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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第42話 不死の来客

ジパングに向かったエンリ王子の船は、壊血病の蔓延もあってミン国の港に寄港。

そこで海賊取り締まりの役人を指揮する西斗皇拳の使い手ケンゴローと戦ったタルタは、体を内部から破壊するというその技の後遺症の可能性があるとして、仲間とともに病院で療養し、検査を受ける事になった。



治療台の上に横たわるタルタ。麻酔薬で眠らされている。

周囲を取り囲む、数人のミン国の医者。その中にケンゴローも居る。


眠っているタルタの全身を観察し、めいめいが意見を言う。

「どうですか?」と、タルタを連れて来たケンゴローが、他の医師たちに意見を求める。

医師の一人は「一見普通の人間ですが、経絡の流れがあちこち常人と違いますね」


ケンゴローは「金属の体になると、また大きく変わります」

「どんなふうに?」と、別の医師が問う。

「経絡秘孔が消えました」とケンゴロー。

「まさか」と医師たちがざわめく。


「体内の気が別の形に変わるんだろうと思います」とケンゴロー。

「その全身が金属になるというのはやはり」と医師の一人。

彼等の責任者らしき老人が「西洋の錬金術というやつだろうな」と指摘する。

「だが、錬金術は金属を別の金属に変えるんだ。人体を金属に変えるというのは・・・」と、もう一人の老医師。

「やはり金丹術ですよね」とケンゴロー。


責任者らしき医師が「彼は何故そんな体に?」

「不思議な木の実を食べたと言ってました」とケンゴロー。

「それが金丹か」と老医師。


責任者らしい老人が言った。

「この数千年、歴代の皇帝は常に不老不死を得る方法を探し求めて来た。その手掛かりをようやく掴んだんだ」

「どうやってそれを探りますか?」とケンゴロー。

責任者らしい老人は暫く考え、そして「とにかくその鉄化という現象を見たい」



目を覚ましたタルタ。

横にはケンゴローと、他に二人の老いた医師も居る。


タルタはケンゴローに「検査が終わったんなら、みんなの所に戻っていいかな?」

「心配な事があります。あの拳の効果が時間差を置いて現れるかも知れません」とケンゴロー。

「どうなる?」とタルタ。

ケンゴローは「体の内側から破裂して、ヒデブと叫んで死にます」

「勘弁して下さいよ」とタルタ。


「鉄化した状態で検査したいんですが」とケンゴロー。

タルタは「いいですよ。鉄化!」


ケンゴローの目は、その瞬間の経絡の変化を捉える。そして、鉄化した体の中での気の流れを観察する。

彼は心の中で呟いた。(大地を流れる龍脈に似ている)

そして「もういいですよ」


鉄化を解いて元に戻るタルタ。

そして「どうだった?」

「金属化した時の気の流れに変調が見られます。投薬によって正常に戻しましょう」とケンゴロー。

「仲間にはまだ会えないのかな?」とタルタ。

ケンゴローはタルタに「もう少しだけ我慢をして下さい」



医師たちの待機している部屋に戻るケンゴローと他2名。

「どうでしたか?」と医師たちが彼等に問う。


「金属化した体を流れる経絡は龍脈に似ていますが、極めて円滑です。あの変化は五行相生の逆転ではないでしょうか」とケンゴロー。

「そうだな。人体の基本は水から生まれ、水の原理によって成り立つ。五行相生では金は土より生じ、水は金より生じる。あの変化はその相生の正順逆順の変化を自在に行うものか」と、ケンゴローと共にタルタを観察した指導者らしき老医師が言った。

