第393話 学生たちの冒険
フェリペ皇子とその部下七名がポルタ大学に留学した。
ライナたち元女官見習い三名が所属する魔法学部で、当初男子学生に人気だったライナたちだが、人文学部に所属したマゼランたちの存在を知って男子たちは関心を無くす。
だが、その中で彼女達への関心を持ち続けたジョルドとドミンゴは、三人が海賊団として冒険に出て欠席している間に代返してあげた事をきっかけに交友関係を持ち、次の海賊団の冒険への参加を申し出た。
出航の日の朝、ジョルドとドミンゴはポルタ港へ。
ライナたち三人は既に来ていて、出航準備を手伝っている。そしてフェリペたち人文学部の四人も・・・。
「ようこそ、僕たちマゼラン海賊団の冒険へ」
そう言って二人を迎えたフェリペとマゼラン。そして、二人が初めて見る三人の大人。
二人の男性が自己紹介。
「航海士のヤンと」
「マーモだ」
そして一人の若い女性が「ヤマトです」
彼女を見て、ジョルドとドミンゴは思った。
(綺麗なお姉さんだなぁ)
フェリペ皇子が、港に停泊している一隻の船を指して「あれが僕たちのヤマト号だ」
「マゼラン号じゃないの?」
そう疑問顔で言うジョルドに、マゼランはヤマトを指して「実質船を動かすのは、彼女なんでね」
「じゃ、航海士の二人は飾り物?」
そうドミンゴが言うと、ヤンとマーモは涙目ドアップで「それは言わない約束だよ」と訴える。
「ってかヤマトさんって・・・・・・」
そうドミンゴが言うと、ヤマトは「軍艦娘です」
「軍艦娘って?」とドミンゴが聞き返すと、フェリペの隣にロキが出現。
「提督として登録されたユーザー様にキャッキャウフフのネトゲライフをご案内する女の子キャラだよな」
ヤマトは慌てて「違うから。ロキさんが言う事は本気にしないで下さいね」
「けど、ヘンリー王はそのつもりで要求仕様を出したのだよな」
そうロキが意地悪顔で言うと、ヤマトは困り顔で「そうですけど・・・・・」
出港準備が整い、ヤマト号は海へ乗り出す。
午後になり、ヤマトは機械背嚢を装着して甲板へ。
霊波センサーが魚群を探知し、機械背嚢の砲に装着した射出網を打ち出す。
大量の魚がかかった網を全員で引き揚げる。
夕食に大量の魚料理。
「こんなに食べきれるの?」
そうジョルドが心配顔で言うと、ルナは「大丈夫」
物凄い勢いで食べるヤマトを見て唖然とする、ジョルジョとドミンゴ。
「早く食べないと、無くなっちゃいますよ」
ヤマトにそう言われて、二人は慌てて食べ始める。
夕食を食べ終わり、食後のお茶を飲みながら、あれこれ雑談する。
「この船って、普通と違いますよね?」
そうジョルドが言うと、ヤマトは「魔導船ですよ」
「うちの大学の海賊学部造船科が作った、魔法で操る船だよ」と、マゼランが補足する。
「そういえば、開発したての船が持ち逃げされたって・・・。あれは皆さんが?」
そうジョルドが言うと、フェリペは言い訳声で「あの後、ちゃんと父上から誕生日プレゼントとして貰ったから」
「そういえばフェリペ殿下のお父様って?・・・」
そうドミンゴが言うと、マゼランは「王太子のエンリ殿下ですよ」
「えーっ。あの変態お魚王子」
そう言いかけた二人の足を、ルナとリンナが思い切り踏む。
「けど皇子って事は、皇帝の子供だよね?」
そうジョルドが言うと、チャンダは「母親がスパニアのイザベラ女帝」
「えーっ。あの陰謀の女神」
そう言いかけた二人の足を、ルナとリンナが思い切り踏む。
「それじゃ、もしかしてフェリペ殿下が即位する時はスパニアと合併?」
そうジョルドが言うと、ドミンゴも「それは嫌だ」
それに対してフェリペが「そうはならないと思うよ。ポルタはこれから生まれる僕の弟に継がせるって、父上が言ってた」
ジョルドが「そうですよね。俺が子供の頃、スパニアに併合された事があって、その時に派遣された総督のやり方が酷くて」
ドミンゴが「人頭税ってのがあって、子供の背丈が一定の背丈になると税がかかるからって、髪の毛の厚さだけでも税を遅らせようって事で、みんな丸坊主にされて」
「それは酷い」と全員、声を揃える。
「近所の女の子なんか、恥ずかしくて外を歩けないって、引き籠っちゃいました」
そうジョルドが言うと、チャンダが憤懣顔で「誰だよ、その総督って」
「今、スパニアの航海長官やってるって」とドミンゴ。
何故か、場に残念な空気が流れる。
そしてマゼランが焦り顔で言った。
