第439話 魔剣の師匠
孤島の洞窟で発見された、異世界転生者の魂が宿る魔剣師匠。
彼はエンリ王子たちの助けで、理想の主としての獣人族の姫フランを得て彼女の剣となったが、実はフラン姫にはリトという年下の婚約者が居た事を知る。
フランとリトのイチャラブを指を咥えて見ている事に耐えられなくなって、エンリ王子の所に逃げ込んだ魔剣師匠だが、同じ魔剣のムラマサが人の姿になるのを見た彼は、人化の魔法の存在を知った。
自分も人化を受ければ、人の姿でフランと触れ合える。
躊躇う魔剣師匠だったが、彼に懐いたフラン姫に促され、彼は人の姿を得ることを決心した。
魔剣師匠の、獣人族の族長の娘フラン姫を主とした人化の儀式が始まる。
ニケが採血器でフランの血を採取し、人化の魔道具の小瓶に収める。
既に主従の契約は終えている。
アーサーが儀式を執り行う。
フランと向き合う魔剣の脇に立ち、アーサーは魔剣に問う。
「人ならざる者よ。汝が主と認めしこの者、獣人の姫フランより、その忠誠への対価として、人たる者の姿をもって褒賞とせん。これを受けるか」
「受けます」と魔剣師匠が答える。
「ではこれより、汝に主たる者より従者たる者への褒賞を与えん」とアーサー。
人化の呪文を詠唱するアーサー。
「汝、魔具の内なる形相、その個を個たらしむ姿成す実在。主より授かりし新たなる形相を第二の姿とてその身に宿せ。汝の名はリカントロープ」
アーサーは左手で人化の魔道具を捧げ持ち、古代語の呪文とともに、それは光に包まれる。
その光の中にいくつもの古代文字が浮かぶ。
右手に持つ杖でその光を魔剣へと導く。そして光は、アーサーが唱える古代語の呪文とともに、大きくなって魔剣を包む。
その周囲にアーサーは杖を動かして球体の魔法陣を描く。いくつもの古代文字が浮かんでは消えた。
アーサーが結びの呪文を詠唱。
「従順なる魔物よ。褒賞として受け入れたる姿を現せ。人化あれ!」
光の中から現れた人化した魔剣師匠。
その姿を見て、あれこれ言うエンリの仲間たち。
「フラン姫と同じケモミミだね」
そうタルタが言うと、エンリは「主の形質を貰う訳だからな」
ジロキチが「人化と言っても人間になるとは限らないのか」
「けど優しそう」とリラと若狭。
「けどイケメンじゃないよね?」
そうカルロが言うと、魔剣師匠は「ほっといて下さいよ」
二十代後半の、どちらかというとひ弱そうな見かけは、転生する前の容姿が再現されたのだろう。
「よろしくね、魔剣師匠」
そう嬉しそうに言うフランとリトに、魔剣師匠は照れ顔で「俺も・・・・・、まあ、よろしく」
人化した魔剣にじゃれつく、幼いフランとリト。
それを見てエンリたちは微笑ましそうに「随分懐かれているね」
そんな中でフランは「それでは師匠、手合わせをお願いします」
「この姿でか?」
そう戸惑い声で言う魔剣師匠に、フランは「好きな人とやってみたかったんです」
「手加減はしないぞ。びしびし鍛えてやるからな」と、魔剣師匠ドヤ顔。
人の姿で木剣を持って向き合う魔剣師匠とフラン。
そして魔剣師匠は・・・・・、フランにボコボコにされた。
彼は釈然としない気持ちを無理やり飲み込み、フランの頭を撫でながら「強くなったな」
「師匠のおかげです」と嬉しそうなフラン。
リラの回復魔法を受けながら、魔剣は思った。
(こいつも随分鍛えたからなぁ)
「次は僕にもお願いします」
そう言って木剣を手にするリトに、魔剣師匠は「手加減はしないぞ」
「覚悟は出来ています」と真剣な眼差しで言うリトに、彼は日頃散々見せつけられた鬱憤を胸に抱え、木剣を持って向き合う
そして魔剣師匠は・・・・・、リトにボコボコにされた。
「あの、師匠、大丈夫ですか?」
そう心配そうに言うリトに、魔剣師匠は精一杯の強がり顔で「大丈夫だ。俺を誰だと思ってる」
そして彼は脳内で呟いた。
(何でだ?・・・)
そんな彼等を見て、あれこれ言うエンリの仲間たち。
「あれだけの剣術スキルがあるのに、自分では使えないのかな?」
そうエンリが言うと、アーサーは「スキルと言っても主に付与する術式だからね」
「けど魔剣の身で宙を飛びながら斬り結ぶ事だって出来るよね?」とタルタ。
そんな中、落ち込み状態な人化魔剣師匠にジロキチが言った。
「魔剣としての剣術スキルは、人化で得た身に宿るものとは違うと思うぞ。剣術は体をどう動かすかを、体で覚えるんだ。俺が教えてやる」
ジロキチに剣術を習う事になった魔剣師匠。
木剣を持って構えるジロキチと、人化魔剣師匠は木剣を持って向き合う。
ジロキチは「かかって来い。剣術は実戦あるのみだ」
