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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
432/553

第432話 封印の巨人

ポルタ大学のサバイバル合宿に向かう船が難破し、孤島に流れ着いたフェリペ皇子ら105名の学生たち。

そこに、10年前から住み着いていた漂流者のロビンソンが仲間に加わる。

彼は10年間の孤島暮らしで蓄積した知識を以て学生たちに頼られ、そして彼を中心として学生たちは二つの計画を立てた。

それは冬越えのための食料と燃料油の確保、そして帰還のための船を自作する事。

だが、完成した船は、食料と燃料油を得るための捕鯨に出て、遭遇した「海の悪魔」と呼ばれる鯨魔獣の白鯨に破壊されてしまう。

意気消沈する彼等は、だが、実はドラゴンのアラストールに乗って帰還可能である事に初めて気付いた。

帰還の順番を巡って三つの学部が対立する中、孤島にようやくたどり着いた救助船。

それは、エンリ王子たちの乗船タルタ号だった。



沖合に停泊した船から、ボートでエンリと仲間たちが数人の教授たちとともに上陸する。

唖然顔の学生たちを前に、砂浜に降り立つエンリ王子は言った。

「みんな、もう大丈夫。何故なら、私が来た!」

砂浜は残念な空気に包まれ、学生たちは溜息声で「そういうのは要らないんで・・・」


そんな学生たちの中から幼いフェリペが飛び出す。

「父上ーーーーーー」

そう叫んでエンリに飛びつくフェリペを抱え、エンリは学生たちに言った。

「随分待たせたな。お前たちが生きているのは解っていたんだが、魔力的に厄介な条件が色々と重なってな」



「解ってます。ここでは魔法が使えない。魔素を強力に吸収する何かがあるらしいんです」

そうマゼランが言うと、エンリは「それで魔法探知が役に立たない訳だ。とりあえず、気を使う間桐準教授の式神で、ある程度この島の位置は割り出せたんだがな。それとは別に、因果律の歪みから来る妨害要素がある。何者かによる禁呪の使用によるものらしい」


そしてアーサーが「更に、それとは違う、島に存在する何者かの意志が働いています」

「それをどうにかしないと、どうやらここに来た俺たちも島から出られないらしいのさ」

そうエンリが言うと、マゼランは「それじゃ、二重遭難じゃないですか」


「だから俺たちが来たんだ。ここには俺の息子が居るからな」とエンリ王子。

「父上・・・・・」

そう心配そうに言うフェリペの頭を撫で、エンリは「大丈夫だ」

「それで、禁呪って?」

そうチャンダが言うと、エンリは「先ず、それを片付けないといけないんだが」



「それなんですが」

そう言いながら、パラケルサス学部長が出て来て説明を始めた。

「遭難した船の前半分の甲板上で、因果の呪法を行った痕跡が見つかったんです。この世界での出来事は全て原因があり、その結果として様々な事象が生じる。そうした因果律を歪めて望む結果を引き出す禁呪です」

「つまり、やりたい放題出来てしまう、危険な術式という訳ですね?」

そうマゼランが言うと、パラケルサスは「っていうより、厄介な誤作動があるんです」

「どんな?」


パラケルサス学部長は解説した。

「ある学者が新たな発見を願ってこの呪法を使った事があった。その願いとは"みんなを唸らせるようなトリビアな発見を"・・・というものだった」

「トリビアって?」

そうルナが言うと、ライナが「"へぇー"って言わせるような意外な知識の事だよね」

そしてパラケルサスは解説を続けた。

「それで、建築業者が施行先を間違えて、その人の家の廻りに高い囲いを作った」

「・・・・」



探偵団部長の明智がテンションMAXに・・・。

「はじめさん。名探偵と呼ばれたお祖父様の名にかけて、私たち探偵団の出番よ」

「はい、美雪姫」

そして金田はその場の人達に言った。

「謎は全て解けました。皆さん。犯人はこの中に居ます。それは・・・」

「ドニファンだよね?」とマゼランが・・・。

「・・・・・・・・」


唖然顔の金田にマゼランが言った。

「いや、みんな解ってるから。その呪法の誤作動って、関係する精霊がオヤジギャグの大好きな残念な奴だって事だよね? その呪法の誤作動で、俺たちは難破した。って事は願ったのはナンパで、この島に来てナンパしまくってたのはドニファンただ一人。彼の荷物を探せば、魔導書が見つかる筈です」


