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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
402/553

第402話 略奪の王子

南方大陸で周辺部族を征服し勢力を拡大するガナルガ帝国とイギリス東インド会社との奴隷貿易を止めるべく、コンゴ植民都市へ向かったエンリ王子と部下たち。

コンゴの街に溢れる、ガナルガ帝国の征服戦争から逃れた難民たち。

そして、そこで語られるシェムウンド王による暴政と、そして輸入した鉄砲とともに帝国の軍事力を支える複数のドラゴンの存在。



市長の話を聞いて、真剣な眼差しとなるエンリの部下たち。


「どう思う?」

そうエンリが言うと、タルタが「複数のドラゴンを使えるって、凄い戦力だよね」

ニケが「ここって、ドラゴンの生息に適しているの?」

「そうなのか? ファフ」

そうアーサーがファフに振ると、彼女は「ファフは暑いのはちょっと・・・・・」と言って肩を竦める。

エンリは「ドラゴンにも暑さに弱い奴と寒さに弱い奴が居るだろーさ」


「けど、一匹居れば相当な戦力なのに、それが複数って・・・・・・」

そう若狭が言うと、エンリも「そもそも彼等は奴隷を売って鉄砲を輸入して、強い軍隊を作ってる訳なんだが、ドラゴンが居れば鉄砲なんか無くても十分強いんじや無いのか?」

「鉄砲商人のセールストークに乗せられてるとか?」とジロキチ。

アーサーが「だったら、イギリス東インド会社をどうにかしなきゃ、ですよね?」



翌日、ザンジ植民市の情報収集に出ていたカルロが帰還した。

庁舎でエンリたちに成果を報告。


「どうだった?」

そうエンリが言うと、カルロは「有益な情報を得ました。奴隷を満載した輸送船が、明日朝ザンジの港を出ます。襲撃して頂いちゃいましょう」

ニケは怪訝顔で「私たちに奴隷を転売してお金ガッポガッポしろと?」

「じゃなくて、奴らの取引を妨害しようって事だろ?」とエンリ。

「あ・・・そういう事ね」

そう言って納得するニケに、カルロは「自分の物差しで解釈するのは止めようね」

「・・・・・・・・・・」

ニケは膨れっ面に・・・・・。


「で、奪った奴隷は解放するとして、ガナルダ支配下の村に戻っても、また、奴隷として売り飛ばされる事になるよね?」

そう言ってエンリが溜息をつくと、「ここの難民に仲間入りするしか無いのかなぁ」と他の仲間たちも溜息。

するとニケがテンションを上げて「それなら心配はいらないわよ。難民たちを労働力に使って、カカオやスパイスの農場を開拓してお金ガッポガッポ」

「結局そっち方面の話になるのかよ」と言ってタルタが溜息。

「ここの現地人が作ってるパームって、食用油がたくさん絞れてとっても儲かるのよ」と、更にニケはテンションを上げる。

「あー、はいはい」と、ジロキチは残念顔。


カルロは報告を続ける。

「それで、次の日には鉄砲を積んだ船が到着します。そっちも頂くって事でどうかと・・・・・」

エンリは「解放するために奴隷を・・・ってんならともかく、これって略奪だよね?」

ジロキチも「やっぱり犯罪だよなぁ」

アーサーも「気が重いなぁ」


するとタルタが「いや、ちょっと待て。そもそも俺たち海賊なんだが」

「そーだよね。海賊の本領発揮だ」とジロキチ。

「今まで海戦とかは散々やったが、後は宝探しとかだったもんなぁ」とアーサー。

「初めて海賊らしい事をやる訳かぁ」とエンリ。

ムラマサが「初体験はお赤飯でござるな」

カルロが「やさしくしてね」


そんな斜め上な事を言って盛り上がるメンバーたちの後頭部を、ニケがハリセンで思い切り叩いた。



その夜、リラはザンジ港の沖と航路に沿った北側に、魚の使い魔を配置した。

そして翌朝、ザンジ港を大型船が出港。その甲板には多くの奴隷がひしめいており、二隻の社営海軍の船が護衛に就く。

そんな映像が、アーサーの鴎の使い魔によってタルタ号の水晶玉に映し出される。

