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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第418話 孤島の学生

ポルタ大学魔法学部が、授業で実践魔法が大きな位置を占める二つの学部、即ち人文学部と海賊学部との合同で、主に初年度生の希望者を対象に行うイベントがあった。

孤島でのサバイバル合宿である。



人文学部で先輩たちから合宿の話を聞くマゼランたち。

「つまりキャンプですよね?」

そうリンナがお気楽な事を言うと、上級生は「ちょっと違う。なんせサバイバルだものな」

「サバイバルって何?」

そうフェリペが言うと、シャナが「お魚のヒエラルキーだろ?」


マゼランが「だったらトップは鮫だよね?」

「いや、鯨だろ」

そうチャンダが言うと、ルナが「鯨は人間の次に賢いって、緑豆真理教が言ってた」

「あんなカルトの言う事を真に受けちゃ駄目だろ」と言ってマゼランが溜息。

上級生の一人が「鯨は魚じゃなくて獣の同類だと、パリ大学のリンネ教授が言ってたぞ」

チャンダは「いや、魚でしょ。尻尾があって鰭があって」

「蝙蝠だって、翼はあるけど鳥じゃなくて獣だよ」とマゼランが反論。


リンナが「鮫は臭くて美味しくない」

「鮫の鰭は高級料理だって、タカサゴの人が言ってたけど」とライナが反論。

「やっぱりトップはマグロだろ」と別の上級生が・・・。

「舞い踊るのは鯛やヒラメだよ」とフェリペが絵本の知識を持ち出す。

シャナが「高級品なら海の宝石と言われた蟹だ」

「蟹はもっと魚じゃないぞ」と上級生の一人が・・・。


「ってか、トップの基準は食べられる側じゃなくて、食べる側だと思う」

そうマゼランが言うと、シャナが「実はトップは鯖なんだそうだが・・・」

「大衆魚じゃん」と全員声を揃える。

「けど、食べると頭が良くなるって、母上が言ってた」とフェリペ。


「で、何で鯖?」

そうライナが問うと、リンナが「まさか鯖が威張るからサバイバル・・・なんてオヤジギャグじゃ・・・」

「いや、トップは威張るものなんじゃないのか?」とシャナのペンダントのアラストール。

「それ、誰が言った?」

そうマゼランが問うと、シャナは「ヤンさんだが」

「やっばりオヤジギャグじゃん」と全員溜息。



話題があらぬ方向に行ってしまった事に気付いた上級生の一人が「ってか、俺たち何の話をしてるんだっけ?」

「サバイバルだろ?」とシャナ。

もう一人の上級生は溜息をつくと「あれは生き残りって意味で、自然の中で、自分で寝床を作って食べ物を調達して、生き抜くために頑張る・・・って趣旨だぞ」

チャンダが「つまり釣り大会?」

ライナが「寝床ってテントだよね?」

ルナが「いや、ログハウスだよ」

「楽しみだなぁ」とマゼランたち初年度生は声を揃える。

もう一人の上級学が溜息をついて「お前等、サバイバルを舐めてるぞ」


残念な空気が漂う。

それを何とかしようと、別の上級生が「まあ、学校行事なんだから、いざとなったら教授たちが何とかしてくれるよ」

更に別の上級生が「それに俺たち、魔法が使えるから」

「そーいやそーか」と、緩んだ空気に逆戻りする、マゼランたち初年度生。



保護者の許可が必要だという事で、フェリペはマゼランたちと共にエンリの執務室へ・・・。


「サバイバル合宿? そんなのあったっけ。リラ、解るか?」

そうエンリが言うと、リラは「食べると知能を嵩上げする、アレですよね?」

タルタが「あれは脂が強いからなぁ」

カルロが「生で食べる時は酢で絞めると美味しいですよ」

ジロキチが「むしろ揚げ物にすると酒の肴に合うぞ」

マゼラン、困り顔で「いや、魚の鯖が威張るという話じゃなくて、生き残るという意味なんですが」

「・・・・」


残念な空気を誤魔化すように、大人たちは「そーだよね。あは、あはははは」と声を揃える。

そしてリラが「思い出しますね。西方大陸を南下した時」

ジロキチが「焚火を囲んで、獲って来た鹿をつまみに・・・・・」

若狭が「キャンプって楽しいですよね」

チャンダが「そう言ったら先輩から、サバイバルを舐めていると言われたんですが」

「・・・・・・・・」


再び残念な空気が漂う中、エンリは言った。

「生き残りを賭けた冒険だよ。海賊団で世界を一周するのは冒険の連続だ。だから楽しい」

「そうですよね」と言って気を取り直すマゼランたち。



出発の日となり、ポルタの港から学生たちと監督の教授たちを乗せた船が出港。

船上で教授たちの訓示。

それが終わると、船の中で学生たちは自由時間。仲間どうし集まって、わいわいやる。



そんな中でマゼランたちは、甲板に居る魔法学部の学生たちの中に、見知った顔を見つけた。

「明智先輩と金田先輩も?」

探偵団の二人の先輩は、後輩たちに返す。

「初年度生でなくても、希望すれば参加できるんだよ。実際に希望する奴は殆ど居ないけどね」


「そんなにきついんですか?」

そうルナが心配声で言うと、明智が「そりゃ、食べ物とか水とか調達しなきゃだものね」

「それは魔法で何とかなるんだが」と金田がフォロー。

「じゃ、何が大変なの?」

そうフェリペが言うと、金田は「人間関係だよ」

マゼランたちは声を揃えて「ですよねー」


金田は語った。

「下手に女子の下着が紛失でもしてみろ。誰が盗んだんだ・・・とか、って話になって、実はどこかに置き忘れたとしても、間違いを絶対認めず、疑いの視線は全男子に重たくのしかかって・・・」

