第392話 彼女達の同級生
フェリペ皇子の部下として魔法で戦う技を磨くため、フェリペと三人の従者とともにポルタ大学に留学したライナ・リンナ・ルナ。
フェリペたちが入ったのは人文学部だが、三人の元女官見習いは魔法学部だ。
魔法学部の教室では、学生としてはかなり若い三人は男子学生たちに大人気。
モテに自信のある何人かの男子が話しかけるのを、多くの男子が遠巻きに、あれこれ言う。
「やっぱりJCっていいよね。JSと違ってロリコン認定の対象外だし」
「けどロリキャラの範囲だよね。淫行規定に引っかかるし」
「俺たちより一回り下ってだけじゃん」
「俺、二十歳過ぎてるんだけど」
「オッサンは手を出したら犯罪な」
「オッサン言うな。俺はまだ二十代前半だ」
その一方で、三人を冷たい視線で見る女子学生たちも、あれこれ言う。
「あの子たち、生意気じゃね?」
「マジむかつくーーーーー」
「年上ナメてんじゃねーっつーの!」
数人のケバい化粧の女子学生が、ライナたちを取り囲む。
「ちょっとあんた達、ツラ貸しなよ」
そう言って凄む女子たちに、ライナが「何でしょうか?」
「相手にしなくていいよ。こういうのをヤンキーって言ってね」
周囲の男子たちがそう言って囃し立てると、ケバい化粧の女子たちは、きつい目つきで「あんたら、こいつ等の味方かよ」
「怖ぇーーーー(笑)」と男子たち。
そんな周囲のやり取りを見て、ライナたちは額を寄せる。
「どうする?」
そうライナが言うと、リンナが「戦闘経験は私たちの方が豊富だし」
ルナも「返り討ちにしてやろうよ」
そしてライナは女子学生たちに「いいですよ」
女子学生たちに連れられて、廊下に出る三人。
その後ろを歩く男子学生たちに、女子学生の一人が「何であんた等がついて来るんだよ!」
「校内暴力は犯罪だよ」と男子学生の一人。
「ちょっと焼き入れるだけだっつーの」
そう言う女子学生に、男子学生たちは「それを校内暴力って言うんだよ」
そんな異様な集団に、向うから来る四人が声をかけた。
「お前等、何やってるんだ?」
そう声をかける四人に、ライナたちは嬉しそうに「マゼラン様、フェリペ様」
人文学部から様子を見に来たフェリペたちだ。
「何? こいつ等」
そう言って彼等を睨む女子達を見て、フェリペは「こいつ等、悪者か? だったら正義の味方が討伐してやる」
そんな幼い主にマゼランは困り顔で「あの、殿下。手加減はしましょうね。男女平等パンチというのは、ただのギャグですから」
そんな彼等に魔法学部の男子たちは「まあまあ、いざとなったらあの三人は、俺たちが守りますから」
そんな男子学生たちにフェリペは「そうか。部下が世話になったな。あれでも素人の学生より戦闘経験は豊富だぞ」
「それにしては・・・・・・」と言って、男子学生たちはライナとリンナを見る。
「マゼラン様ー」と言って彼に取り縋るライナ。
「チャンダ様、怖かったよー」と言って彼に取り縋るリンナ。
彼女達を見て首を傾げる男子学生たちに、シャナは「あれはただの"甘やかしてよアピール"だ」
「あの二人、彼氏持ちかよ」と溜息混じりな男子学生たち。
「けどルナさんは?・・・・・・」
そう言ってルナを見ると、彼女はフェリペにベタベタ。
「この子ってガチなショタコン?」と溜息混じりな男子学生たち。
そして、男子学生の殆どは三人から手を引いた。二人の学生・・・ジョルドとドミンゴを除いて・・・・・。
食堂では七人でわいわいやりながら昼食を食べる。そんな彼等を遠巻きに眺めるジョルドとドミンゴ。
ルナがフェリペに"あーん"するのを見て、ジョルドが「小さい弟のお世話するお姉さんキャラっていいよね」
「いや、お姉さんが愛でるのは小さい女の子だ」
そうドミンゴが言うと、ジョルドは「それはロリコンの女版。"男性は幼女を愛でてはいけない"という通念に縛られた過剰適応の産物だよ。お姉さん自体に萌えるなら、幼い自分を空想出来る姉弟関係に限る」
「けど、アイドルヒロインが小さい弟を愛でると、叩かれるぞ」とドミンゴ。
ジョルドが「そんなの叩く奴は幼児に嫉妬して発狂するレベルの屑だ」
ドミンゴは「ってか、ルナさんは年下だから妹キャラだろ」
「けど彼女、フェリペ殿下に夢中だけど」
ジョルドがそう言うと、ドミンゴは「"可愛い"を愛でる気持ちは無償の愛。見返りを求めず、彼女は殿下の年相応の妃との仲を応援するのさ」
「そうかなぁ」
「そして年下の彼の妃との愛を見届けた彼女は、その努力を支えてあげた俺と・・・」
ドミンゴがそう言うと、ジョルドは「無償の愛はどうしたよ」と突っ込む。
「ってか、お前はどうなんだよ」とドミンゴ。
ジョルドは「まあ、なるようになるさ」
そして、日数が過ぎ・・・。
ある日、三人は授業を休んだ。
欠席は数日続き、ジョルドとドミンゴはあれこれ噂する。
三人の居ない講義室でジョルドは「どうしたのかな?」
「三人揃って病気でもしたか?」とドミンゴ。
「お見舞いにでも行く?」
