第434話 魔剣の主
ポルタ大学のサバイバル実習船の難破で孤島に漂着した学生たちが帰還した。
そして、ジョルドたちが洞窟で見つけた意思を持つ魔剣を、彼等はポルタ大学に持ち帰った。
魔法の使えなかった島では、鑑定スキルと異世界の知識が使えるだけの剣だったが、魔力の吸収が止まった後のギガンテスとの戦いで魔剣が見せた力は、否応なく学生たちの注目を集めた。
大学に戻った魔法学部の学生たちが、魔剣を囲んでわいわいやる。
「お前、かなり使えるんだな」
そう一人の男子学生が言うと、魔剣はドヤ声で「当たり前だ。転生ボーナスを貰ったチート能力者だぞ」
「だったら俺が主に」
「いや、俺が」
「俺だろ」
そう言って、口々に剣の主として立候補する魔法学部生たち。
そんな彼等に魔剣は「大人気なのは嬉しいんだが、お前等、男だよね?」
「男性差別ジャー」と口を尖らせて不平を言う男子学生たち。
魔剣は語った。
「いや、今時のラノベなら常識だろ。美少女キャラさえ居ればいいって言って、主人公以外の男は邪魔だとかで、その主人公も下手すると戦うヒロインで、同性のお友達とのキャッキャウフフでメインキャラは全員女子。そんな世界に混ぜて貰うために、男主人公は魔剣とかモンスターとか女体化男子とか・・・」
そう言いかけて、魔剣は自分に集中する残念な視線に気付く。
「何でそんな憐みの目で俺を見るんだよ」
そんな男子たちの言い合いに、三人の取り巻きを引き連れて、割って入る一人の女子。
「とりあえずそーいうのは止めませんか?」
アメリアである。
目を丸くして唖然顔であれこれ言う男子たち。
「アメリアが騒ぎを止めに入ってる」
「いつもは騒ぎを起こす側なのに」
「アメリアじゃ無いみたい」
そんな彼等にアメリアは口を尖らせて「私を何だと思ってるのよ。・・・って訳で、私が主になってあげるわ。文句なしのハイランク美女で女主人公になれる唯一の女子キャラの私が。ほーっほっほっほ」
そんなアメリアに魔剣は「いや、そーいうのは俺の方向性に反するんで」
アメリアが主を名乗って拒否られると、周囲で静観していた女子たちが口々に・・・。
「なら私が主に」
「私でしょ」
そんな彼女たちにロイデが「これを見つけたのはジョルドたちなんだが・・・」
「だからこいつは男」
そうアメリアの取り巻きの一人が言うと、ロイデは「チノはどーよ」
チノは気後れ顔で「私は魔導士だから、剣はちよっと・・・」
「魔法の杖の代わりに使えばいーじゃん」
そう言ってなおチノを押すロイデに、魔剣は「それだと剣としての俺のポリシー・・・、ってか、女でも年増はちよっと」
「年齢差別ジャー」と口を尖らせて不平を言う女子学生たち。
「いや、今時のラノベなら・・・」
先ほどとほぼ同一な事を言いそうな魔剣に、ジョルドが「それはもういいから」
するとドミンゴが「ライナ達はどうかな? 俺たちより年下だよね?」
三人の元女官は気後れ顔で「私たちも魔導士だからなぁ」
魔剣もライナたちを見て「それにこの三人JCですよね? 出来ればJSが・・・」
すると男子学生の一人が「小学生だったら一人居るよね」
ジョルドたちは魔剣を持って、人文学部のフェリペ皇子の所へ・・・。
フェリペは彼等の話を聞くと「僕がこの魔剣の主に?」
「エンリ様も魔剣を持ってますし」とライナたち。
フェリペは魔剣を手に執る。
そして「それで君、何が出来るの?」
魔剣はドヤ声で「どんな攻撃魔法でも使えます( ー`дー´)キリッ」
「ロキ仮面で間に合ってるけどね」と、身も蓋も無い事を言うフェリペ。
魔剣は更にドヤ声で「空を飛べますよ」
「それもロキの仮面分身で」
そうフェリペが言うと、ドミンゴが「けど剣はヒーローの必須アイテムだよ」
それを聞いて、フェリペはその気になる。
「そうだね。僕が主になってあげるよ」
フェリペと仮契約する魔剣。
そしてフェリペは魔剣の柄を持って構えるが・・・。
魔剣を振り回そうとすると、逆に魔剣に振り回されているように見えてしまう、六歳の小さなフェリペ。
チャンダが残念顔で「ちよっとサイズが大きいような・・・」
ジョルドも残念顔で「まあ、六歳には大き過ぎだよね。せめて高学年くらいじゃないと」
「それと俺、男の子でもオッケーって言えるほど気合の入ったロリコンじゃ無いんで」と、今更な事を言う魔剣であった。
「結局、どんな主が理想なんだ?」
そうマゼランが訊ねると、魔剣は「出来れば10才くらいのケモミミ美少女を」
するとマゼランが「ケモミミなら居るじゃん」
魔剣を持って、タマの居る猫カフェ「ミケ子」に行くマゼランとジョルドたち。
