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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
422/513

第422話 洞窟の魔剣

ポルタ大学の三つの学部の生徒が参加したサバイバル合宿の船が難破して、魔法が使えない島に流れ着いた。

彼等は森を切り開いて拠点を造り、次第に生活も安定する。

そんな中、魔法学部の女子学生チノは、幼馴染だったジョルドとドミンゴの関心がルナに向いてしまった事へのやりきれない想いを、友人のルチアに相談し、ルチアは二人の男子の友人、ジルとロイデに状況を訊ねる。

だが、あらぬ勘違いから、問題は迷走を始めた。



ある日、ルナら三人の女官が、ルチアと一緒に傷薬を作っていたチノに相談を持ちかけた。

「フェリペ皇子のおやつに使うお砂糖が底をついたんだけど、代りになるようなものって無いかな?」

そうルナに訊ねられたチノは「それは魔女の領分とは違うからなぁ」


すると、傍で聞いていたジルとロイデが言った。

「ハチミツがある所なら、心当たりがある。俺たちがとって来てやるよ」


二人は魚とりの準備をしていたジョルドとドミンゴに声をかける。

「お前等に手伝って欲しいんだが、ルナがフェリペ皇子のおやつに使うハチミツを欲しがってるんだ」


そして二人の参加を確認すると、チノの所に戻って・・・。

「ジョルドとドミンゴが手伝ってくれる事になったんだが、チノにもついて来て欲しいんだ。魔女の知識があると心強い」

そして「ルチアも来るよね?」



翌日・・・・・・。


ジルとロイデの案内で、六人は松明を持って森を、高い方へと歩く。

崖に、ぽっかりと洞窟が口を開けている。

ジルは言った。

「ここからミツバチが出て来るのを見たんだ。きっとこの中に巣があるんだと思う」


松明に火を付けて洞窟に入る。

入口の所でドミンゴが「この上にも蜂の巣があるみたいなんで、そっちは俺たちが行くから、四人でうまくやりなよ。それじゃ」

洞窟を出て退散するジルとロイデを見ながら、ルチアは脳内で(どういう意味よ)と呟く。


「私、あいつら手伝うから、ここは三人で・・・」

ルチアはそう言って二人の跡を追う。

その立ち去り際、チノの耳元で「うまくやりなさいよ」



ジルとロイデが洞窟を出た所で、ジルは後ろを振り返りつつ「ルチアの奴、うまくやってるかな?」

「けど、どっちとだっちがくっつくんだ?」

そうロイデが言うと、ジルも首を傾げて「まぁ、なるようになるさ。とにかく邪魔者は退散しようか」


立ち去ろうとする二人の男子の背後から「ちょっと待ちなさいよ」

洞窟から出て来たルチアである。

「何で出て来るの?」

そう疑問顔で言うロイデに、ルチアは「あれじゃ、私が邪魔者じゃないのよ」

「ルチアって、あの二人のどちらかが好きなんじゃないの?」とジル。

ルチアは苛立ち顔で「何でそうなるのよ」


「ルナたちが邪魔なんだよね?」

そうロイデが言うと、ルチアは「あんたらだって、ジョルドたちを好きなのはチノだって知ってるでしょ?」

「けど、二人相手じゃ一人余るだろ」とロイデ。



洞窟の中に取り残された三人。


奥に向って歩きながら「何だったのかな?」と言って首を傾げるジョルドとドミンゴ。

「あのさ・・・」

そうチノは言いかけたが、すぐに「何でもない」


ジョルドは気を取り直すと「とにかくハチミツだ。巣を探そう」

「けど、蜂がいっぱい居るんだよね?」

そうチノが心配そうに言うと、ジョルドは「手を出さなきゃ襲われたりしないよ」

「けど、手を出さなきゃ蜜をとれないよ」とチノ。

ドミンゴが「煙でいぶして、洞窟から蜂を追い出すってのはどうかな?」



まもなく洞窟は行き止まりとなる。

三人は松明を掲げて目的のものを探すが・・・。


ジョルドが「ハチの巣はどこ?」

「見当たらないね」とドミンゴ。

「見つからないよう、岩の隙間にでもあるのかな?」とチノ。

「だったら先ず、煙でいぶすとするか。ハチの巣があれば煙から逃れて出て来るよ」

ドミンゴはそう言って、松明の火で煙草の束に点火しようとする。


すると・・・。

「すみません。煙は勘弁して」


「蜂がしゃべった!」

そう驚き声を上げる三人に、先ほどの声が「いや、私は蜂じゃ無いですけど」

声のする方に松明をかざすと、洞窟の壁面に立てかけたように一本の剣。

ジョルドたち三人、唖然とするが・・・。


「剣が喋った・・・って驚かないんですか?」

