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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第417話 奴隷とアンデッド

王族に男児の出産を禁じ、生まれた全ての女子をドラゴンの花嫁とし、そして得た多くのドラゴンを戦力として征服を進め、支配下の部族に圧政を敷いたガナルガ帝国のシェムウンド王。

だが、エンリ王子の指揮するコンゴ植民地を中心とした抵抗軍により、ガナルガ軍は破れ、その拠点砦はムインド王子によって掌握され、聖地と呼ばれた最後の拠点で、ついにシェムウンドは屈した。

王家の断絶をも厭わぬその暴挙の目的は、南方大陸を統一した力でユーロを征服する事で、ユーロ人に支配される未来を変えようとするものだった。

だが、その大陸の悲惨な未来は、ズールーの預言者ベルベドによって既に変えられていた事を知る。

王として即位したムインドにより、ガナルガは帝国としての体制を終えた。



ガナルガ帝国とその支配下にあった部族に居た奴隷たちは全て解放され、各部族は独立した。

そして、その各部族の代表が参加する議会の設立が決まったが、問題は、その議会をどこに設置するか・・・である。

ガナルガ戦争でコンゴ植民市に集結した族長たちが、市の庁舎で会議を行い、会議は紛糾した。


仲裁役として議会設立の準備会議に招かれたエンリは、言い争う族長たちに、怪訝顔で問う。

「ガナルガの都では無いのですか?」

「解放したのはサンシャによる抵抗戦争ですよ」と、サンシャ族の族長カシエムベ。

「その抵抗を指導したムインド王子は、新しいガナルガ王です」と、議長役のムインドの代わりにガナルガ族の立場を主張する彼の叔父。


エンリは溜息をつき、妥協案を出した。

「こういう場合は、中立の第三者がまとめ役を請け負うと、うまくいくのでは?・・・」

マサイが「なら、最強の戦士団を擁する我々マサイ族だ」

ピグミーが「いや、一番活躍したのは密林戦最強の我々ピグミー族」

「いや、我々ナベ族が・・・」と、ナベ族の族長。

「フタ族にお任せ下さい」と、フタ族の族長が・・・。


そんな中で、もう一人の仲裁役として大陸南部から招かれていたベルベドが言った。

「あの、コンゴ植民都市に・・・というのはどうでしょうか? ポルタ人はこの大陸のどの部族にも属していない。そのポルタ人にこの土地を貸すのは、あなた方の議会の意志という事になる。それに彼等は、議会というものについて経験がある」


「お願いできますか?」

そう族長たちに言われ、エンリは頷き、そして言った。

「解りました。我々コンゴ植民都市が今後のためにも・・・」

「・・・・・・」

残念な空気が漂う中、エンリは顔を赤くして「聞かなかった事にして下さい」



議会の設置場所の問題が片付くと、部族連合の最高指導者が必要という事になり、全会一致でムインド王が選任された。

だが指導者という、かつての王とは異なる立場の何たるかを、彼はまだ明確にイメージ出来てはいない。


ムインドはエンリに問う。

「それで、我々はこの議会で我々の方針を決め、民を指導するという事なのですよね? そして指導者と民は対等たるべき。ここにはもう、かつてのガナルガ王のような支配者は居ないのだと・・・。けれども指導される側は、下位に置かれたような気分で反発する。立場の違う者どうしの争いを裁かなくてはいけないが、裁きはどう裁いても一方に不満が残ります」

