第423話 友達と恋人
ポルタ大学のサバイバル合宿に向かう船が難破し、魔法の使えない孤島に漂着した、フェリペ皇子ら105名の学生たち。
拠点村を建設し、生活が軌道に乗る中で、魔法学部のルチアは友人のチノの、幼馴染のジョルド・ドミンゴとの関係を復活させたいという想いを叶えようと、ジョルドたちの友人のジルとロイデに相談する。
二人はルチアが三人の恋愛関係に混ざりたいのだと空想し、彼等をハチミツ取りを口実に洞窟へと誘い出した。
そして洞窟の中でチノ・ジョルド・ドミンゴの三人は、意思を持つ魔剣が魔力を吸われて動けなくなっているのを発見。
それを持って洞窟を出ると、ルチア・ジル・ロイデの間で繰り広げられていた、各自の勘違いが産んだ混乱した会話を耳にする。
二人の男友達に対するチノの想いを巡って彼等が言い合う中、誰かの言葉が響いた。
「それは単に恋愛する気が無い女だったってだけだろ。もしくは男は利用するだけの存在だと思ってるとか。それで男を責めるのは筋違いだろうけど、そうでない女だって居るって事じゃないのかな」
「それじゃ・・・」
謎の声は更に言葉を続けて「好きって気持ちの元は、一緒に居て楽しいって経験じゃないのかな。それで一緒に遊ぶ仲間を好きになる。男にも女にも、相手が喜ぶ顔が見たくて優しくしようって気持ちはある。相手もそれが嬉しくて気持ちよくなって、優しくしてくれた相手を好きになって、自分も相手に優しくしたくなって・・・」
「そううまく行くなんて主人公だけだろ。モブ男は優しくすれば裏目に出て、嫌われるぞ」とドミンゴ。
「そういうのって創作物の世界だよね? 主人公がモブの死体の山の上でマウントをとるための。それが恋愛だと思って、主人公になるために相手が自分を好きになるよう仕向けるゲームとしての恋愛に走るけど、それって、友達として触れ合う事自体に楽しさを求めてない・・・って事だよね?」と謎の声。
「だから相手も、そうだと思って警戒・・・なんて話になるのが怖いの」とチノ。
ルチアは「怖いのは、相手が期待を裏切られたと感じる事じゃないかな? それで期待に応えるのが義務みたいになっちゃう」
ジルが「けど、本当は何を期待しているかが、当人にしか解らないんだよ」
「期待はあっていいさ。けど、期待通りにならない可能性はあって当然だろ。そもそも男は到底恋愛対象にならない女とだって友達として仲良く出来るぞ」と謎の声。
「そうだけどさ」
ロイデは「友達として仲良くする事自体は楽しめないのかな? ルナたちだって友達だよ」
ルチアが「女だってそうだよ。でしょ? チノ」
「ってか、そもそも何で疎遠になったの?」
そうジルが言うと、ルチアが「そりゃ、男なんて・・・とか?」
ロイデが「思春期初期に出て来るギャングエイジって奴だね」
ジルが「反抗期の男女版みたいなもん?」
「そんなの延々引きずるって、ある意味恥ずかしくない?」とルチア。
チノは二人の幼馴染に「私たち、今も友達だよね?」
「そうだね」と、ジョルドとドミンゴ。
「だったら六人で私たちの小屋で一緒に住まない?」
そうルチアが言い出すと、ジルが驚き顔で「男女混合で?」
「チノはこの二人と、もっと仲良くなりたいんだよね?」
そうルチアに言われて、チノは「そりゃ・・・・・・」
ジルは「で、一人選んでルチアはもう一人と?」
ロイデも「だったら俺たち、お邪魔だよね?」
「だから違うって」とルチアは慌てて否定する。
「けど二体一だよ。だからルチアが混ざって二対二になれば・・・って話じゃないの?」とロイデ。
ルチアは目に?マークを浮かべたジョルドとドミンゴの視線に反応し、慌て声で「わわわ私は別にあんたらと・・・」
「いや、何で俺らが?」
そうジョルドが言うと、ルチアは「私は単にチノとジョルドとドミンゴの仲を戻してあげたかっただけで、それ以上でも以下でも無いから」
「ルチアはそれでいいの?」とジル。
「私はそういうのはいいから」
そう言うとルチアはジルとロイデに「それに、あんた等だって友達でしょ?」
「まあいいけど」
そんな彼等に謎の声は言った。
「あのさ、二体一ってある意味合理的かもしれないよ。男は女に優しくして面倒見てあげて、喜ぶ顔を見て嬉しいものさ。それ自体ある意味本能だし、女もそれが嬉しくて色々要求すると、そのうち要求が膨らんで、男一人だと応えきれなくなる。それを二人で面倒見てあげるとか」
「それで取り合い始めなきゃ・・・だけどね」
そうロイデが言うと、謎の声は「サークラでオタクのグループ崩壊なんて、恋愛経験皆無で夢見過ぎな奴らの愚行だろ」
そしてチノが言った。
「あのね、ルチア。友達ついでに言うけど、私とルチアも友達だよね」
「当然でしょ」
そう怪訝顔で言うルチアに、チノは「けど私、あなたと恋人にはなれない。私、レズじゃないから」
ルチア唖然。
「はぁ?・・・・・。私だってレズじゃないわよ」
「けどあのレズ三人組に混ざりたいんだよね?」とチノ。
