第420話 学生たちのサバイバル
ポルタ大学の三つの学部の学生を集めたサバイバル合宿の船が難破し、魔法の使えない孤島に漂着した。
けんか別れした三つの学部の学生たちが、各学部ごとに別々の拠点を定める。
そして、水のある森に拠点を設けた魔法学部に人文学部が合流し、海岸を占拠した海賊学部も、生で食べた魚や貝の寄生虫にやられた事をきっかけに、他と合流した。
三つの学部が森の水場に拠点を定めると、野宿状態だった彼等は、森を切り開いて村を作る計画を立てた。
「小屋とか建てるよね? 材料は?」
そう人文学部の学生が言うと、海賊学部の学生の一人が「木が腐るほどあるだろ」
アメリアの取り巻きの一人が「ログハウスかぁ。いかにも保養地って感じだよね」
もう一人が「温泉も欲しいね」
更にもう一人が「カラオケにゲーセンに洒落たレストラン」
ジョルジュが「温泉街には秘宝館ってのが付き物だと聞いたが」
女子達はドン引き顔で「これだから男って・・・」
「いや、秘宝は海賊のロマンだぞ」
そうチャンダが言うと、リンナが顔を赤らめて「そういう秘宝じゃ無いと思う」
「ってかお前等、サバイバル舐めてるだろ」と、ビスコが溜息をついて、言った。
「それよりもっと切実な問題があるんだけど・・・」
そうライナが言うと、女子達は声を揃えて「トイレをどーするのよ!」
海賊学部の男子の一人が「んなもん、そこらへんの木の根元でマーキングすりゃいーじやん」
「男子と違って、立ってって訳にいかないんですからね!」と気色ばむ女子たち。
「男子だって大はしゃがむけどな」
そう魔法学部の男子の一人が言うと、女子たちは「せめて囲いくらい作ってよ」
「どこに? 穴掘ってもすぐに一杯になるぞ」と一人の男子が・・・。
「段ボールに砂じゃ駄目?」と別の男子が・・・。
「猫じゃないんだから!」
そう言って更に気色ばむ女子たちを見て、マゼランは溜息をつくと「一杯になったら後で考えようよ」
「けど、穴を掘ろうにも、掘る道具が無いぞ」と、困り顔で人文学部の男子の一人。
「どーすんのよ!」
するとシャナが、森の向うを指して「穴ならあそこにあるぞ」
大きな木が倒れた根本に、穴が穿たれている。
「風倒木だな。倒れた木の根が回りの土ごと抜けた跡だよ」と金田が解説する。
倒れている大木を大勢で動かして、穴に足場として二本の板を差し渡す。
そして、穴の周囲に棒を立てて柱とし、草で壁を拭いて囲いが完成。
「いよいよ伐採して、僕たちの村を建設だね」
そう言って学生たちが気勢を上げると、フェリペが「先ず、村の名前を決めようよ」
マゼランが「島の名前とかは、普通は発見者の名前になるよね」
「だったら・・・・」
「ロゼ村」とロゼが主張。
「アメリア村」とアメリアが主張。
「マージョ村」とマージョが主張。
三人が火花を散らして睨み合う。
ロゼは「上に立つのは貴族ですわ」
アメリアは「このイベントの主催は魔法学部ですのよ」
マージョは「海の上は海賊の領分さね」
そんな三人に、男子たちは溜息をついて「ってか、何でお前等の名前?」
「私たちはクラスのトップよ」と三人は声を揃える。
そんな不毛な言い争いに、マゼランは溜息をつくと、彼は言った。
「あのさ、俺たちはポルタ大学の学生なんだから、ポルタ大学村でいいんじゃ・・・」
一人の学生が「平凡過ぎ」
「ありきたりで面白味に欠ける」と、別の学生も・・・。
同様の意見が次々に飛び出し、駄目出しの集中砲火を浴びたマゼランは「・・・・・・そういうのは後で考えよう」
彼等は当面必要な小屋の数と大きさを決め、建てる場所を決め、切り開く範囲を決めた。
いよいよ伐採開始だ。
森に立ち並ぶ木々を見て、学生たちは溜息をつく。
そして「で、この木をどうやって切るんだ?」
「そんなのウォーターカッターで一発」
そうドミンゴが言うと、ジョルドが「だからその魔法が使えないんだってば」と突っ込む。
「そーだった」
するとマゼランが「魔法なんか無くても剣で切れるだろ」
「それは無理」
あきれ顔でそう言う学生たちに、マゼランは「こういうのは気合と剣筋だよ」
マゼランは剣を抜いて、一本の大木の前で構える。
