第433話 ダンジョンの主
ポルタ大学のサバイバル合宿に向かう船が難破し、フェリペ皇子ら学生105名が流れ着いた孤島。
この島で魔法が使えなかった原因は、島に存在する魔素を吸収するダイナモンドと呼ばれる魔石だった。
エンリ王子たちの救助の手がようやく島に辿り着き、それまで救助を阻んでいた要素の排除に取り掛かる。それは因果の呪法と呼ばれる禁呪と、そして島に存在する何者かの意思。
その「意思」をダイナモンドに宿る精霊と考えた彼等は、それを地中から掘り出して、貯め込んだ魔素を放出させた。
だが、実はそれは島に存在する巨人ギガンテスを封印していたものだった。
魔石が空気に触れて石となる事で、封印されていた巨人が姿を現し、雄叫びを上げて暴れ出す。
山頂から駆け降りて巨人との距離をとる、エンリ王子たちと教授たちと105名の学生たち。
エンリは山頂で暴れるギガンテスを見て「とんだ見込み違いだったな」
「とにかく奴をとり抑えないと」と言ってジロキチが背中の剣に手をかける。
「あのサイズに刀は効かないと思うぞ」とタルタは言うと、鋼鉄砲弾で宙を飛んで特攻。
だが、巨大なギガンテスは鉄化したタルタの体当たりに、びくともしない。
「あいつの動きを止めるんだよね?」
そう言うと、ファフはドラゴンの姿になって、巨人に組み付こうと空から接近するが、ギガンテスはその何倍もの巨体で手を伸ばし、ファフを捕まえようとする。
エンリは「距離をとれ。あんなのに掴まったら、ただじゃ済まんぞ」
アラストールもドラゴン化し、二頭のドラゴンは空中からギガンテスに炎を吐いて牽制。
ギガンテスは口から雷を放ち、ファフは召喚した盾で防ぐ。
パラケルサスは魔法植物を召喚し、その蔦が巨人の足元に絡みつく。
リラはウォータードラゴンワイヤーを召喚し、強靭な水の蛇が巨人に巻き付く。
だが、ダイナモンドが放出した魔素を吸収したギガンテスは強力で、蔦も水の蛇も引きちぎられる。
ビスコは身体強化のビスケットを齧り、巨人の周囲を駈け回って、踏みつぶそうとするその足を躱しながら、ギガンテスに弓矢を放った。
矢が命中した所から人食いキノコが生えて、ギガンテスに噛み付くが、ギガンテスはそれを払いのけ、引きちぎる。
ギガンテスの噛み千切られた傷はすぐに再生。
間桐は何匹もの式神烏を召喚し、それに乗ってジロキチが、若狭が、マゼランとチャンダが宙を舞って接近し、剣で切り付ける。
そんな彼等にエンリは「普通の刀では傷は浅過ぎるぞ」
仮面をかぶったフェリペは、仮面分身で生じた多数の仮面を縦横に並べ、宙を舞うその上にシャナとエンリが乗る。
巨人に向けてシャナの刀が灼熱の衝撃波を放ち、エンリは炎の巨人剣で切りつける。
だが、その傷もすぐに再生。
そんな戦いを学生たちが見守る中、魔剣は言った。
「とりあえずジョルド、俺と仮契約しろ」
「お前、何か出来たっけ?」
そうジョルドが言うと、魔剣は「今までは魔力を吸われて魔法を使えなかったが、俺は異世界転生者の魂を宿した最強の剣だ」
ジョルドは「それで何が出来るんだ?」
「とりあえず俺の能力を使用者に付与する」と魔剣。
ジョルドは魔剣の柄を握ると、魔剣は仮契約の呪文を唱える。
そして主となったジョルドに飛行魔法のスキルを付与。
魔剣を持ったジョルドはいきなり宙に浮いた。
「どうなってる?」
混乱顔でそう言うジョルドに魔剣は「空を飛ぶ自分をイメージするんだ」
デタラメな軌道を描きながら悪戦苦闘するジョルド。
ようやく飛行が安定し、巨人を見下ろす位置に浮くと、彼が手に持つ魔剣は攻撃魔法の付与を開始。
「先ず、サンダーランス」
剣から細く収束された強力な雷が放たれ、ギガンテスの肩に命中。
