第406話 ドラゴンの花嫁
複数のドラゴンを従え、イギリスとの奴隷貿易で手に入れた鉄砲による軍隊で周辺部族を征服し、更にイギリスのザンジ植民都市を焼いたガナルガ帝国。
その内情を探るべく、タマはガナルガを目指す途中、密林の動物たちを従えるライオンのパンジャと出会い、道案内のココが彼女と同行する事となった。
オウムのココの案内で森を行くタマ。
川を渡り丘を越えると、崖下に大きな川に沿った森を切り開いた平地に、防柵に囲まれて立ち並ぶ家並みが見えた。
その中央に、ひときわ大きな木造の宮殿。
そんな景色を見下ろし、ココは「あれがガナルガの都ですよ」
密林を抜けて正面門の前へと出るタマとココ。
門を守る兵士の足元を抜け、市街に潜り込む猫とオウム。
「それで、いろいろ情報を集めたいんだけれど」
タマがそう言うと、ココは「任せて下さい」
ココに連れられ、街外れの空地に行くと、小鳥が群れており、ネズミにトカゲに猫や犬も居る。その真ん中にココが降り立つ。
「みんな、聞いてくれ。パンジャ王からの命令だ。このタマさんの情報集めに協力して欲しい」
そうココが言うと、動物たちは口々に言う。
「パンジャ様が我等に・・・」
「久しぶりだな」
「それで何が知りたいんだ?」
タマが注文を出し、動物たちは街に散った。
やがてネズミに連れられて、一匹のヤギが来る。
「彼は宮殿で飼われているヤギで、いろいろ知ってるんで、連れて来ました」
そうネズミが言うと、ヤギが語った。
「あの、ドラゴンなんですけど、ここの王様に味方するのは、ドラゴンの花嫁を娶った奴等でしてね」
「つまりハニートラップ?」
そうタマが突っ込むと、ヤギは「いや、そういう訳では・・・・・・」
周囲で聞いていた動物たちも、あれこれ言う。
山犬が「優しくされて取り込まれて洗脳されてズブズブ関係に?」
「・・・」
烏が「"人間はドラゴンをヘイトしているように見えても、実は大部分が親ドラゴン派で、それは直接触れ合えば解る"と言われて真に受けて、スーパースター並みの熱烈歓迎でちやほやされて?・・・」
ヤギは困り顔で「いや、どこぞの半島国や大陸国じゃ無いんだから・・・」
雀に連れられて、一羽のオウムが来た。
「彼は語り部として物語を記憶しているオウムで、皇帝とドラゴンの馴れ初めを知ってるそうなんで、連れて来ました」
そして、オウムは語った。
王国の祖先となったドラゴン王とその妃の物語を・・・・・。
その昔、多くのドラゴンが住むこの地に、ひときわ強大なドラゴン王が居た。
その力故に友となるドラゴンも無く、時折人里を襲っていたが、やがて彼はこの地の族長と盟約を結び、人里を襲わない代償として十年に一度、部族は一人の少女を生贄として差し出す決め事が成立した。
そして多くの少女がドラゴン王の生贄となったが、やがて彼は少女たちの恐怖する姿に嫌気がさすようになった。
そんな時、テムバというその少女が生贄として送り込まれた。生贄の儀式は一週間後の新月の夜。
だが、彼女は何ら怯える事も無く、死の運命を受け入れていた。
テムバは言った。
「私は生贄とするため族長の養女として育てられました。助かりたいとは思いませんが、代りにお願いがあります。生贄になるまでの一週間の間、傍に居て私の孤独を癒して下さい」
「孤独とは何だ?」
そうドラゴン王が言うと、テムバは「独りは寂しいとは思いませんか?」
「私は友も家族も居ないが、寂しいとは思わない」とドラゴン王。
だがテムバは「私は寂しいです。族長とその妃にとって私は名前ばかりの娘で、生贄として育てた私を見る目は親のものでは無く、やがて食肉として屠る家畜を見る眼でした」
「私はお前を殺す者だぞ」
そうドラゴン王が言うと、テムバは「それは今ではありませんよね。蝉という生き物は三年を真っ暗な土の中で時が止まったように過ごし、太陽の下に出て来て一週間の間に命を謳歌します。これまで時の止まった中を生きて来た私にとって、それを取り戻す時間としては十分です」