すると明智が口を尖らせて「はじめさん、女子を何だと思ってるのよ」

金田は困り顔で「いや、だって・・・ってか、本当はもっと厄介な問題が出て来るんだけどね」

「どんな?」

そうライナが心配顔で言うと、金田は「そのうち解る」


「けど先輩たちは何で参加を?」とリンナ。

ルナも「やっぱりキャンプは楽しいですよね」

すると明智は半ば真剣に、そして半ば期待を込めて「そんなのはどうでもいいのよ。外界と隔絶した孤島よ。何が起こるか」

「何が起こるんですか?」

そうマゼランが不安そうに言うと、明智は語った。

「連続殺人よ。警察の手の届かない場所で、謎の犯人が次々に仲間たちを毒牙にかける。姿なき殺人者に立ち向かう孤高の名探偵・・・」

マゼラン、唖然顔で「そんな事が毎年?」

明智部長はノリノリで「何故か起きないのよね。今年はどうかなぁ」



甲板の向うでは、絵に描いたような海賊服を着た男子が、女子達に片っ端から声をかけている。

「ねえ君、魔法学部の子? 俺とお茶しない? 魔法少女の格好とか、めっちゃ似合いそう」

「君、人文学部? 御嬢様オーラがハンパ無いっちゅーか」


そんな彼を不審そうな目で見ながら、ライナは「あれ誰?」

金田は解説した。

「海賊学部のドニファンだよ。やたら軽い奴で、モテたくて海賊を志望したとか言ってるよ」

「海賊って、そんなにモテるの?」

そうリンナも不審そうに言うと、マゼランは「港港に女ありとか言うからなぁ」

「けど、それって風俗女だよね?」とルナも不審そうに・・・。



そんな中、大袈裟な飾りのついた魔法の杖を持った女子が、三人の手下らしき女子と盛り上がりながら、向うから歩いて来る。

その集団に気付いたライナたち、慌て声で「私たち、ちょっと野暮用が・・・」

チャンダは「何かマズイ事でも?」


そんな彼女たちに、ボスらしきその女子が気付き、声をかける。

「あら、ライナさんたち御機嫌よう」

ライナたち三人は、思いっきり嫌そうな表情で「こんにちは、アメリアさん」

「クラスのみんなを差し置いて、人文学部の男子に媚びてるって訳かしら? 島では魔法の才能が物を言いますものね」

そんな嫌味全開な彼女を見て、マゼランは「何? あれ」

ライナは溜息混じり声で「うちのクラスのトップですよ」


「向うでボロが出ると命に関わりますから、何ならここで差を見せつけてあげてもよろしくてよ」

いきなり挑発モードの、そのアメリアという女子。

周囲の魔法学部の男子が止めに入る。

「止しなよ。こんな所で」

「騒ぎを起こすのはマズいってば」

「男子は引っ込んでいてくれるかしら」と聞く耳を持たないアメリア。

そして・・・・。


「ファイヤーボール!」

アメリアが杖を掲げて産み出す炎の塊を、三人が水魔法で打ち消す。

「そんなの船の上で使ったら、船火事になるよ」

そう魔法学部の男子たちが言うと、フェリペも「そうだよ。父上なんか、船の上で炎の魔剣を使って、船火事になりかけて大変だったって聞いたよ」

マゼラン、困り顔で「あの、フェリペ様。こんな所でエンリ様の恥を拡散するというのも、どうかと思いますけど」



その頃、ポルタ城の執務室では・・・・・・。