「これは効いて・・・ないな。次々行くぞ。ファイヤーボルト」
剣から放たれた炎の塊を胸に受けたギガンテス。だがダメージは軽微だ。
「ウォーターカッター」
「アースブレッド」
「ウィンドボンバー」
ジョルドが持つ魔剣が次々に繰り出す攻撃魔法を平然と受けるギガンテス。
エンリたちは学生たちの所に戻り、距離をとって作戦の練り直し。
「埒があかない。あれじゃ焼石に水よ」
そうニケが言うと、マゼランが「けど、ここには105人もの魔導士が居る。全員で呪縛の魔法をかければ・・・」
「けど、バラバラにやっても力不足だぞ」
そうジロキチが言うと、マゼランは「力を合わせるんですよ」
「そうは言ってもどうすれば・・・」と学生たち。
するとチャンダが「ライナ達はやってるよね?」
ライナが言った。
「サルセード将軍から教わったんです。三人が共通の想いを強く念じて、その想いを魔法に込める」
「つまり、君たちには共通の想いがある訳だよね。それをみんなが共有すればいいんだよ」
そうアーサーが言うと、ドミンゴが「それで、その想いって?」
ライナたち三人は声を揃えて「フェリペ様のために」
「・・・・・」
男子学生たちは困惑顔。
そしてロイデが「いや、ショタ属性な女の子ならそれでアリだろうけど」
残念な空気を察し、フェリペは自信喪失顔で言った。
「いいんだ。僕ってただの子供だし。父上、僕、やっぱり皇帝としてみんなの上に立つなんて無理なんです」
エンリはそんなフェリペの頭に手を置くと「大丈夫だ。上に立つ者はみんなの支持なんて期待しない緩い奴の方がうまくいく。イザベラが言ってた。王様なんて飾り物だって。変にカリスマになろうとしてデカい銅像とか建てる奴とか、むしろ気持ち悪いだろ」
「それ、励ましてるの?」とタマが疑問声。
「けど、だったら・・・」
そう口々に心配声を発する学生たちに、エンリは言った
「お前等、みんなで生き残りたいよね?」
「そうだよ。俺たちは生き残るために頑張って来たんだ」と学生たち。
エンリは学生たちに大声で言った。
「この島を出たいかぁ!」
「出たーい」と学生たち。
エンリは「ポルタの都に帰りたいかぁ!」
「帰りたーい」と学生たち。
「みんなで生き残るぞー!」
105人の学生たちは"みんなで生きて帰る"という一つの願いを呪縛の呪文に込め、パラケルサスがギガンテスの周囲に展開した呪縛の魔法陣に投射した。
呪縛はギガンテスの動きを封じた。
「もう一押しだな」
そう呟くと、エンリは大地の魔剣を抜いて地面に突き刺し、呪文を唱えた。
「汝大地の精霊。万物が立ちたる磐石にしてその庇護せし命の隠れ家。マクロなる汝、ミクロなる我が大地の剣とひとつながりの宇宙たりて、汝の愛する命脅かす嵐の足を止めん。泥流あれ」
巨人の足元が泥のような流動と化して、その足は地面に沈み、巨人は足を封じられた。
「いいぞ。あとは両手の自由を奪って奴を捕縛だ」とエンリたちは気勢を上げた。
だが、ギガンテスは口を開けて炎を吐こうと・・・。
「攻撃魔法が来るぞ。アーサー、防御魔法だ」
エンリがそう叫び、アーサーが巨人の目の前にイージスの防壁を展開。
その時、ロビンソンが飛び出して防壁の前に立ち、両手を広げてギガンテスに向って叫んだ。
「フライデー! お前、フライデーなんだろ?」
そんな彼の叫び声を聞いて、マゼランたち、唖然。
「あれって空想が産んだ疑似人格だったんじゃ・・・・・」
ギガンテスは動きを止め、いかにもモンスターな重々しい声で「ロビンソン・・・・・・」
「やっぱりフライデーなんだよね?」
そうロビンソンが言うと、ギガンテスは「思い出したんだ」
「お前は何者だ?」とロビンソンはギガンテスに問う。
ギガンテスは語った。
