第396話 落ち騎士の祟り
留学生としてポルタ大学に入学したフェリペ皇子ら七人は、リラの勧めで、サークル活動として探偵団に入部した。
そこに居たのは、顧問としての遠坂ら三人の准教授と、先輩として部長の明智美雪と金田一耕助。
そして、彼等にとって初めての依頼者が訪れた。
六つ墓村で起きようとしている殺人を阻止して欲しいという、トニオとカチュア。
五百年前に殺された落ち騎士の伝説を伝える村。その祟りと噂される、この村で予想される事件を、依頼者のトニオはこう言った。
「いえ、これは多分、遺産の相続争いです」と・・・・・。
事件のイメージが現実的なものとなった事で、金田の表情が変わった。
そして彼は依頼者たちに問う。
「とりあえず確認したいんだが、トニオが遺産相続人という事かな?」
「そうです」とカチュアが答える。
「誰の遺産?」
その金田の問いに、トニオは「僕の父・・・だよね? けど僕が子供の頃に死んだ・・・」
「本妻が管理していたんです」とカチュアが補足。
「カチュアは関係者なの?」
そう金田が問うと、トニオが「僕の妹です。腹違いだけど」
「母親は先妻・・・じゃ無いですよね? もしかして愛人?」
そう明智が言うと、トニオは「いや、愛人の子は僕の方で」
「本妻は私の母です。それが先日、急死しまして」とカチュアが補足。
そしてトニオはぽつりと言った。
「僕は遺産なんか欲しくないよ」
だが、カチュアは「いえ、長男として兄さんが戻って継ぐべきです。それで誰かが兄さんの命を狙っているんです。だから、探偵の皆さんについて来て欲しくて」
明智部長は宣言する。
「解りました。解決して見せましょう。名探偵と言われたお祖父様の名にかけて」
金田は更に質問を続けた。
「それで、とりあえず背景を詳しく知りたい。フェンリル家ってどんな家なの?」
カチュアがあれこれ語る。
「死んだ当主がかなり異常で、変死みたいな死に方をしたのが祟りだと、ずっと噂されてきました」
「性格が異常って話?」
そう金田が問うと、カチュアは「両方です。乱暴で冷酷で、村人に高い利息で金を貸して、土地を取り上げて小作にして、高い小作料を取って・・・」
「そっち系の歴史教科書に出て来るような話だな」とマゼランが呟く。
トニオが「家族に対しても暴力を振るって、僕たちはまだ子供だったけど、母さんがよく折檻されたって聞きます」
「よくそんな奴の愛人になったよな」とチャンダが呟く。
「お金と暴力で無理やり・・・。実は想い合っていた人が居たそうなんですけど」
そうカチュアが言うと、全員声を揃えて「そりゃ酷い」
トニオは続けた。
「それで僕は、その恋人の子じゃないかと疑われて、母は命が危なくなって逃げたんです。母は折檻による傷が元で死にました。その後、父はますます酷くなって、精神に異常を来して32人の村人を殺して行方を晦ませたそうです」
「その精神異常が六つ墓様の怨霊に憑りつかれたものだと・・・」
そうカチュアが言うと、フェリペがマゼランの上着の裾を掴んで「本当に行くの?」
「怖いですか?」
そうマゼランが言うと、フェリペは精一杯の強がり顔で「こここ怖くなんて無いもん。僕は闇のヒーロー、ロキ仮面だ!」
フェリペたち七人を加えた九人の探偵団と、トニオとカチュアの11人を乗せた馬車が、山奥の村へ向かう。
馬車の中であれこれ雑談。
「皆さんは探偵なんですよね?」
そうトニオが言うと、明智は「どんな事件だって解決して見せるわ。お祖父様の名にかけて」
「有名な探偵のお孫さんで、凄腕の女流探偵という訳ですね?」
そうカチュアが言うと、マゼランが「この人はただのミステリーマニアで、探偵はこちらの金田一耕助先輩です」