「あの二隻の護衛は沈めても構わんが、奴隷を積んだ船は沈めず拿捕する必用がある。奴隷は全員生かして返すぞ」

そうエンリが言うと、タルタは「そんじゃ早速、襲撃といきますか」



タルタ号で接近すると、二隻の護衛船が大砲を撃ってきた。

回避運動をとりながらこれに接近し、タルタが鋼鉄の砲弾で突入して一隻を大破させる。 

ニケの大砲がもう一隻を撃沈。


全力で逃げる奴隷輸送船に対し、ファフがドラゴンに変身し、空を飛んで奴隷船の前方を塞いだ。

右に旋回した奴隷船の行く手を、リラのウォータードラゴンが遮る。

その頭上でエンリが炎の巨人剣を翳し、拡声の魔道具で投降を呼びかけた。

「我々はポルタ王国のタルタ海賊団。この航路は我がポルタが開拓せし東方交易路であり、我が国は奴隷取引を認めない。貴船が積荷とする奴隷をその故郷に返すため、没収する。異議があるなら力づくで抗うも良し。だがその場合、命の保証はしない」



拿捕した奴隷船をコンゴの港に連行し、奴隷たちは解放された。

難民と解放奴隷を労働力に使い、ニケが商人たちを集めて農園の開発を始めた。



そしてまもなく、リラの魚の使い魔が南下する船を捉えた。

エンリは部下たちを集めて作戦会議。


「間違いなく鉄砲輸送船ですね。護衛は?」

アーサーがそう言うと、リラは「一隻です」

「さっきは二隻だったのに、随分な余裕だな」

エンリがそう言うと、リラは「いえ、輸送船一隻です」

「護衛の社営海軍は無しかよ。随分な自信じゃないか」とエンリ、あきれ顔で言う。



アーサーが鴎の使い魔を偵察に飛ばす。

その目が捉えた映像が、水晶玉に映し出される。


南下するその船を見て、タルタが「あれ、ドレイク号だぞ」

「鉄砲を運んできた訳じゃないのか?」

そうジロキチが言うと、エンリが「いや、鉄砲は恐らく、あの中だ。ロンドンでの騒ぎで、動いてるのは俺たちだって解っての対応だろうな」

「どうする?」と言って全員、顔を見合せる。

エンリは言った。

「沈めよう。奴隷は生かして返す必要があった。だが、鉄砲はガナルガに渡らなければ、それでいい」



タルタ号が出撃。

ドレイク号を視界に捉えると、大砲の射程の外側まで接近し、拡声の魔道具を使う。


「おや提督、奇遇ですな」

わざと能天気な声で、そうドレイク号に呼び掛けるエンリの声に、ドレイクは拡声の魔道具で「奇遇ですなじゃない。奴隷を返して貰うぞ」

「あまり褒められた商売では無いと思うのですが」とエンリ。

ドレイクは「これも正常な商取引だ。それに奴隷なんてどこにでも居る。全ての売春婦は広義の性奴隷だ」

エンリはあきれ声で「それはどこぞの半島国の宣伝戦争チームが、捏造歴史による中傷を正当化するため言い張ってる詭弁ですよ」と返す。



双方言い合いに熱中している隙に、タルタ号は少しづつ接近する。

相手との距離を測りながら、ニケは微妙な操船作業。

そして、ドレイクと言い合っているエンリに「もう少し長引かせて貰えるかしら」と合図を送る。



それに応えてエンリは、拡声魔道具を使った応酬を続ける。

「ポルタだって奴隷取引をやってただろーが」

そう主張するドレイクに、エンリは「今は禁止しています」


「裏でこっそり商人に指図してやらせているだろーが」とドレイク。

「何を根拠に?」

そう返すエンリに、ドレイクは「ポルタ軍は現地の女性を拉致して売春を強制しているに違いない」

エンリ、あきれ声で「どこの吉田清二だよ」


ドレイクは「実際に強制したという証言もある」

「売春をか?」

そう問い質すエンリに、ドレイクは「いや、洗濯を」

エンリ、あきれ声で「どこの教科書会社の営業だよ」



「まだか?」

そうエンリが合図を送ると、ニケは「もう少し」



更にドレイクとの応酬を続けるエンリ。

「奴隷取引のルートを作ったのはポルタだ」

そうドレイクが言うと、エンリは「それはポルタを批判する発言ですよね? その批判が成立するには、奴隷取引は禁止すべきものであるというのが前提です。だから禁止した」と反論する。


