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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
374/562

第374話 弱者の武器

アルビ十字軍を撤退に追い込んだエンリ王子たちは、レーモン伯領内にあるカタリ派支部を制圧し、そこを預かる完徳者を捕えて得た情報を基に、アビニヨンに存在する本部を制圧する準備を整えた。

エンリたちは敵に察知されないよう、数人のグループに分かれてアビニヨンへ。

レーモン伯とフェルデナンド皇子の軍は軍艦で海上に待機。



アビニョン市内のポルタ商人の商館で合流した彼等は、固有結界内にあるカタリ派本部に潜入して入口を制圧する手筈を整えるべく、三銃士と遠坂たち、そしてパラケルサスを交えて作戦会議。


「乗り込んでも正体はすぐバレるだろう。警備隊が抑えに来るのに反撃しつつ、元締めを捕える」

そうエンリが方針を説明すると、アトスが意見。

「元締めの居る本部の固有結界って、広いですよね。その中のどこに居るか解らないと捕えようが無いのでは?」

カルロが「私がダウジングで探しますよ」

「妨害措置とか当然あると思います」とローラ。

間桐が「式神を放って探しますよ」

「探す手掛かりは必要ですよね?」とアラミス。

アーサーが「全体を統率する霊波通信の通信波が辿れるのでは?」

タルタが「それっぽい目立つ建物とかあると思う」

「そういうの期待していいのか?」とポルタス。

「とにかく臨機応変で行くぞ」とエンリ王子が気勢を上げる。

(いいのか? それで)とダルタニアンは脳内で呟いた。



作戦決行の日・・・・・。

現地に派遣していた諜報局員の案内で、本部の固有結界の入口のある場所へ向かうエンリたち潜入部隊。


「あの小屋が彼等の本部です」

そう言って街外れの物陰からその建物を指す諜報局員に、エンリは「ただの小屋だぞ」

「戸口が固有結界への入口になっているんです」と諜報局員は説明。

エンリは帽子に偽装したヘッドギアを出して「それじゃ、このヘッドギアで・・・・って、誰が引率役をやるんだ?」

遠坂はあきれ顔で「決めて無かったんですか?」


「変装して扮するならカルロだよね?」

そうエンリが言うと、カルロが「魔導士の役目ですよね? なのでアーサー」

アーサーが「先頭に立つのは突撃隊長だよね?」

ジロキチが「船長はタルタだろ?」

タルタが「司令官は王子だよな?」

「俺がやるのかよ」と困り顔のエンリ。


「ファフがやりたい」

そうファフが遊び半分顔で言い、エンリは「お前はいい。引率が子供とか誰が信じるんだよ」

すると間桐が「あの、このために彼とそっくりな式神を用意したのですが」

「それを早く言え」と全員、声を揃えて・・・・・。



間桐は紙人形を手に呪文を唱え、紙人形は完徳者の姿となった。

帽子に偽装したヘッドギアを被る式神。


「それじゃ、行きますよ」

そう言って気勢を上げる間桐に、エンリは「その前に、確かオナ禁ってのが必用なのでは?・・・・・」

パラケルサスは「やってませんから大丈夫かと。産まれたばかりの式神なので」

「いいのか? それで」と疑問声で呟くエンリ王子。



完徳者に偽装した式神が小屋の戸口の前で呪文を唱え、戸を開けると玄関は闇に覆われていた。

式神を先頭に闇の中に入るエンリ王子たち。


闇を抜けると大型の建物内。広い部屋となっていて、何人もの所員たちが働いている。

固有結界と外との出入りを制御しているらしき魔導機械もある。

そして、その場の責任者らしき杖を持った人と、受付が居た。



「完徳者番号72番。入信資格者を連れてきました」

受付でそう式神が言うと、受付は「随分と多いですね?」

「大きな団体のメンバーの勧誘に成功しましたので」

そう式神が返すと、責任者らしき人が言った。

「大きな成果です。それより、室内では帽子をとるのがエチケットですよ」


「それは・・・」

困り顔の式神に責任者は「どうした? 早く帽子をとりなさい」

「実は大きなハゲがあって、それを隠すためにかつらを・・・」

そう言って抵抗する式神に、彼は「修行が足りないですよ」

「勘弁して下さい」

「ありのままの姿を見せられないのでは完徳者とは言えません」と言って、責任者は式神の頭に手をかけた。


式神は帽子をとられ、霊波の同調が解けた。責任者の顔色が変わる。

「あなたは72番では無い。何者だ!」

そう叫んだ責任者が持つ杖の頭部から謎の光が放たれ、式神は呪符に戻った。



速攻で正体がバレたと、武器に手をかけて身構えるエンリたち。