そして気合とともに剣の一閃。大木は根本から切り倒された。
「すげー」
学生たち、マゼランにやんやの喝采。
そして「じゃ、どんどん行こうか」とマゼランに・・・。
五本ほど切った所で、さすがのマゼランも息が切れる。
「これ、体力も気力も消耗するんだよなぁ」
「だったら」
そう言って、シャナは刀を抜く。
彼女の髪と瞳は灼熱の赤に染まり、灼熱の気をまとった刀を持って森の木立に向って構える。
気合とともに、灼熱の気を放つその刃の一閃。
その衝撃波が十数本の木を一気に焼き切った。
「すげー」
学生たち、シャナにやんやの喝采。
だが、マゼランは慌て顔で「いや、感心してる場合じゃないぞ」
シャナの刀の灼熱の気が、あちこちに燃え移り・・・。
「山火事になるぞ!」
事態に気付いて慌てる学生たちに、シャナは落ち着き払って「いや、いっそ焼き払った方が効率的だろ」
「どこまで燃え広がるか解らんし、そもそも切った木は建材にするんだから燃やしちゃ駄目だろ」とマゼランが突っ込む。
「とにかく火を消さなきゃ」
そう言って、大騒ぎして火を消し止める学生たち。
そして・・・・・。
シャナが伐った半焦げの木材も含め、とりあえず伐採された木を一ヶ所に集める。
そして、木の枝を払って幹の部分を残し・・・。
「これをどうするんだ?」
そう人文学部の一人が言うと、別の一人が「ログハウスだろ? 並べて積んで壁にするんじゃないのか?」
とりあえず、枝を払った二本の木の幹を柱として立てた間に、木の幹を縦に積み上げるが・・・。
壁のつもりで積み上げた丸木を見て、溜息をつく学生たち。
「隙間だらけじゃん」
そう人文学部の学生の一人が言うと、魔法学部の学生の一人が「そりゃそーだ。木の皮を剥いで直線的に製材しなきゃ」
人文学部の男子たちは「じゃ、気合と剣筋でよろしく」とマゼランに・・・。
「勘弁してくれ」と、困り顔のマゼラン。
「それより海賊学部の奴らはどこに行った?」と魔法学部の学生たちが言い出す。
気が付くと、海賊学部の男子たちが居ない。
「どこかでサボっているんじゃないのか?」
そうジョルドが言うと、ドミンゴが「あいつ等、協調性ゼロだものなぁ」
人文学部の男子たちも「ああいうヒャッハーはマッチョなくせに、地味な肉体労働を嫌がるからなぁ」
「誰がヒャッハーだ誰が!」
手に手に道具を持った海賊学部の学生たちが、海岸の方から・・・・。
「お前等、今まで何やってたんだよ」
そうマゼランが言うと、海賊学部生の先頭に居たビスコが口を尖らせた。
「座礁した船に大工道具をとりに行ってたんだろーが。サバイバルならこういう道具は必須だろ」
数日かけて必用な数の小屋と、まともなトイレを建てた。
それに平行して食料調達。
手近な森の野草や木の実、そして磯の魚介類。
だが、採りやすいものは次第に採り尽くし、日に日に収穫が減っていった。
食料不足に音を上げる学生たち。
「もう無いの? 食べ足りないんだが・・・」
夕食を食べながら、そう海賊学部の男子たちが言うと、魔法学部の女子たちが「我慢しなさい!」と一喝。
「そうは言っても、力仕事はみんな俺たちに回って来るものなぁ」
そう海賊学部の一人が言うと、人文学部の女子の一人が「六歳の子供だって居るのよ。恥ずかしくないの?」
そして彼女はフェリペを見て「こんな小さいのに、お腹を空かせて」
そんなクラスメート女子にフェリペは「僕は大丈夫だよ。リンナ達がおやつを作ってくれるから」
「・・・・・・」
残念な空気が漂う。
「けど、今までのやり方だと、やっぱり限界があるよね」
そうマゼランが言うと、ビスコも「沖合に出ないと十分な魚は獲れないぞ」
「船が必用だね」と学生たち・・・。
するとフェリペが「父上はオランダから脱出する時、自分たちで船を造ったよ」と言い出す。
「だったら俺たちにだって出来るだろ。海賊学部には造船科だってあるんだし」とチャンダも言い出す。
「けど、俺たち初年度生で、造船の授業なんて受けてないぞ」と、弱気になる海賊学部の学生たち。
ドミンゴが言った。
「あのさ・・・・・。筏で良くないか?」
