第426話 孤島で温泉
フェリペ皇子たちポルタ大学学生105名が流れ着いた孤島での、リーダーを決める選挙により、同点となった三つの学部の自称クラストップと、それぞれの学部から出された調整役で、男女六人の役員による生徒会が発足した。
生徒会室と称する小屋を設定し、彼等とマージョの従者ワルサーの七人のたまり場となり、彼等は頻繁にそこで寝泊まりした。
当初、生徒会長の肩書きを得て満足したマージョ・ロゼ・アメリア以下、役員たちは生徒会室でだらだと日々を過ごした。
そんな日々に疑問を持ったセルソ。
「それで生徒会って何をするんだ?」
「さぁ・・・・・・」と、互いに顔を見合せる、他の五名。
何もしないでは格好がつかないという事で、顧問と称してロイデが持ち込んだ魔剣に訊ねる。
「生徒会って何をするんだ?」
そう役員たちに問われた魔剣は「島の運営方針を決めるのさ」
「運営って?」
そうセルソが問うと、魔剣は「例えば、食料を採集して配分するとか」
「方針ったって、みんな適当に採ってきて食べてるけど」
そうアメリアが言うと、魔剣は言った。
「それだと要領の悪い奴が生きていけないからな。だから、リーダーが計画を立てて採集する量を決めて公平に分配する」
「滅茶苦茶大変だろ」とロイデが言って溜息をつく。
「裏で自分達だけ得してるだろとか絶対言われるよね」とドニファンが言って溜息をつく。
セルソが「それってドイツのマルクスとかいう共和主義理想論者の主張だけど、あんなの絶対失敗するって、みんな言ってるぞ」
「実際失敗したけどね。経済がボロボロな状態で戦争しまくって、世界中から嫌われる"ならず者国家"になるんだよ」
そう魔剣が言うと、ロゼが「異世界では、そういう勢力が支配した国もあったの?」
魔剣は言った。
「他の国を侵略して強制するんだ。国民は財産の私有を禁止されて、指導者が暴君になって国民を奴隷にする。それで自分達が正義だと言い張って、批判する人を秘密警察で・・・」
三人の会長がノリノリで「それいいじゃん。やろうよ」
男子たち、ドン引き顔で「やっぱり自由にやらせるのが一番だよ」
「とりあえず、そういうのは要らないとして、だとすると生徒会の仕事って・・・」
そう言ってセルソが話を振り出しに戻すと、魔剣は「生徒会新聞の発行・・・ってのもあるぞ」
「何? それ」
魔剣は「生徒会の活動を報告するのさ」
「で、その生徒会の活動って?」とセルソ。
魔剣は「だから生徒会新聞の発行」
「で、その新聞の中味は生徒会の活動なんだよね? その報告する活動の中味は?」とセルソは突っ込む。
「あ・・・・・」
残念な空気が漂う。
ロイデが言った。
「あのさ、俺たちは何をすべきか・・・じゃなくて、何をしたいかの問題なんじゃないのかな?」
「君たちは何がしたい?」
そうドニファンが三人の生徒会長に問うと、彼女たちはノリノリで答えた。
ロゼが「専制」
マージョが「独裁」
アメリアが「圧政」
セルソは溜息をついて「心のケアが必用だな」
「いや、衰退する人類に代わって台頭してきた冗談好きの妖精さんじゃないんだから」とロイデが突っ込む。
残念な空気の中、暫しの間、場を沈黙が包んだ。
そしてセルソは気付いたように言った。
「ってか、俺たちってみんなの代表なんだから、先ず、みんなの要望を聞くべきじゃないのかな?」
「だったら目安箱だよ」とロイデ。
目安箱が作られて広場に設置される。
学生たちは木札に意見を書いて投書し、数日で箱はいっぱいになった。
「こんなに投書があったよ」
生徒会室小屋で、回収した投書を一枚づつ読み上げるロイデ。
「ロゼってリーダー風吹かせすぎ。みんなのために頑張るとか調子のいい事言って、選挙期間中だけじゃん」
「こういうのを"便所の落書き"って言うのよ。匿名なのをいいことに好き勝手言いたい放題」
そう言って口を尖らすロゼに、アメリアが「批判されて逆ギレとかみっともないですわよ。みんなちゃんと見ているのですわ」
「何ですって!」
そう息巻くロゼに、ドニファンが「まあまあ。レンホウとかいうどこぞの知事候補じゃ無いんだから」
「あれは女性よ。女性を大勢で寄ってたかって批判するのはイジメでセクハラよ」