責任者は彼等を指して「制圧しろ」と所員たちに号令。

その場に居る所員たちは一斉に剣を抜く。


ジロキチは四本の剣を、若狭は妖刀化したムラマサを、遠坂は忍刀を、そして三銃士たちも一斉に剣を抜き、所員たちを一瞬で切り伏せる。

リラとローラとタマは攻撃魔法による所員の反撃を阻止。

エンリは風の魔剣の素早さスキルで、脱出しようとする所員を倒し、カルロは魔導機械を緊急停止しようとする操作員を投げナイフで倒す。

パラケルサスは魔導通信による連絡を妨害魔法で阻止。

アーサーは金縛りの魔法で責任者の動きを封じ、ニケの銃弾が彼に止めを刺した。



制圧した建物内にあった魔導機械を調べるパラケルサス。

「この魔導機械が結界の入口をコントロールしているようですね」

「動かせそうですか?」

そう問うエンリにパラケルサスは「何とかなりそうです。皆さんは本部を抑えて下さい」

「了解です。三銃士の皆さんは、いざという時のために、ここに残って下さい」

そうエンリが言うと、アトスが「解りました。我々がここを守ります」


「それで、本部の目立つ建物って?・・・」

そう若狭が言うと、タルタが「お花畑の向うの丘の上にでかい城とか」

ジロキチが「塔みたいなのが建ってて、上の階に行くごとに敵が行く手を阻むとか」

ムラマサが「上空に浮かぶ島みたいな・・・」

エンリはあきれ顔で「お前等、変な漫画やアニメの見過ぎだ」



エンリとその部下たち、そして遠坂・間桐・ローラが入口制御の建物を出ると、そこは雑然とした街並み。

信者らしき人が、あちこちに居る。


そんな彼等を見て、アーサーが「あれが資格を得て移住したっていう・・・」

「けど、ここの人たち、何だか元気が無いよ」とファフが言い出す。

壁際に座り込んでいる人、道路わきに立ち尽くす人・・・・・。

通りを歩く人も、やたら歩みが遅い。

「楽園なんでしょ? 労働から解放されて、まったりスローライフって所なんじゃ無いの?」とニケが事も無げに言う。


ジロキチが「それより本拠はどこだよ」

「俺たちみたいな襲撃者には解らないように、目立たない所にひっそりと・・・って所なのでは?」とカルロ。

「誰だよ、目立つ建物とか言ったのは」

そうタルタが言うと、ジロキチが「お前だろ」


「けどあれ」

そう言ってローラが指した所に看板がある。

大きな矢印とともに「本部教会堂はこちら」

あちこちに同様の看板が立っている。

「確かに一番解りやすい」と一同、声を揃える。


「けどここの人たち、まったりって言うより、生気を失ってません?」

そう言って周囲を見回すリラ。

タルタは道端に座り込んでいる男性に声をかけるが、男性は声を発せずにタルタに視線を向けるのみ。

タルタは彼を見ると、仲間たちに「こいつ、目が死んでるぞ」

若狭も彼を見て「本当だ。まるで生命力を吸われたみたい」



その時、通りの向うから・・・・・。


「怪しい奴等が居るぞ。捕えろ!」

そう叫んで、衛兵らしき武器を持った男たちが、わらわらと集まってくる。

彼等は一斉に、ガントの攻撃魔法を放った。人差し指から射出される闇の銃弾だ。

ジロキチが光の剣で弾き返すが、ガントの闇が光の魔力を打ち消す。

「これ、かなり強力だぞ」


「こいつ等、そんなに魔力は強く無さそうですけどね」

そう言いながら防御魔法を展開するアーサー。

タルタは部分鉄化し、オリハルコンの体で闇の銃弾を防ぎつつ、衛兵たちの一団に殴り込みをかける。。

ジロキチは闇の刀で弾き返し、カルロは銃弾の合間を縫って衛兵たちにナイフで切り付ける。

エンリは光の魔剣で彼等を切り払う。



その場に居た衛兵たちを無力化すると、アーサーは気絶した衛兵の一人を調べた。

衛兵の右手を見て彼は顔を曇らせ、そして言った。

「掌に精霊石が埋め込まれています。これで魔力を強化しているようですね」


「とにかく先へ急ごう」

そう言って仲間たちに移動を促すエンリを、リラが引き留めた。

「ちょっと待って下さい。流れ弾で傷ついた人が居ます。手当をしなきゃ」

リラは、倒れている男性信者に回復魔法をかけるが・・・。


「回復魔法が効きません」

魔力を送り続けるも効果を見せない男性に困惑するリラ。

その隣に来たアーサーが、リラと男性を観察する。


「回復の魔力が、何かに吸収されていますね」

そう言ってアーサーが彼を調べると、胸の部分に魔法陣が書き込まれ、何かが埋め込まれていた。

そこから顔を出している金属製の部品の蓋を開けると、中に精霊石。


「この魔力で生かされているって事かな?」

そうタルタが覗き込みながら言うと、アーサーは「逆ですよ。この人の生命力で石を成長させているんです」