エンリはその問いに答えて「言葉で明記した法律を裁きの基準として、あらかじめ決めておくのですよ」

「その法律は誰が作るのですか」

そうムインドが問うと、エンリは「議会が決めるんです」


ムインドと共に議会に参加する各部族の族長たちは、焦り顔で口々に言った。

「大変じゃないですか? 議会って飲みニケーションの場では無かったのですか?」

「盛り蕎麦やかけ蕎麦を食べながらお花見するとか・・・」

「ビキニダンスのお姉さんがサービスしてくれて口移しでチップを・・・」

「お昼寝の場所だと聞いたのですが・・・」

「保革ヤジ合戦という年末イベントとか・・・」

「小泉という座長が運営するどつき漫才のお笑い劇場だと・・・」

「土井というオバサンが牛の群れを率いて行進するのでは・・・」

残念な空気が漂う。



部族連合が体制として動き始める。

早速、連合参加部族からの苦情やらが、指導者としてのムインド王の元に殺到した。

頭を抱えるムインドが、エンリ王子の所に来て、愚痴祭り状態。


「指導される側の不満って、文句を言う輩も問題があると思うのですが」

そうムインドが言うと、エンリは「確かにね。問題は、その不満の理由ですよ。ただの感情ではなく、合理的な理由があるか・・・という事です」

「自分たちの了承を得なければやらないと約束したのに、約束を破った・・・と言ってる人達が居るのですが、その了承とは、お気持ちの問題ですよね?」とムインド。

エンリはそれに答えて「それは約束する事自体が無責任です。その社会全体に関わる問題で、誰か特定の人の恣意的なお気持ちに決定権を委ねる・・・などというのは最悪です」

「自分達は漁民に寄り添う正義の味方・・・とか言ってますけど」

そうムインドが言うと、エンリは「風評被害で漁民を苦しめる人たちは、味方では無く敵ですけどね。つまりは社会全体の足を引っ張って全員が害を受ければ、ライバルによる政権が恥をかく事で権力を奪える。更にそれによって、その国を害そうと狙う敵国と利害が一致する事で、より大きな声を出せる」


ムインドは「それって全員の敵って事じゃ無いですか? それで害を受ける人たちは、彼等を放置するのですか?」

「批判はするさ。けど、全体を害する人は、それによって繋がる敵国とかから特別な利益を得るため、声は大きい。普通の人は指導者に任せて、不都合があれば害を成す事を要求した人ではなく、指導者に責任を問えばいいと思っている。過去の押し売り貿易への屈服や、捏造歴史に対する謝罪のような国に害を成した政策を"消費者の利益"だの"女性を癒すため"だのと言って要求した人達が、自分達の要求を受け入れた与党の罪だと言うのも、それですよ」とエンリは解説する。

ムインドは溜息をつくと「指導者というのは損な役回りだというのは解りました。けど、それだとそのうち、やり手が居なくなるんじゃないですか?」

エンリは言った。

「何時か、そういう日が来るのかも知れませんね。それでもやりたい人というのは、よほどの使命感のある人か、それで利益を得たい人。更にその延長でもっと最悪なのが、悪意を以てその国を害する他国と裏で繋がって、彼等の憎悪を代弁する人ですよ。悪意ある他国は、そういう味方をどんどん確保して裏から相手国を支配する・・・というのが、新たな戦争の形になるでしょうね。所謂ハイブリット戦争という奴ですよ」


ムインドは言った。

「王としての徳というものを、みんな求めたりしますよね? 指導される側を抑圧しない自制心とか」

「東の中華やその影響を強く受けた半島国では、徳治主義という言葉を語ります。そして周囲がその人を人徳のある上位者と認める発言する訳ですが、本当にその人に徳があるかと言うと、彼は脅しや騙しで皆にそう言わせようと強制するのですよ」とエンリが語る。

「それって八百長じゃないんですか?」

そうムインドが言うと、エンリは「はい、八百長です。そして、そう期待通りに言わない正直者に対しては、"面子を潰された"と居直って攻撃する事が当たり前の文化だったりする。徳というのも、明確に社会に益を成したというのでは無く、専門学校を許可された人が知り合いだったとか、大臣の顔に絆創膏とか、どう社会に悪影響を及ぼしたのかよく解らない案件で政治家を叩いたりする人たちが居る」