もう一人の老医師が「その変化の時、どうやら身体機能に爆発的なエネルギーが生じているようだ」


しばらく彼等は沈黙し、めいめいが思案する。

そして「つまりその瞬間に生じる因子を皇帝の体が取り込めば」と老医師が言った。


ケンゴローの顔色が変わり、彼は老医師に言う。

「ちょっと待って下さい。変化する瞬間に彼を殺してその肉を皇帝が食すと・・・。皇帝に人肉を食べさせるというのですか?」

「そういう事になるだろうな」と指導者らしき老医師。

「そんな事が・・・」とケンゴロー。

指導者らしき老医師はケンゴローに言った。

「君は両脚羊というのを知っているかね?」



病院に来てから3日が経った。


エンリ王子たちの病室でタルタの検査について噂するアーサーとジロキチ。

「タルタ、いつ出て来るんだろうな」とジロキチ。

「俺たちも十分回復したよね」とアーサー。

ジロキチはうんざりした顔で「いい加減、こんな所は出ようよ」

「けど、あいつ等がなぁ」と言って、アーサーは他の仲間を眺める。



病院食の皿の山を前に、ご飯を食べているファフ。看護婦がご飯のお代わりをよそっている。

「病院食ってボリューム満点なの」とファフ。

「元気をつける食事ですから」と看護婦。

「しかも美味しいの」とファフ。

「中華は世界三大料理の一つですから」と看護婦。

「お代わりなの」とアァフは言ってお椀を出す。


そんなファフを見て、アーサーがファフと看護婦に「食べ過ぎは体に悪いと思うが」

「まあドラゴンだし」とジロキチ。


看護婦が「医食同源といって、食べ物自体に体の活力を高める働きがあるんです」

「それってお呪い的な?」とアーサー。

「薬だから不味いものでも食べるとか」とジロキチ。


看護婦は「それを美味しく料理するのが中華料理ですよ」

「どんなものでも?」とアーサー。

「四つ足は机以外、何でも食べます」と看護婦。


アーサーは「まさか人間食べたりしないよね?」

「そういう場合もあると聞きます」と看護婦。

ジロキチが「それは怖いな」と言って首を竦めた。



向こうではカルロが看護婦にちょっかいを出している。


「お姉さん、綺麗ですね」とカルロは言って看護婦のお尻に・・・。

看護婦は「あら、患者さんったら」と言って、その手を払う。

カルロは「やっぱりナースは萌えますよね」



その向こうでは、ニケが地元の役人の子弟の若者たちを相手に、女教師ごっこだ。

「だから、この大地は丸くて、大地の裏にも国があるの」と蘊蓄を語るニケ。

「どうして裏側の人は落ちないんですか?」と若者の一人が質問。

ニケは「落ちるというのは大地に引き寄せられる事なの。引力って言ってね」


若者の一人が目をうるうるさせて「勉強になります」

「ニケ先生は賢者だ」ともう一人の若者。

更にもう一人の若者が「こんな勉強が出来るなら、どんなに学費が高くても払う価値があります」


ニケはドヤ顔で彼等に言った。

「しっかり勉強して出世するのよ。そして賄賂ガッポリ稼いで恩師に貢ぐのよ」

「一生ついて行きます、ニケ先生」と若者たちは口を揃える。


そんなニケを見てジロキチはあきれ顔で「あの人、この国に居座る気かよ」

「役人になるには試験があるから、ここの人たちは大変なんだよ」とアーサー。

「ああいう実用的な知識って試験に出るのか?」とジロキチ。

「出ないだろうね」とアーサー。



「それに、王子は王子で・・・」と言ってアーサーは窓の方を見る。

そこには窓辺で外を眺めながら、まったりと寄り添うエンリとリラ。


「王子様、平和ですね」と人魚姫リラ。

「すぐそこで戦争やってるんだけどね」とエンリ王子。

リラは「王子様さえ居てくれたら、何もいりません」


アーサーは「この非常時に、あのバカップルは・・・」と呟く。



アーサーは馬鹿馬鹿しくなって病室を出る。

歩きながら(たしかタルタの居る検査室ってこっちの方角だった筈)と脳内で呟くアーサー。

自然とそちらに足が向く。すると向こうから二人の医者が来る。

だが、医者とは思えない殺気を放つオーラを感じ、アーサーは隠身魔法で姿を消した。


二人の医者の会話がアーサーの耳に入る。

医者の一人が「どんな様子だ? あの西洋から来た両脚羊は」

「おとなしいもんさ。何も知らないからな」と、もう一人が・・・。

「それで、何時皇帝の所に送られるんだ?」


そんな会話を聞いて、アーサーは思った。

(西洋から来たって事はタルタの事だよな? それが皇帝の所に送られる? 両脚羊って何だ?)

アーサーは小さな使い魔を放って二人の跡をつけさせた。



病室に戻るアーサー。

その険しい表情を見て、エンリが訊ねた。

「どうした。アーサー」

アーサーは言った。

「さっき、ここの医者が気になる事を言ってたんです。両脚羊というのは何だと思いますか?」


仲間たちが集まって額を寄せてひそひそ・・・。

「羊は羊だよな」とジロキチ。

「両脚って?」とニケ。

「二本足って事だろ」とアーサー。


「羊が後ろ足だけで立って歩くのかよ」とエンリ。

「犬がちんちんって芸をやるけど」とカルロ。

「羊魔獣の一種では?・・・」とリラ。

アーサーが「けど、西洋から来た両脚羊って言ったんです。それってタルタの事ですよね?」


「タルタが羊?」とジロキチ。

「羊って毛を刈るよね?」とカルロ。


「あいつ等、オリハルコン化したタルタの髪の毛狙ってるんじゃ」とアーサーが言い出す。

ニケが「冗談じゃないわ。あれは私のものよ」

「いや、それは違うと思う」とアーサー。

エンリが「とにかくタルタの頭が危ない。あいつ、丸坊主にされるぞ。そしたら・・・」


全員爆笑。

「それ、見てみたくない?」とカルロ。

「見たい」とファフ。


そんな仲間たちに、ニケが苛立ちの声を上げた。

「もう、いいわよ。みんながそんな奴だったなんて、タルタは友達なのよ。それが私以外の奴のために丸坊主にされて・・・私のオリハルコンを」

エンリはあきれ顔でニケに「そういう本音は隠したほうがいいと思うよ」

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