第410話 密林の攻防
南方大陸で征服戦争を続けるガナルガ帝国。
その標的となったコンゴ植民市を守るため、帝国と戦うエンリ王子は、帝国の王子として国を追われ、サンシャ族を率いてガナルガと戦うムインド王子に合流を申し込む。
サンシャ族の村を守るため、その申し出を断るムインド王子だったが、まもなくガナルガ軍の襲撃により、サンシャの村は焼かれた。
その戦いの中、味方となるべくドラゴンとともに駆け付けたのは、ズールー族のベルベドだった。
姿を見せたドラゴンから降り立った老人ベルベド。
もう一頭のドラゴンからも若者が降り立つ。
「ニカウさんも来てくれたんですね」
二人を迎えるエンリに、ベルベドは「この大陸の運命を変える者の存在を感じて、ここに来ました」
ガナルガ王と戦っていたムインド王子が戻って来る。
「御無事でしたか」
そうエンリが言うと、ムインドは「あの弱虫は逃げて行きましたよ」
「弱虫・・・ねぇ」と、エンリはムインドと同様の笏で互角に戦ったガナルガ王を思い出す。
そんなムインド王子に、ベルベドが話しかけた。
「保護者たる叔父に裏切られた、あなたの悲しみは理解出来ます。ですが、彼にはその理由があったのではないですか?」
ムインドは怪訝顔で「あなたは誰ですか?」
「ズールーの預言者、ベルベドです。私は彼を止めに来たのです」
そう名乗る目の前の老人に、ムインドはむっとした顔で「後継者を恐れて赤ん坊を殺す王に、どんな理由があるというのですか?」
そう声を荒げる彼に、ミキティは窘めるように言った。
「落ち着きなさい、ムインド。彼は南から来た第二の味方です」
「それより・・・」とエンリは言って、砦の村に視線を向ける。
そこには、焼け落ちた村を見て茫然とする部族民たちが居た。
住む家を失った村人たちは、気落ちした声で口々に「これから、どうしようか」
そんな彼等にエンリは「とりあえず、植民市と合流しませんか?」
「あそこまで、この大勢で歩いて移動するのですか? 体の弱い老人や子供も居ますよ」
そうムインドが言うと、エンリは「大丈夫。使わなかった転送魔道具で、部族民たちを送り込む事が出来ます」
コンゴ植民地に退避する事になったサンシャ族の人たちが、焼け跡から荷物を掘り出して、広場に集まる。
何度かに分けて多くの部族民をコンゴの植民都市へ転送し、残りは四頭のドラゴンで輸送。
最後にエンリたちがファフに乗ってコンゴに着くと、アーサーたちや市長、そしてドレイクたちが、既に着いていたサンシャの部族民たちとともに迎えた。
とりあえず難民として、サンシャ族の人たちが入るテントが設営される中、その様子を見守るエンリは隣に居る市長に言った。
「そういえば、彼等の食料は大丈夫なのかな?」
脇に居るサンシャの族長が「当面の蓄えを持って来てあります」
「それは助かる」とエンリ。
族長が示した、何かが詰まった大きな麻袋。
中を見ると、干した虫の保存食がぎっしり・・・・・・・・・。
移住体制作りが一段落すると、エンリとその部下、そしてイギリス人や現地人の主立った人たちを集めて作戦会議。
「ところで、これまでの戦いは、どうだったんだ?」
そうエンリが問うと、アーサーが「しばらく幻惑魔法で迷わせたんですが、そのうち奴等、ドラゴンで空から誘導する手を使って軍を進めて来たんで、迎え撃とうと密林で反撃を始めた所ですよ」
ドレイクの部下たちが口々に言う。
「あんなに苦戦したのは初めてだ」
「十人しか仕留められなかった」
「俺なんか八人だぞ」
困り顔の会議参加者たちに、エンリは「ああいう人たちを基準にするのは止めた方がいいと思うよ」
だが、苦戦したという話は、他からも次々に出て来る。
ジロキチが「草が茂って見通しの効かない中を、いきなり襲って来る。殺気を感じる事の出来ない奴は危険だぞ」
タルタが「奴らは毒矢を使うからな。ニケさんの解毒剤が無ければ危なかったぞ」
ニケが「上から矢が降って来るわよ。拳銃で反撃するけど、高木の間を飛び回って移動するのよ」
そんな話を聞くと、ピグミーが「それは俺の同族の戦士たちだな」
「どんな奴らなんだ?」
そうエンリが問うと、ピグミーは「十年前に"白い類人猿"と呼ばれた戦士から教わった技だ」
「白い・・・って、もしかしてユーロ人?」
そうアーサーが言うと、ピグミーは「赤ん坊の頃に猿に拾われて、密林の中で自在に戦う術を身に着けたそうだ」
ジロキチが「足の指で木の枝を掴むとか?」
エンリが困り顔で「それはお前の師匠だけ」
「けど十年前って、俺たちが大陸を迂回するルートを見つける前だぞ」