「よく解らないけど、道徳心という事ですよね?」

ムインドがそう言うと、エンリは「昔の中華の宋という国で、国家を建て直そうと改革を志した王安石という大臣が居た。彼は反対派により潰されたが、反対派の主張は彼が"親の喪中に出勤したのが親不孝だから彼は不道徳"だ・・・などいう理由だった。それで改革は挫折し、国は滅亡しました」

「彼は本当に不道徳だったのですか?」とムインド。

「道徳の規準なんて様々で、意味の無い道徳論なんていくらでも語れる。それに、民は為政者の内面までは知らないから、敵対する人は好き勝手言う。結局は声の大きい人がいかに騙すか・・・という話になる。だから、内面的人格を信じるのでは無く、彼の語る理念と実績を客観的に判断し、人ではなく理念そのものを支持する・・・という事では無いかと思いますよ」

そう解説するエンリに、ムインドは「けど、王は褒められてナンボですよね? あなただって、そうでは無いのですか?」


「褒められる・・・ですか?」

エンリはそう言って笑い、そして言った。

「我が国の民は私をこう呼びます。変態お魚王子・・・とね」



エンリは、イギリス東インド会社で奴隷貿易に従事していたポックリ男爵を審問にかけた。


「奴隷取引がポルタの法律に触れるって、解ってるよね?」

そうエンリが問うと、ポックリは「取引しているのはイギリスの会社で、ポルタの法律の対象外です」

「責任は会社にあって、自分は会社の命令に従っただけ・・・ってか?」

そう言ってエンリが溜息をつくと、ポックリは言った。

「それに需要がありますからね」

「西方大陸の開発だろ? 鉱山とか・・・」とエンリ。

するとポックリは「イギリス国内の鉱山でも・・・ですよ」


エンリ唖然。

そして「いや、ポルタほどではないにしても、あんな小さな島に、どんな未開発の鉱石があると?」

「石炭ですよ」と答えるポックリ男爵。

「何だそりゃ」

ポックリは更に続けて「地下に大量の炭が埋ってるんです」

「ちょっと待て。そんなのを製鉄に使ったら・・・。鉄は武器を作るのに必用だが、製鉄には木炭を使う。だから鉄を大量に生産しようとすれば、山の木を伐り尽くしてしまう。その炭が地下から掘り出せたら、いくらでも鉄を作って武器を作り放題じゃないか」

エンリがそう言うと、ポックリは「それだけじゃないです。その石炭の熱を動力に変換する研究が進んでいます」



エンリは通信魔道具で、ポルタ大学の職工学部に、イギリスで使われ始めたという石炭についての調査と、それを使う製鉄、そして動力の研究を命じた。

そしてカルロを呼んだ。

「イギリスで行われている研究の具体的中身について知りたい。特に、石炭を使った動力についてだ。そんなものを船の動力に使われたら、海上の勢力図が一変するからな」


カルロはイギリスの動向を探るため、コンゴ市のポルタ商人の船に便乗して、単身イギリスに渡った。



エンリはアーサーを連れてベルベドの所へ・・・。


エンリがズンビーについて尋ねると、ベルベドは解説した。

「奴隷の需要の代替としてのズンビーですか? 実は私たちの所でも使用を始めていまして。あれはあれは死という概念が生み出すアンデッドで、死体の姿をしていますが、命令を遂行するだけの知能はありますから」

