第405話 猛獣と狩猟者
エンリ王子たちは、ガナルガ帝国とイギリス東インド会社の奴隷貿易を阻止すべく、奴隷船を拿捕し、鉄砲を積んだドレイク号を撃沈した。
だが、ドレイク提督は海底に沈んだ鉄砲を使い魔のクラーケンを使って回収。
取引は成立するかに見えたものの、支払いとしての最後の鉄砲を手にしたガナルガ軍は、取引を放棄してイギリスのザンジ植民市を襲撃。
エンリはドレイクと協力してイギリス人たちを退避させ、征服を続けるガナルガ帝国と闘う道を選んだ。
そんな中、タマはガナルガ帝国の内情を探るべく密林を行き、動物たちを従える白いライオンのパンジャと出会う。
白いライオンの後をついて行き、タマは密林の中の草原に出た。
そこには様々な動物が居た。パンジャを見て口々に「王様だ」「パンジャ様」
「父上」
そう言って嬉しそうに駆け寄る、真っ白な子供のライオンが居る。
一匹の猿がパンジャに報告。
「王様、ハムエッグが川の向うに現れました」
そして白い子供ライオンはタマを見て「その子は?」
子供ライオンはタマに話しかける。
「君、変わった毛並みしてるね」
カモシカがタマを見て「そいつはライオンの子供じゃなくて山猫だろ」
「山猫じゃなくてケットシー。猫の貴族よ」
そう言ってタマは二本足で立ってみせる。
子供ライオンは目を丸くして「もしかして学ラン来て"舐めんなよ"とか言っちゃう人?」
「違うから」とタマは否定する。
子供ライオンは名乗った。
「僕はレオ。ここの王子だ」
「それで、ハムエッグが現れたって言ってたわよね?」
そうタマが言うと、パンジャは「悪い奴だ。森の動物を平気で殺す」
「殺すって食中毒で?」
そうタマが言うと、パンジャは残念顔で「いや、薄くスライスした燻製肉の上に卵を割ってフライパンで加熱する料理の事じゃなくて、遠い国から来た密猟者だ」
そしてパンジャは周囲に居る動物たちに命じた。
「森の動物たちに警告を出すよう伝えろ」
「動物たちって、兎やカモシカとかも?」とタマ。
レオが「仲間だからね」
「草食動物はライオンの獲物なんじゃ・・・・・・」
そうタマが言うと、パンジャは「このパンジャの森では、他の動物を殺してはいけない決まりになっている」
タマは疑問顔で「それじゃ、餌とかはどうするのよ」
一頭のメスライオンがヤギの死体を引きずって来た。
「母さん」
そう言って、子供ライオンのレオが駆け寄る。
「狩りから帰ったか、エライザ」とパンジャが声をかける。
エライザと呼ばれたメスライオンは「ご飯にするわよ」
タマは怪訝顔で「王様の奥さんが狩り・・・って、もしかして王様ってヒモ?」
パンジャはムッとした顔で「ライオンの世界では狩りはメスの仕事だ」
「けど、他の動物を殺してはいけないんじゃ無かったの?」
タマがそう言うと、レオは「これは、ヤギだからね」
パンジャも「人間の家畜は別だ。人間は森の動物を殺す敵だからな」
エライザはタマの存在に気付き、「あら、お客さんね? 山猫かしら」
「ガナルガの奴らについて調べているそうだ」とパンジャ。
「あなたも一緒に食べる?」とエライザがタマを食事に誘う。
タマは「私は肉より魚派なんで・・・」
ヤギの内臓をみんなで食べるライオンの一家。
お弁当の干し魚を食べるタマ。
レオがその干し魚を見て「それって川から獲ったの?」
タマは言った。
「海からよ。川のずっと下流に、見渡す限り続く広い水面があるの。とてもたくさんの魚が獲れるのよ。鯨というのも居て、この草原と同じくらい大きいわ」
「そんな大きな獲物が獲れたら、ここの肉食獣みんなが食べていけるね。けど、そんなのをどうやって狩りをするの?」とレオ。
タマは「人間は海の上を進む船という道具を持っているわ。それに乗って、弓矢を大きくした銛という道具を使うの。たくさんの魚を一度に捕まえる網という道具もあるのよ」と、得意顔で知識をひけらかす。
「父さんは動物たちが平和に暮らせるよう、仲間どうしの狩りを禁じて人間の家畜を狩って、人間から目の仇にされているんだ。けど、そんな事をしなくてもいい方法を作って、人間には平和に暮らせる仕組みがあるんだって、マンディ先生が言ってた。それで、人間って何を食べるの? 家畜の肉?」
そうレオが訊ねると、タマは「肉も魚も食べるわよ。けど、多いのは小麦という草の実ね。それを自分たちで育てているのよ」
レオは思った。(つまり人間って草食動物なのか)
そしてレオは言った。
「草食のやり方は僕たち肉食の参考にはならないよね」
「彼女を作らない人生なんて、参考にしない方がいいわよ」とエライザ。
パンジャは「けど、女性が男性に何も"言わなくても察しろ"みたいなエスパースキルを要求する御時世に適応する、一つのやり方だと思うぞ」
