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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第377話 魔剣の奪還

極端な教義を掲げて邪教とされたカタリ教団を潰すべく、アビニョンの異空間に設けられたその本部に乗り込んだ、エンリ王子とその部下、そして三銃士と遠坂たち。

制圧した異空間入口の制御施設を三銃士たちに任せ、信者たちの街を本部教会へと向かったエンリたちだったが、警備隊との交戦中にエンリは転移魔法によって拉致され、魔剣を奪われる。

地下牢に監禁されたエンリの元を訪れ、弱者至上主義を否定するエンリに論戦を挑む、若き思想家ルソー。

そして、そのルソーの連れ戻しを彼の恋人から依頼された怪盗ルパンと、エンリは協力関係を取り付けた。



ルパンは細いピンを鍵穴に差し込んで、難なく牢の鍵を開けた。


エンリは牢から出ると「で、記憶の魔道具を渡す条件なんだが」

「こうして出してやったが」

そう言って口を尖らせるルパンを無視して、エンリは図々しく追加条件を並べる。

「後、一緒に魔剣を探す、精霊石の作り方を探る、潜入している筈の仲間と合流、それから・・・・」

「いい加減にしろよ!」と一喝するルパン。


エンリは「それでお前、ルソーの顔は知ってるのか?」

「似顔絵がある」

そう言ってルパンが出した似顔絵を見て、エンリ唖然。

「かなり美化されてるが・・・ってかこれ、アニメ絵のショタキャラだろ。役に立たないと思うぞ」



エンリが渡した記憶魔道具をルパンは再生し、音声記憶の魔素をダウジング棒に記録させる。

それを持ってルパンは、エンリとともに、建物の内部を探りながら移動。

廊下の途中で人の気配を察知し、空き部屋に隠れるエンリとルパン。


「あまり順調とは言えないな」

そうエンリが言うと、ルパンは「やはり反応が鈍い。ある程度は反応するんだが」

「ある程度ってどの程度だよ」とエンリ。

ルパンは「この建物に居るのは確実なんだが」

エンリは溜息をついて「駄目じゃん」



「それで、魔剣ってどんな事が出来るんだ?」

そう話題を変えるルパンに、エンリは言った。

「炎とか氷とか、いろんなモードに出来て、自分と一体化して能力を高める事も・・・」

それを聞いて、ルパンは暫し思考する。


そして、思い付いたようにルパンは言った。

「自分と一体化ってんなら、転移させて引き寄せる事も出来るんじゃ無いのか?」

「確かに・・・。けど、どうすれば」

そう言って考え込むエンリに、ルパンは「お前の腰につけてるのは、魔剣の鞘だよな?」

「これは万能の回復アイテムじゃ無いけどな」とエンリ。

ルパンは「けど、魔剣が本来収まるべき所だよな?」

「確かに・・・」



エンリは鞘を腰から外して右手に持つ。

そして彼は思考した。


転移なら空間魔法だが、魔剣モードとして一番近いのは何だ?

風や水は物質だ。熱や氷はエネルギーの形だろう。

光は?

