第378話 貴婦人の恋人
エンリ王子はアラゴン公・レーモン伯とともに、アルビ十字軍を撤退させた後のカタリ派教団の討伐を担い、レーモン領にある支部を制圧した。
それによって得た情報を基に、エンリはアビニヨンにある固有結界内の教団本部都市に潜入するが、警備隊と交戦中に転移魔法で拉致されて魔剣を奪われる。
だが、彼は監禁された地下牢で、アルビ派の弱者至上主義に共鳴した思想家ルソーと出会い、論戦を交わした後、ルソーの恋人の依頼で彼を捜索に来た怪盗ルパンと出会い、彼とともに魔剣を奪還。そして救出に来た仲間たちと合流し、アラゴン公とレーモン伯の軍を引き入れる事に成功。
カタリ派本部都市は陥落した。
制圧した教団の守備兵たちを拘束する兵たちを指揮するアラゴン公フェルデナンド皇子の所へ向かうエンリ王子。
エンリに気付いて駆け寄り、握手の手を差し伸べながら、アラゴン公は「エンリ王子、よくやってくれました」
「後はお任せしてもいいですよね?」
そう言いながらアラゴン公と握手を交わすエンリ王子。
そしてアーサーはアラゴン公に言った。
「信者たちの胸に機械が埋め込まれていますが、あれは魔石を作るために生命力を吸い取ります。放置すると命が危ないので、早急に処置をお願いします」
「解りました。魔導士に対策を命じましょう」
そう言うとアラゴン公は魔導士たちを集め、指示を出す。
まもなく、1人の女性が士官に伴われて、エンリと行動を共にしていたルソーの所へ。
「ルソー」
「フランソワーズ」
目を伏せ気味で向き合う二人を見て、エンリはルパンに訊ねた。
「あの人って?」
「ヴァランス男爵夫人。奴の恋人だよ」とルパンは答える。
ルパンを見て目を伏せる男爵夫人。
そして彼女はルソーに「私はあなたを裏切ったのよね?」
「そんな事は・・・・・」
ルソーは男爵夫人を見つめてそう言いかけるが、続く言葉が出ない。
そんな彼に彼女は「戻って来てくれる?」
「はい」
若いルソーを抱きしめる男爵夫人。
若い恋人を取り戻した事を確信した彼女は、ルパンに言った。
「ルパン、こんな私を軽蔑するわよね?」
そんな彼女にルパンは笑顔を向けて「女が男を好きになったから、なんて理由で軽蔑する奴が居たら、俺がぶっ飛ばしてやるよ」
「ありがとう、ルパン」
ルパンと軽く抱擁を交わす男爵夫人。
そしてルパンは、ルソーの肩に手を置いて「二度と彼女を泣かせるんじゃないぞ」
「はい」
年上の恋人と、よりを戻した事を確信したルソーは、エンリを見て、疑問をぶつける最後の機会と感じた。
そして彼は再びエンリに討論を挑む。
「それで、エンリ王子に聞きたいのですが、あなたは弱者の正義は偽物だと言った。ですが、なら、生きていく事すら困難な弱者を守る正義は存在しないのでしょうか」
「それは社会が果たすべき役目だ」
そう答えるエンリに、ルソーは言った。
「その社会を権力者が支配するのですよね? ですが権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」
エンリは溜息をついて「俺、その権力者なんだが、腐敗してる?」
タルタは「お魚フェチだよね?」
ジロキチは「魚って生臭いよね?」
「私、半分は魚なんですけど」
そうリラが困り顔で言うと、タルタとジロキチは慌てて「人魚姫は生臭くなんて無いから」
「そもそもポルタは、商人の持ちたる国なんですよね?」
そうアーサーがフォローすると、ニケも「尊敬されてもいないし」
エンリは口を尖らせて「ほっとけ」
そしてエンリは改めてルソーに問う。
「そもそも権力の腐敗って何だ?」
「配分の問題だって言いますよね? 幸せの総量は世界の中では常に一定で、誰かが幸せになれば、その分、誰かが不幸になる」
