第04話 鋼鉄の異能
エンリ王子たち五人は船に乗って海に出た。
離れていく港を見送る五人。
港が見えなくなると、エンリ王子は「さて、今日からこの・・・」
「タルタ海賊団は・・・」とタルタが続ける。
「いや、この船のオーナーは王子ですよ」とアーサー。
タルタは「オーナーと船長は違うぞ。それにこの船は海賊船で海賊は俺」
「俺は王子でお前は一般人だが」とエンリはタルタに・・・。
「正式には交易商なんじゃ・・・」とリラは筆談の紙に・・・。
気を取り直してエンリは言った。
「まあいいや。それでタルタ、お前は異能があるとか言ってたな? どんな能力なんだ?」
「もしかしてゴムみたいに柔軟に手足が伸びて離れた所の敵をパンチで一撃とか」と興味深々顔のリラは筆談の紙に・・・。
タルタは言った。
「逆さ。全身鉄のように固くなる」
「そりゃ凄い」とジロキチ。
「やって見せてよ」とアーサー。
「いいぞ」
そう言って、タルタは両脚で甲板を踏みしめて「鋼鉄」と叫ぶ。
仲間たちは固くなったタルタのあちこちをトントン、と叩いて「本当に鉄だ」
「これで戦ったら格闘無敵だな」とエンリ王子。
「いや、このままじゃ戦えないんだ」とタルタ。
「何で?」
タルタは「関節も固まってるから動けない」
全員唖然。そして「使えねー」と一言。
「それともう一つ」とタルタ
「何だ?」
タルタは「鉄のように重くなる事も・・・」
船縁にいたタルタの重みで船は傾き、タルタは海に転げ落ちた。
エンリ王子は溜息をつくと人魚姫リラに「リラ、引き上げてやってくれ」
「重すぎて無理だと思いますけど」とリラは筆談の紙に・・・。
ジロキチは「自分で鉄化を解くだろ。ほら」
波間から「おーい」と叫んで手を振るタルタ。
「泳いで上がってこい」とエンリはタルタに叫ぶ。
タルタは「俺、泳げないんだ」
全員唖然。
人魚になったリラに引き上げてもらったタルタは甲板で服を乾かす。
「それでも海賊かよ」とあきれ顔のジロキチ。
王子はジロキチに言った。
「まあ、お前も大概だけどな。とりあえずその恰好、どうにかならんか」
「道を極めた剣士は服装に気を遣わないものさ」とジロキチ。
「けどその靴、壊れてるだろ?」とエンリ。
靴の先がはっくり口を開けている。そこから足の指が見える。
ジロキチは「これは師匠の形見だ」
「まあ、いいけどね。で、何で刀を四本も持ってるんだ?」とエンリ。
「四刀流だからな」とジロキチ。
「どうやるんだ?」とエンリ。
ジロキチは「そのうち解るさ」
そんなこんなで一息つくと、エンリ王子は言った。
「で、とりあえずどこに行こうか」
「どこへなりと」とアーサー。
「そこらへんは船を操る人の腕の見せ所じゃないのか?」とタルタ。
エンリはタルタに「何言ってる。船を操るのはお前だろ」
「俺が?」とタルタ。
「海賊だろ?」とエンリ。
「船を動かすのは航海士だが」とタルタ。
「出来ないのか?」とエンリ。
タルタは「前に見た事あるんで、それっぽい事は少しは」
全員唖然。
「ちゃんと出来ないのかよ。どーすんだよ。海に出ちゃったじゃん」とエンリは言った。
「出来る人居ないの?」とタルタ。
アーサーは「俺、魔導士」
エンリは「俺、王子」
ジロキチは「俺、剣士」
リラは「私は船とか必要無いんで」と筆談の紙に・・・。
タルタは「いや、どうにかなるよ。あは、あはははは」
アーサーはあきれ顔で「海は危険がいっぱいだぞ。下手すりゃ遭難だ」
「危険って、例えばどんな?」とリラは筆談の紙に・・・。
「嵐とか」とエンリ。
「伝染病とか」とジロキチ。
「それ航海士でどーにかなるの?」とエンリ。
「乗組員どうしが喧嘩とか」とアーサー。
「食事で嫌いなものが出るとか」とタルタ。
「週刊魚の友の最新号が読めない」とエンリ。
「子供じゃないんだから!」とアーサー。
「それと、他の海賊船に襲われるとか」とエンリ。