「我々が取引しているのは奴隷では無い」と言い出すドレイク。

「だったら何ですか?」

そうエンリが問い質すと、ドレイクは「ブラック企業の職業斡旋だ」

エンリは「彼等はどこぞの他称徴用工みたいに、募集に応募したんですか? ってかここでブラックって差別用語ですよ」

「それは大丈夫。ブラック企業という言葉を作ったのは、リベラルの人たちだ」とドレイク。

エンリ、あきれ声で「それ、大丈夫な理由になってないから」

ドレイクは「とにかく我々は大事な商品を・・・」



その瞬間、ニケの大砲が火を噴き、その砲弾はドレイク号の魔法障壁で弾かれた。

ドレイク号の海賊たち、唖然。

「おい・・・。言い争いに持ち込んで相手が乗って来た所を不意打ちとか、卑怯だろーが!」

そんな怒りモードMAXなドレイク提督の物言いに、エンリはしれっと「言い争いを始めたのは、あなたでしたよね?」

「だからって・・・・・」

その瞬間、ニケの大砲の第二射が発射され、砲弾は魔法障壁で弾かれた。


ブチ切れるドレイク提督。

「また不意打ち! 一度ならず二度までも。これ既に襲撃だよな?」

「とにかく戦闘開始だ」と双方、部下に号令。



互いに大砲を撃ち合い、双方の魔導士による防御魔法で敵弾を防ぐ。

そんな状況を見てジロキチが「これじゃきりが無いぞ。乗り込んで斬りまくるか?」

「それで片付く相手かよ。むしろ向うが乗り込んで来るぞ」とアーサー。

だが、エンリは「積荷を奪う側が向うだったらな。けど今回、向うは守る側だ」


「だったら・・・」

そう言うとニケは、舵とりをタルタに任せ、別の砲弾を取り出して大砲の連射を続けた。



そしてドレイク号では・・・。


「粘りますね」とドレイクの部下の一人が・・・。

「けど向うも疲れが出たんじゃないのか? 命中精度が落ちているぞ」ともう一人の部下が。

更に別の部下が「防御シールドにすら命中しなくなりましたよね」


そんなお気楽な事を言う部下とは裏腹に、これまでのタルタ号との戦いを思い出しつつ、ドレイク提督は疑い声で言った。

「これって、もしかして変化球?」

「弾道がカーブを描いて明後日の方から飛んで来ると?」

そう部下の一人が言うと、ドレイクは「じゃなくて砲弾に何かの小細工を・・・・・・」



その時、ドレイク号に衝撃が走った。

船首部分で何かが爆発し、空いた大穴から派手に浸水。

混乱するドレイク号に接近したタルタ号から、エンリが炎の巨人剣をお見舞いする。

大破し、沈没するドレイク号から、ドレイクと団員たちが救命ボートで退避。


そんな様子を見ながらエンリは「ニケさん、これって・・・」

ニケは得意顔で「浮遊爆雷よ。砲弾に見せかけて敵船の進路上に落とした、海面に浮かぶ爆雷。外れたと思って安心した所を、進路上に浮いてる爆雷に触れてドカン・・・って訳」

「あれで船もろとも鉄砲も海の底って訳だ」とタルタ。


ボートで撤退するドレイクとその部下たちが、タルタ号とすれ違いざまに負け惜しみを叫ぶ。

「やーいやーい。お目当ての鉄砲は船と一緒に海の底だ。奪えなくて残念だったな」

エンリはあきれ顔で「いや、ガナルガ帝国に渡らなければいいだけなんだが・・・・」

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