表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
384/562

第384話 ミクロの探究者

それは、エンリ王子たちがフェリペ皇子を連れ戻してユーロに帰還して、間もなくの話。



インドで熱病の原因となる微細な生物を観察するため作成した顕微鏡を、ニケはポルタ大学医学部に持ち込んだ。

そして手頃な研究室を見繕って、そこに居る教授に商談を迫る。


「医学を革命的に発展させる凄い道具を発明したんだけど、当然、発明者として権利料は貰えるのよね?」

教授は困り顔で「まあ、本当に凄い発明なら・・・。以前持ち込んだようなストロー付きマスクみたいなのは、お金になりませんからね」

「本当に凄いのよ。あなた達、疫病の原因が魔女の呪いとか、まさか信じてないわよね?」

そんなニケの、専門家に対して失礼過ぎな物言いに、教授は困り顔で「目に見えない微細な黴菌ですよね?」

「黴菌っ・・・て、つまり体に入って病気の元になる虫よね。それを拡大して肉眼で観察できるのよ。これで目に見えない小さな虫を探ると、実は至る処に居て、いろんな病気を起こすの。世界中の医師の必需品になって、発明者として権利を握ってお金ガッポガッポ」

そんなニケの、目に$マークを浮かべた力説に、教授は事も無げに「ああ、顕微鏡ですね」

「・・・・・・」


「筒の中に何枚ものレンズを組み合わせるんですよね?」

そう言って、唖然顔のニケに追い打ちをかける教授に、ニケは「何で知ってるのよ」

教授は言った。

「いや、何でと言われても、ニケさんたちが航海に出てすぐの頃に、サハリアスというオランダ人が発明して各国に出回ってますよ。仕組みは望遠鏡と同じなんで、考える事はみんな同じって事かと」

「・・・・・・」


充てが外れて涙目のニケに、教授は続けて言った。

「それで、いろんな医師が、至る所に居る目に見えない小さな虫を見つけたって、ひっくるめて黴菌って、みんな呼んでますけどね」

「何で先を越されてるのよ。私がインドで発明したのよ。私の権利なのよ。私のお金ーーー!」

そう言って、悔しそうに地団太を踏むニケ。



やがてニケは気を取り直す。

そして「それで、そのサハリアスって人、あなた達相手に商売してるのよね? どんな人なの?」

「我々が買ってるのは、別の製作者のものですけどね。レーウェンフックというオランダ人で、ちょうど顕微鏡を売り込みに来てますよ。財務の奴等相手に値段交渉中だと・・・」

そう教授が言うと、ニケは「こうしちゃいられない」

「何する気ですか?」

「私だって独自に発明したんだから権利者の一人よ。権利料の分け前は当然でしょ?」

そう言って研究室を飛び出すニケに、教授は「そんな無茶な・・・・・・」



財務課に行くと、係員のデスクの前に一人の男性。そして、ニケが作った顕微鏡とよく似た道具。

「あなたがレーウェンフックさんね?」

そうニケに話しかけられ、男性は怪訝な顔で「あなたは?」

「顕微鏡の発明者よ」

そうニケが名乗ると、男性は「サハリアス氏って女性でしたっけ?」


そんなニケに、財務の係員は迷惑そうに「あの、ニケさん。エンリ王子から、あなたをここに入れるなと、お達しが来ているんですけど」

「そのエンリ王子の目の前で、私は顕微鏡を発明したんですからね。私にだって権利はあるんですからね」

そう言って、ニケはインドで作られた顕微鏡を出した。


係員は溜息をつき、ニケに言った。

「実は、あなたがそういう話を持ち込むだろうって事は、エンリ殿下から話がありまして。けど、サハリアス氏の発明はあなたが西方大陸に居た頃で、あなたがインドで顕微鏡を作る前ですよね?」