「金田一さん?」
そうカチュアが確認すると、本人が「金田です」
「何かの創作物の影響で、出生届の窓口係が間違って金田一と登録したんですよね」とリンナが説明。
トニオが「金田一って姓はジパングに多いの?」
「いや、金田の方が遥かに多いですけどね」と明智。
「お二人ともジパング人なんですよね? どんな名前が多いんですか?」
そうカチュアが言うと、金田は「下の名前なら太郎とか花子。姓なら鈴木・佐藤・中村・・・って所かな」
ルナは「ポルタにも、よくある名前ランキングってあるよね?」
村に着いてフェンリル家の館へ。
館の門の前に怪しげな老婆が居た。
「戻ってきたのかい、トニオ」
おどろおどろしげな顔と声でそう言う老婆を見て、マゼランが「この人は?」
カチュアが「呪い師のババアムーンさんですよ。ちょっと頭が危ない人でして」
老婆はトニオを睨むと、ドアップで迫り、そして言った。
「六つ墓様がお怒りだよ。フェンリルの穢れた血のせいで、また多くの人が命を落とすじゃろう。六つ墓様の祟りじゃー」
言い終えて去っていくババアムーン。
門から入って館の玄関へ。
館の奥から中年男性が出て来て、彼等を迎えた。
「お帰り、カチュア」
「トリス叔父様、いらっしゃっていたのね。トニオ兄様が戻って来たのよ」
そう言ってカチュアはトニオを彼に引き合わせ、探偵団の面々を彼に紹介する。
そして男性は彼等に名乗った。
「トリスといいます。ここの当主の弟で、この二人の叔父に当ります」
カチュアも「トリス叔父様は、私には良くしてくれる、いい人よ」
トリスはトニオの手を執り、歓迎顔で「君がトニオ君だね。昔の面影がよく残っている」
「はあ・・・・・」
友好的な態度に何やら拍子抜け気味のトニオに、トリスは続けた。
「兄貴を止められなくて済まない。ローレさんには何も出来ず、可哀そうな事をした。けど、その兄貴ももう居ない。家族の一員として何でも言って欲しい」
そんなトリスを見て、マゼランは小声で金田に言った。
「彼やカチュアさんが死んだら、この人が遺産を相続する事になるよね?」
「まあ、そうなるね」と金田も頷く。
「こんにちは、トニオ君」
そう言って館の奥から出た来た、同年代の女の子。
トニオは戸惑い気味に「君は?」
トリスは彼女を指して「娘のミーヤだ。トニオ君とは従姉妹に当たることになるね」
ミーヤはフェリペたちを見て「そちらの方々が探偵さん? 随分大勢ですのね」
「探偵団ですので。私が団長の明智美雪よ」と明智が返す。
そして金田が「それで、人死にが出そうだという話を聞いたのですが」
「ただの噂ですよ。遺産を争って殺し合うというのは、ミステリーにはよくある設定ですからね」とトリスが楽観論を述べる。
居間に通されて、トリスからあれこれ話を聞く。
「それで、この村で起った事件を詳しく知りたいのですが」
そう金田が言うと、トリスは「まだ何も起きてませんけど」
「十年前に当主が消えた件がありますよね?」
そう金田が言うと、トリスは「でしたら・・・・・・」
トリスはあれこれ資料を持って来て、金田に渡した。
それを見ながら金田はトリスの話を聞く。
「トニオ君が自分の子ではないのでは、と疑い出した兄の様子に身の危険を感じたローレさんが、トニオ君を連れて逃亡した後、兄は錯乱状態で村人32人を殺害し、行方を晦ませたのです」
そう語るトリスに、金田は「その32人の名前は?」
「この名簿にあります」と言ってトリスは一枚の書類を出す。
「当主のゴンザさんが逃げた先については?」
そう問う金田にトリスは「六つ墓のある洞窟の可能性が高いと言われてましたね」