そう言ってまくし立てるロゼに、アメリアは「批判されるような事をしたからでは無くて?」と追い打ち。
「あの人は対立候補を批判したってだけで、しかもそれを大勢の支持者が賛同したのよ」
そう言ってまくし立てるロゼに、マージョは「つまり大勢の支持者と一緒に寄ってたかって対立候補のユリコという女性を批判したんだよね?」
「それは・・・」
次の投書を読み上げる。
「アメリアって性格悪くね? あんなのがリーダーとか勘弁して欲しい」
「だったら自分が立候補すればいいのですわ。どうせ引き籠りニートが憂さ晴らしで書いてるだけですのよ」
そう言って口を尖らすアメリアに、ロゼが「批判されて逆ギレとかみっともない、とか言ってたわよね?」
マージョも「言われる心当たりがあるんじゃないの?」
「そういうの止めようよ」
そう言って困り顔で喧嘩を止めようとするセルソを他所に、アメリアはまくし立てる。
「それ書いた奴って、お先真っ暗な人生から目を逸らしたくて外国叩いてるだけの引き籠りニートなこどおじですわ」
「こどおじって何だっけ?」
そうロイデが言うと、ドニファンは「結婚出来なくて実家に住んでる中年男性だろ」
「いや、この島に居るのは学生で、中年なんて居ないと思うが」
そうセルソが突っ込むと、アメリアは「私、魔導士ですのよ。ネットの向うに居る書き込み人の私生活を透視するくらい、余裕スキルですわ。外国のヘイト政策を擁護する人に対する国籍透視とは訳が違いますのよ」
ドニファン、あきれ顔で「そっちの方がむしろ推測の根拠と言えると思うが」
「ってか、そういう居直りは要らないから」と困り顔のロイデ。
次の投書を読み上げる。
「マージョって・・・」
「ワルサー、これを書いた奴を探し出して釘バットで弾圧しな」
いきなりそう言って従者に物騒な命令を下すマージョに、ロイデは慌てて「いや、そういう暴力は・・・」
「私はか弱い女性よ。ジパング人男性以外を悪く言うのはヘイトスピーチだとリベラル教の尊師様が言ってたんだからね。そういう奴らはしばきたいわよね?」と、マージョはまくし立てる。
「野間とかいうテロリストじゃ無いんだから」と困り顔のドニファン。
「そういう危ないネタは止めようよ」と困り顔のセルソ。
そして次の投書。
「お風呂に入りたい。温泉掘ってよ」
「温泉かぁ」
そう三人の生徒会長はうっとり顔で言い、それまでの険悪な空気が一変した。
「いいわね。今日から男子全員で温泉探し」
そうロゼが言い出すと、ロイデは慌てて「食料はどうするんだよ」
「水があれば一週間くらい食べなくたって死ゃしないわよ」と無茶な事を言い出すマージョ。
「おいおい・・・」
「大丈夫。温泉が見つかれば、お湯と一緒に温泉卵が湧き出るとか」と、謎な事を言い出すアメリア。
セルソは困り顔で「それは違うと思う」
「けど、お酒が湧く温泉があるって聞くわよ」と謎な蘊蓄を披露するロゼ。
「俺たち未成年なんだが」とロイデが突っ込む。
するとドニファンが「親孝行すると神様がご褒美で出してくれる異世界アイテムだよね?」
「で、どうなるんだ?」
そうセルソに問われてドニファンは「親子で毎日酒を飲んで、アル中になって悪酔いした二人は・・・」
ロイデが「最悪な御褒美だな、おい」
セルソが「そんなのは要らないから」
ロゼが「温泉の効用はどこでも美容と整形よ」
「美容はともかく整形は違うと思う」とロイデが突っ込む。
アメリアは「女子会みんなが全裸でキャッキャウフフする温泉回は、こういう創作物世界の必須イベントよ」
マージョが「男子掘る人、女子入る人。これは学園ラブコメの鉄則だよ」
ロイデとセルソは声を揃えて「そんな鉄則は無い!」
「そもそも温泉回なんて期待しても、どーせ男子禁制だろ」
そうセルソが言うと、ドニファンは「いや、覗きは男のロマンだぞ」
「で、爆弾付きのトラップがそこら中に仕掛けてあるんだよね?」
そうロイデが言うと、ドニファンは「そういう命がけの試練を乗り越えて・・・・」
「そういうマッチョは要らない」とロイデは溜息。
そしてセルソは言った。
「そもそも温泉なんて、どうやって探すんだよ」
「私ら海賊だわよね?」とマージョ。
「それは海賊学部だけ」とセルソは突っ込む。
