第427話 漫画と小説
フェリペ皇子たちポルタ大学学生105名が流れ着いた孤島で発足した生徒会。
島のリーダーらしい仕事をと、目安箱を設置して意見を募った所、出て来た要望が「温泉を掘って欲しい」と・・・。
すっともんだの温泉探しの末に、魔剣の鑑定スキルで温泉を探知できると知ったマゼランたち。
フェリペとその仲間たちは魔剣を持って、ロイデたちと巨大キノコ魔獣を連れたビスコとともに、温泉の探索を始めた。
フェリペと女官三人、そしてチノとルチアは巨大キノコ魔獣の頭の上。
「随分登るんだね」
ルナがわくわく顔でそう言うと、魔剣は「この上で温泉の反応がありますよ」
やがて、やや広い平坦面に出る。
ジョルドが魔剣を持って平坦面を歩き、その中央まで来ると、魔剣は「ここを掘ると温泉が湧くようですね」
巨大キノコ魔獣が地面を掘ると、底から湯が湧き出た。
掘り上げた浴槽の底を、お湯が濁らないよう石で固め、温泉の完成だ。
ロイデとセルソは他の生徒会役員たちを連れて温泉へ。
山の高台の平坦面の中央にある、大き目の池のような浴槽から湯気が立ち上る。
ロゼ・マージョ・アメリアの三人は、その池の水面に手を入れ、暖かい湯の感触を堪能する。
そして彼女たちは声を揃えて言った。
「よくやったわ。それじゃ、ここは今後は男子禁制って事で、よろしくね」
ロイデとセルソは声を揃えて「そりゃ無いだろ」
早速女子たちが集団で温泉に向かった。
歩きながら一人の女子がわくわく声で「久しぶりのお風呂だぁ」
その隣を歩く女子も「温泉だものなぁ。しかも天然かけ流し」
だが、温泉を目指して山道を登る女子達に、次第に疲れが見え始める。
「まだ登るの?」
そう一人の女子が言うと、アメリアが「頑張るのよ。温泉の気持ちよさは費やした苦労に比例するんだから」
「足が痛い」
「もう歩きたくない」
そんな弱音を吐く女子たちに、ロゼは「頑張るのよ。温泉はすぐそこよ」
ようやく平坦面に辿り着く。
池のような浴槽から湯気が立ち上っている景色を目の当たりにし、女子たちは歓声を上げた。
「温泉だぁ」
全裸になって浴槽に飛び込む女子達。
彼女たちは満足顔で口々に言う。
「疲れがとれるぅ」
「気持ちいい」
「ずっとこうしていたい」
バストチェックを始める女の子。お湯をかけ合う女の子。
和気あいあいとキャッキャウフフを始める全裸の女子集団。
その頃、広場では・・・・・・。
残された男子たちが温泉を話題にあれこれ言う。
「女子は温泉かぁ」
そう一人の男子が言うと、他の男子も「いいなぁ」「気持ちいいだろうなぁ」
「シャナは行かないのか?」
そうチャンダが、脇で男子たちと居るシャナに言うと、彼女は「私はあの三人、嫌いだ」
シャナのペンダントのアラストールが「それに、温泉は逃げないからな。後で入りに行けばいい」
その隣に居るジョルドが「彼女たち、これから毎日お風呂に行くよね」
ドミンゴが「女子は拘るからなぁ」
「けど、毎日あんな所まで?」
そうロイデが言うと、海賊学部の男子の一人が「遠いのか?」
魔法学部の男子の一人が「温泉がここにあればいいのに」
人文学部の男子の一人が「いや、ここに温泉は沸かないから」
すると、一人の男子学生が「けどさぁ、無理に地熱で沸かさなくても、炎魔法ならお湯くらい沸かせるんじゃないのか?」と言い出す。
「だから、その魔法が使えないんだってば」とマゼラン。
するとシャナが「いや、炎なら使えるぞ」
「そうか、シャナが居たんだ」
男子たちは川の脇に池を掘り、お湯が濁らないよう池の底を石で敷く。
溝を掘って川の水を引き、池を満たした水の水面に、シャナが抜いた灼熱の刀が触れる。
池の水は一瞬で熱い湯になった。
山では・・・。