そういえば光には、音と似た性質があると聞いた事がある。そして音とは風や水に伝わる振動だ。

光が同じ波動だとしたら、大気や水を通るのはその振動か? 違うだろう。それに光は風を抜いたガラス容器の中も通る。

だとしたら、光とは空間そのものの振動ではないのか。


エンリは光の魔剣との一体化の呪句を唱えた。

鞘が光を放ち、光の魔素が鞘の口に剣の束の形を成す。

その光がエンリの右手に伝わり、彼の全身を覆う。

「ちょっと待て!」

そう叫んでルパンはエンリの左腕を掴み、そして二人の姿はその場から消えた。



気が付くと、エンリは魔法陣の描かれた台の上に置かれた、魔剣を収めた鞘を掴んでいた。

周囲に何人かの白衣を着た魔導士。


エンリ唖然。そして彼等に「何だお前等は」

周囲の人たちも唖然顔で「お前こそ誰だ」とエンリに返す。

エンリは、自分の左腕を掴んだままのルパンを振り返り、「何だか変な奴らがついて来たんだが」

どうやら状況を把握できていないエンリに、ルパンは言った。

「魔剣が来たんじゃ無い。お前が魔剣の所に来たんだ」


エンリは台の上の魔剣をとって腰に収める。

周囲の魔導士たちは騒ぎ出し、口々に言った。

「侵入者だ。魔剣を奪われた」

「お前は泥棒か?」

魔導士たちにそう言われたエンリは、彼等に言い返す。

「泥棒はお前等だろ。俺はエンリ王子。これは俺が祖先から受け継いだものだ」

すると一人の魔導士が「つまり、その子孫というだけで母親の腹から出る以外の苦労をせずに、それを手に入れた訳だよな?」

「それは・・・・・」

ルパン、まごつくエンリにあきれ顔で「真に受けるんじゃないよ。親ガチャで外れを引いた奴の僻みだ」


「そうだった。俺はこれを使う代わりに、外の魔法を使えない体質を持って生まれたんだ」

そうエンリが言うと、魔導士たちは口々に言い返す。

「つまり落ちこぼれかよ」

「劣性遺伝子だな」

「俺たちは魔法を使える素質を親から受け継いだエリートだ」

エンリ、あきれ顔で「それ、母親の腹から出る以外の苦労をせずに手に入れた体質だよな?」

「親ガチャで外れを引いた奴の僻みかよ」

そう一人の魔導士が言うと、エンリは「じゃなくて、俺の親は魔法を使えた。俺の魔力はこの魔剣を使うのに特化してるんだ」と言い返す。


ルパン、更にあきれ顔でエンリに「あんなの相手にしたら駄目だろ。こいつは意思を持つ宝具で、その意思でお前を選んだんじゃ無いのかよ」

「人が人を選ぶというのは、それ自体が差別だ。お前は選ばれ愛される立場に生まれただけ。万人が等しく愛されなくては、それは神が望んだ世界では無い」と、更に一人の魔導士がエンリに言い返す。

「選ばれる理由は生まれだけじゃないだろ。恋愛はどうなる? 貧しい生まれの若者が貴婦人に愛されたとして、それは差別だから辞退するか?」

そう反論したエンリに、魔導士たちの中に居た一人の若者が言い返した。

「私はそんな事のために彼女の元を去った訳では無い!」


エンリは彼の顔を確認する。

そして「やはりそこに居たか、ルソー」

「あいつがルソーか」

そう叫んで、ルパンは煙玉を投げた。

室内に煙が立ち込める中、ルパンはルソーに当て身を喰らわせ、気絶した彼を担いで出口へと走った。

「こっちだ!」



混乱の中でルパンとエンリは一室に逃げ込み、担ぎ込んだルソーは目を覚ます。

「ルパン・・・」

そう彼を見て呟くルソーに、ルパンは「お前を迎えに来た。ヴァランス男爵夫人の所に帰るぞ」

「帰りません」

俯いてそう呟くルソーに、エンリは言った。

「あなた、彼女に未練がありますよね?」


ルソーはルパンに言った。

「何故あなたが私を連れ戻しに? あなたは彼女の新しい恋人として、彼女を幸せにすべきだ」

エンリはそんな二人のやり取りを聞いて、ルパンに「もしかして、彼女の新しい恋人って、あんたか?」

「何だか知らないけど気に入られて、何度か夜の相手をしたんだが・・・」と答えるルパン。

「要するにヤリ捨てかよ」

そうあきれ顔で言うエンリに、ルパンは「いや、本気になられても困る」

エンリは更なるあきれ顔でルパンに「お前にも未練はあるだろーが。これじゃまるで押し付け合いだぞ」



エンリは溜息をついて二人を見る。

そして先ずルソーに言った。

「ルソー、あなたは彼女を素晴らしい女性だって言ったよね?」

「そりゃまあ・・・」

そう言って俯くルソーに、ルパンは「だったら・・・」


そんなルパンにエンリは言った。

「ルパンは麗しのレディーって言ったよね?」

「そりゃ、あんないい女はそうそう居ないし」

そう言って言葉を濁すルパンに、ルソーは「だったら・・・」


ルパンは言った。

「俺は彼女と深い仲になれない。俺を本気で好きになる女はみんな死ぬ。俺は泥棒だから」

「・・・・・・・・」

ルパンはルソーの肩に手を置き、そして言った。

「もし、お前が彼女から離れて、彼女が俺のものになったとする。それで彼女が他の女と同じ運命を辿るのを、お前は望むか?」

ルソーは暫く考え込んだ。

そして「それは・・・解りました」と言い終わった時、彼の目に何かを振り切ったような光が宿っていた。



目的のルソーの身柄を確保したルパンは「それじゃ、脱出するぞ」と気勢を上げる。

「どうやって?」

そうエンリが言うと、ルパンは「何やら騒ぎが起きているらしいから、それに乗じて」

「そーいや騒がしいな。いったい何の騒ぎだ? もしかして・・・・・・」

エンリは自分が拉致された経緯を思い出し、そして言った。

「騒いでいる所に行くぞ。きっと俺の部下たちだ」


三人で混乱する本部建物の廊下を走る。

騒々しさの発生源へと向かう中、次第にその騒々しさが、複数どうしの戦いによるものである事が明確になる。

そしてその部屋のドアを開けたエンリは、その光景を見て唖然。

「さっき俺が飛ばされた研究施設じゃん」



遠坂が手裏剣を投げ、忍刀を振るって警備員たちと交戦中。

カルロが二本のナイフを振るい、アーサーが何かの装置と格闘中。リラが防御魔法で魔導士たちの攻撃を防いでいる。

「あれ、お前等の部下だよな?」

そうルパンが言うと、エンリは「とにかく加勢するぞ」


エンリは風の魔剣を抜いて乱戦の中に飛び込み、ルパンは拳銃を連射。

まもなく、魔導士と警備兵たちは制圧された。



リラが嬉しそうにエンリに飛びつく。

アーサーも「エンリ王子、御無事で」

「助けに来てくれた・・・のか? ってアーサーは何やってた?」

そうエンリが少しだけ疑問声まじりに言うと、アーサーは嬉しそうに、手に持った小型の機械と脇にある大型機械を指した。

「見て下さい。精霊石の生成装置ですよ。信者たちの胸に付ける装置で、種になる小粒の精霊石を彼等の生命力で成長させる、その種になる石をこれで作るんですよ。精霊石は大量の魔力で大きな石になる。こっちの機械はその大出力版で、彼等は王子の魔剣の力でこれを使って精霊石を量産する気だったんです」