そうタルタが言うと、ニケが「もしかして海賊バスコの関係者の子供?」
エンリは更に困り顔で「止そう。話が果てしなく横道に逸れるような気がする」
カルロが「それに、どこかで聞いたような・・・・・」
ニケが「もしかしてその人の名前って、ターザン・・・」
「だからその話は終わり」と強制終了を宣告するエンリ王子。
ピグミーとマサイは、現地人戦士に密林戦の訓練を始めた。
敵の進軍を遅らせる攪乱のため、密林のあちこちに転移座標を仕掛けた。
エンリ王子たちとドレイク直属の海賊兵、そしてムインド王子の手勢の精鋭の数十人で襲撃を繰り返す中、じりじりと軍を進めるガナルガ勢。
現地人戦士たちが焦り出し、作戦会議で彼等は口々に言った。
「祖霊の像はまだ届きませんか?」
「何しろ、象が背負って運んでますんで」
そうエンリが言うと、現地人たちは互いに顔を見合せて「象が像を・・・」
エンリは困り顔で「それ、もうやってるから」
「それよりピグミー。密林戦の訓練はどうなってる?」
そうエンリが問うと、ピグミーは「かなり形になって来ましたね。さすがに高木を飛び回るまではいきませんが」
「けど、元々現地人戦士はある程度は密林戦には慣れています。それがこれだけ居る。討って出ましょう」
そうムインドが強気論を言うと、マサイが「それは止めた方がいい。鉄砲を持った兵が密集して一斉射撃するんです」
「けど、見通しがきかない密林で、狙いは定まるのか?」とエンリ。
マサイは「気配を察知して撃って来るんですよ」
するとエンリが言った。
「それなら策がある。イギリス人が奴らに売っていたのって、旧式の火縄を使う銃だよね?」
密林の中を進軍するガナルガ軍に先行して、斥候が密林の様子を探っている。
そんな様子を送ってきた烏の使い魔からの情報を水晶玉に映すアーサー。
「あれだと待ち伏せは困難ですね」
ピグミーは「大丈夫です。あのあたりの木々の並びは既に把握しています」
転送座標の上を斥候が通り過ぎ、本隊がその脇に差し掛かる。
「よし、作戦開始」とエンリが号令。
ドレイク隊がガナルガ本隊先頭部至近の位置に出現。
ドレイクを先頭に突撃するマッチョたちが重量級の武器を振るって敵兵を蹴散らす。
その後方に居た敵兵たちがこれに対処しようと押し寄せた、そのただ中に、上空からファフのドラゴンに乗ったエンリたちが舞い降り、ジロキチを先頭に斬りまくって攪乱。
敵の弓兵たちがこれを上から狙おうと高木を駈け上った時、エンリは左手でニケの襟首を掴み、右手に持った風の巨人剣を地面に突き刺して、これを一気に伸ばして高木の上へ。
ニケは周囲の高木を登ってくる敵弓兵を短銃で連射。
エンリは高木の枝の上に乗ると、巨人剣を一旦縮め、水平に構え直して自分との一体化の呪句を唱え、風の剣との一体化で得た素早さスキルで巨人剣を振るって離れた所に居る敵を次々に仕留める。
樹上の敵が削られる中、ピグミー率いる弓兵が木に登って高所での優位を確保。
混乱するガナルガ軍が慌てて隊列を立て直そうとする中、幾つもの転送座標で味方の現地人戦士たちが次々に送り込まれた。
樹上ではピグミーが、地上ではマサイとムインド王子が先頭に立って襲撃に参加。密林の戦いは完全な乱戦状態となった。
司令部に戻ったエンリにアーサーが状況を報告。
「この乱戦なら奴等、鉄砲は使えませんよね? 下手に撃てば味方に当たる」
そう楽観的な事を言うアーサーに、エンリは「そうだといいんだが」
その時、密林に無数の銃声が響いた。
密集して整列したガナルガ兵が草藪の向うから乱戦の場に向けて、狙いもつけずに水平に銃を撃ち、射線方向に銃弾の雨。
「奴等、味方の巻き添え覚悟で撃ってきましたよ」と慌て顔のアーサー。
エンリは「とにかくリラ、出番だ」
リラは得意の降雨魔法の呪文を唱え、熱帯特有の滝のような雨が、銃弾を撃ち出す火薬に点火する火縄を濡らして点火不能となる。
頼みの銃が使用不能になったガナルガ軍は、撤退の太鼓を鳴らした。
「有利なうちに、出来るだけ敵を削りましょう」とアーサー。
「よし、追撃だ」とエンリは号令をかける。
だが、退却する敵を味方兵たちが追おうとした時、十二頭の敵のドラゴンが出現した。
これに対してミキティとファフ、リラのウォータードラゴン、そしてベルベドのカメレオンのドラゴンとニカウのトカゲのドラゴンが立ち向かい、壮絶なドラゴンどうしの集団戦となる。
エンリはリラのドラゴンの頭上で炎の巨人剣を振るう。
だが、数に余裕のあるガナルガ側のドラゴンの数体が、追撃しようとする兵たちに炎を吐いて蹴散らしにかかる。
その隙にガナルガ軍は退却した。