そんな事を言う剣に、ジョルドは「意志を持つ魔剣なんですよね? うちの国の王太子も同類を持ってるんで」

「けどエンリ様の魔剣はしゃべったりしないぞ」とドミンゴが突っ込む。

「そーいえば」


そして三人、口を揃えて「剣が喋ったーーーーー!・・・って事で満足して頂けましたか?」とドミンゴが続ける。

魔剣は困り声で「いや、別に期待してる訳じゃ・・・・・・」

「もしかして異世界から転生したとか?」

そうジョルドが言うと、魔剣は「何の設定ですか?」

「いや、流行ってるみたいだったもので・・・」



そして、自分語りを始める魔剣。

「実は私も、自分が元々何物かは記憶が無くて、気づいたらこんな姿になってまして。まあ、どこかの自動販売機と違って自由に会話も出来るし、空を飛んで移動する事も出来るんで、理想の主を探して世界を旅する中で、この上空で雨に遭って、錆びるのが嫌なので洞窟を見つけて雨宿りしているうちに、身動き出来なくなってしまいまして」


「どうやらこの島には魔素を吸収する存在があるみたいなので」

そうドミンゴが言うと、魔剣は「それで魔法が使えないのか・・・。という訳で、私をここから連れてって下さい」

「スキーに?」とジョルドが・・・。

「じゃなくて」

「つまり主になって欲しい訳ですよね?」

そうチノが言うと、ドミンゴが「だったら俺が」

ジョルドが「いや俺が」


そんな彼等に魔剣は言った。

「というか、理想の主を探すのを手伝って欲しいんです」

「俺たちじゃ役不足って訳か?」

そう言って二人の男子が口を尖らすと、魔剣は「二人とも普通の男子学生ですよね?」

「そーだけどさ」

「つまり強くて魔法の才能もあって、イケメンで優しくてお金持ちで・・・」

そんなチノの台詞に、ジョルドは残念顔で「それ、魔剣じゃなくて女子にとっての理想な」


「けど誰がいいかな?」

そうドミンゴが言うと、チノが「マゼランとか?」

ジョルドが「ビスコとか?」

ドミンゴが「いっそフェリペ皇子?」

「けど皇子にはロキが居るぞ」とジョルドが突っ込む。

「いや、ロキは仮面で剣とは被らないぞ」

そうドミンゴが突っ込むと、ジョルドは「じゃなくて、あいつ先輩風吹かしていじりまくるだろ」


三人は溜息をつくと、ジョルドは言った。

「とりあえず持ち帰って本人に選ばせるとするか」

そしてドミンゴは魔剣に「じゃ、とりあえず仲間に紹介してやる。で、念のために聞くけど、どんな主が理想なんだ?」

魔剣は言った。

「出来れば十歳くらいのケモミミ美幼女とか・・・」


残念な空気が広がる。

「じゃ、そういう事で」

そう言ってそのまま立ち去ろうとする三人を見て、魔剣は慌てて「ちょっと待って下さいよ」



三人が魔剣を持って洞窟の外へ出ると、木陰でルチア・ジル・ロイデが何やら話し込んでいる。

「折角あの三人に混じるチャンスを作ってやったのに」

そうジルが言うと、ルチアが「混じってどうするってのよ」

「どっちかが好きだったんじゃ無いの?」とロイデ・・・。

「そういう訳じゃ・・・」


そんな会話を草陰で聞き耳を立てるチノ・ジョルド・ドミンゴは、漏れ聞いた会話について、空想を交えながら小声であれこれ話す。

「あの三人って女官たちか?」

そうジョルドが言うと、ドミンゴが「その誰かが好きって・・・」

「ルチアってまさかレズ?」とチノも・・・。


そんな彼等が聞き耳を立てているとも知らず、ルチア・ジル・ロイデの会話は続く。

「チノはね、引き籠った経験で人付き合いが苦手で・・・」

そうルチアが言うと、ロイデは「気にかけてくれる人に頼った・・・ってんだろ?」

ジルも「それで、話しかけてくれた人を恋人として意識して・・・」



「あの、ルチア」

そう言って草陰から出て来たチノを見て、ルチア唖然。

「チノ、聞いてたの?」

驚き声でそう言うルチアに、チノは「私、ルチアの期待に応えられない」

「いや、別にあんた達と付き合いたい訳じゃ・・・」

そう困り声で言うルチアに、チノはなお「ごめんね。私、ルチアがそういう人と知らなくて」

「だから違うって」

些か暴走気味なチノを見て、ルチアは溜息。


そして・・・・・。

「そんなに二人とも手放したく無い? 3pってそんなに気持ちいいの?」

そうルチアが言うと、ジルも「そういうのって不毛じゃないかな?」

「私はそうは思わない」

そうチノが言うと、ロイデが「最初はグルーブでわいわいやってても、最後は誰か一人と一緒になるものだろ」

チノは脳内で呟く。

(グループでって、集団レズプレイ? ルナたちってそんな爛れた関係だったの?)


