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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
408/552

第408話 抵抗の部族

複数のドラゴンと、奴隷貿易で手に入れた鉄砲による軍隊で征服戦争を続ける、南方大陸のガナルガ帝国。

その標的となったコンゴ植民市を守るため、その支配から逃れた現地人たちと共に、ガナルガ帝国と戦うエンリ王子たち。

エンリはリラ・タマ・カルロと共に、ファフのドラゴンでガナルガの砦へ飛び、押収された現地人各部族の祖霊の像の奪還に成功した。

そして、抵抗部族サンシャを指導する者の実体を知った。

彼の名はムインド。ガナルガ王の命に反して男児として生まれ、けして死なない体を持つという。



エンリたちはファフのドラゴンの背に乗り、現地人の案内で、ガルナダ帝国に抵抗を続けているというサンシャ族の砦に向かった。


「強い部族なのか?」

そうエンリが訊ねると、案内人は「勢力としては他の部族と変わらないけど、英雄が現れて彼等を指揮しているそうです」

「その英雄がムインド王子って訳か」とエンリ。

「族長も居るんですよね?」

そうリラが言うと、案内人は「カシエムベという族長が居ますが、追い出そうとして返り討ちに遭ったそうです」



「あれがサンシャ族の砦です」

密林の中に頑丈そうな柵で囲まれた村がある。

そしてその村は・・・どうやら戦いの最中にあった。

「戦況はどうなってるかな?」とエンリ。

カルロが「密林の中は上空からではよく解らないけど、敵に三体のドラゴンが居ますね」


エンリは深刻そうな顔で「まずいな。ファフ、加勢してやれ。俺たちは下に降りて村の奴等に加勢するぞ」

「けど、向うのドラゴンは三体いますよ」とカルロ。

「俺が炎の魔剣で加勢する」

そうエンリが言うと、リラも「私もウォータードラゴンで出ます」

「だったら私とカルロで地上戦ね」とタマ。

エンリは「向うは密林戦に慣れているぞ」

「敵の姿は下草で見えにくいですからね。だったらこっちは隠身で姿を消して移動しながら戦いましょう」とカルロ。



カルロとタマが密林に降り、姿を消して戦闘のただ中へ。

敵を見つけてカルロがナイフで切り付け、タマが攻撃魔法を放つ。


ファフが三体のドラゴンの中に殴り込みをかけ、一体に体当たりして一体に炎を吐く。

もう一体に、リラのウォータードラゴンに乗ったエンリが炎の巨人剣で斬り付け、手傷を負わせた。

敵のドラゴンが反撃の体勢をとり、吐いた炎をリラが防御魔法で防ぐ。

エンリはファフとリラに「無理をするな。距離をとってここから引き離すんだ」


その時、一体のドラゴンが現れ、雷魔法で敵のドラゴンの一体に深手を負わせた。

二体のドラゴンが深手を負ったドラゴンを庇って撤退する。



雷魔法を放ったドラゴンが、エンリに話しかけた。

「地上の敵軍も引きました。あなたは北方から来た味方ですね?」


エンリたちは名乗る。

「エンリだ」

「リラです」

「ファフだよ」

そしてドラゴンも名乗った。

「私はムキティ。ここの指導者を守護する者です」



エンリたちがムキティとともに村の砦に入る。

迎撃に出ていた戦士たちも、戦場の後始末を終えて村に帰還した。

彼等の指令役らしき鎧を着た現地人の若者と数人の配下が、縛られたカルロとタマを連れ、案内役として同行した現地人が困り顔でついて来る。

「あいつら、何やったの?」

そうエンリが訊ねると、案内人は「魔法で身を隠して戦場に居たのをムインド王子に見つかって、怪しいからと・・・。エンリさんからも王子に何か言ってやって下さい」


そんなエンリを鎧の若者が見咎め、近付いて彼に言った。

「あなたが彼等の親玉か?」

エンリに疑いの視線を向ける鎧の若者に、ムキティが「ムインド王子、彼はイヤングラ姫が預言した北方から来た第一の味方です」

「彼が?」

そう驚き顔を発すると、ムインドと呼ばれた若者はエンリに「あなたは何者ですか?」


エンリは名乗る。

「ポルタという国の王太子、エンリです。あなたがムインド王子ですね?」

「そうです。では私と勝負しましょう」

いきなりそんな事を言い出すムインドに、エンリは唖然顔で「何で?」


リラはあきれ顔で「王子様の実力を見たいという、バトルアニメで定番のアレではないかと」

エンリもあきれ顔で「そういうマッチョは要らないんだけどなぁ」

そんなエンリにカルロは言った。

「王子、気を付けた方がいいですよ。彼はあなたの同類です」



ムインドは笏を掲げて「雷の神よ助力あれ」と叫ぶ。

笏から雷撃が放たれるが、エンリはとっさに水の魔剣を抜いて地面に突き立て、それが避雷針となって雷気を地面に逃がす。

「炎の神よ助力あれ」

ムインドの笏から噴き出す炎を、エンリは氷の魔剣で受け止める。


ムインドは息を弾ませて「なかなかやりますね」

「こういうの止めませんか」とエンリは困り顔。

「遠慮は要りません。殺す気で来なさい」

そうドヤ顔で言うムインドに、エンリは「いや、殺す気ったって・・・」



「戦の神よ助力あれ」

そうムインドが唱え、笏が手斧に変形する。

エンリは風の魔剣を抜いて、自分との一体化の呪句を唱える。

手斧を振るうムインドは、風の魔剣によるエンリの素早い動きに余裕でついて来る。

物凄い速さで打ち込みの応酬。


斧を振るいながらムインドは、エンリに「あなた、まだ手を抜いてますね? 本気で殺す気で来ないと、あなたが死にますよ」

「いや、殺してどーすんだと」

そう困り顔で言うエンリに、ムインドは「大丈夫、私は死にまっしぇん」

エンリは更なる困り顔で「それ、恋人に死なれたトラウマを抱える女性にプロポーズした男がトラックの前に飛び出して見せて自分の強運をアピールする時の台詞ですよ」

「何の話ですか?」とムインド。


その時、エンリはムインドの手斧を脇腹に受けた。

(やられた。早く水の魔剣で治癒を)

