第435話 獣人の村
ポルタ大学のサバイバル実習船の難破で漂着した孤島でジョルドたちが見つけた、人格を持ち人語を話す魔剣。
その主探しを手伝う破目になったエンリ王子たち。
そして、魔剣が希望する主の要件はケモミミ幼女。
その希望を叶えるため、ナオフミ勇者事務所の助手でケモミミ娘のラフタの案内で、魔剣を持って獣人族の村に向かうエンリ王子と仲間たち。
森の中の獣人族の村に入る。
木々の間に村人たちの小さな家が建ち並ぶ。
「この村には親戚が居まして」
そう説明するラフタに、エンリは「村の生き残った人達の移住先という訳ですね?」
だが、ラフタは「という訳では無いんですが・・・」
そしてラフタはエンリたちに、初老の獣人男性を紹介。
「この人が、そうなんですけど」
「どんな間柄で?」
そう訊ねるとラフタは「母さんのお兄さん・・・」
「つまり叔父さん?」とリラが言葉を挟むが、ラフタの説明は更に続く。
「・・・・・の従妹の同級生のお向かいさんの実家の使用人の・・・」
ジロキチがあきれ顔で「ほぼ他人じゃ無いかと思うんだが」
するとラフタは「それでここの村長さんを兼ねていまして」
「むしろそっちが重要だよね」とアーサーが突っ込む。
村長は揉み手の商人スマイルのドアップで「とても貴重な宝器を、ただで譲って下さると聞きました。実に有難い」
エンリは困り顔で「いや、売れ残りのサービス品じゃ無いんだから」
「けど、ある意味間違ってないと思う」とタルタが突っ込む。
「俺はそんなに安くないぞ」と、心外声の魔剣。
すると村長は表情を曇らせて「つまり、引き換えに所有者が不幸になる呪いとか・・・」
「そう言う事故物件じゃないんだが・・・」
慌ててそう言って否定する魔剣を、エンリはフォローした。
「彼は意思のある魔剣で、自分に相応しい主を探しているんですよ」
「つまり、最強の剣技と魔力を備えたマッチョな戦士」
そう言って村長が合図すると、いかにも汗臭いマッチョな獣人男性がズラリと並ぶ。
「いずれも腕に覚えもあり、根性も無敵な強者揃い」
そう村長がドヤ顔でアピールすると、魔剣はドン引き声で「いや、そういうのは方向性が違うんだが・・・。相性というか好みというか・・・・・」
村長は「解ります。運命的な紅い糸に選ばれた薔薇の主従」
「そういうホモホモしい言い方は止めて」と、魔剣は更なるドン引き声で・・・。
「村長、やはり剣に選ばれるなら、これですよね?」
一人のマッチョな獣人戦士がそう言って、大きな岩をドンと置く。
魔剣は怯え声で「何だよそれ」
彼は魔剣を掴んで岩の上に立つと、魔剣を抜いて構えた。
「ちょっと待て」
そう言って慌てる魔剣を他所に、彼は束を持って切っ先を下に構え、力いっぱい突き下ろす。
剣の切っ先が岩を砕いて、深々と突き刺さった。
「これを抜いた者が主なのですよね?」
「乱暴過ぎだろ。普通の剣なら折れてるぞ」と抗議声の魔剣。
そんな魔剣に、猫の姿でタルタの頭の上に居るタマが言った。
「あのさ、はっきり言った方がいいんじゃ無いの?」
魔剣は困り声で「けど、ドン引きされるんじゃないかと・・・」
そんな彼等に村長は「あの、何か特殊な条件が?」
「それは・・・・・・」
そう言葉を濁す魔剣を他所に、タマは「要するに女がいいのよね?」
「おい、タマ」と彼女を制止しようとするエンリの懸念を他所に、村長は言った。
「つまり姫騎士。解ります。流行ってますものね」
エンリたちは意外そうな声で「意外と引かれないもんだな」
タマは更に追い打ちで「でもって10才くらいの幼女が理想なのよね?」
「だからそういうのは・・・・・」と懸念全開のエンリを他所に、村長は言った。
「つまり将来性のある剣士の卵を鍛えて最強に育てたいと」
「そそそそそそうなんです」
そんな冷汗声の魔剣に、村長は「そういう事なら・・・・・・」
村長は村の子供たちを集め、魔剣を示して言った。
「この中に魔剣を使う戦士になりたい者は居ないか?」
何人もの子供が手を上げるが、全員男の子だ。
「女の子は居ないの?」
そう魔剣ががっかり声で言うと、ジロキチが「普通は剣士になるって言ったら男だろ。漫画やアニメじゃ無いんだから」
魔剣は未練がましい声で「けど、奴隷狩りに捕まって家族を殺されて、家族を守れる力が欲しいって子も居るのでは・・・」
「救出された女の子は、みんな自分を救出した戦士に懐いて、"将来この人のお嫁さんになるんだ"と言ってまして」
そう村長が解説すると、エンリたちは声を揃えて「まあそうなるよね」
魔剣は夕日の沈む海岸の幻想の中、空に向かって叫んだ。
「現実なんて大嫌いだ。太陽のバカヤロー!」
そんな魔剣にエンリは言った。
「あのさ、とりあえず希望者の男の子と仮契約して、凄い魔剣なんだって所を見せれば、欲しくなる女の子も出て来るんじゃないのか?」
魔剣はロデという10才の男児と仮契約した。
