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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第43話 宮城の戦い

ジパングに向かう途中立ち寄ったミン国の港で、北方から逃れた皇帝の親衛隊長ケンゴローの勧めにより療養するエンリ王子たち。

西斗皇拳の技を受けた後遺症の可能性があると勧められて検査を受けたタルタだったが、その目的は錬金術で異能を得た彼の体を使った金丹術だった。

そして、タルタの危機を察した仲間たち。



その夜。エンリたちは全員で病室を抜け出す。

使い魔の気配を伝って、アーサーはその部屋に辿り着いた。

「ここだ」とアーサーが部屋の扉を指す。


扉の開け方に難渋する彼等。

「この扉、頑丈そうだな」とジロキチ。

カルロが「鍵穴が無いですね。魔法札か何かが必要なんだろうな」


王子が炎の剣で扉を焼き切り、部屋に踏み込むと、中にミン国の道士が待ち構えていた。

「待っていたぞ」と道士はエンリたちに・・・。

「何だ、お前は」とアーサー。


道士は「お前たちの中に魔道士が居る事は解っていた。悪いがここで死んでもらう。かかれ!」

十数人のキョンシーがエンリたちに襲いかかる。

エンリの光の魔剣が一閃し、残りをアーサーの光魔法が撃退した。


手持ちの魔物があっさり倒されて、道士唖然。

そして「俺のキョンシーたちが」

「アンデットってのは光属性に弱いんだよ。お前も魔道士なら、そのくらい考えろ」とアーサー。


「なら、これはどうだ」

そう言って、道士が拳で宙を突く。その衝撃波でエンリを吹っ飛ばす。

「エンリ王子」と人魚姫が駆け寄る。

エンリは起き上って「何だよ今のは」と・・・。

アーサーは「発勁ですね。生体エネルギーを放って、離れた相手を攻撃する技です」とエンリに言って、その隣で構える。


「だったら」

ニケはそう言うと、短銃で導士の右手と両足を撃ち抜く。

そして「飛び道具だったら、こっちが合理的だと思わない?」



ジロキチは倒された道士の髪を掴んで言った。

「タルタはどこだ」

道士は「言うと思うか」

「両脚羊とか言って人の友達を丸坊主とか、男のヘアスタイルを何だと思ってやがる。お前も丸坊主にしてやろうか」とジロキチ。

「何の事だ。頭は関係無いぞ」と道士。


ジロキチは「じゃ、両脚羊って何だよ」

道士は言った。

「人肉料理だよ。二本足の人間を羊肉に例えるのさ」

「人肉だと? タルタを食う気かよ」とジロキチ。

「滅茶苦茶不味いと思うが」とカルロ。


するとアーサーが言った。

「いや、薬としてじゃないのか。聞いた事がある。東洋では錬金術の原理が不老不死の薬を作る研究として発達したって」

「つまり錬金術が作ったタルタの体を不死の薬として」とニケ。

「タルタが危ない」とエンリ。


改めてジロキチが「奴はどこだ」と道士を追及する。

道士は「言うと思うか」

アーサーは言った。

「いや、行き先は解ってる。皇帝の所だ。不老不死は皇帝のための研究なんだ」


エンリたちはファフのドラゴンに乗って、皇帝の居る宮城を目指した。



その頃・・・。

眠らされたタルタとともに馬車に乗って皇帝の居る宮城に入る医師団とケンゴロー。


馬車の中でケンゴローは老いた指導者に言った。

「こんな事をして何になるのでしょうか」

「皇帝を死なせないためだ」と指導者は答える。

「ですが」とケンゴローは口ごもる。


老指導者は言った。

「お前がその技を学んだのは何のためか。皇帝を守るためではないのか。ならば、殺そうとする敵から守るのと、老いて死ぬ運命から守るのと、何の違いがある」

「それは」とケンゴローは口ごもる。



その時、上空から彼等に向ってエンリが叫んだ。

「そうはさせるか」

ドラゴンに乗ったエンリたちが宮城の前庭に降り立つ。

そしてエンリは「そいつは俺たちの仲間だ。返してもらう」


「そうもいかないのでな」と馬車から降りた老指導者は周囲を囲む回廊に向って合図する。

四方からわらわらと兵が群がる。ドラゴンが炎を吐き、エンリが炎の巨人剣で薙ぎ払う。