そしてマージョは言った。
「海賊のロマンは宝探しだよ。徳川の埋蔵金はどうやって探した? そこら中を掘り返すんだよ」
男子三人声を揃えて「勘弁してくれ」
「・・・ってな訳なんだが」
セルソとロイデがマゼランの所で、三人の生徒会長の無茶振りに関する愚痴を並べる。
「温泉ねぇ」
そうチャンダが言うと、ライナたちが「温泉、いいわよね」
ジョルドは「けど、この島にあるのか?」
するとフェリペが「ジパングにはたくさんあるって、ジロキチさんが言ってたよ」
「ジパング人なら・・・」
探偵団の明智と金田の所へ。
セルソとロイデが、生徒会長たちから温泉探しを命じられた件について話す。
「温泉かぁ。いいわね」と明智がうっとり顔で・・・。
金田は「ジパングなら火山国だから、深く掘ればどこでも出るって聞くけどな」
「温泉って火山があると出るの?」
そうリンナが言うと、金田は「地下の熱で地下水がお湯になるんだよ」
「だったら、ここって元は火山の島だよ。オケアノスでは大抵は珊瑚礁の砂が積もった島で水が不足するけど、たまに山があって川があるのは火山の島だって、エンリ殿下が言ってたよ」とルナ。
「けど、どうやって探す?」
そうマゼランが言うと、チャンダが「深く掘ればどこでも・・・ってんなら、ここの広場でも出るよね?」
「けど、深くってどれくらい?」
そうマゼランが言うと、金田が「石油を探す掘削井戸で温泉が湧いた事があるって・・・」
「それって何十メートル単位だよね?」とマゼラン。
ジョルドが「土魔法使えば簡単だよ」
「だからその魔法が使えないんだってば」とマゼラン。
「そーだった」
「会長の三人は、この島の全部を掘り返せとか言ってたけど」
そうロイデが言うと、男子たちは口を揃えて「男を何だと思ってるんだよ」
「それ以前に環境破壊だよね」とライナ。
「大事なのはそっちか?」
そう抗議声で言う男子たちを他所に、女子たちはうっとり顔で「けど温泉かぁ」
「いいよね。お湯に浸かってのんびり・・・。鼻につーんと来る臭いがいいのよね」
そうチノが言うと、金田は「あれは硫黄だよ」
暫しの沈黙。
そしてドミンゴが言い出す。
「それだ。犬とか使って硫黄の匂いを探すんだよ」
「けど犬なんて居ないぞ」
そうチャンダが言うと、ジョルドが「魔犬の使い魔なら誰か持ってるだろ」
「だから、召喚する魔法が使えないんだってば」とマゼラン。
「そーだった」
するとシャナが「けど、使い魔っぽいのを使える奴は居るぞ」
マゼランたちはビスコの所に行く。
趣旨を説明すると、ビスコは「犬はさすがに無理だ」
「そりゃ残念」
だが、ビスコは続けて「まぁ、犬みたいに嗅覚の鋭いキノコなら居るけどね」
「いや、必用なのは犬じゃなくて嗅覚だから」
そうセルソが言うと、「だったら・・・・・」
ビスコは矢の束から一本をとって、弓につがえて射る。
矢が当たった所に犬サイズのキノコ魔獣が生えた。
「これは?」
そう問われてビスコは「フォアグラキノコだ」
マゼランたち、驚き顔で「それって、あの世界三代珍味の一つ」
みんなの食欲オーラな視線に怯えて、キノコ魔獣はビスコの影に隠れる。
ビスコは困り顔で解説。
「いや、これ自体は食用じゃないんだ。嗅覚が鋭くて、こいつで野豚の匂いを追う」
「いや、普通逆だろ。豚の嗅覚でフォアグラというキノコを探すんじゃないのか?」とロイデが突っ込む。
フォアグラキノコ魔獣で、島のあちこちを探索するビスコとマゼランたち。
やがてキノコ魔獣は何かに向けて、駆け出した。
「見つけたぞ」
そう言ってキノコ魔獣を追うビスコに、セルソは「温泉だな」
「こっちだ」
ビスコは魔獣を追い、マゼランたちはビスコを追う。
やがて彼等は崖の上から草原を見下ろすビスコに追い付いた。
「あれだ」
草原に丸々とした野豚の群れ。
何頭かの豚を仕留めて拠点へ戻り、その日の夜はみんなで焼肉パーティ。
「豚肉なんて久しぶりだなぁ」と、みんな肉汁たっぶりの焼肉を頬張り、舌鼓を打つ。
そんな中で女子の一人が「けど、温泉は?」
「あ・・・・・・・・」
その時、ジョルドの脇にあった魔剣が言った。
「温泉なら俺の探知スキルで探せるぞ」
セルソとロイデは「それを早く言えよ」