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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
394/562

第394話 常春の王子

フェリペ皇子たちがポルタ大学に入学して以降、しばらく大学では、六歳の幼い皇子に関する噂でもちきりだった。

もちろん、彼の所属する人文学部でも、何かにつけてフェリペは話題に上った。

その日の始業前の人文学部室でも・・・。



「六歳で大学だものなぁ」

一人の男子学生がそう言うと、もう一人の男子学生が「マンネリ王国のバッタモンという王子は八歳で大学を卒業して博士号をとったって言うけどね」

「やっぱり天才って居るんだよね」

そう一人の女子学生が言うと、男子学生の一人が「ってか、王族が権力で押し込んだだけなんじゃ無いの?」

別の男子学生が「まあ、小学校ってのがまだ存在しない時代設定だから」

「だからそれは言わない約束」と更に別の男子学生が突っ込む。


「けど、バッタモン王子って、どんなお子様なのかな?」

そう一人の女子学生が言うと、別の女子学生が「フェリペ君みたいに可愛いのかな?」

更に別の女子学生が「サンタクロースとか絶対信じてるよね」

更にその隣に居る女子学生が「赤ん坊はコウノトリが運んで来るんだとか」

「いや、女性の下着をくすねて宝箱に入れて拝んだり」と一人の男子学生。

「それ、元オッサンの異世界転生者な」と、別の男子学生が突っ込む。

「どんな子かなぁ。目がくりっとして小さくて細くて」

そう一人の女子学生が言うと、その隣に居る男子学生が「期待しない方がいいと思うけど」

「何? 嫉妬?」と返すその女子学生。

別の女子学生が「見てみたいなぁ」



「呼んだか?」

そう声がして、彼らは教室の戸口を見る。

そこに立っているのは、子供サイズの身長ながら、楕円形に近い肥満体系。

顔の輪郭は丸顔というより横幅が大きく、右端近くから左端近くまで続く緩んだ口のライン、そしてほぼ線に等しい細い目。いわゆる潰れ餡饅と呼ばれるタイプの容貌だ。

「僕が噂のマンネリ王国から来たバッタモン王子だ」

残念な空気が漂う。



一人の女子学生が「聞こえてました?」

「バッタモン108の特殊スキルの一つ、ザ地獄耳」

そうドヤ顔で言うバッタモン王子に、先ほどの女子学生が「特殊スキルって言うには、普通によくある特技なのでは?・・・」

するとバッタモンは「地獄の責め苦を受ける亡者たちの悲痛な阿鼻叫喚も聞こえるぞ」


大きな巻貝を出して耳に当てるバッタモン。

そして「今日も他人の苦痛は蜜の味。実に心地よい響きだ」


「いやそれ、波の音ってやつなんじゃ・・・・・」

そう指摘する学生たちに、バッタモンは「君たちも聞くかね?」

巻貝の先端のダイヤルを指で摘んで、捻って音声を拡大する。

「ギャー死ぬーお助けーもうしません。足の裏くすぐるの止めて」


全員ドン引き。

一人の男子学生が「悪趣味過ぎだろ」

フェリペが「父上は地獄なんて無いって言ってたよ」

「ってか、その中に声優さんの声を録音した記憶の魔道具が入ってるよね?」と一人の男子学生が指摘。



「ってか、普通は転入生は、担任が連れて来て紹介するんじゃ・・・」

そう別の男子学生が言うと、バッタモンは言った。

「ここに僕のお妃候補が居ると聞いてな」


女子学生全員が窓際に後ずさりする中、バッタモンは真っ直ぐフェリペ皇子の所に来る。

そしてフェリペに「政略結婚だ。君、僕の妃にならないか?」

「僕はホモじゃないぞ」

そうフェリペが言うと、バッタモンは「同性愛はいいぞ。LGBT法で保護されてポリコレ棒でやりたい放題。認定少数派特権により全権を握って独裁政権樹立だハイルヒットラー」