そうルソーが言うと、エンリは「それは嘘だな。人が農耕を知らなかった遥か昔、自然の中で採集する獲物に頼っていた。だから生活が不安定で、人はすぐに飢える。それが農業で生活は安定し、幸せの総量は確実に拡大した筈だ。布のように工場で機械が大量に物資を生産すれば、更に拡大する。逆に、奪い合って争い傷つけ合うなら、総量は減少するぞ」
「ですが人は争いますよ。みんなでより豊かになる方法があるなんて、誰でも知っている事です。けど人は他人と比較して幸せを感じるんです」とルソーはなお主張する。
エンリは語った。
「例えば十人が二つのお菓子を分けるとして、1人が独占して二つ食べるのと、みんなで工場を作って量産した三十個のお菓子をみんなで三個づつ食べるのと、どちらが幸せか?」
「より大きな満足を得るのは、二つを独占する方です」
そうルソーが答えると、エンリは「幸せを他人との比較で計るなら、そうだろうさ。けどそれは本当の幸せと言えるか?」
「それは・・・・」
エンリは更に語った。
「全員が飢えに瀕する中で一欠けらのパンを独占していた奴が、豊かな文明社会を見たら、どう思う? それまで周囲の羨望を集めていた自分の満足が幻だったと知るのでは無いのか? 実感できる幸せが本当の幸せとは限らない。愚かな人は事実から目を背けて、幻の幸せを求めて他人に誇り、羨望を集めたがる。所謂マウンティングって奴だ。空しいだけだろ」
「けど、上に立つ事でその場の主導権を握り、そこに居る人たちを支配する事で、そこにある幸せを独占出来る。だから人は権力を求めるんです」
そのルソーの主張に、エンリは「だったら報酬をしっかり決めればいいって話だ。けどそれ以外に、いろんな機会にあれこれ懐に入れるとか・・・ってのが腐敗って奴だよな? けど本当に国民に影響するのは、政策をどうするか・・・じゃ無いのか?」
「それは・・・・・・」
更にエンリは「それで意見が対立した時、権力で自分の意見を強制できるように・・・って訳だよな? けど、多くの政治家は権力を求める段階では、具体的にそれで何をやりたいかって目的がある訳じゃ無い。キシーダとかいう政治家が"総理になる事自体が目的"とか、リツミーンって政党の"とにかく政権交代ダー"とか。そういう奴らは、何かが起こって具体的にどうするかを決めなきゃ・・・って時に、グダグダになる」
「だから人々は権力に反発するんです。彼等は私利私欲で懐を肥やしたいだけです。裏金とかお花見とか」
そうしたルソーの主張に対して、エンリは指摘した。
「けど、具体的にやりたい事がある政治家も居るぞ。そしてそうであれば良いかというと、"自国を差別するレジームを終わらせる"ような国にプラスになる事をやりたい政治家ばかりじゃ無い。逆に、隣の某半島国が向けて来るヘイトに加担するような、国民を害する政策を指向する政治家だって居る。そして反権力を称する人が、下手をすると真顔でこう言うんだよ。"敵性ヘイト国は政権を倒す頼もしい味方"だと・・・」
「それは・・・。けど、反権力と反国家・反社会は違いますよね?」
そうルソーが問うと、エンリは答えた。
「それが区別つかないんだろうな。彼等は感情で物事を決めるから。権力というのは常に感情面で反発されるものさ。それが反権力という奴で、それ自体が政策無関係に正義だと、真顔で本音を言う奴も居る。それを主導するのは権威だ。論理性の欠片も無い偽学問で教授の肩書きを持って、邪まな意図を持つ奴等の支持で有名になった奴とかが、その名前と肩書きで、言っている中身無関係で正しさを主張できると思っている。"捏造された歴史を正そう"という当たり前の指摘に対して"歴史修正主義だから悪"などと意味不明な事を言って黙らせようと・・・。そういう権威は権力以上に絶対的に腐敗しているんじゃ無いのか?」
「・・・・・・」
エンリは更に指摘した。
「権威を振るう者は自分が腐敗している事を知らないか、知っていて確信犯的に腐敗暴力を振りかざす。腐敗で害をなす者は、論理を伴わない主張を他者に強制して自らを満たそうとする。だから"権威に囚われず、自らの頭で論理的に考える"事を子供たちに教えると、愚かな上役は"お前は自分が権威になって場を支配しようとする腐敗者だ"などと決め付け、論理という概念そのものを封殺しようとするのさ」