温泉を堪能した女子たちが下山を始めていた。
温泉に浸かって元気を取り戻した彼女たちだが、ここまで登った疲れが消え去った訳では無い。
「またこの道を歩くの?」
そう一人の女子が言うと、ロゼが「下りなんだから転がっても戻れるわよ」とお気楽な事を言う。
だが・・・・・。
「けど、足が痛い」
「膝が動かない」
そんな悲鳴に近い言葉が山道のあちこちで上がる。
坂道を降りる時に一足ごとに膝にかかる体重が衝撃となって、蓄積された疲労が筋肉痛を引き起こす。
「汗だくだよ。お風呂に入りたい」
そう一人の女子が言うと、隣を歩く彼女の友達が「さっき入ったでしょーが」
「だって・・・・・・」
「もう歩けない」
そう弱音を吐く友達を「こんな所で置いていかれたら遭難するわよ」と叱咤する声。
「私たち既に遭難者なんじゃ・・・・・」
「頑張るのよ。もうすぐ寝床よ」
何とか山道を降りて拠点に戻った女子たち。
そして、小屋の立ち並ぶ広場に出ると、川の脇に作られた浴槽から湯気が立ち上り、男子たちが浸かっていた。
女子たち唖然。
三人の生徒会長が声を揃えて「あんた達何やってるのよ」と、入浴中の男子たちに・・・。
「いや、山の温泉が女子専用だって言うから、俺たち用に作ったんだけど・・・」
そう男子たちが言うと、アメリアが「ここに温泉なんて湧かない筈でしょ?」
「私の灼熱の刀で加熱したんだが」
そう言ったのは、男子たちに混じって全裸で湯に浸かっているシャナだ。
女子たち唖然。
三人の生徒会長が声を揃えて「シャナ、あんた何やってるのよ」
「シャナはここを沸かした功労者なんだから、入る権利があるだろ」と男子たち。
「じゃなくて・・・・・」
そんな自称リーダーを他所に、痛む足と汗だくな体を抱えた女子たちは、湯に浸かっている男子たちを見て口々に言う。
「いいなぁ」
「これならあんな所に登らなくても毎日入れる」
男子たちはお気楽な声で「入りたきゃ勝手にどーぞ。俺たち、女子禁制なんて言わないから」
「いや、だからって・・・」と困り顔の女子たちだが・・・。
「もう我慢できない」
そう言って、女子たちの中から、全裸になって浴槽に飛び込む人が出始める。
それを真似て次々に・・・・・・。
殆どの女子が湯に入り、男子たちと混じってわいわい始める。
完全な混浴状態の周囲を見て、マゼランが呟く。
「いいのかなぁ」
「ジパングでは混浴だって聞くけど」
そうジョルドが言うと、ドミンゴが「そうなの? 解放的なんだなぁ」
ルチアが「毎日新聞とかいう怪しげな扇動機関紙で、雷鼠の着ぐるみのオッサンがそんな記事書いてた」
「いや、あのサイトは捏造だから」とチャンダが物言い。
金田が解説する。
「都市が発展して人口が増えて、土地が不足するんだよ。それで長屋に住んでる庶民向けの風呂屋が、男女別の風呂を用意するスペースがとれずに混浴になる。男性は女の裸で喜ぶのを自粛して、女性も気持ちよく入れるようにってマナーがあるんだ」
「つまり、ああいうのは駄目って事だよね?」
ビスコはそう言って、大はしゃぎのドニファンを見る。
そして彼を思い切り殴りつけた。
その後・・・・・・。
毎日、夜になるとシャナの刀で浴槽の水を湯に変え、各自が仲間と一緒にお湯に浸かってわいわいやる。
三人がかりでフェリペの髪を洗う女官たち。
浴槽の中でライナがマゼランに寄り添い、リンナがチャンダに寄り添う。
チノとわいわいやるジョルドとドミンゴ。
「ああいうのってリア充って言うんだよね?」
ジョルドたちを見てジルがそう言うと、ロイデが「お前がノリノリでくっつけたんだろーが」
「そうだけどさ」
ジルはそう言って、隣で湯に浸かっているルチアをちらっと見る。