フェリペはあきれ顔で「いや、そんなの無くても、そもそも君は王太子だろ。普通に権力者なんじゃないのか?」


「まあ、そうとも言うがな。それより・・・・・・」

そう言うとバッタモンは、壁際の女子たちを見回し、そして言った。

「黄色い声はどうした? ホモが嫌いな女は居ないと聞いたが」

一人の男子が困り顔で「いや、それは但しイケメン・・・というか美少年に限るという奴かと」

するとバッタモンは「何を言うか、僕はマンネリ一の美少年だぞ。このぱっちりした目。ちんまりした口元、抱きしめたらすっぽり腕の中に納まりそうな小さく細いボディー」



「止めんか、この潰れ餡饅!」

いつの間にか隣に立っていた長髪のイケメンが、思い切りバッタモンを殴りつける。

いきなりのイケメンの登場に、女生徒たちはテンションMAX。

「あの、バッタモン殿下、この方は?」

そう一人の女子学生が言うと、バッタモンは「バンカランと言って、僕の従者だ」


バンカラン、思い切りバッタモンを殴りつける。

「誰が従者だ誰が! 私はイギリスから派遣された外交官だ」

「その外交官が何で留学先までついて来る?」

そうバッタモンが意地悪声で言うと、バンカランは「お前がマンネリ国の恥を晒さないよう監視するためだ」

バッタモン、更なる意地悪声で「マンネリ国の恥って、お前そもそもマンネリ国の人間じゃないだろ。それとも、マンネリは第二の祖国とでも?」

「・・・・・・・・」


「我が国には母上が居るからな」

そうバッタモンが言うと、バンカランは真顔の俯き加減で「止めろ」

「もしかして王妃と不倫?」

そんな学生たちのひそひそ声に、バンカランは語気を強めて「私は女性に興味は無い」

「えーっ、もしかしてホモ?」と女子達のテンションが上がる。

そんな彼女達にバンカランは「その呼び方は文学的じゃない。せめてゲイと言ってくれ」


バッタモンはドヤ顔で言った。

「そうなのだよ。彼のせいで僕までホモ呼ばわりされて、とんだ風評被害だ」

「お前は自分でホモを名乗ったんだろーが! しかも、全部冗談だよな?」とバンカランは反論する。

「だがお前は正真正銘ガチな奴。見ろ、男子全員ドン引きしてるぞ」と調子に乗るバッタモン。


一人の女子学生が進み出て、そして言った。

「あの、私たちはバンカランさんを応援してます。ホモが嫌いな女はいません」

他の女子達は迷惑そうに「そりゃ腐女子のあんただけだろーが」と声を揃える。

そんなクラスメートたちを無視して、彼女は「このクラスで誰が好みですか?」

そう問われてバンカランは「いや、私には既に相手が居る」

「マレイヒと言う奴でな、かなりの美少年だぞ。まあ僕には劣るが」とバッタモン。

バンカラン、思い切りバッタモンを殴りつける。



やがて担任が来て、バッタモンを紹介する。

長机と椅子の受講者席が並ぶ講堂で一時間目の講義。


開始三分でバッタモン、机にうつ伏して堂々と居眠り。

教授がそれを見かねて「あの、殿下・・・」

バッタモン、注意されると上体を起こし、そして「寝てないぞ。目が細いから瞑っているように見えるだけだ」と、しらじらしく言い訳。

「そうですか・・・」

そう言って講義を再開しようとする教授に、バッタモンはどす黒いオーラを漂わせ、MAXの脅し口調で「それよりお前、一国の皇子に無実の罪を着せるとは。国際問題になるぞ!」

教授、青くなる。

そして冷や汗全開の平身低頭で「ととととにかく、他の学生の見本となるようお願いします」



講義再会。

長机の上で布団を敷いて寝るバッタモンを、バンカランが来て叩き起こす。

そして「こんな所まで来てマンネリの恥を晒すんじゃない!」

「お前はマンネリ人じゃないだろ? それとも第二の祖国とでも? 母上が居るからか?」と意地悪声のバッタモン。

「・・・・・・・・」

言葉に詰まるバンカランを、バッタモンは「やーいやーい赤くなってやんの」と囃し立てる。


バンカランはバッタモンを椅子に亀甲縛りに括り付け、まぶたに洗濯ばさみで目を開けた状態に固定する。

「こんな事で僕の居眠りの権利を奪えると思ったら大間違いだぞ」

そうドヤ声で言うバッタモンに、バンカランは「そんな権利は無い!」


間もなくバッタモン王子、目を開けながら鼾をかいて居眠り。

バンカランは彼の隣の席で溜息。

「こういう奴なんだ。いちいち気にしていたら胃がもたん」

そう言ってバンカランは水筒を出し、小さな包みを開けて胃薬を飲んだ。



午後の講義は休講となった。

そして大会議室ではバッタモン王子が教授たちを集め・・・・・・。



やがて大会議室から、バッタモンが出て来る。会議室の中には憔悴しきった教授たち。

手に卒業証書と、何やら大きな板を持つバッタモンは、廊下で様子を伺っていた生徒たちに言った。

「これはポルタ大学の看板だ。ここの奴らも全然歯ごたえが無い・・・」


「何をやったんですか?」

そうマゼランが言うと、バッタモンは自慢顔MAXで「学術討論を吹っかけて全員を論破したのさ」

「道場破りかよ」と困り顔のチャンダ。

「この勢いでユーロ中の大学の奴らを論破して、論破王に僕はなる!」

そう意気揚々と宣言するバッタモンに、学生たちは「ひろゆきとかいう人に対抗する気ですか?」とあきれ顔で声を揃える。



「という訳で僕は今日で卒業だ。次はロンドン大学に行くぞ」

そう言って玄関に向かうバッタモンに、バンカランは歩きながら「俺の国に迷惑をかけるのは止めろ」

「ならパリ大学だ」とバッタモン。

「あの国は駄目だ。先王に出くわしたら厄介だ」

そう言って駄目出しするバンカランに、バッタモンは「お前、言い寄られてたものな」

バンカランは「だからだ。下手な振り方をすると外交問題になる」


そう言うバンカランの困り顔を楽しむように、バッタモンは「よし決めた。パリ大学に行くぞ」

そして玄関では「人の話を聞けよ」と、バンカランの苛立ち声が響いた。

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