魔剣を構えるロデ。
「ファイヤーアロー」
そう魔剣が唱えると、剣の切っ先から炎の矢が放たれる。
「すげー。これ師匠が?」
「そうだが、俺は自分の主にスキルを付与できるんだ。やってみるか?」
ロデは左手で剣を持ち、右手を突き出す。
「剣を持つ手に意識を集中するんだ」
不思議なエネルギーが左手から流れ込み、ロデの思考にイメージを送り込む。
(これが魔力?)と呟くロデ。
頭に浮かんだ魔法陣を右手にイメージし、意識が勝手に右手へと収束していく。
頭に浮かんだ呪句が口から飛び出し、ロデの右手から炎の矢が放たれた。
幾つもの攻撃魔法を付与されると、次は剣術だ。
魔剣がロデに剣技を付与。
魔剣を持つ右手に意識を集中し、ロデは不思議なエネルギーが流れ込むのを感じる。
それはロデの意識の中に剣技のイメージの集合体を構成。
ロデは魔剣を持って、村の剣士を相手に実践訓練。
意識の中の剣技のイメージが、ロデの手足の動きを導き、熟練した剣士と同等の剣捌きを見せた。
戦えるようになると、ロデは魔剣を持ってモンスター狩りに挑む。
魔剣のアドバイスを受けてゴブリン討伐。
魔剣の探知機能で森に潜むゴブリンの群れを発見し、風の矢で次々に仕留める。
それを掻い潜って襲って来るゴブリンを魔剣で切り伏せ、囲まれると飛行魔法で宙に退避し、雷の散弾で一掃。
ゴブリンの集落を発見し、炎の波濤でまとめて焼き払う。
生き残ったゴブリンをシルフブレードで次々に仕留める。
経験値を稼いでレベルアップし、ロデ自身もどんどん強くなる。
やがて、ユーナという女の子が「私も強くなりたい」と、魔剣の主を志願した。
待望のケモミミ幼女である。魔剣は彼女と正式契約した。
ユーナは魔法と剣技を付与され、魔剣を持って魔物討伐の冒険へ向かう事になる。
「ロデ君も一緒に冒険するんだよね?」
そうユーナが言うと、ロデも「僕ももっと強くなりたい。魔剣師匠、もっと鍛えて下さい」
「まあ、冒険ってのはパーティを組んでやるものだからな」
魔剣師匠の呼び名がすっかり定着した彼は、ユーナの剣として、普通の剣を持つロデも連れて、オークの村を討伐した。
子供たちの成長を喜ぶ獣人の大人たちを微笑ましそうに眺めるエンリたち。
「どうやら魔剣師匠の願いも叶ったようですね」
そうリラが言うと、エンリも「これで一安心だな」
エンリたちは獣人の村を後にして、ポルタの都に帰った。
ポルタ城の執務室。
獣人村滞在中に溜まった書類のハンコ突きに追われるエンリを他所に、彼の部下たちがソファーで談にふける中、魔剣師匠の話題が出る。
「魔剣の奴、どうしてるかな?」
そうタルタが言うと、ジロキチが「ユーナって子の保護者として、楽しくやってるんだろ?」
ところが・・・・・・・・・・。
「そう、うまくもいかなくて・・・・」
そう言って窓から宙を飛んで執務室に入って来たのは、あの魔剣師匠だ。
その場に居る全員、唖然。
「お前、ケモミミ幼女の主はどうした?」
そうエンリが言うと、魔剣師匠は「解約しました。あの子、ロデとくっついちゃったんで。結局、ユーナはロデ目当てで俺の主を志願したんですよ。それで俺の目の前で、二人でイチャイチャと・・・。俺のユーナがぁ!」
エンリは溜息をつくと「世の中なんてそんなものさ」
魔剣は夕日の沈む海岸の幻想の中、空に向かって叫んだ。
「現実なんて大嫌いだ。太陽のバカヤロー!」
魔剣師匠が、なし崩し的にエンリの執務室に居付いて、数日後・・・。
執務室でハンコ突きをしているエンリの所に、家来が「お客様ですが」
「俺に?」
「正確に言うと、王子のじゃ無い魔剣に・・・なんですけど」
獣人族の戦士が、十代始め頃の獣人の女の子を連れて、案内されて執務室へ・・・。
「彼女はフラン。獣人族の族長の娘です」
そう戦士に紹介されたフラン姫は、エンリと魔剣師匠に頭を下げた。
「配下の村の戦士見習いを鍛えて下さった宝具精霊の方に力を貸して欲しくて、お願いに来ました」
「だとさ」
そうエンリにも言われて、魔剣師匠はテンションMAXで「幼いケモミミ姫が俺の主に? やる! 誰が妨害しても、どんな障害を乗り越えてでも、ケモミミ姫の剣に俺はなる!」
「いや、誰も妨害しないから」
そうエンリは困り顔で言って魔剣師匠を制すると、フラン姫に言った。
「それで、何をするんですか?」
「族長を継ぐに当って、回収しなければいけない特別な宝具があるんです」と戦士が答える。
エンリは「即位の儀式に必用とか?」
「いえ、私にとって特別に大切なものが封印された魔石で、私自身が探し出さなければいけないんです」とフランが答える。
魔剣はドヤ声で「最強の魔剣としての誇りにかけて、そのクエストを一緒に達成してあげます」
「お願いします」と嬉しそうに頭を下げるフラン姫。
エンリは些か疑問顔で「ってか、それってクエストなのか?」と呟いた。
魔剣師匠はフラン姫と正式契約した。