全員の厳しい視線がドニファンに集中し、彼はがっくりと肩を落とす。

そんな中、カルロがドニファンの肩に手を置いた。

「出来心だったんです。こんな事になるなんて」

そう俯いて呟くドニファンに、カルロは言った。

「ナンパ、楽しいですよね。刑期を終えたら、一緒にジパングのナンパスポット八十八ヶ所を巡礼しませんか?」


ドニファンは二人の教授とカルロに連行され、ボートに乗せられてタルタ号へ・・・。

残念な空気の中、エンリは残念顔な金田の肩をポンと叩いて「まあ、こういう事もあるさ」

「名探偵と呼ばれたおじい様の・・・」と残念顔の明智。

「それはもういいから」と残念顔のエンリ王子。



「けど、これで終わりじゃ無いですよ」

そうアーサーが言うと、フェリペが「つまり、ドニファンを操った真の黒幕が出て来て、そいつを倒すのがヒーローの役目ですね?」

「じゃ無くて、魔力を吸収する何かと、島に存在する意思だよ」とエンリ。

「それは一種の魔石では無いでしょうか?」

そうロゼが言うと、エンリは「そうだろうね。恐らくダイナモンドという無限に魔力を吸収し放出する究極の魔石だろう」

ロゼとマージョ唖然。

そして「何故それを・・・」

「グロッキー公爵が情報を提供してくれたんだ」とエンリ。

「そういえば父上はポルタ貴族・・・」とロゼは呟く。


「ロゼ」

「マージョ」

二人の女子学生が互いの名を呼び、手を執り合う。

そしてロゼが「私たちの先祖の悲願がついに実るのよ」

マージョが「何代にも渡る努力が報われる時が来たんだね」

ロゼが「長かったわ。喧嘩別れもしたけど、最後は解り合えるって信じていました」

見つめ合う二人の女子学生。

「お姉様と呼んでいいかしら」とロゼ。

「いい子だね」とマージョ。


そんな二人を見て、感動顔で口々に言う男子たち。

「いい話だなぁ。やっぱり最後は百合ん百合んで大円団」

「今時の創作物の鉄則だもんね」

そしてマージョは言った。

「これでマージョ海賊団を再建できる」

ロゼは「グロッキー家は磐石」


「ちょっと、ダイナモンドは私のものだよ」とマージョが目を吊り上げる。

「いえ、私のものよ」とロゼが目を吊り上げる。

マージョは威嚇オーラ全開で「三悪トリオのリーダーはこのマージョ様」

ロゼは威嚇オーラ全開で「我が一族は公爵家ですわよ」

すっかりいつもの調子に戻った二人の自称リーダーを眺める周囲の学生たちの間に、残念な空気が漂う。


そんな二人にエンリは言った。

「言っとくけど、ダイナモンドはポルタ国家として回収するから」

「そんなぁ」



「それで、そのダイナモンドは?」

そうチャンダが言うと、エンリは脇で式神の呪法を行っていた間桐準教授に声をかけた。

「どうだ? 間桐」

間桐は「式神たちが、吸収されている魔素の流れを辿っていますが、どうやらこの島の中心の、山の頂上にあるようですね」

「そういえば、この島って元々火山だったって・・・」

そうライナが言うと、エンリは「大洋のど真ん中にある島で山があるこの島は、火山の噴火で造られた島だ。けどここは、大昔に火山としての活動は終えている筈だ」


パラケルサスが行動を促す。

「とにかく山頂に行きましょう。学生たちはここに残るように。何が起こるか解らん」

「けど、凄いお宝なんだよね?」とビスコが言い出す。

「一目見たい」と海賊学部の学生たち。

「遊びに行くんじゃ無いぞ。それに我々教官は学生を守る義務がある」

そう教授たちが言うと、金田が「けど、危険なら固まっていた方が対応しやすいと思います」

ジョルドが「俺たちだって魔導士の卵ですよ」

「けど、この島では魔法は使えないぞ」

そうエンリが言うと、学生たちは「そうだけどさ」と不満顔。

エンリは言った。

「まあいいさ。とにかくその魔石があるっていう現場に行くぞ。事件は会議室じゃなくて現場で起ってるんだからな」

「何の台詞ですか?」とリラが困り顔で突っ込む。



山頂を目指して気勢を上げる島の住人たちの中、一人戸惑ったように固まっている人物に、シャナは気付いて声をかけた。

「どうした? ロビンソン」

ロビンソンはフライデー人形を手に、困惑顔で言った。

「フライデーが動かないんだ」


全員で山頂を目指し、山を登る。

105名の学生と、エンリと仲間たち、パラケルサスや間桐ら大学魔法学部の教員たち、そして動かないフライデー人形を持つロビンソン。



緩い斜面に囲まれた山頂平坦面。溶岩の大岩がゴロゴロしている中、一方がそう高くない溶岩の崖で仕切られた、火口跡らしき窪地の脇に、かなり大きなクレーターがある。

「ここですね」

そう言ってパラケルサスはクレーターの脇に立つと、「上から地面に突っ込んで地下深くににめり込んだのでしようね」

ロゼは「天から降って来たってのは本当だったんだ」と呟く。



間桐は巨大ムカデの式神を召喚し、式神は、そのクレーターの真ん中に潜り始めた。

「あいつが見つけて引っ張り出してくれる」

そうエンリが言うと、ロゼは「あの、それじゃ駄目なんです。ダイナモンドは空気に触れると、ただの石になってしまうんです」

だが、エンリは「それでいいんだ」

「それって・・・」

アーサーが言った。

「この島にある何かの意志って言いましたよね。それは恐らくダイナモンド自体に宿った精霊です。それが膨大な魔力を貯め込んだままでは、恐らく制御出来ない。石に変れば今まで貯め込んだ魔力を一気に放出し、それと一緒に精霊も姿を現わす筈です」

「そんな・・・・・」



その時、間桐が緊張した声で「出て来ます」


ムカデの式神は握り拳二つ分ほどの大きさの黒い石を咥えて地上に出た。その石は地上に出ると同時に光を放つ。

石から湧き出る魔素が場に充満するのを、その場に居る誰もが感じた。

「凄い魔力ですね」

そうリラが言うと、エンリは「長い間貯め込んだ魔素の放出だからな」


だが・・・。

間もなく、その場の魔素は霧散した。

若狭が拍子抜けした声で「放出、止まっちゃいましたけど」

「精霊、出てこないね」とタルタも拍子抜け。

「あの中に精霊なんて居ないみたいですよ」とリラも拍子抜け。


すると、アーサーが真剣な表情で言った。

「いや、放出が止まったんじゃない。地面の下に居る何かに吸収されてるんだ」

「それじゃ、この島に居る何かの意思って・・・・・」

そうエンリが言うと、パラケルサスは「あの石はその魔力を奪い続ける事で封印していたんですよ」



パラケルサスが叫んだ。

「出て来るぞ。みんな、退避だ!」


全員が山頂から駆け降りる中、火口跡から巨大な何かが姿を見せた。

それを見てエンリは叫んだ。

「あれは・・・・・ギガンテスだ!」

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