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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
375/562

第375話 魔剣の強奪

アルビ十字軍を撤退させたエンリ王子たちは、レーモン伯領のカタリ派支部を制圧して得た情報を基に、アビニョンの固有結界内にあるカタリ派本部への侵入に成功した。

信者を引率した完徳者の一行という設定が速攻でバレた彼等は、固有結界の入口を制御する建物を制圧。

ここにパラケルサスと三銃士を残し、入口制御建物を出て信者たちの住む街へ。そこから制圧すべきカタリ派本拠地へと向かう。

そして警備兵たちとの遭遇戦を繰り返す中、彼等はそこに住む信者たちが、その生命力で精霊石を培養する道具であった事を知る。

そしてエンリ王子は、警備兵側の魔導士の転送魔法により、拉致されてしまった。



エンリが気付くと、建物の中の広い空間。どうやら礼拝堂の中。足元に転送座標に使われる魔法陣。

周囲を取り囲む警備兵と魔導士たち。

そして説教壇に居るリーダーらしき人物。


「あなたがここのリーダーですか?」

そうエンリが問うと、彼は名乗った。

「ラングドックと申します。エンリ王子、あなたが手に持っている、それが聖剣ですね? 精霊の世界に通じる聖なる宝具。あなたのような罪人が持つべき物では無い」

エンリは「それはあなたが決める事では無い」

「あなたは悪魔の側の存在だ。あなたは王族であり強者。弱者を虐げる罪人」

そう言い放つラングドックに、エンリは「弱者とは誰? 庶民ですか? それとも女性と外国人ですか?」

「彼等を守る"弱者の正義"に抗う事をヘイトと言います。ジ〇×グ人男性に死ねと言ってもそれは差別ではない。人権とは女性の人権の事だと、賢者ウーエノ・コーターキは言った」とラングドック。


「それは賢者ではなくただの差別者だろ。差別とは、その行為の中味が不当である事でそう定義するんだ」

そうエンリが指摘すると、ラングドックは「違う。被差別者を批判するのが差別。被害者を批判するのが加害だ。加害とは強者が持つ力によって行われる。だから強者とは加害者であり悪だ」

「批判はイコール加害じゃ無いぞ。本来の批判は論理を以て正当性を解き明かすものだ。だから真の歴史家はその古文献が本物か否かを検証する事を文献批判と呼ぶ。正しさを証明されたものを肯定する事だって批判だ。単なる"叩き"を批判と称し、正当な検証に対して被害者意識を振りかざすのは、それこそ反知性であり言論を抑圧する単なる責任転嫁だ」

そう反論するエンリに、ラングドックは逆ギレる。

「あなたは王太子で最高権力者だろ。叩かれたからって、いちいち批判に対して反論とか言い訳するな。まして自画自賛なんて恥知らずだ。権力者はどんな批判でも甘んじて受けるものだぞ」


エンリは語った。

「理屈抜きで初めに否定ありきかよ。そーいうのを思考停止って言うんだ。それに、俺個人がどーだって話に何の意味がある? 権力者への批判って言うなら、政治の中味の正否の問題だろ。その批判が当を得たもので無ければ、それ自体が社会を害する事になるぞ。反論するなって事はその当否を検討するなって事だ」

「社会に対して益か害かを問う事自体が悪だ。それはナチスの思想だ。彼等はロマ人が益をもたらさないからという理由で迫害した」

そう主張するラングドックに、エンリは更に語った。

「ナチスがロマ人を迫害したのは、益をもたらさないからでは無い。ゲルマンの純血とかいう意味不明な自分達の価値感にとって害だと決めつけたからだろ。益が無いという判断がもたらすものは精々が黙認であって、迫害の理由にはならない。無益と有害を混同し、黙認と迫害を混同する。詭弁としても下の下だな」



ラングドックはなにか言おうと、あうあうと口を動かそうとするが、言葉が出ない。

だがやがて、思い付いたように彼はエンリに言った。

「・・・・・・あなた、時間稼ぎをしていますね?」

「強者弱者の議論を吹っかけたのは、そっちだろーが!」と、あきれ顔のエンリ。


「・・・ととととにかく、あなたのような強者は神の敵だ」

そう言ってラングドックが合図すると、魔導士たちは杖を構え、警備兵たちは剣を抜いた。

エンリは思考を巡らせた。

(魔剣の力で奴等を薙ぎ払うのは簡単だ。けど、きっと何かが仕掛けられているんだろうな。先ず、仲間と合流するのが先決だ。きっとあいつ等は俺を探している。俺が本拠地の聖堂に居る事くらいは察しがついているだろう。それを手っ取り早く探すならファフを使って空から・・・。だったら)


エンリは炎の巨人剣を真上に向け、呪句を唱えた。

(俺は炎。全てを貫き破壊する灼熱の爆炎)

上に向けて伸びた高温の炎の剣身は真っ直ぐ伸びて、聖堂の天井を破壊。その瞬間、エンリの手元を電撃が襲った。

そして魔剣は消えた。



エンリの手元から魔剣が消えたのを見て、会心の笑みを浮かべるラングドック。

そして「その魔剣の力の発動に連動した雷のトラップですよ。それは古代イギリス王の聖剣。神の目的のため我々が使う」

「あれは俺を主人と仰ぐ精霊宝具だ。お前達には扱えない。それとも俺を殺すか? 魔剣は次の主を探すだろうな」

そうエンリが返すと、ラングドックは「命はいらないという事ですか?」


ラングドックは思考した。

(何故この男は、そんな敵を益するような事を言う? 身を犠牲にして剣の力が我々の手に落ちる事を阻止するという事か? つまり彼を殺せば、我々は剣を使う術を失う。それが狙いか)