「我々の魔導士でも召喚と操作は可能でしょうか?」

そうアーサーが訊ねると、ベルベドは「修行は必要になりますが、まさかポルタまで教えに来いとか?・・・・」

「ダメですか?」

アーサーがそうがっかり顔で言うと、ベルベドは「なら、弟子を紹介しましょう」



ベルベドとニカウが帰国するのに伴い、エンリはアーサーとリラを連れて、ファフのドラゴンに乗ってケープへ・・・。


ズールーの村で、ベルベドはエンリたちに彼の弟子を引き合わせた。

「彼が弟子のマイケルです」

若い男性で、かなりのイケメンだ。

「彼はズンビーの召喚が得意ですが、やり方が独特でしてね」とベルベド。

「どんなやり方ですか?」

そうアーサーが問うと「歌って踊るんです」と彼は答える。

「・・・・・・」

エンリたちが戸惑っていると、マイケルは「やって見せましょう」



マイケルはエンリたちとともに、三人の巫女を連れて集落の外へ。

エンリは巫女たちを指して「この人達は?」

「ただの伴奏要員です」とマイケルは答える。


草を刈った草原の一画に魔法陣を描き、その中央にマイケルが立つ。

三人の巫女がマイケルを取り囲むように座り、各自楽器を持つ。太鼓と笛、そしてカリンバという長さの異なる竹爪を固定した物。

巫女たちが楽器を奏でる。ビートの効いた短いメロディーを乗せたリズムの繰り返し。


マイケルがリズムに合わせて呪文を唱える。

「冥府の精霊、死者住まう地底に在りし実在たちよ。太陽の輝く地上に住まうを、光の住人たる生者の名により許可せん。汝ら死の眷属。来たりて法の定めに従え。法の名はスリラー」


呪文は次第にメロディーを帯び、歌へと変化し、彼の動作は踊りとなる。

踊りながら周囲の地上を次々に指し示すと、そこに小さな魔法陣が現れ、その中央の地中から手が突き出る。

そして死体の姿のアンデッドとして地上に這い出る。

次々に這い出たズンビーたちはマイケルの動きに合わせて踊り、マイケルは踊りながら魔法陣を出る。そして、踊る多数のズンビーを引き連れて行列を成した。



翌朝、エンリがリラと散歩がてら、集落を出ると、あちこちで畑仕事をしているズンビーたちを見かけた。


ポルタ大学魔法学部の教授としての任命手続きの書類を書くマイケル。

そんな彼を見ながら、エンリはアーサーに「彼が召喚魔法科で教壇に立つとして、あの踊りを学生たちにやらせるのか?」

「術式を分析して、普通のやり方に改造する事になると思いますよ」とアーサーが答える。


その時、マイケルは書類を見て、怪訝顔でエンリに訊ねた。

「魔法学部・・・って、芸能学部ではなかったのですか?」

「・・・・・」

困り顔のエンリとアーサー。脇で聞いていたベルベドも困り顔。

残念な空気が漂う。



「そういえばここでも鉱山の採掘をやっていますよね? そこでズンビーは?・・・」

そうエンリが訊ねると、ベルベドは「使ってませんよ」

「・・・・・」

「最初は鉱山労働をやらせたのですが、何しろ腐敗臭がきついですから、坑道の閉鎖された空間ではあの臭いが籠って、普通の人間には耐えられないんです」とベルベドは説明する。

「全部ズンビーにやらせる訳にはいかないの?」

そうエンリが言うと、ベルベドは「金鉱掘りは鉱石を見分ける技術者の仕事で、そもそも鉱山奴隷の仕事じゃないですし、ズンビーもそこまで知能は高くないです。せいぜい崩落防止の木組みとか、鉱石の運搬とか湧き水の排水とかですね」

マイケルも書類を書きながら「そういえば、どこぞの半島国が、隣国のサド島という所の鉱山の金鉱掘りを、自分たちの祖先を強制連行して苦役を強制して奴隷化した戦争犯罪だとか主張して、捏造と判明して大恥をかいていましたね。あそこでは金鉱掘りは金堀大工という職業名で、普通に給料を貰う労働者だと指摘されてましたっけ」

「・・・・・・・」


「どうしますか? 西方大陸の鉱山の件」

そうアーサーが言うと、エンリは「別の手を考えよう。合理的な鉱山経営のやり方も含めて、検討が必要だよ」

また、しばらくアップロードを休みます。再開は後ほど・・・・・・。

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