「けど、ここに居るのは、そのサハリアス氏じゃ無いわよね?」と開き直るニケ。


「私は顕微鏡の改良者ですので」

そう言ってレーウェンフックは売り込みに来た顕微鏡を出す。

そんな彼に、ニケは「とにかく覗いてみてよ。あなたの顕微鏡に負けない性能よ」



ニケとレーウェンフックは、互いの顕微鏡で黴菌を見る。

ニケのものより遥かに高倍率で、はっきりと黴菌の姿を確認できるレーウェンフックの顕微鏡に、ニケは「負けた」と呟き、がっくりと膝をついた。

真っ白に燃え尽きたニケを他所に、レーウェンフックと財務との商談は進む。


商談が終わると、帰り支度を始めたレーウェンフックの手を執って、ニケは言った。

「あなた、私と組まない? もっといい取引相手を紹介してあげるわ」

彼は迷惑そうに「そういうのは間に合ってますんで」

「まあ、そう言わずに。何しろ相手はこの国の王太子ですからね」と、目に$マークを浮かべてドアップで迫るニケ。



ニケはレーウェンフックを連行してエンリの執務室へ。

そこでは書類の山を相手に格闘中のエンリと、彼を他所に、まったりとお茶を飲んでいる彼の部下たちが居た。


「疫病の元になる黴菌を特定してこの国から病気を根絶するのは、国家事業として取り組む価値があるわ。そのための高性能の顕微鏡が発明されたの。これを大量に作って国中の医師に配布して・・・」