それをかいくぐって風のように駆け寄る数十人のアサシンたちが、ファフの炎を軽業のようにかわして迫る。


彼等と切り結ぶジロキチとカルロ。

「こいつら手強いぞ」とジロキチが叫んだ。

エンリとリラ、アーサー、ニケがドラゴンの背中に退避。

登ってくるアサシンをエンリの魔剣が防ぎ、ニケが銃撃。そしてアーサーが竜巻の呪文が彼等を空に吹き上げた。



「俺が相手だ」

エンリたちの前に立ちはだかるケンゴロー。対するジロキチ。


「ウァタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ・・・・・」

そんな奇声を上げながら、ケンゴローが高速で繰り出す二つの拳は、あたかも無数の拳のようになってジロキチを襲う。

四本の刀を目にも止まらぬ速さで振るって切り結ぶジロキチ。


攻防はほぼ互角。だが、ケンゴローの拳はジロキチの刀の刃先を軽く受け止め、ジロキチの四本の刀はその衝撃で次第にひび割れ、次々に砕ける。

「これを使え」とカルロが投げ渡したナイフでジロキチは戦い続ける。


一旦、距離を置いて、身構える両者。

ケンゴローは言った。

「やりますね。西斗皇拳を相手に、これだけ戦えた者は、かつて居なかったでしょう」

「そりゃどうも」とジロキチ。

「西斗皇拳の技は人の眠っていた全ての能力を解放し、その拳は鉄をも砕く。だがあの男の鉄の体には傷ひとつつかなかった」とケンゴロー。

ジロキチは「そりゃそうさ、何せ奴の体は鉄じゃない。幻の金属、オリハルコンなんだから」



その時、タルタがうるさそうに目を覚まして、言った。

「何の騒ぎだよ」

そんなタルタの様子に気付いたアーサーが、タルタの居る馬車に向って叫んだ。

「タルタ、そいつらから離れろ。奴等はお前の人肉を不老不死の薬として皇帝に食わせる気だ」


「そうなのか?」とタルタは怪訝そうに、戦っているケンゴローに聞く。

ケンゴローは目を伏せて「そうだ」と答える。

「じゃ、検査というのは嘘か?」とタルタ。

ケンゴローは「そうだ。殺されたくなかったら、鉄化して身を守れ」


タルタは言った。

「いや、そりゃおかしいだろ。俺を殺して肉にしたいんなら、鉄化して欲しくないんじゃないのか?」

「死にたいのか」とケンゴロー。


タルタは「もしかして、そのままじゃ駄目なんじゃないのか?」

「な・・・」とケンゴロー絶句。

「鉄化したら肉に出来ない。けど鉄化はさせたい・・・って事は、狙いは鉄化する瞬間か?」とタルタ。

「・・・」

タルタは「そういう事か」と・・・。



その時、宮城の建物から女性の声が響いた。

「もうお止めなさい」

いかにも皇帝といった服装をした若い女性だ。

老指導者が「皇帝陛下」と叫び、ミン国側の全員、彼女に向けて跪く。


皇帝は言った。

「こんな事をしても、やがてこの都もシーノの手に落ちるでしょう。私が皇帝で居られるのも、あと僅かです。そんな私が不老不死を得ても空しいだけです」

「私たちは負けません」とケンゴロー。


「いえ、終わりです。だから天帝がこの方たちを遣わせたのです。新たな皇帝として」と皇帝。

「そんな。彼らは外国人ですよ」と老指導者。

皇帝は「シーノも北から来た異民族です。そして彼等はこの国を支配して皇帝となるでしょう。この中華は異民族も含めた世界の中心。その皇帝が異民族である事に問題は無い。だからそこにドラゴンが居る。それは皇帝の象徴。彼らが皇帝たるべく天帝より選ばれた証です」



皇帝はファフに呼び掛けた。

「ドラゴンよ。あなたの主は誰ですか?」

「このエンリ王子です」とファフが答える。

皇帝はエンリに言った。

「ではエンリ殿。あなたに禅譲します。どうか封禅の儀を受けて、新たな皇帝になって下さい。そして北の異民族から我等を守って下さい」

エンリは「お断りします」と一言。


だが皇帝は、なおもエンリに言う。

「聞く所によれば、あなたは、"ひとつながりの大秘宝"なるものを求めているのですよね? それは世界を支配するものだとか。この中華には数億の民が居ます。世界の六分の一を占めるでしょう。それだけ居れば世界を支配できる筈です。この皇帝の座こそ、その秘宝の正体とは思いませんか?」