「はぁ?」
「三人組ってもしかしてルナたち?」とジル。
「あいつ等、そうだったの?」とロイデ。
「けど私、あいつ等と混ざりたいなんて思ってないよ」とルチア。
「まあ、勘違いは誰にでも・・・・・・」
そう言って混乱を収拾しようとする謎の声を遮って、ジルが言った。
「ちょっと待て。これ、誰が喋ってる?」
ルチア・ジル・ロイデの三人は、その声の聞こえる方向にある一本の剣の存在に、初めて気付いた。
「剣が喋った!・・・・・・」
「何だよこいつ」
そうジルが言うと、魔剣は「意志を持つ魔剣ですが何か?」
ロイデが「こいつ、何時からここに居た?」
洞窟で魔剣を発見した経緯を話すチノ・ジョルド・ドミンゴの三人。
「で、お前って、誰に作られたんだ?」
そうロイデが言うと、魔剣は「それが、気付いたらこの姿で草原に居て、地面に突き刺さってまして」
「つまり特別な勇者が引き抜いて主になると?」
そうルチアが言うと、魔剣は「私もそう思ってたんですけどね、オークが来て簡単に引き抜いてしまいまして、幸いにも飛行魔法が使えたので、そこを抜け出して本物の理想の主を探す旅に出たという訳でして」
「それでこの島に来て動けなくなったと・・・・・」とルチア。
そんな魔剣にジョルドが言った。
「けど、"気付いたら魔剣だった"って割には、随分と人間の恋愛に詳しいのな」
「もしかして魔剣の女性と付き合いまくるリア充魔剣?」
そうチノが言うと、魔剣は「ならいいのですが、漫画やアニメやネット小説で得た知識だったような・・・」
「所謂恋愛の教科書って奴かよ」とドミンゴ。
「まさか少女漫画?」とロイデ。
「あれは最高のモテイケメンが、何故か自分にだけ必死に執着して根性で振り向かせてくれるっていう、ご都合物語だからなぁ」と魔剣。
ロイデが「ってか、そもそも何で魔剣が漫画やアニメやネット小説を読むんだ?」
六人の男女は、一様に脳内で呟く。
(もしかしてこいつ、本当に異世界からの転生者?)
「とにかく、みんなの所に連れて行って、主を選ばせようよ」
そうジルが言うと、ロイデは魔剣に訊ねる。
「それでお前、どんな主が理想なんだ?」
魔剣は「出来れば、十歳くらいのケモミミ美幼女を」・・・・・・。
残念な空気が漂う。
「じゃ、そういう事で」
そう言って六人の男女が魔剣を放置して立ち去ろうとするのを見て、魔剣は慌てて「ちょっと待って下さいよ」
気を取り直す魔剣と学生たち。
そんな中でジョルドがそれを言い出した。
「それより、何か忘れてないか?」
「何だろう」と他の五人が脳内の記憶を探り、暫しの間思考を巡らせる中、ドミンゴが「そーだ、ハチミツだよ」
だが、ルチアはチノたち三人をちらっと見ると、ジルとロイデに「けど、あれってこの三人をくっつけるための作り話だよね?」
すると魔剣が「ハチミツって、つまり甘味ですか?」
「フェリペ殿下という六歳児のおやつに必用なんだが」とジルが答える。
魔剣は言った。
「甘味ならハチミツは無いけど、このあたりに生えてる木はみんなサトウカエデですよ」
ロイデが「佐藤楓さん?」
「いや、モミジの一種で樹液に糖分が豊富で、メイプルシロップの原料になるという」と魔剣。
「だったら・・・」
六人の学生は作業開始。
カエデの幹にナイフで傷をつけ、竹筒を縛って固定する。
傷口から樹液が流れ、竹筒に溜まった甘い樹液を集めると、拠点に戻って三人の女官の所へ・・・。
「これなら美味しいお菓子が作れるわね」
ジョルドとドミンゴから渡された竹筒の中味を確認すると、ルナはそう言って笑顔を見せた。
「それとルナ。俺たち、三人を応援するよ」
ジョルドにそう言われ、ルナは深く考えずに「ありがとう」
「俺たちは女にはなれないけど、友達だよね?」
ドミンゴにそう言われ、ルナは深く考えずに「よく解らないけど、嬉しい」
そしてジョルドとドミンゴは「同性愛は変態じゃなくて、ただの個性だから」
「はぁ?」
彼等が去った後、ルナたち三人は首を傾げて「何だろう。あれ」
ライナが「女に・・・って。そういう願望でもあるのかな?」
リンナが「あの二人ってホモ?」
それ以降、ルナたち三人のレズ疑惑がしばらく尾を引いた。
そしてジョルドたちは、魔剣の話をみんなに伝えた。
が・・・・・。
「魔剣ったって、魔法の使えないこの島じゃ、ただの剣だよね?」
そう口々に言う学生たちに、魔剣は「島を出れば攻撃魔法とか何でも出来ますよ」とアピールするが・・・。
学生たちは「何時出られるんだよ」「それより明日の食料だろ」
すると魔剣は言った。
「それなら、鑑定のスキルがありますよ」
魔剣の鑑定スキルは、食べられる植物を探す用途で、みんなから重宝され、なし崩し的にジョルドの元に居付いた。
彼等は六人で住む小屋を確保し、チノがジョルジュとドミンゴに、ルチアはジルとロイデに甘える。
「向うの森に長芋を見つけたの。掘るのを手伝ってよ」
そう言って四人の男子を引っ張っていく二人の女子学生。