店の猫たちに混じっているタマを見つけて趣旨を話す。
強力な武器を使えると聞いて乗り気になるタマ。
だが、魔剣は人間の姿になったタマを見ると「ちょっと年増なんだけど」
タマはいつもの調子で「贅沢言わないの。ケモミミ娘なんて貴重よ。いいわ。私が使ってあげる」
魔剣はタマと仮契約。
それが済むと、さっそく、タマは魔剣を背負ってお出かけ。
「どこに行くんですか?」
ろくでもない予感を感じて不安声でそう言う魔剣に、タマは「ちょっとリベンジに。私を散々いじめてくれた悪の権力者を退治するのよ」
「いじめるって何をされたの?」
そう魔剣が問うと、タマは「そりゃもう、あんな事やこんな事を・・・」
タマはケットシーの女王の所に乗り込む。
身構える女王と家来たちに、タマは「長年の借りを返しに来たわよ」
「この人・・・じゃなくて猫が? けど女ですよね?」
魔剣が女王を見て、戸惑い声でそう言うと、タマは「それが何か?」
「あんな事やこんな事って、もしかしてガチレズ?」と魔剣。
タマは慌てて「いや、そっち方面じゃ無くて」
そんなタマに女王は言った。
「性懲りも無く、また私の地位を奪いに来たのね?」
「何があったんですか?」
そう魔剣が女王に問うと、女王はこれまでのタマとの経緯を語った。
「女王決定戦のバトルロイヤルで、他の参加者を誘って私を袋叩きにしようとして、逆に疑われて自分が袋叩きに」
「・・・」
言葉に詰まるタマに、女王は「私の通り道に罠を仕掛けた事もあったわよね?」と追い打ちをかける。
タマは逆ギレ声でまくし立てた。
「・・・反権力は常に正義よ。女王は最高権力者でしょ? 叩かれたから何よ?いちいち相手を批判して言い訳?まして自画自賛なんて恥知らずなことするんじゃ無いわよ。昔のジミントーはどんな批判でも甘んじて受けたのよ」
女王はあきれ声で「いや、事実指摘は自画自賛じゃないし、あなた、どこの異世界の野党信者よ」
そしてタマは戦闘態勢に入った。
「私の魔剣は万能よ。束になってかかって来なさい。行くわよ魔剣・・・って、魔剣は?」
何時の間にか背負った魔剣の鞘は空になっていた。
女王の家来たちにボコボコにされるタマ。
飛行魔法により、宙に浮いた状態でそれを眺めながら、魔剣は呟いた。
「あんなのに付き合ってられるか」
エンリの執務室でリラの治癒魔法を受けながら、その場に居る海賊団の仲間たちに愚痴を言うタマ。
「それで返り討ちかよ」とタルタはあきれ声。
「梯子外すなんて酷いじゃないのよ」
そう魔剣に恨み言を言うタマに、その場に居る全員が「お前が悪い」
魔剣は溜息をつくと「贅沢言わないんで、性格的にまともな主をお願いします」
「まるで私がまともじゃないみたいじゃないのよ」
そうタマが口を尖らせて言うと、タルタは「いや、実際まともじゃないから」
「けど他にケモミミ娘って・・・」とアーサーが・・・。
するとエンリ王子が言った。
「居るじゃん。性格がまともでルックスも良くて腕も立つケモミミ娘」
「誰ですか?」
そう仲間たちに問われて、エンリは「ナオフミの所のラフタさんだよ」
エンリはその魔剣を持って、仲間たちとナオフミ勇者事務所へ。
依頼客の居ない事務室で、ナオフミとお茶を飲んでいたラフタに、趣旨を話す。
「魔剣ですか?」
そう言って目を丸くするラフタに、リラは「どんな攻撃魔法も使える優れものですよ」
「けど私、ナオフミ様から頂いたこの北斗神剣がありますから。これ、凄いんですよ。素早さスキルが付与されて手が20本に見えるくらいの速さで機関銃みたいに突いてモンスターを薙ぎ倒すんですけど、付与された魔法でどんな装甲の硬い魔物もヒデブと叫んで内側から・・・」
そう言って毎度の如く実演しようとするラフタに、エンリは「それはもういいから」
ラフタはナオフミに視線を向けると、彼は「支援魔法なら俺の楯で大抵の事は出来る。攻撃魔法が使えるのは有難いんだが・・・・・・」
ナオフミは、槍の勇者とのトラブルを思い出し、魔剣に問うた。
「お前、異世界転生者だよね? もしかして彼女、お前の好みか?」
すると「正直言うと、既に年増なのはちよっと・・・」と、魔剣の方からダメ出しが・・・・・・。
エンリは溜息をつき、暫し思考。
そして「あの、ラフタさんって獣人族で、故郷ではみんなケモミミなんですよね?」
ラフタは「そうですけど、その故郷は奴隷狩りに襲われて、仲間は散り散りになってしまいまして」
「交流のあった村とか属する部族とかは?」
そうエンリが言うと、ラフタは「それでしたら・・・・・・」




