第39話 山岳の聖地
インドで秘宝を探すエンリ王子たちは、神の武器と伝わるヴァジュラを求めて北の山岳の洞窟寺院を目指した。
断崖の上にあるという洞窟を求めて、ファフのドラゴンが七人を乗せて上昇する。
そして崖の途中の平坦になった所に降りて、ファフは人間の姿に戻った。
エンリ王子は「一休みしたらまた飛ぶぞ」
だがファフは「お腹空いた。もう無理。飛べない」
仲間たち、唖然。
「おいおい。どーすんだよ」とジロキチ。
「俺も腹減った」とタルタ。
「それにここ、かなり寒いわよ」とニケ。
回りは雪と氷に閉ざされている。目の前には断崖が聳え、背後には絶壁の遥か底が覗く。
「麓に戻ってエネルギー補給して出直すか」とエンリ。
「けど、これ、どうやって降りたら・・・」とアーサー。
「どうしよう」とタルタ。
カルロはがっくりと膝をついて「眠い、ひもじい、疲れた」
「こんな所で眠ったら死ぬぞ」とジロキチが彼の肩を揺らす。
「俺を置いて行け」と呟くカルロ。
「生きてポルタに帰るのよ」とニケはぐったりしたカルロを抱きかかえる。
そんなニケにカルロは「君の体は暖かいなぁ」
「死なないでよカルロ」と涙するニケ。
エンリ王子は寒さに震えるリラを抱きしめ、空を見上げて叫んだ。
「天は我等を見放したのかぁ」
「あの・・・、何やってるんですか?」
若い修行者が怪訝そうな顔でエンリとその仲間たちに訊ねた。
一同唖然。
そして「人が居るじゃん」と・・・。
若い修行者は「巡礼者の方ですよね? とりあえずお入り下さい」
崖際の岩に隠れるように洞窟寺院の入口があった。
案内されて中に入ると、老いた修行者が居た。
案内してきた修行者はその老人にエンリたちを指して「お師匠様、巡礼者の方です」
「今日はここに泊まって行きなされ」と、笑顔でエンリたちに言った。
エンリ王子は老人に「あの、ここにインドラ神のヴァジュラが封じられていると聞いたのですが」
「ありますよ」と老人は答える。
洞窟寺院の奥に案内されるエンリ達。。
「これです」
そう言って老人が示した祭壇に、いかにも武神といった姿の黄金像があった。
そして老人は「これが、ヴァジュラを使う雷神インドラの像です」
「あの・・・ヴァジュラって武器なんじゃ・・・」とエンリ。
「神の武器ですので人の目には見えません」と老人。
アーサーは「ってかさっき雷神って・・・」
老人は「インドラは雷の神ですが何か」
エンリたち唖然。
「自然現象の神格化じゃん」とエンリ。
「つまりヴァジュラってただの雷?」とアーサー。
「どーせそんな事だと思った」とニケ。
老いた修行者は笑いながら「とにかく夕食でも召し上がってはどうですか?」
「ここってヒンドゥーの寺院なんですよね?」とエンリは訊ねる。
老人は「この山岳全体が聖地です」と・・・。
「どうやって麓に降りるんですか?」とエンリ。
老人は言った。
「このすぐ上に広い高原があって、宗派の違う人達が居ます。そこから麓に降りる道があります」
焚火を囲んで夕食。
ナンと呼ばれるパンとスパイスの効いたスープ。
ファフが「食べ足りない」と不平を言う。
老修行者は笑って「よく食べる子は大きく育ちます」
エンリは困り顔で「いや、こいつは実は既に大きくなり過ぎてまして」
その時、先ほどの若い修行者が慌て顔で駆け込んできて、言った。
「お師匠様大変です。村の人たちが助けを求めています。またイェティが暴れていると」
「イェティって?」とニケが問う。
「人型のモンスターですよ。普段は大人しいんですが、最近狂暴化して人里を襲うようになって」と若い修行者。
するとファフはいきなり元気になった。
そして「モンスターって事は、ご飯だぁ」
洞窟寺院の前の平坦面で逃げてきた村人がイェティに襲われていた。
ファフがドラゴンの姿になって、一匹のイェティを一呑みにすると、他は逃げて行った。
村人が「竜神様だ」
「どうか村を助けて下さい」と別の村人が懇願する。
ファフは「もっとご飯があるんだね。いいよ」
そんなファフをエンリは制して言った。
「ファフ、あまり無暗に殺さないほうがいい。きっと狂暴化した理由があるんだ」
だがタルタは「けど村を助けるのが先決だよ」
ファフの背中に乗って山を越えるエンリたち。
村に行くと、村人が数匹のイェティに襲われていた。
ドラゴンがイェティを威嚇し、タルタとジロキチが追い払う。
周囲を探るアーサーが、物陰でそれを見つけた。
「ここに怪我した魔物が居ます」
エンリはその魔物を見て「こいつイェティのボスか」
アーサーが怯えと怒りに染まった魔物にスリープの呪文をかけて眠らせ、傷を調べる。
アーサーはイエティの脇腹に傷を見つけて「これ、銃創だな」
「それで狂暴化したのか」とエンリ。
「ヒーリングで癒せるか?」とタルタ。
「弾を摘出しなきゃ駄目ですね」とアーサー。
ニケが「私がやるわ」
ニケがメスで傷跡を開いて銃弾を摘出し、アーサーがヒーリングで傷口を塞いだ。
すっかり大人しくなったイェティのボスは仲間を連れて住処に戻った。
騒ぎが納まり、エンリは村人に訊ねた。
「あいつを撃ったのは誰だか解るか?」
村人は「きっとシーノの奴等ですね」
「どんな奴等なんだ?」とアーサー。
「私たちの国は大導師様が治ているのですが、東方の超大国として勃興したシーノが侵略して来ているんです。私たちの村も奴等の略奪を受けました」と村人が答えた。
「そいつらはどこに」とエンリ。
「今、宮殿寺院に立て籠った僧兵隊と決戦中です」と村人。
エンリたちは額を寄せて相談する。
「そいつら、追い払えないかな」とエンリ。
「ファフで一撃してやれば僧兵隊とやらが反撃してくれるんじゃないかな」とアーサー。
七人がファフの背中に乗って首都を目指す。
上空から、石造りの宮殿寺院を取り囲むシーノ兵たちが見える。
アーサーがドラゴンの背中で呪文を詠唱し、敵の陣地にファイヤーレインを打ち込む。
混乱した敵の上からドラゴンが降りたって蹴散らす。
そして、敵の司令部に降り立ったジロキチたちは相手の指揮官相手に大暴れ。それを見た僧兵隊が城門を開いて打って出た。
シーノ兵たちは潰走した。
僧兵隊の隊長が来て、感謝の言葉とともに訊ねた。
「あなた方は?」
「山岳際の住人達から助っ人を頼まれたんです」とエンリ。
隊長は「ありがとうございます。ですが、この場は立ち去った方がよろしいかと。今の奴等は前衛で、すぐ敵の本隊が来ます」
エンリは「大丈夫。そいつらは任せろ」
進軍してくる本隊を見下ろす丘の上で人魚姫リラが歌う。
セイレーンボイスで眠った敵兵は宮殿寺院の僧兵隊が捕縛した。
侵略の危機が去ったとして、大導師が出て来てエンリ王子たちに言った。
「何とお礼を言えばよいか」
エンリは彼に言った。
「それより、"ひとつながりの大秘宝"というのを知りませんか? 世界の海を支配する海賊王になれるというのですが」
「ここは海から遠く離れた内陸ですので」と大導師。
エンリ王子は「そーいやそーでした」