「あれみたいな?」とリラは筆談の紙に書いて、右手方向を指す。
ドクロの旗を掲げた、いかにも海賊といった船が近づいて来る。
海賊船が、声の届く所まで接近して大砲で威嚇砲撃。船の近くに水柱が上がる。
そして海賊の大声が聞こえる。
「我々はダルク海賊団。おとなしく停船して金目のものを差し出せ。でないと砲撃して海の藻屑だ」
「どうする?」とエンリ王子が仲間たちに・・・。
タルタは自信の笑みで「乗り込んで来た所を返り討ちだ」
海賊ダルクが乗り込んで来る。いかにも海賊といったマッチョで髭面でくたびれた海賊服。
引き連れた部下たちは手に手に刀や鉄砲を持っている。
「さあ、金目のものを差し出して貰おうか。海賊の流儀なんでな」とダルクはエンリたちにドヤ顔で言った。
「だったら海賊の流儀で抵抗させてもらおうか」と負けずにタルタは答える。
「たった五人で何が出来る」とダルク。
そしてバトルが始まった。
ジロキチが跳躍し、空中で四本の刀を抜いた。
二本は両手で、二本は両足の靴先からはみ出た足指が柄を握り、左足の刀の切っ先で甲板に舞い降りた瞬間、三本の刀が一閃して周囲の海賊たちをなぎ倒した。
それを見て「あれが四刀流かよ」アーサー。
「器用な奴だな」とタルタ。
「確かに曲芸だな」とエンリ。
ダルクは慌てて部下に命じて船尾方向に下がらせた。
「鉄砲で仕留めろ。撃て」
彼らの前にタルタが立ち塞がり、両手を広げて叫んだ。
「鋼鉄」
鋼鉄の体が敵の銃弾を全て弾き返し、鉄化を解いた瞬間、跳躍して敵のど真ん中に飛び込み、周囲の敵を殴り倒す。
ダルクは部下たちに「囲んで切りつけろ」
海賊たちが四方から刀で切りつけた瞬間、タルタは鉄化した。
敵の刀は全て折られる。刀が折れた敵を鉄化を解いて殴り倒すタルタ。
周囲の敵を蹴散らすジロキチ。
敵船の看板から弓矢や鉄砲でこちらを狙う敵は、アーサーの水魔法でなぎ倒された。
「撤収だ」とダルクは叫び、海賊たちは自船に引き上げ、海賊船は離れていった。
「お前、なかなかやるな」とジロキチはタルタに言う。
タルタは「鉄化とそれを解く瞬間に凄い瞬発力が出るのさ」
そして、離れていく敵船を見ながらタルタは「尻尾撒いて逃げやがった」
「ざまーみろ」とジロキチ。
だがアーサーは「いや、違うぞ。砲撃して来る気だ」
「こっちも大砲で応戦だ」とタルタ。
「いや、大砲積んでないが」とエンリ王子。
「そんな海賊船があるかよ」とジロキチ。
「いや、これ商船だし」とエンリ。
「商船だって自衛用に大砲くらい積むだろ」とジロキチ。
その時タルタは「まあ待て。もっといい武器があるぞ」
タルタは敵船に向かって構え、足を踏ん張る。
「鋼鉄の・・・・砲弾!」
そう叫んで、敵船に向かって跳躍したタルタは、そのままアトムポーズで鋼鉄の体となり、きれいな弧を描いて海賊船に直撃した。
沈みゆく船からボートを下ろして逃げ出す海賊たち。
沈みゆく船で手を振るタルタに、ジロキチは叫んだ。
「金目のものを持ち出して来い。海賊の流儀だからな」
「了解」とタルタ。
まもなくタルタは何かを抱えて船の舳先に立つ。
「それじゃ、戻って来い」とエンリ王子。
「了解」とタルタ。
だが、こちらに向かって構えるタルタを見てエンリは叫んだ。
「ちょっと待て」
こちらに向かって跳躍したタルタは、そのままアトムポーズで鋼鉄の体となり、きれいな弧を描いて自分の船に直撃した。
船尾部分が大きく破損。
鉄化を解いたタルタに、王子はあきれ顔で言った。
「自分の船に砲弾かます奴があるか!」
「だって飛ばないと戻れないし、鉄化してないと怪我するし」とタルタ。
「お前なぁ」とエンリ。
そんなタルタにジロキチは「それで戦利品は?」
タルタは「あれ」と言って指す。
タルタが抱えていたのはダルク海賊団長本人。着弾の衝撃で目を回している。
タルタは言った。
「めぼしいものが無かったんで、連れて来た。根城に行けば何かあるだろ」