賊たちはタルタを睨んで「つまり俺たちのお宝を狙ってきたって訳かよ」

いきなり弓矢や鉄砲を向けられる。

タルタは仲間たちに「何か敵視されちゃってるんですけど」

「いや、あれは普通警戒されるぞ」とエンリ、あきれ顔。


「失礼しましたー」と言って、慌てて港を立ち去るエンリたちの船。



港から離れた海域に来ると、タルタは「あーびっくりした。ジパングは閉鎖的でよそ者を敵視するって本当だったんだな」

仲間たちはあきれ顔でタルタに「お前が悪い」


その時、大型の海賊船が接近してきた。

そして「そこの船、止まりなさい。こちらは熊野水軍棟梁船である」

周囲に多数の海賊船。


その大型船の親玉らしき海賊がエンリたちに向けて叫んだ。

「さっきうちの港にちょっかい出しに来た軍船とは、お前等だな?」

「いや、あれは別に」とエンリが答えようとするが・・・。

「お前等、織田の回し者だろ」と海賊の親玉。

エンリ唖然。そして「織田って誰だよ」


いきなり砲撃が来る。

「どうしよう」とアーサー。

エンリは「どうもこうもない。応戦するぞ」



その時、別方向から砲声が響き、相手方の船の至近距離に水柱が上がる。

向こうから巨大な船が迫り、多数の砲門から一斉に砲撃。


海賊船団は応戦し、巨大船の船側に何発か命中した砲弾は弾かれた。

それを見てアーサーは言った。

「船に防護鉄板が張ってあるんだ」


海賊船団は撤退し、巨大船が接近する。

その船に向けてエンリが「あの、この船って何ですか?」

向うの船の上からエンリたちに「我々は織田の水軍で、これは安宅船だ。お前達は異人か?」


ジロキチが相手方と話す。

そしてエンリに「領主に会わせてくれるらしい」



港に船をつけ、馬に乗せられて陸路を移動した。

同行している領主の家来は羽柴秀吉と名乗った。


エンリは秀吉に「領主というのはどういう人なんですか?」

「天下の統一を進めている、偉大な殿様だよ」と秀吉は答える。

「ジロキチ、知ってるか?」とエンリはジロキチに・・・。

ジロキチは「俺たちが今居るのは尾張だから、織田信長様かな」

「今は毛利様と戦っています」と秀吉。


アーサーが「どんな人なんだよ、ジロキチは聞いた事あるんだよな?」

「かなり個性的な方だ」とジロキチは答えた。

「微妙な言い方だな、おい」とタルタ。

「だって家来の人の前だぞ」とジロキチ。

「って事はストレートに言うと命が危ないって事かよ」とタルタ。


「外国人の私たちにどうして会ってくれるんですか」とリラ。

「鉄砲を輸入して軍を強くした人だからなぁ」とジロキチ。

すると秀吉が「鉄砲は既に国産化してますけどね、異国には他にも珍しいものがいろいろあるから、宣教師も歓迎しています」

「俺たち、唯一神の布教に興味ないけど」とエンリ。

秀吉は「信長様も信仰とか興味ない・・・っていうか、最近は第六天魔王とか自称してまして」

「中二病かな?」とエンリ。

「中二病だよね」とアーサー。



一山越えて領主の城下町へ向かう。


途中の国友村の刀鍛冶にジロキチの壊れた刀の修理を依頼し、代りの刀を借りる。

「最近は鉄砲の依頼が多くて、刀は久しぶりなんで、張り切ってやらせて貰います」と胸を張る刀鍛冶。

「お願いします」と涙目で刀鍛冶の手を執るジロキチ。


刀鍛冶は「任せて下さい」

「くれぐれもお願いします」とジロキチ。

「まあまあ」と困り顔でジロキチを宥める刀鍛冶。

ジロキチは「みんな可愛い奴等なんです。あれから夜も眠れなくて」


刀鍛冶はそっとエンリに耳打ちした。

「あの人、思い入れが尋常じゃないみたいなんですが」

エンリは刀鍛冶に「なんせ刀を恋人だとか言ってる奴なんで」

ドン引きする刀鍛冶。



城下に入る。


立ち並ぶ市街の背後の丘に幾重もの石垣の城壁。そして丘の上に聳える天守閣。

それを見てタルタが「あれってお城だよね?」

「信長様が住む安土城です」と秀吉が答える。

「石垣の上に建ってるけど、壁を白く塗った木造だろ」とアーサー。

「けど五階建て。ポルタの城と同じくらい大きいぞ」とエンリ。


ニケが「それより、よく見てよ。屋根の上が金よ、金」と騒ぎ出す。

「すげー」とタルタ。

アーサーが「聞いた事がある。東の果てに黄金の国ってのがあると」

ニケの目が焦点を失い、うわ言のように「黄金・お宝・ガッポガッポ」


秀吉は笑って言った。

「あれは屋根に拭く瓦の表面に薄く塗ってあるだけで、中味は土くれの焼物ですよ」



織田信長と面会するエンリたち。

目的を聞かれて、秘宝について話すエンリ王子。


「ひとつながりの大秘宝とな? 聞いた事は無いが」と信長は言った。

「世界の海を支配して海賊王になれると言うんです」とエンリ。

信長は「それで世界中を宝さがしか。そんな物に頼らず武をもって制すればよいだろう」