エンリがくしゃみをしていた。



サバイバル実習の船の上では、アメリアのライナたちへの喧嘩腰が続いている。

「また三人がかりですの? 群れなきゃ何も出来ませんのね」

「子分引き連れて群れてるクィーンが言う事じゃ無いと思うよ」とあきれ顔で意見を言う魔法学部の男子たち。

「あなた達、女子会至上主義を軽んじると、痛い目を見ますわよ」

そんなアメリアの謎の脅し文句に、一人の男子は「俺たち関係無いし」

もう一人の男子も「百合豚でもないし」



そこに介入する別の二人組。

ボスらしい方は、目つきの怖そうなオバサン顔の巨乳美女。露出大目な海賊服を纏っている。

そしてアメリアもライナ達も無視して、いきなりフェリペとマゼランに「おや、そこに居るのは五歳のお子ちゃまの海賊ごっこ団かい?」


「マゼラン、僕、このおばさん嫌い」

そうフェリペが言うと、彼女は「嫌いで結構。こちとら先祖代々の由緒を受け継ぐマージョ海賊団さね。たまたま親が皇帝だってだけで母親のお腹から出て来る以外に何の苦労も知らないお坊ちゃんとは訳が違うんだからね」

「それ、さっきの先祖代々由緒自慢と矛盾してると思うが」

そう魔法学部の男子の一人が言うと、もう一人の男子も「ホームページに系図を乗せたのが本人と無関係な親の七光りだと言いながら、祖父が悪者で妖怪だから抹殺する宣伝映画を作ってやったぞとか言ってる、どこかの政治屋みたい」


「たった十人の弱小集団に、格の違いというのを見せつけてやろうじゃないか。ワルサー、やっておしまい」

そうマージョと名乗る女子学生が言うと、頭の悪そうなマッチョな子分が、マッチョポーズの胸の筋肉でシャツを裂く

マージョはワルサーの後頭部をハリセンで叩く。

「そのシャツ代誰が払うんだい!」


そんなマージョたちに、チャンダが「ってか、他は居ないの?」

マージョは「うちは少数精鋭なんだよ」

「さっき、だった十人とか言ってたよね?」とフェリペが突っ込む。



やがて、人文学部のトップを称するロゼが、三人の取り巻きを引き連れて介入し、マージョと言い争いを始める。

互いに対する悪口は、相手の学部に対する悪口となり、人文学部と海賊学部の争いに発展。

魔法学部の学生たちが迷惑顔で遠巻きにする中、無視されていたアメリアが介入し、どっちの味方かと問われて双方から罵倒され、双方に罵倒で返す。

マージョとロゼのアメリアへの罵倒は、魔法学部への罵倒となり、三つの学部の言い争いとなって、収拾がつかなくなる。


海賊学部のビスコが、ドニファンに「止めなくていいのか?」

ドニファンは「俺、野暮用があるんでな。それにお互い、そんな柄じゃないだろ?」

マゼランが止めようとするが火に油。


マゼランとチャンダは教授たちに仲裁を求めようと、船室を探すと、食堂で酒盛り中の教授たちは、全員酔っぱらい状態。

「どうにかして下さいよ」

そう困り顔で言うマゼランに、教授たちは「心配するな。毎年の事だ。そのうち収まる」


学生たちの言い争いのレベルはどんどん低くなり、やがて自然解散となった。

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