実戦形式の訓練でボコボコにされる魔剣師匠。あちこちの打撲をリラが魔法で回復させる。
「もう一本行くぞ」
そう言って再び木剣を構えるジロキチに、魔剣師匠は「勘弁してくれ」
一発で懲りる魔剣師匠であった。
「あの、ジロキチさんって指導者免許とか持ってるの?」
そう魔剣師匠が言うと、ジロキチは「何だ?そりゃ」
「教えるプロって居るんですよね?」
そんな魔剣師匠に、エンリは「専門家なら大学の魔法戦闘科に居るだろ」
エンリは仲間たちと共に人化魔剣師匠とフランとリトを連れて、ポルタ大学の魔法学部へ。
建物の前で魔法学部の学生たちと出くわす。
仮契約したことのあるジョルドは彼を一目見て、その正体に気付いた。
「お前、魔剣かよ」
周囲の男子学生たちが「あいつが人化すると、こうなるのか」
「何だか弱そう」と女子学生たち。
魔剣師匠は口を尖らせて「ほっとけ」
遠坂の研究室へ。
エンリが遠坂に、人化した魔剣を紹介し、趣旨を話す。
「忍者の剣術になるが、それでいいか?」
そう遠坂が言うと、魔剣師匠は「よろしくお願いします」
遠坂は彼等を連れて訓練場へ。
「先ず、これだ」
そう言って遠坂が指した訓練場の一画を見て、人化魔剣師匠は「畑の畝みたいなんですけど」
「畑の畝だ。ここにピータービートという品種の豆を撒く」
そう言って遠坂は、袋から種を出して畝に撒く。
「この畝を飛び越えてみろ」
軽く飛び越える人化魔剣師匠。
「これを毎日飛び越える。豆は芽を出してどんどん伸びて、天に届くほど高くなる。それを飛び越える事で、驚異的な跳躍力が身に付く」
そう遠坂が説明すると、エンリは溜息をついて「悠長過ぎだろ。ってか、そういう忍者あるあるは要らないから」
アーサーも「忍者流って言っても忍者になる訳じゃ無くて、剣術を身につけたいだけですから」
「だったら・・・・・・」
木剣を持って構える遠坂は、人化魔剣師匠に木剣を持たせて向き合う。
そして「かかって来い。剣術は実戦あるのみだ」
実戦形式の訓練で、ボコボコにされる人化魔剣師匠。
「この人本当にプロの教官か?」
そう魔剣師匠は懲り懲り顔で言うと、エンリは「中世の剣術なんてこんなもんさ」
そんな様子を見物していた魔法学部の学生たちの中に金田が居た。
彼は魔剣師匠から経緯を聞き、そして言った。
「あなたの魔剣としての剣術スキルは、主に付与するものですよね? それを自分自身に付与する事は出来るんじゃないですか?」
「自分自身に・・・って、どうすれば?」
そう言って考え込む魔剣師匠に、金田は「魔術はイメージです。実際に魔剣として戦いながら、その束を持つ自分をイメージするんですよ。そのイメージと、自分の内側に居る人としての実在を接続する。俺が相手をします」
「金田先輩、剣術とか出来るんですか?」
そう周囲の魔法学部生が言うと、金田は「俺もこれで忍者の端くれだからな」
魔剣の姿になり、剣を振るう金田と宙を舞って切り結ぶ魔剣師匠。
自分の束を持って戦う自分自身をイメージし、自分の中の人としての自分を重ね合わせる。
腕を振るう感覚が伝わり、足を捌く感覚が伝わる。
彼は思った。
(戦いってこんなふうにするのか)
そして剣の姿の魔剣師匠は、スキル付与の呪文を唱える。
自らが描いた人のイメージに魔力が流れ、肉体イメージが鮮明になる。
そして魔剣は人化した。
剣を振るいながら人化した魔剣師匠を見て、金田は言った。
「どうやら成功ですね。試してみますか?」
人化した魔剣師匠は木剣を持って金田と向き合う。
金田と剣を交える中、振り回す剣が自分の体の一部のように感じる。相手の動きが見える。
戦いながら思考がひとりでに動いた。
(剣はこう動く。それを自分はこう受け流し、ここを狙って・・・)
そして人化魔剣師匠は・・・・・、金田にボコボコにされた。
リラに回復をかけて貰いながら、魔剣師匠は「まだ慣れていないものな」
エンリたちは疑問顔で「そうなのか?」
そしてその後、人化魔剣師匠はフランと手合わせしてボコボコになり、リトと手合わせしてボコボコになる。
そんな彼にエンリは言った。
「これって単純に筋力の問題だろ。体がついていけてないんだよ」
ジロキチも「前世で引き籠ってた時の体が、そのまま再現されたんだろうな」
タルタは「これは筋トレあるのみだね」
「だったら俺たちの仲間にならないか?」
魔剣師匠にそう声をかけた者たちが居た。
見ると、短パンTシャツのマッチョが四人、マッチョポーズをとっている。
「俺たち肉体改造部。最高の体を手に入れて女の子にモテまくろう」
魔剣師匠はうんざり顔で「いや、要らないから。ってか何だよ最高の体って。勘弁してくれ」