「・・・・・・・・止そう。昔の話だよ。これからは未来志向で行かなきゃ」
するとドミンゴが怪訝顔で「その台詞って、どこぞの半島国の大統領が詐欺のために言った台詞ですよね。昔の歴史を捏造して被害者ぶるのを止めるフリをして相手国を騙して、破綻した経済の立て直し援助を騙し取った台詞。で、その後勝手に意味をすり替えて、自分達がやったその歴史捏造詐欺の方を免罪にして、捏造歴史で被害者ぶる方は更に酷くなって・・・・・」
その夜は船室に一泊し、翌朝、目的地の島に到着。
住民から情報を集め、ヤマトも含めた全員で、モンスターの出る森へ。
奥へ進んでしばらく歩くと、ヤマトの髪飾りが何かを探知した。
「モンスターが居ます。小型ですが、数が多いです」
全員、武器を構え、ライナたち三人が魔法防御の呪文を唱える。
そして彼等はゴブリンの襲撃を受けた。
女の子たちが周囲に魔法防壁を張り、その中でフェリペがロキ仮面になって仮面分身の呪句を唱える。宙に多数の仮面が出現。
「俺たちだけで十分です。殿下は仮面で攪乱をお願いします」
フェリペは「だったら、あれをやってみよう」
多数の仮面が宙を舞って、口からウィンドアローの攻撃魔法を放ってゴブリンの群れを攪乱。
そこに、三人の従者とヤン・マーモが剣を抜いて斬りかかった。更に女の子の魔法攻撃とヤマトの機械背嚢の砲撃で支援。
ドミンゴの身体強化の支援を受けたジョルドも剣を抜いて戦闘に加わる。
殆どのゴブリンが倒され、生き残った少数が逃げて行った先を、ヤマトが霊波探知で探る。
「奴らの本拠地があります。八時の方角距離300にゴブリンの村です」
三方から村を包囲する体制を組む。
一ヶ所はシャナとアラストール。
二か所目にはヤマトの機械背嚢の砲で支援の元でマゼランとチャンダ、そしてフェリペ。
そして三か所目に三人の女官の魔法攻撃を背に、ヤンとマーモ、そして背後に居るドミンゴの支援を受けたジョルド。
ヤマト号の四門の砲で砲撃をかけ、炎上する村のゴブリンを全員で攻撃し、殲滅。
「ジョルドさん、普通に戦えるんだね」
そうチャンダが感心そうに言うと、ジョルドは照れくさそうに「強化魔法を受けているからね」
ジョルドとドミンゴは思った。
(あいつらと並んで戦えるって、俺たちも捨てたもんじゃないな)
更に森の奥へ進み、ヤマトはモンスターの魔力を探知した。
「かなり大型で強いモンスターが居ます」
「私がドラゴンで出ようか」
そうペンダントのアラストールが言うと、シャナが「いざとなったら頼む」
間もなく、一体の巨大なオーガが姿を現した。
その足元にミノタウロス、トロル、アラクネ、ケルベロス。
ライナたちが防御魔法の詠唱を始めると、フェリペは仮面をかぶり「僕も出て戦う。ああいうデカいのの相手は得意だ」
フェリペはオーガの周囲に仮面分身で出した無数の仮面を浮かべ、それを足掛かりにすばしこく宙を跳ね回る。
そしてオーガのうなじにファイヤーランスを叩き込む。
灼熱の刀を振るうシャナがミノタウロスを一刀両断。
マゼランがトロルに、チャンダがケルベロスに立ち向かう。
ライナの魔法防御陣の中から、リンナとルナがアラクネの魔法攻撃を妨害魔法で防ぎ、ドミンゴの支援を受けたジョルドがその八本の足を次々に切り落とす。
だが、ジョルドはアラクネの糸に掴まり、アラクネはジョルドに向けて、残った足を振り下ろす。
「危ない」
そう叫ぶヤンの剣がアラクネの足を受け止め、マーモがアラクネの首を刎ねた。
「大丈夫か」
そうヤンが声をかけ、ジョルドは「助かりました」
巨大なキングキメラが現れ、その口から吐いた強力な炎を、ライナたち三人が防御魔法で防ぐ中、ジョルドが剣を構えて切りかかる。
「そいつは強いぞ。突出すると危ない」
そうマゼランが叫ぶ中、ジョルドは蛇の頭を持つ尻尾の一撃を受けて傷ついた。
ヤマトが機械背嚢の砲を連射して牽制する中、フェリペが駆け寄り、ジョルドの手を掴んで「仮面転送」と呪句を叫ぶ。
ジョルドとフェリペはライナたちのシールド内に転送された。
シャナの灼熱の刀がキングキメラの頭の一つを切り落とす。
だが、もう一つの頭が口を開けて炎を吐き、シャナはそれを灼熱の刀で受け止めるのに手いっぱい。
マゼランとチャンダがキングキメラの周囲を駆け回って斬り付けるが、なかなか致命傷に至らない。
やがて周囲に無数のオルトロスとオークの群れが現れた。