エンリはそう思考し、そして彼が水の剣に切り替えるために、風の剣を鞘に戻そうとした時、ムインドは手斧を笏の姿に戻して叫んだ。

「命の神よ助力あれ」

エンリの脇腹の傷が、たちまち治癒した。



「その笏って・・・・・」

そう驚き顔で言うエンリに、ムインドは言った。

「チョンダの笏。王の証です。私はこれを手に持って生まれたのだそうで、謂わば自分の体の一部。これで、あらゆる神の助力を受ける事が出来ます。あなたの剣もそうなのですよね?」

エンリは思った。

(魔剣は精霊の世界から力を引き出すものなんだが、それを神の加護と解釈したのだろうな)


エンリは「その笏があなたの力なのですね?」とムインドに・・・。

「そうです」

そうムインドが答えると、エンリは「けどそれが神の助力って事は、それは神の力であって、自分自身の力では無いという事では?」

残念な空気の中、ムインドは「まままままあ、そういう難しい話は後にして。歓迎の宴が用意できています」



宴が開かれ、戦士たちも参加して、わいわいやる。

そんな中、エンリは隣の席に居るムインドに問うた。

「あなたの反乱の目的は何ですか? ガナルガ王があなたを殺そうとしたから、生き残るために・・・ですか?」


「彼は弱虫です。この笏は王の証。それを手に持って私は生まれた」

笏を示してそう語るムインドに、エンリは「彼は何故、あなたを殺そうとするのですか?」

「私が王位を奪うために彼を殺すとでも思ったのでしょうね。弱虫な彼に王としての資格は無い」とムインド。


エンリは「あなたは王になりたいのですか?」

「私は・・・」

そう言いかけるが、ムインドは続く言葉が出ない。

彼は思った。

(私は単に王の地位をあの男と取り合っているだけなのだろうか?)



エンリは話題を変える。

「ところで、北から来る味方と言ってましたよね?」

「母が預言したのです」

そう答えるムインドに、エンリは「どんな人なんですか?」

ムインドは「ドラゴンの花嫁ですよ。彼女を娶ったドラゴンが、あのムキティなのです」とムインド。


「この宴には参加していないようですね?」

エンリが周囲を見回して、そう言うと、ムインドは「これは戦士の宴ですから」

すると、エンリの隣に居たリラが「私は参加してはいけなかったのでしょうか?」

「あなたは魔法で戦う戦士ですよね?」とムインドはリラに・・・・・。


「第一の味方と言っていたようですが、彼女の預言では、私以外にも味方が来ると?」

そうエンリが問うと、ムインドは「南からと、すぐ近くから・・・・・」

「それは誰ですか?」とエンリが問うと、ムインドは言った。

「時が来れば解ると・・・・」

エンリは思った。

(南というのは、もしかしてベルベドさんの事じゃないのかな?)



エンリは話題を変え、その中でエンリは、ムインドに自分達の戦いへの助力を求めた。

だがムインドは・・・・。

「私はここを離れる訳にはいかないのです。ここの人たちは、私のせいで戦いに巻き込まれた。私が留守にすれば、彼等は皆殺しにされるでしょう」


一人の男性が酒を注ぎに来た。

「彼はここの族長のカシエムベです」

そう言ってムインドが彼を紹介すると、カシエムベは「王子に戦いを挑まれて、笏の炎で火だるまにされちゃいましてね」

「そりゃ災難でしたね」とエンリ。


族長は愚痴を言い始める。

「消そうとして川に入れば川の水が干上がる、水樽の水をかぶろうとすれば、底が抜けている。もう散々でしたよ」

「あなたが彼を追い出そうとしたって聞きましたけど」とエンリが突っ込む。

族長は「そうでしたっけ? まあ昔の話ですから。今は固い友情パワーで結ばれた仲でして」

「もしかして、男の友情を育むなら拳で語るのが一番・・・とか思ってます?」

そうエンリが言うと、族長は「タイマンの拳が熱いほど友情は深まります」

エンリは思った。

(典型的なヤンキー思考だな、おい)



部族の戦士が入れ替わり立ち代わり、ムインドに酒を注ぎに来る。

大きな杯で酒を飲み干し、戦士たちとわいわいやるムインド王子。


そんな戦士たちの中に、二人の見覚えのある男が居た。

やたら背の高い戦士と、やたら背の低い戦士。

「ピグミーとマサイじゃないか」

そうエンリが声をかけると、二人は「エンリ王子、アラビア以来ですね」と言って、酒瓶を持ってエンリの前に陣どる。


「知り合いですか?」

そうムインドが問うと、エンリは「以前やり合った相手ですよ」

「ならダチですね」とムインド。

「何ですか? そりゃ」

そうエンリが首を傾げると、ムインドは「タイマンやったらダチです」

エンリは「そういうヤンキー思考はいらないから。ってか、タイマンじやなくて聖櫃戦争なんだが」


そして・・・・・・。

その後の互いの冒険の話で盛り上がる、エンリとピグミーとマサイ。



その時、宴の輪の中で叫び声が響いた。

見ると、ムインドの胸に、深々と刃物が刺さっている。

エンリは魔剣を手にしつつ叫んだ。

「ムインド王子!」

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