「俺はこの島のダンジョンの主として生まれた。ここにあった、魔物たちを産み出す迷宮の。けれど、あの石が空から落ちて、ここの魔力を吸い尽くした。魔物は魔力を奪われて死絶え、俺は動けなくなった。長い孤独な時を渡る中で、お前の声を聞いた。孤独な中で話し相手が欲しい。そんな同じ想いに引かれて、お前が作った人形が俺の体になった。楽しかった。けど、お前は行ってしまうんだよな?」
「行かないよ。俺たちはずっと友達だ」
そうロビンソンが言うと、ギガンテスの姿のフライデーは「お前、広い世界に戻ってやり直すんじゃ無かったのか? それを諦めるのか?」
ロビンソンは俯き、沈黙する。
ギガンテスのフライデーも沈黙する。
会話を聞いていた学生たちも、哀しく重苦しい空気に包まれた。
その時。ロビンソンの背後から歩み寄り、彼の肩に手を置く者が居た。それはニケだった。
彼女は言った。
「諦める必用なんて無いわ。ここにダンジョンがあるなら、世界中から冒険者が魔物狩りに来るわよ」
「ニケさん・・・」
ロビンソンの表情が明るさを取り戻す。
じーん・・・となる学生たち。
そしてニケは目に$マークを浮かべ、テンションMAXで言った。
「そんな彼等を相手に管理人として商売すれば、インバウンドでお金ガッポガッポ」
その場に居た全員、前のめりでコケる。
105名の学生たちはタルタ号でポルタに帰還した。
そしてロビンソンは、巨人のフライデーと共に島に残り、島の管理人となった。
フライデーが出現した跡に現れたダンジョンの入口はユーロ中に知れ渡り、多くの冒険者が集まった。
ニケは彼等を相手の商売で大忙し。
そんな島の様子を部下とともに見に来たエンリたち。
島の高台に街が出来ており、冒険者相手の店が建ち並んでいる。
管理事務所で対応するニケは、得意顔MAX。
「冒険者相手の食堂に宿屋に武器屋に薬屋。商売繁盛でお金ガッポガッポ」
「けど、ここの管理権が儲かるんなら、権利を乗っ取ろうとかいう詐欺師が来るわよ」とタマが指摘。
「そんなの、このお金の申し子ニケさんが許さないわよ。私は彼の共同経営者よ」
そう言って、隣で書類と格闘しているロビンソンに視線を向けるニケ。
「何時からそんな肩書を・・・」とアーサーはあきれ顔。
エンリもあきれ顔で「ってか、そういう"商売で協力します"とか言う奴が危ないんだよ。シーノなんて"進出企業は自国商人との共同出資じゃ無いと許可しない"とかって言って、権力者とコネのある商人を紹介するんだよ。それで軌道に乗ると、その商人が権力と組んで資本を乗っ取る」
「私をそんな奴らと一緒にしないでよ」とニケが口を尖らす。
そんな中でムラマサが・・・・・・。
「この棚の上の書類は何でごさるか?」
「彼のお祝いの宴会の時の外泊許可証・・・ってちょっと、勝手に見ないでよ」
慌てて制止しようとするニケを他所に、カルロがその書類を手に執る。
「どれどれ、ロビンソン島経営権譲渡契約書?」
全員の疑いの視線がニケに集中。
「ニケさん?」
「あ・・・・・。」
エンリは溜息をつくと「それ無効だから。彼にあげた特許状には、島の権利を他人に譲渡出来ないようになってるから」
ニケは地団太を踏み、悔し顔で「そんなぁ。私のお金ーーー」
エンリはドヤ顔で言った。
「俺が王太子として、彼をしっかり保護するから。そのために彼にポルタ国籍を与え、そして彼が発見したこの島はポルタ領。周辺の海はポルタの専管海域で、漁をする他国から漁業権の対価を取り立ててお金ガッポガッポ」
そんなエンリにアーサーが指摘する。
「あの、王子。500年後ならともかく、この時代に200カイリ専管水域なんてありませんから」
エンリは地団太を踏み、悔し顔で「そんなぁ。俺のお金ーーー」