エンリは困り顔で「いや、支配したい訳じゃなくて・・・」

「では何のためにそんなものを欲しがる」と信長。

するとタルタが「お宝は海賊のロマンです」

信長は笑って、隣に控えている小姓に「古田を呼べ」



まもなく、一人の武士が来て「殿、古田織部、参りました」

信長は古田にエンリ達を指して「この者ら、宝を探しているというのだが、ひとつながりの秘宝とやらに、心当たりはあるか」

古田は脳内にまだ見ぬ財宝の姿を妄想しながら、うっとりした表情で言った。

「バテレンの宝物ですか。さぞ素晴らしき一品なのでしょう」

「お前の所蔵品よりもか」と信長。


古田は「価値ある物は上には上がありますが、その秘宝とやらはこれより価値あるものですかな? 堺の利休殿も認めた逸品です」と言って、懐から一個の茶碗を出した。

それを見てエンリは「茶碗だよね」

「普通というか、ちょっと不格好な」とアーサー。


古田は自慢顔で「この温かみ、不規則にして自然なフォルム。まさに詫び錆の極致にございましょう」

エンリは頭痛顔で「もういいです。多分、方向性違うと思うんで」



信長は笑いながら言った。

「この者らが捜しているのは、天下の海を支配する力があるというのだ」

「天下を治めるものとは、三種の神器の事では」と古田。

エンリは「そんなものがあるんですか。それはどこに」

「都の帝の持ち物となっておる」と信長。

「何しろ神器ですから。ぜひ拝んでみたい」と古田。


「その帝という人がこの国を支配しているんですか?」とエンリ。

信長は「帝など何時でも攻め落とせるわ」

すると脇に控えていた家来の一人が「殿、滅多な事を言ってはなりませんぞ」

信長は彼に「光秀は相変わらず頭が固いのう」



エンリは信長に訊ねた。

「殿様はこの国を支配しようとしているんですか?」

「そのつもりだ」と信長。

「何のために?」とエンリ。

信長は「戦乱を終わらせて天下を統一し、ひさつながりの国にしたい」

「戦争が終わればみんなが幸せになれますからね」とエンリ。


だが、信長は言った。

「そんなものは個々の民が自分で考える事だ。だが、戦に割く力を別の事に使える。食べ物を作り着るものを作り街を作り、商売が盛んになって天下が豊かになる」

「まとまって一つの国になれば平和になりますよね?」とエンリ。

「そうはならぬ。謀反も起これば内乱も起こるだろう。だが、それはその時考える事だ」と信長。

エンリは思った。

(何か知らないけど、凄い人なんだな)



脇に控えていた秀吉が信長に言った。

「そして天下の女をわが物に・・・ですよね、殿」

信長は「だな、秀吉」


「都の女人は美しいですから」と秀吉。

信長は楽しそうに「尾張の女も捨てがたいぞ」

「やはり美濃でしょう。何しろ桔梗様の故郷ですから」と秀吉。

信長はボルテージを上げて「北国の娘は肌が美しいと聞く」


秀吉もボルテージを上げて「今夜あたり、久しぶりに繰り出しますか」

「いいのう」と信長。


その時、荒々しく襖が開いて、信長の奥方登場。

そして「殿、またそのような」

信長青くなり、冷や汗を流して「桔梗、これはな」

「また秀吉がそそのかしたのですね」と奥方、夫の隣に居る秀吉を追及。

それを見て、エンリたちは思った。

(何だろう、この残念感は)



そんな奥方の追及が終わると、信長はエンリに言った。

「そなた等、海賊と言ったな? この国で海賊といえば毛利だ。明日、大阪に行って海賊どもと一戦交える。ついて来るか?」

「はい」とエンリの仲間たち。



軍を率いて大阪に向かう信長とともに行くエンリ王子たち。

京都に着く。

京都の街並みを眺めて、エンリは「ここに三種の神器があるのか」

「それが秘宝って事は無いのかな?」とタルタ。

アーサーは「多分、ただの権威の象徴だろ」



一緒に居る秀吉に訊ねる。

「その帝はこの国を支配していたんですよね?」とエンリ。

「帝は傀儡で、支配していたのは幕府の将軍でした」と秀吉。


「その将軍はこの国を支配していたんですよね?」とエンリ。

「将軍も傀儡で、支配していたのは管領の細川でした」と秀吉。


「その管領はこの国を支配していたんですよね?」とエンリ。

「管領も傀儡で、支配していたのは家来の三好衆でした」と秀吉。

エンリとアーサーは「やっばりただの権威の象徴じゃん」と言って溜息をついた。


仲間たちの間に残念な空気が漂う中、エンリはぽつりと言う。

「けど、もしかして、あの大秘宝も似たようなものなんじゃないのかな?」

「どうなんだろう」とアーサー。

タルタは少し考え、そして言った。

「いや、何か意味がある筈だよ。あの大海賊バスコがそう言ったんだから」

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