筏を作って男子数人で沖に出て釣り竿を垂れる。
マゼランとチャンダとドミンゴの他は海賊学部の学生。その中にはビスコも居る。
当初はレジャー気分で盛り上がっていた彼等も、小一時間経つ間に気分は沈んだ。
女子たちのがっかり顔と小言の嵐を思い浮かべ、海賊学部の学生の一人が言った。
「釣れないね」
「あの人数を養うのに、ちまちま釣りとか効率悪すぎだろ」と、今更な事を言うチャンダ。
「網で一度に・・・って訳にはいかんの?」
そうドミンゴが言うと、海賊学部の学生たちは「網なんてどうやって作るんだよ」
「植物の繊維で紐を作って縦横に編んで・・・だよね?」とマゼラン。
ビスコが「何日かかると思ってる」と言って溜息。
その時、一人の学生が沖の方向を指して「あれ見てよ」
海面に顔を出した何かから潮が吹き上がっている。
「鯨だ!」
「あれなら当分、食い繋げる」
そうチャンダが言うと、ドミンゴが「けど、どうやって仕留める?」
海賊学部の一人が「あんなのウォーターランスで一発」
「だからその魔法が使えないんだってば」とドミンゴが突っ込む。
「誰か巨大魔獣を召喚出来ないか?」
そう別の海賊学部生が言うと、「使い魔なら持ってるけど召喚出来ないだろ」とマゼランが突っ込む。
「俺に任せろ」
そう言ってビスコは弓矢を出し、鯨に向けて狙いを定める。
「そんなもんで鯨を殺せるかよ」
そう海賊学部の一人が言うと、チャンダも「仕留めたとしても、岸まで運ばなきゃだぞ」
「まあ見てな」
そう言ってビスコは矢を放ち、鯨の頭部の命中。
そして命中した所からキノコが生え、それは見る見る成長して巨大なキノコ魔獣となった。
鯨とキノコ魔獣の格闘。
両手両足で鯨を締め上げるキノコ魔獣。鯨は水中に潜ろうとするが、キノコの浮力で潜れない。
「これを使え」
そう叫んでマゼランはキノコ魔獣に剣を投げ、キノコ魔獣はその剣を鯨の頭上に打ち込む。
鯨を倒し、その上でガッツポーズを決めるキノコ魔獣。
「いったいどうやって召喚したんだ?」
そうドミンゴが問うと、ビスコは言った。
「召喚じゃないんだ。この矢の先に植え付けた胞子から生えたのさ。俺はオケアノスの島に住むキノコ守りという一族の末裔で、あそこを探検した爺さんが、孤児で赤ん坊だった奴を引き取って養子にしたのが、俺の父親さ」
「けどそれって十年以上前で、まだエンリ王子が世界航路を拓いてなかった頃だぞ」
そうマゼランが問うと、ビスコは「その前に世界中を航海した人が居ただろ」
「まさか・・・・・・」
ビスコは言った。
「俺の名はビスコ・ダ・ガマ。ひとつながりの世界地図を作った海賊バスコは俺の爺さんだ」
キノコ魔獣を使って海岸に持ち帰った鯨を解体する学生たち。
食べきれない肉は干し肉に、内臓は煮て干して保存食に、そして脂身は大釜で煮て鯨油に加工した。
船の残骸から使えそうな道具を回収するにも、ビスコの巨大キノコ魔獣は大活躍。
そんなある日、女子たちから要求が出た。
「トイレの穴が一杯になったから、新しいトイレを作ってよ」
「それはいいが、穴一杯になった排泄物はどーするよ。この調子だとトイレだらけになるぞ」と男子たち。
魔法学部の男子の一人が「排泄物は植物の肥料になるけどね」
「田舎の香水って奴だな」と海賊学部の男子たち。
「って事は、植物系魔獣なら養分として吸収できるって事だよね?」とジョルドが言い出す。
「誰か、使い魔として持ってないか?」
そう人文学部の一人が言うと、魔法学部の学生たちが「だから持ってても召喚できないんだってば」
「いや、そこに居るだろ」とジョルドは言って、ビスコの巨大キノコ魔獣を指す。
「キノコは木や草とは別種だって、パリ大学のリンネ教授が言ってたぞ」
そうマゼランが突っ込むと、チノが「けど土の養分は吸収するよね?」
ビスコは「出来ると思うぞ」
キノコ魔獣はトイレの屋根と囲いを一旦外す。そして排泄物を貯めた穴の上に座り込んだ。
穴の中に菌糸を伸ばして排泄物を吸収し、一杯だった穴は空となる。
そしてキノコ魔獣は、いかにもモンスターといった声で「ゲプ。ごっつぁんです」
それを見て、女子たちはドン引き。
「何か嫌だ」