エンリは言った。

「なら言いますけどね、あなたはこの国が世界の中心だと言った。けど世界に中心なんて無い」

「そんな事はありません。世界は方形の大地と円形の天より成っている。北に北狄、東に東夷、西に西戎、南に南蛮。そして中央に我等中華の民。四方に住む蛮族の中で我等のみ文明を築けたのは、神が定めた摂理。これが古き先哲が明かした宇宙の真理、天円地方です」と皇帝。


エンリは「違います。この大地は実は球体なのです。だから、どこに居ても自分が中心のように見えるけれども、それはそう見えるだけ。そして文明を築いたのはあなた達だけではないし、どんなに野蛮に見える民の文化にも、それを受け継ぐ理由がある。民族に貴賤などありません」とエンリは言った。

皇帝は「大地が球体と言いますが、ではその球体の裏側に居る人は頭を下にしているという事ですか? ではなぜ彼等は下に落ちないのですか?」


その時、皇帝に仕える役人たちの中に居た若い役人見習いが言った。彼はニケの女教師ごっこで授業を受けていた一人だった。

「皇帝陛下。この人たちの言っている事は本当です。落ちるという事は球体の大地に引き寄せられるという事なんです」

「まさか」と皇帝、絶句。



そしてエンリは「もう一つ。数億で世界を支配できると、あなたは言った。つまり、その数で他の国々を侵略するという事ですか? 私は西の高原の国でこの地から来た侵略者を見た。あんな事をしようとは思わない」

「あれはシーノの仕業です。彼らは私たちにとっても敵です」と皇帝。

「ではこの中華とやらは、そういう事をしなかったのか。した筈です。でなければこんなに大きな国になる筈が無い」とエンリ。


タルタが言った。

「それとさ、俺を食べても不老不死にはならないと思うぞ。だって俺はちゃんと年をとるからな」

「そうなのか?」とケンゴロー。

タルタは「確かに俺はこの体になった時、金属のまま眠って二千年たった。けど目覚めてから海賊やってる間に、背が5cm延びたんだ。それってちゃんと成長してるって事で、成長するって事は年もとるって事だろ?」

「そんな・・・。我々はこの数千年間、いったい何をやってきたのだ」と、ケンゴローたちの老指導者は悲嘆の声を上げた。



皇帝は溜息をついて、彼等に言った。

「もう良いでしょう。所詮、私たちは、この世界では過去の遺物なのです。エンリ殿、あなたはあなたの道をお行きなさい」

老指導者は涙目で「皇帝陛下、どうか諦めないで下さい」

皇帝は「諦めませんよ。私は過去の遺物なりに、精一杯、世界に抗います。ついて来てくれますか?」

「もちろんです」とミン国側の人たちは声を揃えた。



港を出たエンリ達は北を目指した。


甲板上で、離れていく港を眺めて、エンリは言った。

「タルタって、まだ成長期だったのかよ」

「うるせーな。ガキだって言いたいのかよ」とタルタは口を尖らす。

「いや、ガキだろ」とエンリ。


ファフが「タルタ、お子ちゃま」

「お前に言われたか無ーわ」とタルタはファフに・・・。

「ファフ、何百年も生きてるもーん」とファフが言った。

「俺は何千年も生きてるぞ」とタルタも言った。

アーサーはあきれ顔で二人に「何を競ってんだよ、お前等は」



「それより・・・」と、仲間たちは甲板の隅に居るジロキチを見る。

砕けた刀の破片を入れた袋を抱えて、真っ白になっているジロキチ。


「俺の刀たち、俺の魂、俺の愛するお前たち・・・こんな姿に」

そう呟くジロキチにタルタは「元気出せよ。もうすぐジパングだろ。お前の刀の故郷だ。そこで直して貰えばいいさ」

「・・・」


相変らずどん底な表情のジロキチにエンリは言った。

「そう言えば、人間の姿になって、主とキャッキャウフフする名刀たちが居るって聞いたぞ」

「そんなの居ないから」とジロキチは呟くように言う。

「いや、最近出来たって言うんだ。軍艦娘とか城郭娘とかの類で」とエンリ。


まさか・・・といった表情でジロキチが言った。

「俺が居ない間に、そんなものが・・・。で、何ていう娘たちなんだ?」

「刀剣男子と言うそうだ」とエンリ。

ジロキチは憮然として「俺はホモじゃないぞ!」

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