「アラストール、出て来てくれ」
そう叫んだシャナのペンダントが光を放ち、ドラゴンに変身してキングキメラに立ち向かった。
三人の従者がオルトロスたちに立ち向かい、ヤンとマーモは機械背嚢の砲を連射するヤマトの支援でオークの群れと戦う。
フェリペが操る仮面の群れとリンナの攻撃魔法が彼等を支援。
傷ついたジョルドはルナの膝枕の上で治癒魔法を受ける中、ドミンゴは彼の手を握って「しっかりしろ」
「俺ってやっぱりモブなんだよな」
そんな弱気な事を言うジョルドに、ドミンゴは「何言ってるんだ」
だが、ジョルドはドミンゴに言った。
「お前の強化魔法、他の奴に使ってくれ。強い奴をもっと強くした方が効率よく戦える」
「解った」
ドミンゴはマゼランに魔法陣を投射し、呪文を唱えた。
「汝、世界を守る人の子の英雄。汝の名はマゼラン。その肉体たる宇宙は星幽にて注がれし万能の器。無限の力を授けし我は祝福者なり。我の供給を受け入れ無限なる万能を解き放て。強化あれ」
無数のオルトロス相手に苦戦していたマゼランに力が漲る。
彼は右手に噛み付いたオルトロスの顎を余裕で振りほどくと、右手の剣と左手の短剣で周囲のオルトロスを一気に薙ぎ払う。
ヤンとマーモに加勢してオークの群れを一掃し、背中を預け合って戦っているシャナとチャンダに加勢する。
そしてモンスターは殲滅された。
戦いが終わってみんなが集まる頃、ようやく回復したジョルド。
彼は三人の従者を見て、言った。
「俺、やっぱりモブなんだよな。三人とも強化魔法を受けた俺より、素で遥かに強いよ」
そんな彼にヤンが言った。
「モブだから何だよ。俺たちだって戦力としちゃ劣るけど、医師とか機械技師とか、他にもやれる事はある」
チャンダも「そうさ。直接戦う以外の役目をみんな持ってるんだよ」
マゼランも「攻撃してくる隣国から国を守るのは戦士だけじゃない。彼等のために武器や食料を作る人達のやってる事だって立派な戦いだよ。国が侵略されればみんなが苦しむ。だから国を守ろうと意見する。なのにその隣国に加担して侵略を助けたい奴は"自分で戦場に立たないくせに抵抗を唱える奴は卑怯者"だとか言って、屁理屈で抵抗する権利を妨害するんだよな。そんなの、みんなを害して不当な利益を得るために空っぽなカッコアピールで理から逃げてるだけの卑怯者だよ」
そんな彼等にマーモが問いかける。
「お前達、古代のアテナイが海軍の力でペルシア帝国からギリシアを守った時に、一番活躍したのは誰だか解るか?」
ジョルドが「敵船に乗り込む剣士」
ドミンゴが「船縁で撃ち合う弓手」
マーモは「どちらも違う。軍船の漕ぎ手だよ。つまりモブさ。だから、誰もがその国の主役と自覚して国を守る事を考え、意見する古代民主制が完成した。君は確かに特別な力を持っていないモブなのかも知れない。だから何だってんだ。みんなを守るのは特別なヒーローじゃない。みんながみんなを守るんだ」
「・・・」
するとフェリペが「ねえマゼラン、僕、今まで自分はヒーローだって言ってたけど、それって本当はすごく恥ずかしい事なの?」
「そんな事は・・・・・」と口ごもるマゼラン。
するとシャナが「いや、そうかも知れない。けど私はそんな主が大好きだぞ」
「それ、褒めてる?」
そうフェリペが言うと、シャナは「もちろんだ」
明るさを取り戻すジョルドとドミンゴ。
そんな彼等を見て、フェリペが言った。
「ねえ、ドミンゴ。僕たちの海賊団に入らないか? マゼランの強化役になって欲しいんだ」
するとドミンゴは「有難いですけど、俺たち友達ですから、二人で強くなりたいです」
「だったら二人で海賊団に入りなよ」とルナは言って、ジョルドとドミンゴの手を執る。
ライナとリンナも「そうしなよ。二人が居たら私たちも楽しいよ」
二人の男子は暫し顔を見合せ、そして互いに頷く。
そして二人は「頑張って強くなって、ちゃんと戦えるようになったら」
そんな二人にルナは「頑張ってね」
大学に戻って、いつもの日常が始まる。
魔法実習では五人でチームを組み、図書館で五人で試験対策。
そんな彼等が、揃って担任に呼び出された。
担任は言った。
「お前等二人、この三人がサボってる時に代返してるよね? 彼女だか友達だか知らんが、いちおう不正行為だからな」
「何で解ったんですか?」
そう怪訝顔でジョルドが言うと、担任は「女子の出席とって、返事をしたのが男子の声で、バレない訳無いだろ」