「で、これを持ち出そうと?」

そうエンリが疑問顔で言うと、アーサーは「この大きさだと持ち出すのは無理なんで、仕組みの解明を」

「呑気過ぎだろ」

そう言ってエンリが溜息をつくと、アーサーは「魔導士としての知識欲ですよ」

遠坂も嬉しそうに「凄いんですよ。仕組みを術式に組み直せば、機械が無くても呪文で精霊石を作れます」


そんな彼等にエンリは言った。

「念のために聞くが、俺を助けに来たんだよな?」

遠坂が「じゃなくて精霊石の作り方を」

アーサーが困り顔で「それは遠坂だけ」


カルロが状況を説明した。

「潜入してダウジングを使ったんですけど、うまくいかなくて。そしたら、いきなり魔剣の魔力の波動を捉えてここに来たら・・・」

「他の奴らは?」

そうエンリが問うと、カルロは「パラケルサスたちと合流して入口を守る方に行ってます」

「ラングドッグとかいう指導者は?」とエンリが問うと、カルロは言った。

「彼もそっちに行ってる筈です」


ルパンが周囲を見回して「もしかして、ここの奴らは出払ってる?」

エンリも納得顔で「どうりで敵の数が少ない筈だよ。俺たちもそっちに行くぞ」



救出組の4人と合流したエンリは、ルパンとルソーとともに結界出入り口管理建物へ向かった。


エンリたちが到着すると、管理建物の周囲では、激しい戦いが始まっていた。

ファフのドラゴンが吐く炎を掻い潜って警備兵が結界魔法の破れ目に向かうのを、ドラゴンは尻尾で薙ぎ倒す。

だが、警備兵たちはすぐに起き上がって、破れ目から中へ飛び込み、それをジロキチや若狭や三銃士たちが迎え撃つが、明らかに分が悪い。

間桐の式神兵やローラのスケルトン兵たちがバタバタと薙ぎ倒されている。


そんな様子を見て、カルロが「これは長くはもたないですよ」

「あの警備兵ってあんなに強かったっけ?」

そうエンリが言うと、アーサーが「あれ、身体強化魔法ですよ」

「魔力の流れの出所は解るか? そこにラングドックが居る筈だ」とエンリ王子。

「見つけたら妨害魔法ですね?」

そうリラが言うと、アーサーは「いや、もっといい呪文がありますよ」



アーサーは戦場の魔力の流れを探る。

「あそこです」

そう言ってアーサーが指す方向を見て、エンリは見覚えのある人物を見つける。

そして「やはりラングドックだな」


アーサーは呪文を唱えた。

「理に外れし魔の流路。汝の名は身体ブースト。そは人の身に過ぎたる力。哀れな贄を滅ぼす命を神は嘆きたり。行くべからざる道を返してその居場所に還れ。整流あれ」


ラングドックから兵たちに流れていた魔力は途絶え、戦況は一変した。

慌てるラングドック。

「何だこの妨害魔法は。妨害者を排除しろ」


彼の号令で四人の魔導戦士がエンリたちに向かう。

「奴を倒せばこの馬鹿騒ぎは収まる」

そう言うエンリに、ルパンは「けど、あの四人は相当な手練れだぞ」

「あいつ等は俺が引き受ける」とエンリ。

「手伝うか?」

そうルパンが言うと、エンリはドヤ顔で「まあ見てろ」



エンリは大地の魔剣を抜き、大声で叫んだ。

「おいラングドック。魔剣は返して貰った。奪いたければ俺を倒してみろ」

エンリに気付いたラングドックの目の色が変わる。

そして四人の魔導戦士に号令した。

「先ず彼を倒し、あの剣を奪え」


エンリは大地の魔剣と自らの一体化の呪句を唱えた。

四人の魔導戦士の一人が弓矢を連射し、一人が斧でエンリの肩に重い一撃。

一人がエンリの背後に回って剣で何度も斬り付け、1人が攻撃魔法を放つ。

だが、大地の魔剣の力による防御力でエンリには傷一つつかない。


唖然とするラングドッグに遠坂が麻酔針を打ち込み、彼を倒した。



その時、管理建物の出口から武装した軍団が街になだれ込んだ。

エンリはほっとした表情で呟いた。

「レーモン伯とフェルデナンド皇子の軍、ようやく着いたか」


身体強化を失った警備軍は一気に制圧され、教団本拠の固有結界の街は陥落した。

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