「これって人工的に作った石だったのかよ」と遠坂。

「そんな事が・・・・・・」

そうローラが呟くと、アーサーは「精霊石は魔素の結晶です。人体が持つ霊的エネルギーを魔素に変換して結晶化する事は可能な筈です」

「人体のエネルギーって、例えば生命力とか?」とリラは言って唇を噛む。


そしてエンリは呟いた。

「命が武器って、そういう事かよ」



再び、杖を持った魔導士と剣を持つ衛兵たちの一隊がエンリたちを見つけ、強力な攻撃魔法を連射して来る。

魔法で反撃するが、押されるアーサー、リラ、そしてローラと間桐。

「あんな奴ら、俺たちの肉弾戦で瞬殺してやる」

剣を抜いて斬りかかるジロキチ、若狭、タルタたち。


だが、ジロキチたちと斬り結ぶ衛兵たちは、魔導士から受けた身体強化の魔法で、かなり手強い。

「これも精霊石の力かよ」

そう言いながら必死に彼等と戦うジロキチたちを見て、エンリは「数が多い。とりあえず撤退だ」

「けど、こんな奴らをそう簡単にまけるでしょうか」

アーサーが敵の魔導士たちに攻撃魔法を連射しながら言うと、間桐が「俺に任せて下さい」


間桐が無数の小さな式神札をばら撒いて呪文を唱える。

式神札は無数のスズメバチとなって衛兵たちに襲いかかる。

「今だ」



看板の矢印が示す方に走り、角を曲がった所で適当な民家に駆け込むエンリたち。

その民家には、気力を失ったように椅子に座る女性が居た。

「あなた達は?・・・」

そうか細い声で言う女性に、エンリは「おとなしくして貰えれば危害は加えません」

リラは彼女の耳元で小声で人魚の歌を歌い、女性は眠った。


遠坂が窓の外を覗きながら、「じき、ここも嗅ぎ付けるだろうな」と呟く。

ローラが「その前に出て、本部を目指しましょう」


「にしても間桐、よくあんな大量の式神札を・・・」

そうエンリが言うと、間桐は「印刷すれば式神札もたくさん刷れるって気付きまして」

「それにしても、かなりの魔力を使いますよね?」とアーサー。

間桐は「信者が持ってた精霊石を拝借しまして」

「その手があったかぁ」と全員、声を揃えた。



そしてエンリたちはドアから出ようとするが、何やら外が騒がしい。

「あいつ等、まだうろうろしてるのかよ」と言いながら遠坂が窓から外を覗く。

「外の奴らをやり過ごしたら、本部に向かうぞ」

そうエンリが言うと、遠坂は「囲まれてますけど」


民家の入口に警備兵の一団。そしてその現場指揮官らしき男が大声で「無駄な抵抗を止めて出てこい」

「抵抗を止めるのはお前等だ」

そうタルタが外に向けて大声で返すと、警備兵の指揮官は「精霊石強盗は罪が重いぞ」

民家内に居るエンリたち唖然。


「何だか、ただの物盗りと思われてるみたいなんですけど」とアーサー。

タルタが「侵入者として追われてるんじゃ無かったっけ?」

警備兵の指揮官は大声で「お前達が何人もの住人から石を盗んだのは解っている。おとなしく出てこい」

エンリたち唖然。


「おい間桐、いくら死にかけで無抵抗だからって、片っ端から住民に手を出すとか」

そうエンリが言うと、間桐は「いや、俺はカルロさんから貰ったんですけど」

「おい、カルロ」

カルロは「俺はニケさんから貰いました」

ニケは「カルロ、私のポケットから掏ったわね」

「スパイの必須スキルなんで」と、しれっと言うカルロ。



「奴等、踏み込んで来ますよ」

そう遠坂が声を発するとともに、警備兵たちは突入を開始。

エンリは「返り討ちにして突破するぞ」


ドアを破って突入してきた警備兵たちと乱闘になる。

ジロキチは二本の刀で斬りまくり、タルタが片っ端から殴り倒す。

若狭が、カルロが、風の魔剣を抜いたエンリが、次々に警備兵を仕留め、室内の敵はすぐに一掃された。


二階の窓からリラ・アーサー・ローラが表を取り囲む警備兵たちに攻撃魔法を乱射し、その隙にエンリたちはドアから飛び出して包囲陣を切り崩す。

外の警備兵たちと切り結びながら、エンリは仲間たちに「ファフを使って空に離脱だ」

戸口から出て来て魔法で戦闘に加わるアーサーが「上空からは通りの矢印は見えませんけど」

「適当な所に降りればそこにもあるだろ」とエンリ。



その時、離れた所で彼等の乱闘を見ている上位者らしき僧侶姿の男が居た。その隣に杖を持った魔導士。

「あの魔剣を使っているのがエンリ王子だな」

そう僧侶姿が言うと、隣の魔導士が「そのようですね」

「よし、やれ」と僧侶姿が号令。

「了解」


魔導士は呪文を唱え、エンリの足元の地面に魔法陣が浮かび上がる。

そしてエンリの姿は消えた。

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