いきなりオランダ人職人を連れて執務室に乗り込み、まくし立てるニケに、エンリは溜息をつく。

「ニケさんは販売代金の分け前でお金ガッポガッポ・・・ってか?」

「そのために注ぎ込む予算、ケチったりしないわよね?」と畳みかけるニケ。

「ってか、顕微鏡ってサハリアスって人が発明して普及してる筈だが、しかもニケさんがインドで作る前に」

そうエンリが言うと、ニケは連れて来たオランダ人を指して「このレーウェンフック氏の顕微鏡はずっと高性能よ。黴菌の特定が格段に効率的になるわ」



とりあえず見てみようという事になる。

レーウェンフックがサンプルをセットし、エンリが覗く。

他の仲間たちも次々に覗く。


「確かによく見えるな」

そうジロキチが言うと、エンリが「ってか、これ一つ一つが黴菌か? 何だか不定形なものがびっしり隙間なく固まってるみたいなんだが」

「これは細胞ですよ。顕微鏡で確認されて知られるようになったもので、あらゆる動植物がこれの集合体として形を成す。菌は単体の細胞で構成される生物なんです」

そうレーウェンフックが説明すると、エンリは「あらゆる物質が原子が集まって構成される・・・みたいなものか」

アーサーが「タルタのレベルだと、ブロックの玩具を組み合わせてお城やロボットを作る、って喩えになるんじゃ・・・」

「お前等、俺を何だと思ってるんだ」と口を尖らせるタルタ。

そんな会話を聞きながら、エンリはインドで疫病騒ぎの最中に考えた事を思い出した。



レーウェンフックは顕微鏡に黴菌のサンプルをセットする。

リラが覗いて「分裂する様子もはっきり解りますね」

若狭が覗いて「それで、これって何の菌なの?」

「この顕微鏡を開発する時のサンプルに使ったもので、私の歯垢ですよ」とレーウェンフックが説明。


「えーーーーっ!」

女性陣がドン引き顔で後ずさり。

「何てもの見せるのよ」とニケが思いっきり嫌そうな顔で・・・。


タルタが覗いて「けど、って事はこれが虫歯の原因か?」

「けどこれ、歯を削るツルハシとか持って無いでござる」と、その次に覗いたムラマサが言う。

ニケがあきれ顔で「いや、黴菌の病気の起こし方って、そういうのじゃ無いから」

「ねえねえ、他には無いの?」

そう言ってファフがねだると、レーウェンフックは「ありますよ」


レーウェンフックは別のサンプルを出して、顕微鏡にセットする。

顕微鏡を覗くエンリの仲間たち。


カルロが覗いて「オタマジャクシみたいなのが居るね」

「これも何かの病原菌か?」

そうエンリが問うと、レーウェンフックは「そういうのとは違うと思いますが」

「ってかこれ、何なの?」

そうニケが問うと、彼は「私の精液ですよ」

「えーーーーっ」

ニケがハリセンでレーウェンフックを思い切り叩く。

「何てもの見せるのよ!」



顕微鏡をケースに戻し、リラがみんなにお茶を入れてあげる中、エンリは言った。

「けどさ、黴菌の特定って、いろんな人たちがやってるんだよね?」

「フランスのパスツールという医師が、大々的にやっていますよ。彼は今、ポルタに来ている筈です」とレーウェンフック。

「ポルタ大学の医学部とか?」

そうアーサーが言うと、レーウェンフックは「いえ、ポルタ東インド会社の依頼だそうです」

「つまりモウカリマッカが呼んだ訳か」とエンリ。

「って事はあいつ、病気なのかな?」とタルタ。


「どんな依頼か聞いてます?」

そうリラが訊ねると、レーウェンフックは「何でも、ワイン病の対処法を・・・という話らしいですね」

聞きなれない病名に、全員首を傾げる。


「ワイン病って?」

そうリラが言うと、タルタが「ワインの飲み過ぎでかかる病気だろうな」

「つまりアル中か?・・・。って事はアル中の原因も黴菌なのかな?」とジロキチ。

「ヤク中と同様に、酒の飲み過ぎだと思ってたんだが」とエンリ。

「それじゃ、あの病気が細菌と、どういう関係があるのかな?」と若狭。

「つまり、酒が大好きな黴菌が、酒に酔って体の中で大暴れ?」とカルロ。

「それで、黴菌に憑り付かれたモウカリマッカが大暴れ?」とアーサー。


エンリが「憑り付かれるとどうなる?」

カルロが「悪魔に憑り付かれると悪魔みたいになるよね?」

「つまり、黴菌に憑りつかれると黴菌みたいになると・・・」

そうタルタが想像で言うと、ファフが「バイバイキンとか言い出すの?」

ムラマサが「語尾にキンが付いて"おはようキン"とか言い出すでござる」

全員、声を揃えて「面白そう。お見舞いに行こうよ」



お出かけの準備を始めるエンリたちを見て、レーウェンフックは思った。

(この人たち、何しに行くつもりだろう)

そして、その場を辞すレーウェンフックに、エンリは忠告した。

「それと、ニケさんの誘いには乗らない方がいいよ。下手すると分け前として、儲けの八割くらい要求されるから」

ニケは口を尖らせて「私を何だと思ってるのよ」



エンリと彼の仲間たちはポルタ東インド会社へ。

事務室で、社長のモウカリマッカが新設した倉庫に居ると聞き、みんなで倉庫へ・・・。


「お見舞いに来たぞ。体は大丈夫か?」

倉庫の入口でモウカリマッカを見つけたエンリが、そう声をかける。

モウカリマッカは怪訝顔で「別にどこも悪くないですが」


「無理するな。差し入れにブランデーを・・・・・・」

そう言って酒瓶を出したタルタを、ニケはハリセンで叩いた。

「アル中に酒は駄目だろ。やっぱりお菓子だよね。って事でウイスキーボンボン・・・」

そう言って菓子箱を出したカルロを、ニケはハリセンで叩いた。


モウカリマッカは困り顔で「いや私、アル中じゃないですけど」

「みんなそう言うんだよ。ヤク中もニコ中も」

エンリがそう言うと、モウカリマッカは迷惑顔で「いや私、そういう中毒でも無いですけど」

「ワインを飲み過ぎて病気になったんだよね?」とエンリが確認。


「もしかしてワイン病の事ですか? だったら、病気になってるのはあれですよ」

そう言ってモウカリマッカが指した倉庫奥に、ワインの酒樽が並んでいる。

全員唖然。

タルタが「病気の進行で人間が酒樽に変身?」

ジロキチが「恐ろしや」


モウカリマッカはあきれ顔で言った。

「じゃなくて、ワイン病ってのはワインが腐敗して酸っぱくなるんですよ。多角化でワインの醸造を手掛けてましてね」

残念な空気が漂う。

「東インド会社で? 貿易会社だろ」

そうエンリが怪訝顔で言うと、モウカリマッカは「輸出品にするためですよ。西方大陸の現地人に需要が多いんです」



「ところで、ここに黴菌を研究してるパスツールって医者が来てるわよね?」

そうニケが言うと、モウカリマッカは「奥の研究施設に居ますよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