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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第366話 異端な教団

ローマに拠点を置く教皇。それはローマ帝国滅亡によるユーロの混乱の中、各国に分裂するユーロを唯一神信仰によってまとめる支柱だった。

その権威が近代化の中で失墜するとともに、教皇庁に対抗する独自の在り方を模索する、新たな教会が各地で起こり、教皇庁はそれを異端認定し、抑え込もうと各地で争いが起こった。

その多くは、聖書に依存して僧侶ではなく信者自らが主体となる事をうたった反教皇派と呼ばれる様々な会派として、ドイツを中心に出現し、ジュネーブ派もその一つであるが、エンリ王子たちがイギリス・フランスとともに立ち上げ、国家を主体として緩い教義を掲げる国教会もまた、そうした教皇庁と異なる教会として成立したものの一つである。

だが、そんな中で、別の新たな勢力として、南フランスを中心に出現したものがあった。それがカタリ派である。



エンリ王子が仲間たちと非公式にフランスに赴き、リシュリュー宰相と面談した際、この件が話題に上った。

「あのカタリ派、どうしますかね?」

そう困り顔で言うリシュリューに、エンリは「厄介な奴らなんですか?」

「殆どカルトですよ」

そう言って溜息をつくリシュリューに、エンリは「けど、唯一神信仰だって元々新興宗教だったんだよね?」

リシュリューは「言ってる事が過激なんですよ」

「どう過激?」

そうエンリが問うと、リシュリューは「二元論ですよ」


アーサーが「つまり、世界は神と悪魔の2つの原理の対立で、精神が神で肉体は悪魔と・・・」

カルロが「性欲は悪魔の働きだから、徹底的に禁欲すべきで、自分で出すのも厳禁。"男は勝手に発射する権利は無い"とか言ってる教祖タージマみたいな・・・」

「そういう訳です」

そう言ってリシュリューが頷くと、ジロキチが「まさか"フランスは悪魔に支配された罪深い国だから、どこぞの半島国に奉仕すべきエバ国家として浄化されるべく、民を騙して全財産寄進させろ"とか」

「いや、そういう訳でも・・・」

そう言ってリシュリューが困り顔を見せると、タルタが「"罪の根源たる肉体から魂を解放するため、サリンちゃん謹製毒ガスでボアしてあげるのが救済だ"とか?」

リシュリューは溜息をついて「あんたら面白がってるだろ?」



「で、どういう二元論なんですか?」

そうエンリが問うと、リシュリューは「強者と弱者ですよ」

その場に居る全員、溜息。

「強きを挫き弱きを助ける・・・って標語に、何も考えない奴が流されるって、アレかよ」とタルタ。

「そもそも具体的に誰が強者で誰が弱者で、そいつらをどうしろって言ってるのか・・・って事だよね?」とアーサー。

「弱者というのは13種類の指定項目があるって聞くでござるが、女性と外国人と障碍者と・・・、それと貧民?」

そうムラマサが言うと、若狭が「あの13種の中に貧民なんて項目、有った?」


「ともかく、金持ちが強者なんだよね?」

そうエンリが確認すると、リシュリューは「いや、フランス人男性が多数派だから強者だとか」

エンリは唖然顔で「何だそりゃ。で、彼等はその強者をどうするって言ってるの?」

「全財産を寄進させると」

そうリシュリューが言うと、全員溜息をついて「やっぱりカルトだよね」


「けど、弱者が嫌だと思ったら人権侵害で、その望みは人殺しでも何でも全て叶えさせてあげるのが人権だ・・・とか言ってる人達も居るのよね?」

そうニケが言うと、タルタが「それ、"リベラル教"っていうカルトだよね」

「ってか、全財産寄進って、宗教に名を借りた強盗よ。禁止したらどうなの?」

そうニケが言うと、エンリが「国教会には信教の自由ってのがあるからなぁ」

「だからって好き放題を容認するのは、自由の履き違えだよね」とニケが突っ込む。

ジロキチが「質問権でも行使して回答出来なかったら解散命令を出すとか・・・」

カルロが「無理な自己正当化した回答を出したら、それを認めるのかよ・・・って問題も出るよね」



そんな彼等にリシュリューが言った。

「それより厄介なのが、教皇派が奴らに対して十字軍を差し向けるという動きがあるんです」

「だったら任せちゃえばいいんじゃないの?」と、タルタがお気楽な事を言うと、リシュリューは言った。

「彼らはこの機会に勢力の復活を目論んでいます。南部に領地を持つ諸侯には、未だに教皇派が多く、この期に彼等を取り込もうと・・・。問題行動があるのは事実だし、金持ちは全財産寄進とか、そこまでは教皇派の坊主もやりませんから」

「それに近い事を神の意思だとか言ってるけどね」とエンリが突っ込む。


アーサーが「そういう非行を促す教義とか、あるんですか?」

「どこぞの半島国に奉仕すべきエバ国家・・・みたいなヘイト丸出しの教義があれば、それを前面に出して糾弾できるのですが」

そうリシュリューが困り顔で言うと「それが困るからって、マスゴミとかいう第四権力は、そのヘイト教義を"報道しない自由"を以てずっと隠蔽してきたんだものなぁ」とエンリ。