「自分の国の立場を否定するのは、自らを満たす事とは逆では無いのですか? 自国の利益を控えて他国を思いやるのは、利他主義で道徳的だと思うのですが」
そう言ってルソーが持ち出した道徳という概念に、エンリは反論する。
「道徳的とは自分が不利益を呑む事じゃ無くて、道理に従う事だぞ。"自分を害する事が道徳的だ"と主張するという事は、目の前で当たり前な利益を受け取る他人を不道徳呼ばわりするという事だ。それは道徳的か?」
「それは・・・」
「それで利益を得るのが自分か相手か・・・なんてのは論理による正当性と無関係だ。そういう論理を顧みずに"利己か利他か"なんて安直な基準で語る発想だから、"列島国民を名乗りつつその自国を害する発言"で、道理に反しながら道徳家を名乗ったつもりになる。そう名乗りたくて、その隣国によるヘイトに加担する奴が居たとして、それは道徳的か?」とエンリは続ける。
「それは・・・」
エンリは「しかもそれが、実は"列島国を害したい邪な隣国の民による国籍詐称"だとしても、言っている事に変わりはない。そして実に安直で悪質な利己主義を押し通せる事になる。それで"あなたは実は国籍を詐称しているのでは無いか?"・・・とか言われる。けどそういう問題じゃ無い。論理的な正しさを前提としないものが道徳を名乗る事が、そもそもおかしいだろって話だよ」
「・・・・・・」
更にエンリは「ヘイトで隣国から奪う半島国の奴らのやってる事は、最悪の利己主義さ。だから"その被害を受けた側の民"を称してそれを支持する、所謂"肉屋を支持する豚"の立場を名乗れば、国籍詐称を疑われる。けど実際に国籍を詐称していないとしても、彼らのアイデンティティはそもそも自国には無いんだよ。"自国に居る誰かに対する敵対者"というのが彼等の立場で、その攻撃欲を満たすのが利益ってだけさ。それに、外国にお友達が居る奴なんてどこにでも居る。それが"国民なら自国の利益を支持するのが自らの利益だと全員が思っている筈"という思い込みを盾に、中身の無い利他主義なんて道徳論で自らを飾って権威たろうと画策する、そういうペテンが腐敗と無縁な筈は無いと思うぞ」
ルソーは「ですが権力が腐敗するのは、他者に対する強制力ですよね?」
「だから権力を行使して行う政策には、具体的な論理による検証が必用なのさ。そして、権威だって強制力だぞ。その権威が言ったというだけで従う信者が、従わない者を迫害する。あの半島国による歴史の捏造を指摘したラムザイアーという歴史家に対して、歴史の権威と称する人達は、学問としての反論が出来ないが故に、正体不明な自称道徳で彼を悪と決め付けた糾弾運動によって迫害した。権力は命令系統に沿って動くから解りやすい。権威は名前を以て妄信する者の愚かさに乗じて彼等を操り、集団的威圧を振りかざす暴力装置を使った強制力だ。これによる腐敗を彼等が認めなくとも、腐敗は腐敗だ」とエンリは断じた。
「社会を正すのは権威ではなく論理だと?・・・。ですが、弱者を守るべし・・・はその論理の一つでは無いのですか?」と、ルソー。
「そうだな。だが、弱者の何を守るんだ?」
そうエンリに問われて、ルソーは「感情を含めた全てを」
エンリは「感情は本人の恣意で、どうとでも主張できる代物だ。つまり道理と無関係に、他者を"その感情を満たす事を目的とした道具として犠牲になれ"と強制するという話だぞ」
「強者は自らが持つ力を以って、勝手に想いを果たせばいい。正当性など不要です」
そうルソーが主張すると、エンリは溜息をついて言った。