ドラゴン王は言った。
「いいだろう。ドラゴンでさえ私の力に怯えて近付く者は居ない。そんな私が怖くないというなら好きなようにしろ」
「それで、私はあなたをどう呼べば?」
そうテムバが言うと、ドラゴン王は「人はドラゴン王と呼ぶが」
テムバは「それは称号であって名前ではありません」
「友も家族も居ない私に名など不要だ」とドラゴン王。
そしてテムバは言った。
「では、私があなたに名前をつけましょう。ドラグハート。孤独を恐れぬ者という意味です」
一週間、テムバはドラゴン王に寄り添って、穏やかな時間を過ごした。
そして新月の夜、生贄の儀式の時が来た。
「思い残す事はありません。思う存分、私を食べて下さい」
そう言ってテムバが身を差し出すと、ドラゴン王は「いや、お前を食い殺すのは止めだ。お前は私の妃になれ」
テムバは「それは別の意味で私を食べるという事ですね?」
ドラゴン王は困り顔で「その言い方は頼むから止めて」
夫婦となった二人は、あちこちに蔓延っていた、ドラゴンが人を生贄とする事を止めさせた。
そしてテムバを送り出した族長の元へ行き、その娘としてテムバは族長の地位を継いだ。
ドラゴン王の力は周囲の部族を従え、大きな帝国となった。
タマは話を聞くと、「それがガルナガ王国なの?」
「その後、二人に倣って多くの娘がドラゴンの妻になって、夫となったドラゴンは妻の一族を守る存在になったそうです」と、オウムは物語を締めくくる。
「もしかして、シェムウンド王が男児の出産を禁止したのって・・・」
そうタマが言うと、先ほどのヤギが「自分や一族の娘をドラゴンの花嫁にして、多くのドラゴンを戦力にするためです。そしてこの大陸を統一して大帝国を築くのだと」
「けど、男の子が居ないって事は、跡継ぎが絶えるって事よね?」とタマは疑問顔。
「婿養子をとるつもりなんじゃ・・・・・・」
ココがそう言うと、タマは「けど、みんなドラゴンの花嫁になったら、誰に婿を?」
「・・・・・・・・」
「つまり王様はそこまで考え無かったと?」
そうココが言うと、ヤギは「それは違うと思う」
「けど、ドラゴンさえどうにか出来ればいい・・・って話じゃ無いのよね?」
そうタマが言うと、宮殿のオウムが「鉄砲を持った軍隊ですか?」
するとヤギが言った。
「本当に強いのは戦士たちの戦意です。あの戦士はガナルガ族の男性だけでは無く、支配されて奴隷にされてる部族出身の戦士も大勢居ます。彼等は聖地と呼ばれる所でその忠誠心を得るのだと・・・」
「つまりカルトに洗脳されたと?」
そうタマが言うと、周囲に居る動物たちも、あれこれ言う。
ネズミが「延々と"修行するぞ"を連呼とか」
雀が「お湯の中で呼吸を止めて座禅を組むとか」
「空中浮遊とか言って座禅を組みながらぴょんぴょん・・・」
そう兎が言うと、カモシカが「兎のお前なら出来るんじゃないの?」
兎は「座禅を組みながらはさすがに無理」
そしてヤギが「場所は解らないのですが、聖者様というのが居るとか」
「きっと凄い呪術師なんだろうね?」とタマ。
ココは動物たちに「誰か探ってみてくれるか?」
「という訳なんだけど・・・って、みんなどうしたのよ」
ようやくタマの報告が終わり、それを聞いているエンリたちを見回すと、全員疲れてぐったり状態。
エンリが「いや、話が長すぎるんだけど」
ニケが「これって回想だったっけ?」
アーサーが「話を跨いで・・・ってのは、さすがになぁ」
そんな彼等にタマは言った。
「とにかく、あんな遠くに一人で探りにとか、こんなの二度とごめんだわよ」
エンリ、すかさず「という訳で、もう一度行って欲しいんだが」
「冗談じゃないわ」
そう言って口を尖らすタマに、エンリは「いや、ファフのドラゴンに乗っていけばいいから。難民たちの部族の祖霊の像が必要なんだ」