アーサーは「民族単位の対等を否定する"謝罪しろ賠償しろ"は、それ自体がヘイトスピーチで反社ですからね」


リラが「被害は出てるんですか?」

「金持ちはあんなのの信者になりませんよ。どこかの国の自称人権団体みたいな、隣国のカルトの教義と同様の捏造歴史に基いての犯罪民族呼ばわりを"正しい歴史観"と称して拡散するカルト犯罪サポーターは、フランスには居ませんから。信者になるのは大抵が貧民です」

そうリシュリューが言うと、リラは「その信者は普通に暮らしているんですか?」

「しばらく教団の指示に従って布教した後、どこかに移住して消息を断つのです」とリシュリュー。

ニケが表情を曇らせて「まさか、奴隷として売られている、って訳じゃ無いわよね?」


「彼等の本拠地は?」

そうエンリが訊ねると、リシュリューは「本部支部ともに不明です」

エンリは溜息をつくと「怪し過ぎるよね。そもそも信仰の自由ってのは、信者が自分で拝む自由の事で、布教で他人を変なのに巻き込む自由じゃ無い。まして組織が守られる訳でも無い。布教禁止でいいと思いますよ」



リシュリューは話題を変えて、エンリに訊ねた。

「ところで、弱者と言えば、あなたはルソーという人物を御存じありませんか?」

「最近出てきた思想家ですよね?」

そうエンリが言うと、リシュリューは「学生なんですけど、オルレアン公のサロンに席を置いていまして、あちこちのサロンに討論を仕掛ける道場破りみたいな事をやっている人物でして、彼の主張が弱者至上主義なんですよ」

「どこかの貴族の出とか?」とアーサー。

「平民出ですけど、ヴァランス夫人という貴婦人のパトロンが居るのです。ところがその彼が行方知れずで、探して欲しいと・・・」とリシュリュー。

「彼女に頼まれたのですか?」

そうエンリが言うと、リシュリューは「いや、それは別の誰かに頼んだらしいのですが、ただ、どんな主張なのか気になりまして、もしカタリ派に居て、出くわして議論する事があれば、記憶の魔道具にでも録音して頂けたらと」


そしてリシュリューはエンリに言った。

「カタリ派についてはイザベラ女帝からも依頼を受けているのですよね?」

「そうなんですけどね」



エンリはフランスを後にすると、スパニア宮殿へ。


「リシュリュー閣下はどう言ってたかしら?」

そう問うイザベラに、エンリは言った。

「フランスではカタリ派の布教は禁止だそうだ。だが、教皇派は領主の支持の元で、彼等を異端として討伐する。それで勢力回復を目論む事を、フランスは警戒している」

イザベラは「そうなるわよね。教皇庁は正式にアルビ十字軍を宣言したわ」

「それで何でスパニアに参加要請が?」

そうエンリが問うと、イザベラは「スパニアにも教皇派が居ますから」

「まあ、民や家来に信者は居るだろうけど」とエンリ。

イザベラは「領主にも・・・。それが、私に敵対する事の無い・・・というよりむしろ味方のね」

「誰だよ」


「フェルナンド兄様よ」

そうイザベラが答えると、エンリは「アラゴン公かよ。彼まだ教皇派なんてやってたのか?」

「兄様はこんなドロドロな謀略に関わらせていい人じゃないの」

そんな事を遠い目で呟くように言うイザベラを見て、エンリは思った。

(こいつ、こんな顔もするんだ)

そして「お前とは仲がいいんだよな?」


「元々母親が庶民で、私と境遇が似てるから、子供の時からよくしてくれる、いい人なの」と、イザベラは懐かしそうに語る。

エンリは「そんなのが、よくアラゴン公なんて大きな所の入り婿になれたよな」

「バックになるような母親の実家の勢力が無い分、扱いやすいと父様が判断したのよ。けどあそこは半分はフランス諸侯みたいなもので、フランス南部の領主に、彼に臣下の礼をとってる人が何人も居るの」

そうイザベラが言うと、エンリは「その繋がりで誘いって訳か。この機会に、そういうフランスとのズブズブは切らせたらどうだ?」



翌日、エンリはカルロを呼んだ。

「アルビ派に関して調査して欲しいんだが」

「あそこは謎が多いですよ」と、難しい表情を見せるカルロ。


「本拠地はどこか、とか、頭目は誰か、背後に居る奴らが何なのか、とか・・・」

そうエンリが言うと、カルロは「叩き潰しますか?」

エンリは言った。

「そうだな。出来れば、俺たちで潰したい。誰が潰すか・・・って話になっている。教皇派は自分達が先頭に立って潰せば、過去の地位を取り戻せると思っている。宗教は時に人間の理性を麻痺させる。そして、人の人たるを取り戻すのは理性であり、教皇派は自分達こそ、その立場なんだと思っている訳さ」

「彼等って、一番人の理性を踏み躙ってきた奴らなんですけどね」

そうカルロが言うと、エンリは「敵方を"偽物の理性だ"などと言いながら、理性という価値そのものを否定しているようでは話にならない。愛国心を否定している奴等が"あいつは偽の愛国者だ"と言ってるのと同じさ」


「アルビ派はいろんな勢力が追ってますけど、みんな、なかなか実体に迫れないんですよ。何か強力な魔法を使っているフシもあります」とカルロ。

エンリは「タマを付けてやる。猫の情報網は役に立つからな」

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