「捜索はしなかったのですか?」と金田。
トリスは「出来ないのですよ。中に怨霊の化身が居て、襲われてしまいますから」
「それってダンジョンなのでは?」とチャンダが口を挟む。
金田は「その化身って、村に危害を加えたりとか・・・」
「洞窟から出てはこないです」とトリス。
「その祟りというのをどう思います?」
そう金田が問うと、トリスは「迷信ですよ。信じている人も居ますけどね」
「けどあなた、さっき怨霊の化身って言ってましたよね?」
そう金田が突っ込むと、トリスは「あれはただのモンスターでしょう」
「まあ、普通はそう思うよね」とライナが口を挟む。
そしてトリスは言った。
「薬や刃物ならいざ知らず、祟りなんかで人は死にませんよ」
その時・・・・・・
トリスはいきなり苦しみ出し、間もなく息絶えた。
ミーヤはトリスの遺体に取り縋って「お父さん、しっかりして」と涙声。
そんな彼女を見て、あれこれ言う探偵団員たち。
ルナが「まさか本当に祟り?・・・・・」
リンナが「それとも毒殺?」
ミーヤはトニオに振り向き、そして言い放った。
「トニオさん、あなたの仕業じゃないんですか?」
カチュアは声を荒げて「ミーヤさん、何てことを・・・」
トニオは唇を噛み、そして「とにかく、医師のクーノさんに連絡しよう」
クーノは村に住む唯一の医師だ。
連絡を受けて駆け付け、トリスの遺体を診断するクーノ。
「心臓発作ですね。この人、相当な成人病体質でしたから」
だが、金田は「いえ、毒殺じゃないでしょうか」
「金田一さん?」
そう驚き顔で声を上げるミーヤに、彼は「いえ、金田です。経験上、あの死に方は毒による可能性が高い。ジパングで何度も見てきました」
「マゼラン、あれを・・・」
そうフェリペに促されたマゼランは、お腹に下げたマジックボックスに右手を入れ、取り出した謎の道具を掴んで右上45度に掲げて「毒殺診断魔道具ーーー」
彼を指しつつチャンダが語る。
「説明しよう。探偵団と聞いて面白がったヤンが、マーモの医学知識を応用して作った、人体を害する物質の魔素を検知する魔道具なのだ」
「それ、何のアニメの真似ですか?」と、困り顔のライナたち。
とりあえずマゼランは魔道具を使ってトニオの遺体を診断する。
そして「毒物反応ですね」
「やはりこれ、毒殺・・・・・」と一様に呻く探偵団の団員たち。
そして彼等がクーノ医師に視線を向ける。
「ままままあ、医師も人間ですから、誤診なんて事もありますよ」と弁解顔のクーノ。
「いや、人の命に関わる事なんだが・・・」
そうマゼランが呟くと、カチュアは小声で「この人、相当な藪医者だから」
来て早々、事件が発生。そして一人の犠牲者が出た。
簡単な葬儀が行われ、司祭のエイセルがそれを取り仕切る。
そしてトリスの遺体は遺体安置所に収められた。
葬儀を終えると、エイセルはトニオに言った。
「トニオさん、人は過ちを犯します」
「何の話ですか?」
そう言って困り顔を見せるトニオに、エイセルは「目の前に莫大な遺産がある。それは容易に人の心に悪魔を誘い込む。どうか悔い改める勇気を・・・」
「俺を疑っているんですか?」とトニオは感情的な声を上げる。
だが、まだ周囲に何人か居る村人たちの、トニオを見る視線が厳しい。
そんな様子を見て、明智は金田に言った。
「ハジメさん、私たちの出番よ。名探偵と呼ばれたお祖父様の名にかけて」
「それはいいんだけど・・・。マゼランさん、あの遺体って」
そう金田が言うと、マゼランは「気付きましたか?」
金田は頷き、そして言った。
「やはりそうですか。この事件、変な所で闇が深そうですね」