「聖剣を従える鍵が、あなたの中にあるのですね?」

そう彼に問われて、エンリは「で、俺の中からどうやって鍵を探す? 俺は魔導士ではないから、吐かせようとしても鍵など知らないぞ」

「それは剣を解析すれば解る事です」

そう言うと、ラングドッグは精神魔法を使い、エンリは気を失った。



その頃、上空にファフのドラゴンが居た。

その背にはエンリの仲間たち八人と遠坂・間桐・ローラ。

「さっき火柱が上がったわよね」

そうニケが言うと、タルタが「あれは王子の炎の巨人剣だよね」

アーサーが「つまり、そこに転送魔法で拉致されたって事か。つまりそこが敵の本拠地だ」


ドラゴンが火柱が上がった所へ向かうと、大きな建物があった。

「高くはないけど聖堂ですね」

そうローラが言うと、アーサーが「屋根に破壊された大穴が開いてるぞ。あそこから突入して救出しよう」


聖堂に向けて真っ直ぐ飛ぶ、ファフのドラゴン。

その周囲を覆う何かに気付いたアーサーが「障壁があるぞ。破れるか?」

ドラゴンのファフは「やってみる。みんな、衝撃に備えて」


ファフは見えない壁に突っ込んだ。

その一瞬で景色が変わり、目の前にあるのは聖堂の向うにあった森。いつの間にか聖堂は後ろに・・・・。

「飛び越してどーする」

そうタルタが言うと、アーサーが「いや、あれはシールドじゃない。空間の裂け目だ」

「つまり聖堂の周囲を裂け目が囲んで、向う側に繋がっているって事かよ」とジロキチが悩み顔で呟く。

「これを破るのはかなり困難だぞ」とアーサー。


「それより、あれ見てよ」

そう言ってニケが指した方角を見ると、警備兵の一隊が固有結界の入口建物へ向かっている。

「三銃士たちが占領してるのがバレたんだ」と間桐が呟く。


アーサーが「俺たちも加勢するぞ」

「王子はどうする?」

そうタルタが言うと、カルロが「俺が地上から潜入します」

リラが「私も行きます」

アーサーが「俺も行こう。隠身は必要だし、いろんな魔法トラップもあると思う」


「入口を守るのにも魔導士が必用だよね?」

そう遠坂が言うと、アーサーが「あそこにはパラケルサスが居る。彼は俺より優秀です」

「彼との競争を避けてポルタの魔導庁の試験を受けたくらいだもんね」

そうからかい声でタマが言うと、アーサーが困り顔で「余計な事は言わなくていいから」

遠坂が「俺も行きます。忍者が居たほうがいい。それに・・・」

「精霊石の作り方・・・ですか?」とアーサー。



カルロ・リラ・アーサー・遠坂を地上に残し、残りのメンバーを乗せて、ファフのドラゴンは入口建物へ。


戦いは始まっていた。

パラケルサスが防御魔法を張るが、魔導士たちが妨害魔法をかけ、破れた所から警備兵たちが侵入。

それを三銃士が迎え撃つ・・・が。

「あの数じゃ、長くはもたないぞ」

そうタルタが言うと、ジロキチが「俺たちも行って蹴散らすぞ」


ドラゴンが舞い降り、その背から降りたジロキチたち。

ジロキチが二本の刀を抜いて「みんな、俺に続け」

「何でお前が仕切るんだよ」とタルタが言い出す。

ジロキチは「王子もアーサーも居ないし、俺は突撃隊長だ」

「船長は俺だ」

そうタルタが言うと、ジロキチは「お前は何も考えずに突撃するだろ」

「確かに」と全員頷く。

タルタは不満顔で「お前等、俺を馬鹿だと思ってるだろ」


そんな彼を無視してジロキチは「という訳で俺が王子の代わりに指揮をとる」

「では指揮官、号令を」と全員、声を揃える。

そしてジロキチは号令を下した。

「手近な所から突撃して蹴散らす」

全員前のめりでコケる。



ファフのドラゴンを先頭に、警備兵たちの陣地に襲いかかるエンリの部下たち。

間桐が大ムカデを召喚し、その頭の上で式神兵たちを操る。

ジロキチ、タルタ、ムラマサの妖刀を持つ若狭、ケットシーの姿のタマが、敵陣に斬り込んで攪乱する。

その背後からローラの攻撃魔法とニケの銃弾。


彼等は魔法防御の破れ目から突入した警備兵たちの背後を襲い、警備兵たちは三銃士たちと彼等の挟み撃ちに遭う。

魔法防御の外ではファフのドラゴンが警備兵たちを蹴散らし、打撃を受けた警備兵たちは後退した。

入口建物でエンリの部下たちは三銃士たちと合流した。


引いていく警備兵たちを見て、アトスは「諦めたのかな?」

「本拠地から来る敵の本体と合流する気だろうな」とジロキチ。

パラケルサスが「もうすぐ港からアラゴン公たちの軍が来ます。それまで持ちこたえましょう」と言い、彼等は気勢を上げた。

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