「個人の権利の範囲は論理が決め、それを権利と社会が認める事で、全員の自由な行動の正当性が保たれ、人々の日常が平和たり得るんだよ。強者が自らの権利を行使する事に正当性を認めず、勝手にそれを使えと言うのは、彼等に無法者になれと言っているのと同じだ。それでは社会はどんどん無法社会化するぞ。そうならないよう自覚し正当性を問うのが理性ある人間だろう。そういう権利を否定し、自由の範囲で欲求のため自らの力を行使する事の正しさすら否定しているのは、その力の行使自体を禁ずるのと同じだ」
「社会からの容認を得ようなど、弱者と同じ保護を強者が欲しがる甘えです。社会による否定など気にせず自由にやればいい。自信と自立心に満ちた本物の強者なら、国家の保護など求めず国外に飛び出してグローバルに活躍しますよ」と、なおルソーは主張する。
エンリは更に溜息をついて「そういうマッチョは要らないから。実力ってのは自由の範囲でやりたい事の実現に向けて行動するためのもので、必用なのは強者っていう肩書なんかじゃなくて、対等な人としての自由だろ! "俺は強者でお前は弱者"とか言って他人を見下すなんて、刺青を見せびらかして周囲を威嚇するチンピラの発想だよ。"グローバルに活躍"って何のマウンティングだ? "ファイティングポーズ決めるから誰か褒めてよ"・・・ってか? シャドーボクサー頭悪すぎだろ!」
「・・・・・・」
エンリは更に言った。
「それにさ、保護と容認は違うぞ。容認を拒むってのは事実上の妨害宣言だよ。あなたの言ってる事って、強者認定した普通の人に対して、自分達の言葉に耳を貸す必用は無いと言っているのと同じだ。だったらあなたの主張する弱者への配慮も不要だという事になるだろうな。公の権力は社会からの貸与だから、その行使に監視は必用だ。けれども、そうではない個人の自由としての正当な権利というのも、公が認めるべきものだ。ましてその強者が、"障害を持たない男性というだけの普通の国籍保有者"を指すと言うなら猶更だ。その権利と尊厳は弱者も含めた全員が互いに認め合う。たとえ弱者と認定された人のお気持ちに反するものであっても・・・だ。そういう全ての民に"個としての対等の立場"を与えてこそ、全ての民が利益を得る社会となる。それを目指すのが社会に益するという事で、社会が存在する目的だ。その目的に合致する事こそ正義なのではないのか?」
ルソーは暫し沈黙する。
そして「弱者だって社会が益される事を望みますよ。そして、それによる利益を得られる立場になりたいんです」
エンリは「それは当然だろう。社会が益される事を望み、自ら社会に益する事を志す意思は、力のある無しに関わらず、国民としての自覚で、それを助けるのは国家の義務だ。けど、弱者が自らの国の社会を守ろうと発言した・・・という事で、何故かそれを謗る者が居る。しかも誰の発言かも解らないのに、そうした発言者を弱者と決め付け、彼等自身が住まう社会を守る事を、彼等にとって無益と決め付けて"自らに直接益さないのに矛盾だ"と言い張る。あまつさえ国の外敵を批判する事を"単なる憂さ晴らし"だと。それでは、全ての悪に対する批判が"無視すべき憂さ晴らし"になってしまう」
「・・・・・・・・・・・・・」
「もう一つ聞きたいのですが・・・弱さとは罪なのでしょうか?」
そうルソーが問うと、エンリは怪訝顔で「何だ?そりゃ」
「弱者は自らが弱者である事を恥と感じ、強者は弱者を軽蔑します」
そうルソーが言うと、エンリは溜息混じりに「それってヒャッハーって奴だよな? お前、ああいうのがカッコイイとか、本気で思ってる?」
「弱ければ、守りたい者を守れない。愛する者を守れるように、人は強くなるため努力します」
そうルソーが主張を続けると、エンリは言った。
「強さってのは、それこそ相対的なものだぞ。それに、強さって言ってもいろいろある。財力とか知力とか権力とか。腕っぷしが強くても鉄砲には勝てない。集団で来られたら袋叩きだ。だから人は味方になってくれるよう周囲に同情を求め、自分の正しさを主張し、数を集めて力とする。だが、正しさとはその力をどう使うかだ。それを行使しても、やった事が本当に正しく無ければ、それは騙しだ。あなたの言う弱者の正義で味方を求めるのだって、下手をすればそれと同じだ」