チノはジョルドとドミンゴに向き直る。

そして「あんた達、リンナやライナは諦めた方がいいと思うの」

「いや、あの二人に興味は無いが」とジョルドもドミンゴも困り顔。

「じゃ、遊びのつもり?」と追及するチノ。

「遊びって・・・」


「確かにルナは三人の中では五歳児の世話に徹して、彼氏と言える相手は居ないから・・・」

そうドミンゴが言うと、ジョルドもそれを受けて「けど、それって遊びなのか?」

ジルが「ルナにちゃんとした彼氏が居ないのは、ショタ属性だからだよね?」

ロイデが「確かに不毛かもしれない。ちゃんと自分に向き合ってくれる人とじゃないと・・・」

「けど、俺たちにそんな女の子居ないし・・・」とジョルドとドミンゴは声を揃える。



ルチアは溜息をつき、そして言った。

「あのさチノ、気になる男が居るなら、ちゃんと言葉にしないと解らない事ってあるよ」

「だよね。男の方からなんて期待されても、下手すると告ハラとか言って弾圧されたりするし。主導権握ってるのは女の方なんじゃないのかな?」

自分が当事者だと夢にも思っていないジョルドの発言に、ルチアは更に溜息をつき、そして反論した。

「そんなのおかしいよ。男だから自分の気持ちに蓋をしろとか。そもそも相手が欲しいのは男の方だよね?」


するとロイデが「それって性欲って事? けどそれに蓋をしろって、世間様と女性のお気持ちが要求しているんだよな?」

「そんな言い方・・・」

そう言いかけて言葉に詰まるルチアに、ロイデは「違うかな?」


「それでも嫌いじゃない人に好かれるのは嬉しいよ」

そうチノが言うと、ドミンゴが「嫌いじゃないと好きは違うよね?」

「それは・・・」

ジョルドが「好きじゃない人に求められるとキモいんだよね?」


「だから段階を踏めって話なの」とルチア。

「けど、いきなり先に行かなくても、想像はするよね?」とドミンゴが・・・。

ルチアは「女心は複雑なの」

「それは男の責任なのかな?」とドミンゴ。


ルチアは語った。

「男性の異性に対する気持ちを、頭から"どうせ性欲だろ"とか言って罵る奴なんて、半分以上ただのマウント取りだよ。そんな恋愛する資格の無い女なんて放っとけばいいじゃん。目の前に居るのは女っていう記号じゃ無いの。ちゃんと名前のある一人しか居ない人間なの。それをちゃんと見たらどうなのよ」

「それってノットオールウーマンって事だよね?」

そうジョルドが言うと、ルチアは「それは・・・」

チノもルチアもしゅんとなる。

そして「ごめんなさい」


「いや、何でルチアが?」

そう言って戸惑うジョルドとドミンゴに、ルチアは「ノットオールメンが否定されるのは私も含めた女性の責任だよね。けど、チノも私もあんな人達を支持してない」

ジョルドが「もしかしてルチア・・・」

「べべべ別にあんた達の事が好きって話じゃ無いからね。勘違いしないでよね」

そう慌て声で言うルチアに、ドミンゴは「いや、誰か好きな人が居るのか? って話なんだが」


「いや、だから私じゃなくてチノが」

そう言って、ルチアはジョルドとドミンゴを見る。



ジョルドとドミンゴは頬を染めて俯くチノを見る。

「チノ、もしかして俺たちの事・・・」

「・・・」

二人は期待と不安の交差した表情で「で、どっちを?」と声を揃える。

チノは「解らないよ。好きとか・・・。自分の気持ちが解らないの。けど、昔みたいに仲良くして欲しい」


ジョルドが「友達と恋愛は違うんだよね?」

「それは・・・」

ドミンゴが「仲の良かった女友達を好きになって告ったら、友達だと思ってたのに嘘だったのか裏切られたとか・・・」

俯くチノとルチア。


その時・・・・・・。

「それは単に恋愛する気が無い女だったってだけだろ。もしくは男は利用するだけの存在だと思ってるとか。それで男を責めるのは筋違いだろうけど、そうでない女だって居るって事じゃないのかな?」

その言葉で少しだけ真剣な眼差しになる男子たちだが、その言葉が誰の口から出たものか、彼等はまだ気付いていない。

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