エライザは「そんな事は無いです。女性は男性に甘えたい生き物なんです」
「そうよ。恋愛のために努力しないなんて、女性に失礼だわ」と、何時の間にか会話に加わっているメスの子供ライオン。
「父さんと母さんは何を言い合ってるの?」
そうレオが訊ねると、パンジャが「というか、草食獣の話がいつの間にか草食男子の話になってるんだが」
残念な空気が漂う。
「それで、どうした? ライヤ」
そうパンジャが、先ほどから居たメスの子供ライオンに・・・。
ライヤと呼ばれたそのメス子供ライオンは「ハムエッグが川を越えてこっちに向ってきてるそうよ」
「奴め、俺が返り討ちにしてやる」と言ってパンジャが立ち上がる。
一匹のオウムが羽根をばたつかせて「いけません、王様。奴は鉄砲を持っています」
パンジャは「あんなもの。一発かわせば次の弾を込める間に一撃だ」
その時、タマが「私に任せてくれないかしら」
「どうする気だ?」
そうパンジャが問うと、タマは「私、魔法が使えるのよ」
「君は魔獣なのか?」とパンジャが問うと、タマは得意顔で言った。
「そうよ。みんなは森に隠れていて」
「任せよう」
動物たちを引き連れて森に向かう、パンジャとその家族たち。
両親の後を歩くレオに、ライヤは「ねぇレオ、私が何をして欲しいか解る?」
レオは困り顔で「言ってくれないと解らないよ」
そんな彼等を見て、タマは「レオはまだまだね。ハムエッグって奴が来たら守って欲しいって事よね?」
「そうなの?」と怪訝顔で言うレオ。
「女性が男性に期待する定番よ」
そんな能書きを語るタマに、ライヤは「あなたとはお友達になれそうね」
「なりたいとは思わないけどね」とタマ。
動物たちが反対側の森に隠れると、タマは人間に変身した。そして頭の猫耳を帽子で隠す。
向うの森から鉄砲を持った男性が出て来る。
ユーロ人狩猟者のハムエッグだ。
彼は動物の影の消えた草原を見回し、そしてタマを見つけて話しかけた。
「お嬢さん、このあたりで動物を見なかったかい? ここは珍しい獲物の宝庫だと聞いたんだが」
タマは「白いライオンですか?」
「知っているのかね?」
そうハムエッグが問うと、タマはしれっと「いろんな動物と一緒に西の森に移動するのを見ました。草食動物と肉食動物が一緒に行動するのを見て、不思議だなって思って。ハンターを警戒していたみたいでしたよ」
「ありがとう」
「あれって何なんですか?」と、タマは無関係な第三者のフリの駄目出しをかける。
「密林の動物が争いを回避する協定を結んだというんだ。まさかとは思うが・・・・」
そう言うと、ハムエッグは西の密林へ向かい、姿を消した。
ハムエッグが去った事を確認すると、タマは動物たちが隠れている森に向って「もう出て来ていいわよ」
「助かったよ」と言って出て来るパンジャ一家と動物たち。
「当分ここには来ないと思うわ」
そうタマが言うと、パンジャは「ところで、君のその姿は?・・・」
「変身能力よ。人化の呪文という魔法を使うのよ」と説明するタマ。
パンジャは「それで人間社会に紛れて生活しているという訳か」
エライザは「時々、真夜中の公園に集まって盆踊りをやるのよね?」
タマは残念顔で「私は狸じゃないわ。それに、大抵は猫の姿で人間と共存しているのよ。餌も貰ったりしてね」
「つまり君たちも家畜なのか?」
そうパンジャが問うと、タマは「そうよ。食用じゃないけどね」
「では、彼等に何を提供しているんだ?」とパンジャ。
タマはそれに答えて「モフモフの癒しよ」
「何だ?そりゃ」
残念な空気が漂う。
タマは周囲を見回す。
そして「そろそろ行くわ」
「そうか。ココ、彼女の道案内をしてやってくれ」
そうパンジャが言うと、一匹のオウムがタマの目の前に降り立った。
タマの立ち去り際に、パンジャが言った。
「そういえば思い出した事があるんだが、ガナルガが様々な人間の部族を征服し支配しているが、それに対して抵抗を続けている部族があるそうだ」
「何という部族なの?」
そうタマが訊ねると、パンジャは「サンシャ族だ。他所から来て彼等を指揮する英雄が居るとか」
「そんな事が・・・」
そう言って遠い目をするタマに、パンジャは「我々は他の動物を殺して食べるように出来ているが、人間はそうではない。なのに、人間どうしでより多くの命を奪い合う。人間は確かに自ら食べ物を育て、平和であり得る仕組みを作った。だが、けして平和ではない。だから私は人間が許せない」
タマは言った。
「そうね。それはそうなる仕組みがあるからよ。その仕組みを変えようとしている人が居るの。私はそういう人の目的のため、あの国へ行くのよ」