「それは・・・」
エンリは指摘した。
「中世までは、トラブルの解決は自力救済が基本だった。身内が傷つけられたら暴力で仕返しをする。暴力を振るう奴に対抗するには、そうするしか無い。けれども文明国では、国家により明文化された法を基準に、裁判で結着をつける。つまり公的救済だよ。強者も弱者もそれを頼り、それに従う。自力救済なんて違法だし、そのための力なんて必要無い、必要無い社会にしなくてはいけないんだ。自分や仲間を守るのは強さではなく正しさだ。そして、その正しさを解き明かす論理を示す理性さ。守ると言っても何から守るのか?・・・という問題もあるけれど、例えば迫害からというなら、悪いのは迫害者であって自分の弱さじゃ無い。弱さは断じて罪じゃない!」
ルソーは思考した。
弱者を救済する事は、これまでは教会が神の愛の代行者として"施しを与える"形で行われた。その仕組みが、たちのわるい聖職者による被害者を産んだ。
国家が社会の運営者なら、それをよりましなものにするのは、国家が担うべき役割という事になる。
だから国教会の体制では国家が教会を監督する。だったら、いっそ国家が困窮者を救済すべき、という発想になる。特に、食料とそして病気の治療を・・・。
問題は、そうした国家の意思を誰が、どうやって決めるかという事だ。
議会の場での議論で決めるか? けれども議員は多くの民の中の一人に過ぎない。選挙による投票で議員を決めるにしても、投票する者は議員の内面までは知らない。議員は民の代弁者であり下僕でなくてはならないが、そうであるのは選挙の時だけだろう。
だとしたら、全ての民が議会で意見を言えなくては駄目だ。
多くの民が議会で一堂に会するというのは不可能かも知れない。だが、通話の魔道具のようなもので意見を集め集約する仕組みが出来たとしたら・・・。
更に大きな問題がある。
それは、様々な立場の人たちが自分の立場を主張し、対立して収拾がつかなくなるであろうという事だ。
現実の会議はどこでも、取引や騙しで反対派を抑えて多数決で・・・というのが現実だ。
そして、弱者の立場というのはその一つに過ぎない。しかも、いろんな観点での弱者が存在する。
農民、小店主、工場労働者などの職業、都市民と地方民、所属する団体や住む地方など、様々な立場が自らの利益を主張し、バラバラな意思を掲げる、それは即ち「個別意思」だ。けれども社会は商人のものでも、農民のものでも無い。
だが、もし、社会全体が豊かになる事でみんなが利益を得るなら、個々の立場を越えた「国民」という立場が存在するのでは無いか?。
その立場に基いた意思、即ち「一般意思」こそが、国家を動かす原理たり得るのでは無いだろうか。
エンリたちとルパンに別れを告げ、士官に付き添われて、寄り添ってその場を立ち去る、ヴァランス男爵夫人とルソー。
寄り添って愛を囁き合う、一組の恋人。
「帰ったらお仕置きよ」
そう男爵夫人が言うと、ルソーは「はい、女王様。思いっきり痛くして下さい」
そんな会話を漏れ聞いて、エンリはドン引き。
「あの二人って・・・」
そうエンリが言うと、ルパンは「普通と違う性癖があるのさ。お魚フェチほどじゃないが」
エンリは口を尖らせて「ほっとけ」
ルパンは言った。
「奴は子供の頃に親を失い、牧師の家に引き取られたんだが、その妹がそっち系でな。折檻を受けてるうちに目覚めたんだそうだ」
「つまり奴も宗教の被害者だったって訳か? で、あのヴァランス夫人も?」
そうエンリが言うと、ルパンは溜息をついて「美人なんだが、さすがにああいう趣味には、ついて行けない」
エンリも溜息をついて「そういう事かよ。"深い仲になると女性が死ぬから距離を置いた"・・・ってのは、ただの建前か?」
エンリはルパンを見て、脳内で呟いた。
(俺の感動、返してくれ)




