第399話 茶番な伝説
ポルタ大学の探偵団に入部したフェリペと部下たち。
彼等の元に舞い込んだ依頼を受け、落ち騎士の祟りの伝説を伝える六つ墓村の、遺産相続争いの絡む殺人事件に挑む。
次々に犠牲者の出る中、明かされる依頼者トニオの出生の秘密。
だが、トニオを疑う村人たちの襲撃を受け、トニオたちと共に六つ墓の洞窟へと入った探偵団。
そこで彼等の先輩、金田一耕助は、落ち騎士伝説の真相を暴く。
カチュアのトニオに対する告白で全員のテンションが盛り上がった後、やがて落ち着きを取り戻すと、マゼランは言った。
「これからどうする?」
トニオが「落ち騎士が伝説って事は、財宝なんて無いんだよね?」
「けど、ダンジョンなら宝箱くらいは・・・・・」と、カチュアは未練がましく・・・。
その時、ライナが洞窟の壁面を指して言った。
「ここ、見て下さい。隠蔽魔法で何か隠しています」
隠蔽を解くと、幾つもの宝箱が現れた。
リンナが「これが落ち騎士の財宝?」
「けど、落ち騎士ってのは伝説だって・・・」とカチュア。
フェリペがはしゃぎ声で「とにかく開けてみようよ」
次々に宝箱を開けると・・・・。
「金貨や宝石じゃないね」とルナが拍子抜け気味に言う。
だが、ライナは「けど、やたら豪華な槍の宝具」
マゼランがその槍を手に執って暫し眺め、そして彼の顔色が変わった。
「これ、ロンギヌスの槍ですよ」
「何ですとー」と全員絶句。
エイセルは宝箱の中の宝具を次々に取り出す。
「こっちはノルマンのグングニルの聖槍。この箱に入ってるのは聖杯。こっちはイギリス古代王の聖剣エクスカリバーじゃないですか」
「古今の超プラチナ級お宝がこんなに・・・・・・」と茫然顔の明智部長。
「すげーーーーーー」と全員一様に声を上げ、テンションMAX状態へ。
その時、マゼランがそれに気付き、そして物言い。
「いや、ちょっと待て。エクスカリバーって確か、エンリ殿下が持ってる魔剣の事だよね? それが何でこんな所に?」
チャンダも「そういえばロンギヌスの槍はボエモンさんが持ってた」
ライナが「グングニルの槍はビンランド村って所にあると・・・」
リンナが「聖杯はロンドンの魔導戦艦事件の騒ぎの時に使われて、あの後、行方不明になった筈」
全員、首を傾げて「どうなってる?」
槍の宝具の一つを手に、金田が言った。
「これ、贋作ですよ。コンスタンティの偽聖遺物工場で作られたものです」
見ると、1243年コンスタンティ製と刻まれている。
とんでもなく残念な空気の中、カチュアはその場に座り込む。
そして「私、いったい何のために・・・・・・」
「宝探しで一攫千金なんて考えずに地道に働く事だよ」
そうマゼランが言うと、ライナが「確か、宝探しは海賊のロマンって言ってませんでしたっけ?」
そんな彼等に、エイセルが「とにかくここから出よう」
洞窟を出ると、出口には武器を持った村人たちが居た。
探偵団の若者たちを背に、エイセルは村人たちに訴えた。
「引いて下さい。トニオは犯人じゃありません」
「信用できるか」と口々に言う村人たち。
そんな彼等に金田は「そもそもこれは遺産相続争いじゃない。何故なら、フェンリル家にはもう、財産なんて残ってない」
そしてカチュアも「みんな母が、六つ墓の祟りとかいう脅しに騙されて、寄進させられてしまいました」
「な・・・」
村人たち唖然。
村人たちに説明する金田。
話を聞いて「あのインチキ呪い師がぁ」と口々に憤懣の声を上げる村人たち。
そして一人の村人が「殺されたのは自業自得だな」
「けど、だとしたら三人を殺したのは誰なんだ?」ともう一人の村人が・・・。
そんな彼等に金田は「館に戻って説明します。謎は全て解けています」
「名探偵と呼ばれたおじい様の名にかけて」と明智部長。
村人たちと共に館に向かう探偵団の面々。
その道すがら、一人の村人が金田に、明智を指して「あの人も探偵なんですか?」
金田は「彼女はただのミステリーマニアですよ」
「部長ですけどね」とリンナが補足する。
フェンリル館に集まった村人たちを前に、金田は言った。