そして「なぁ、ここって、せめて囲いでも作ったらどうなんだろうね」
三人は暫し沈黙。
「・・・・・今更だよね」
そうルチアが言うと、ジルは「そうだけどさ」
生徒会新聞の編集も始まった。
板切れに消し炭で書いて、生徒会室小屋の壁に貼り出す。
温泉騒ぎの顛末は格好の記事ネタとなったが、ネタは常に不足しがちだ。
空いたスペースをロイデのイラストで埋める。
そのうち、イラストのキャラに吹き出しで台詞を付け、コマ割りによるストーリーを付ける。
ストーリーは、次第にまとまった物語を形成し、漫画となって住人達の格好の娯楽と化した。
新聞とは名ばかりの漫画誌となった生徒会新聞の前に人だかりができる。
「次回が楽しみだなぁ」
そんな事を口々に言いながら、漫画の前でわいわいやる学生たち。
そんな彼等の期待は、執筆者であるロイデの両肩に重くのしかかった。
「次は何時書き上がるの?」
そうせかすアメリアに、ロイデが悩み顔で「もう少し待ってよ」
「目安箱に催促の投書がこんなに来てるんだけど」と、次の漫画を催促する投書が書かれた木札の山を抱える困り顔のセルソ。
「これはアレだね」
そうマージョが言うと、ロゼも「アレよね」
「アレしか無いだろ」とドニファンも。
「勘弁してよ。缶詰はもう嫌だぁ」
そんな悲鳴を上げつつ、ロイデは役員たちに、缶詰小屋へと連行された。
フェリペたちの間でも、そんな話題で会話が盛り上がった。
ライナたちがつくったおやつを食べながら、フェリペが「漫画、まだかなぁ」
「ロイデ、缶詰になって頑張ってるそうですよ」
そうリンナが言うと、ルナが「けど、強制的に書かされるって、何だか可哀想」
「おやつを差し入れてあげようよ」とフェリペが言い出す。
マゼランたちが、陣中見舞いと称してロイデの缶詰小屋へ。
そこには「アイディアが湧かないんだ」と言って頭を抱えるロイデが居た。
フェリペは同情顔で「漫画の神様を召喚する術式って無いの?」
「あっても、ここでは魔法が使えませんから」とマゼランが突っ込む。
「とにかく、リラックスだ。乗ってくれば、頭の中のキャラたちが勝手に動き出すから」とシャナのペンダントのアラストール。
ロイデが困り顔で「そのキャラ設定がまだ・・・」
「そこからかよ」とチャンダが突っ込む。
何時の間にか、外に居た野次馬たちも混じって、口々に勝手な事を言い出す。
ライナが「とりあえず主人公とヒロインは出来てるのよね?」
「それは恋愛ものだろ」と彼女の同級生男子が突っ込む。
海賊学部の男子が「設定なら、バトルでどんな異能を使うかって・・・」
「何でバトル前提?」と人文学部の女子が突っ込む。
人文学部の男子が「完全犯罪の手口を・・・」
「ミステリーじゃ無いんだから」と魔法学部の女子が突っ込む。
「違うの?」
どんどん話がマニアックになる野次馬たちの会話。
「ってか、そもそもどんなジャンル?」
そうマゼランが問うと、ロイデは「まだ決まってなくて」
「そこからかよ」とチャンダが突っ込む。
するとシャナが「だったら原作は別でいいんじゃ無いのか?」
「そうよ。明智先輩が投稿してボツになった小説を漫画にすれば」とライナが・・・・・。
「それだ!」
探偵団の明智美雪の所へ・・・。
「ちようど良かった。今、執筆中の作品があるのよ」と大乗り気な明智部長。
明智のミステリー小説のコミカライズ作品は住人たちに絶賛された。
彼女を真似る者が、次々にロイデの所に作品を持ち込む。
ドミンゴが「俺、バトル小説を書いたんだけど」
ライナが「騎士様と想い姫の恋愛ものよ」
マージョが「マージョ海賊団の冒険記。絶対感動モノさ」
フェリペが「父上の自伝」
何人もの押しかけ原作者の売り込みに、ロイデは悲鳴を上げた。
「勘弁してくれー」