そうジョルドが言うと、ドミンゴは「住んでる所を知らないんだが」
「欠席が続くと単位を落とすぞ」とジョルド。
「代返でもしてあげようか」とドミンゴが言い出す。
それ以降、授業の度に三人の代返をするジョルドとドミンゴ。
数日して三人は復帰した。
三人が久しぶりに顔を出した事に気付いた女子たちが、欠席中の状況について話す。
そして三人でジョルドとドミンゴの所に来て、ルナが二人に言った。
「女子から、授業の時に代返して貰っていたって聞いたんだけど」
ジョルドが「欠席が続くと単位を落とすよ。ってか、今までどうした?」
「冒険に出てたの。私たち海賊団だから」とライナが答える。
ジョルドが「あのフェリペ皇子たちと?」
ドミンゴが「だったら休んでた時のノートがある。もうすぐ定期試験だからね」
「写させてくれるの?」
そうリンナが言うと、ドミンゴは「いいよ」
ドミンゴが三人にノートを渡すと、ライナが記憶の魔道具で視覚情報として記憶。
それを見てジョルドとドミンゴは感心顔で「その手があったかー」
その後、二人は試験対策ではライナたちに教官の出題傾向を教え、魔法実習では五人でチームを組んだ。
実戦形式のチーム戦。
教官がルールを説明し、五人チームで作戦会議。
「私たちは後衛しか出来ないけど、楯役は二人で?」
そうライナが言うと、ドミンゴは「いや、ジョルド一人で」
ジョルドが「ドミンゴは身体強化魔法で支援だ」と説明。
最初は全員女子のチームが相手だ。
互いに一定の距離をとって、全員で攻撃魔法を仕掛ける相手チーム。
そんな相手チームを見て、ルナが「役割分担とか考えないのかな?」
「仲良しグループで固まると、似たようなタイプが集まるからね」とドミンゴ。
四人で後衛を組み、ライナとリンナが四人を守る防御障壁。
ドミンゴの身体強化魔法の支援を受けたジョルドが敵陣に突入。
魔法攻撃をかわしつつ肉薄し、電撃魔法で次々に仕留める。
ルナは回復と妨害魔法で支援。
次に全員男子のチーム。
全員で散開し、魔法攻撃を連射しつつ突入を図る。
そんな相手チームを見て、ルナは「やっぱり役割分担とか考えてない」
今度はリンナとルナで防御魔法。
ライナが攻撃魔法で牽制する中、ドミンゴの強化魔法を受けたジョルドが、側面から回り込んで次々に仕留める。
模擬戦に勝ち、リンナは弾む息の中で、ジョルドとドミンゴに「なかなかやるわね」
ドミンゴが「君等もね。三人の合わせ技かぁ」
ジョルドが「実戦経験の賜物って訳だね」
「けど、一人でもマゼラン様の役に立てるようになりたいの」
そうライナが言うと、ジョルドは「どんな相手と戦って来たの?」
これまでの冒険を語る三人。
話を聞きながら目を輝かせる二人。
「凄い経験をしてきたんだね。ライナはそのマゼランって奴が好きなの?」
そうジョルドが言うと、ライナが「騎士様だから」
「この子、騎士物語マニアなのよ」
そう言って、リンナが彼女の趣味を暴露。
「ちょっと」
そう言って止めようとするライナを無視して、リンナは「"週間私の騎士様"って小説雑誌、あるよね」
「あー・・・・」と二人の男子は納得顔。
「リンナはチャンダって奴が好きなんだよね?」
そうドミンゴが言うと、ライナが「インドの王様の落胤でしょ?」
リンナは顔を赤くして「いや、それは勘違いだから」
「血筋に飛び付いちゃう」と更に追撃をかけるライナ。
「あんたねぇ」
そんな二人の攻防に、ジョルドとドミンゴ唖然。
その後・・・・・・。
ある朝、大学に来たジョルジョとドミンゴは、ラウンジにリンナたち七人が居るのに気付いた。
マゼランと深刻そうな顔で話しをしている。
漏れ聞こえる会話の中で、フェリペの「孤島の村にモンスターが出るんだ。海賊団として退治に行くぞ」という言葉を、二人の耳が捉えた。
フェリペたち四人が人文学部へ去ると、ジョルジョとドミンゴはリンナたちに声をかけた。
「今のって?・・・」
そうジョルドが訊ねると、ライナが「海賊団で冒険に出るの」
二人の男子は暫し顔を見合せ、そして互いに頷く。
そしてドミンゴが言った。
「俺たちも参加できないかな? 戦力は多いほうがいいよね?」
ライナは「マゼラン様に聞いてみる」
講義の合間の休憩時間に、リンナたちは二人の男子を連れて人文学部へ。
そしてフェリペたちにジョルドとドミンゴを紹介。
二人は冒険への参加を申し出た。
「素人は危ないよ」
そう言って躊躇い顔を見せるマゼランに、ライナは「けど、魔導士は後衛で魔法攻撃と支援だよね?」
「そう予定通りにいけばいいんだけど」とチャンダが物言い。
だが、フェリペは言った。
「いいんじゃないかな。父上が言ってた。最初からヒーローになれる人なんて居ないって」
「ありがとうございます、殿下」と嬉しそうに声を揃えるジョルドとドミンゴ。
ジョルドは目の前の幼児に「キャラメル食べます?」
ドミンゴも「キャンデーもありますよ」
そんな二人にフェリペは不満顔で「君たち、僕を子供だと思ってるよね?」