「単刀直入に言います。犯人はあなたですね?」
そう言って指されたのはミーヤだった。
「そんな筈は無い。真っ先に殺されたのは彼女の父親です」
そうエイセルが声を上げると、金田は言った。
「いいえ、彼は生きています。他の二人もね。彼等を殺した毒には不殺の呪いがかけられていたんです。遺体は安置所に保管されていますが、もうすぐ生き返る筈です」
「埋葬を先送りしたのはそのためだったのか」と言って納得声を上げる村人たち。
「あれは何故先送りに?」
そう金田が問うと、エイセルが「娘のミーヤさんが、心の整理がつくまで葬るのを待って欲しいと」
金田は「この中で不殺の魔法を学んでいるのは誰ですか?」
「私です。あれは白魔術で、神官の嗜みですから」
そう答えたエイセルに、金田は「あなたはそれをミーヤさんに?」
「教えました」
「呪文をかけた毒薬はクーノさんの診療所にあったものですね?」
そう言うと金田は看護婦に訊ねた。
「ミーヤさんは診療所にはよく遊びに?」
「幼い頃に体が弱くて頻繁に療養していましたから、先生には随分懐いていまして」と看護婦。
そして金田は「彼女の家を捜索すれば、魔法をかけた毒薬の残りが見つかる筈です。毒薬とともに、彼の鳥打帽も彼女が持ち出したものかと」
「けど、ババアムーンさんは無理やり毒を飲まされたんです。それには、押さえつけるだけの力が必用で、女性には無理ですよ」
そう一人の村人が言うと、金田は「あれは普通に飲ませて殺したんです。殺した後で場を荒らして、無理やり飲ませたように偽装した。抵抗して暴れたように見せかけていましたが、いくつものガラス容器が一つも壊れていなかった」
もう一人の村人が「クーノ医師をあそこに誘い出したのも?」
「看護婦に聞いたら往診に行ったと答えていましたが、往診なら普通は行き先を言う筈ですね。言わなかったのは頻繁に行く所だったからでしょう。ミーアさんは病弱な体質を抱えて頻繁に往診を受けていた」
金田は、目を伏せて沈黙しているミーヤに問うた。
「あなたは遺産が欲しかったのですか?」
ミーヤは涙目で語気を強め、「違います。好きな人を守るために・・・」
「それは誰ですか?」
そう問う金田に、ミーヤは「言えません」
「エイセルさんですね?」と金田。
「・・・・・・」
驚き顔のエイセル。
カチュアも驚き顔で「もしかしてミーヤさんってオヤジ趣味?」
その場に居た中年男性、声を揃えて「いや、それは悪くないと思う」
その勢いに金田はタジタジ気味で「まぁ、いいけど・・・。で、彼を何から守ろうとしたんですか?」
「・・・・・・」
「もしかして、私がローレさんと浮気して子供を産ませた件?」
そうエイセルが言うと、ミーヤは「仮にも聖職者がそんな事を・・・。それがトニオさんが戻って来たら、露見する。今のトニオさんって若い頃のエイセルさんにそっくりだから」
村人たち全員溜息。そして一人の村人が言った。
「あのさ、ミーヤさん。それ、みんな知ってるから」
「・・・・・・」
残念な空気が漂う。
「それに今の国教会は恋愛自由で、神父だって結婚できるんだよ」
金田にそう言われ、ミーヤは涙を落す。
そして「・・・私、何のためにこんな事を。けどエイセルさんは、それを恐れて、だから計画を・・・」
「計画って?」
そう聞き返すとともにエイセル、暫し思考を巡らせた。
そして何かに気付いたように「もしかして、あの原稿読んだ?」
「原稿って?」
そう聞き返すミーヤにエイセルは「ミステリー小説ですよ。私が趣味で書いて投稿したのが不採用になって戻ってきた奴」
ミーヤは唖然顔で「あれって小説の原稿だったんですか?」
エイセルは言った。
「思い出した。どうりで事件の推移にデジャブ―を感じると思ったら。自分が書いたミステリー小説の筋書きじゃないか。あれを真似てこの事件を?」
残念な空気が漂う。
こうして六つ墓村の殺人事件は解決した。
胸を撫でおろす村人たち。そんな彼等に、探偵金田一耕助は言った。
「ところで、あの32人の虐殺なんですが・・・・」




