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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
363/562

第363話 従者の官舎

フェリペがクレタ島から戻ってしばらく後・・・。

スパニアの宮廷で、フェリペ皇子の世話係の女官が交代した。


新たに配属された女官に起こされ、着替えるフェリペは、着替えを手伝っている女官たちに訊ねた。

「ライナたちはどうしたの?」

「彼女達を派遣していた方が、派遣を打ち切ったとの事です。派遣していた本来の主に対する背信行為があったという事で」

そう答える女官たちにフェリペは「それって、僕とエリザベス姉様との恋を後押ししたって事だよね? 彼女達、どうしてるかな?」

「フェリペ様にはこのメアリが居ますわ」と、その女官の一人として彼の着替えを手伝うメアリ元王女。

「そうだね」とフェリペは気の無い声で・・・。


着替えを終えるとメイド長が顔を出す。

「フェリペ様、朝食の用意が出来ております。朝食を終える頃には、家庭教師の先生方がいらっしゃいます。どうかお急ぎ下さい」

メイド長に連行されるフェリペ。



その頃・・・・・。

「これからどうしようか」

宮殿を追い出されて途方に暮れるライナ・リンナ・ルナの三人。

「三人でアパートでも探す?」

そうライナが言うと、リンナが「頭金が必要よね?」

ルナが「三人で出し合えば、足りるんじゃないかな」


三人、財布を出して所持金を確認。

各自、他の二人の財布の中味を見て、溜息をつく。


「何でそれしか持って無いのよ」

そうライナが言うと、リンナが「化粧品は必要よね」

ルナが「お菓子が無いと生きて行けない」

「そう言うライナはどうなのよ」とリンナが言うと・・・。

ライナは「"週間私の騎士様"の購読料が・・・」


溜息をつきつつ、ルナが言った。

「どこか、泊めてくれそうな所を探そうか」

「だったらチャンダ様の官舎は?」

そうリンナが言うと、ライナは「年頃の男子と一つ屋根の下に住む気?」

「私たちってそんなキャラだっけ?」とルナが突っ込む。


するとライナが「それより、マゼラン様にお願いするのはどうかな?」

リンナはあきれ顔で「年頃の男子と一つ屋根の下がどうとか言ってなかった?」

「けど彼、家族のお屋敷から通ってるわよね。その分、安心なんじゃ・・・」

そうライナが言うと、リンナが「それって、親に気兼ねしながら・・・って事だよ」


「いっそヤンさんかマーモさんは?」

そうルナが言うと、ライナは「お嫁さんが居るけど」

「だから安心なのよ」とルナ。

リンナが疑問顔で「あの人達、そういうキャラだっけ?」

ルナは言った。

「男をゲットした新妻なら、間違いなくご飯とか作って貰えるわよ。この中でちゃんと料理出来る子なんて居ないわよね?」

「安心って、そっち?」

そうリンナが言うと、ルナは「何だと思ったの?」

「・・・・・・」

「けどそれって、新婚生活を邪魔してるって事にならない?」とライナが指摘。

「・・・・・・」


暫しの沈黙の後、ルナが言った。

「シャナさんはどうかな? 同年代の女の子なんだから、文句は無いわよね?」



シャナの官舎に行くと、官舎は崩壊していた。

瓦礫を前に立ち尽くす三人。


通りかかった近所の人に、ライナが訊ねた。

「ここに、フェリペ殿下の従者の方の官舎があったと思うんですけど」

「何でも、その使い魔のドラゴンが、やらかしたらしいよ」と、近所の人は答える。

三人、顔を見合せる。

ルナが「アラストールさんが暴走?」

リンナが「あの人、そんなキャラだっけ?」

すると近所の人は「普段ペンダントに変身していたそうなんだが、寝惚けてドラゴンの姿に戻ったんだとか」

「・・・・・・」


「シャナさん、どこに行っちゃったのかなぁ」

ルナがそう呟くように言うと、瓦礫の向うからシャナの声が「ここに居るが」

三人とも唖然。

シャナは瓦礫の向うから顔を出して「瓦礫に埋まった装備を回収に来たんだが、何か?」


ドラゴンのアラストールが瓦礫をどけ、シャナがあれこれ道具や日用品を探している。

「それで、シャナさんはどこに寝泊まりしているんですか?」

そうリンナが言うと、シャナは怪訝声で「どこって?・・・・・・」


すると、アラストールが三人を見て「君達も宮殿を出てきたようだね?」

「そうなのか?」

そうシャナが言うと、アラストールは「彼女達、荷物を持っているだろ? 泊まる場所を探しているんだよ」


「実は、私たちを宮殿に派遣していた元々の主から、クビを言い渡されまして」

ライナがそう言うと、シャナは「一体、どんなとんでもないヘマをやらかしたんだ?」

「そういう訳じゃ・・・」とライナが困り顔で言う。

そしてリンナが「フェリペ様とエリザベス王女の仲を報告せず、後押ししたのが露見したんです」


そんな彼女たちにシャナは言った。

「それで追い出されて、行く所が無いという訳か。なら一緒に来るか?」

三人は声を揃えて「お願いします」



三人がシャナについて行くと、そこはチャンダの官舎だった。

三人は唖然顔。

そしてライナが「年頃の男女が一つ屋根の下って・・・」

シャナは首を傾げて「何だそりゃ」


チャンダが出て来て、彼女たちを迎える。

「大変だったね。一人暮らしで部屋は余ってるから、好きな所を使っていいよ」

有耶無耶のうちにチャンダの官舎に居候する事になった、三人の女の子。


部屋に荷物を置いて一息つくと、リンナが言った。

「重大な問題があるんだけど、ご飯は誰が作るの?」

「お菓子じゃ駄目?」

そうライナが言うと、リンナは「栄養が偏るでしょーが」

「カップラーメンは?」

そうルナが言うと、リンナは「駄目に決まってるでしょーが!」

ルナは冷や汗声で「大丈夫だよ。シャナさんも居るし」

「そ・・・・・・そうよね」とライナとリンナ。


シャナが帰って来た。

三人は玄関にすっ飛んで行くと、買い物籠を持つシャナに「そろそろ夕食を作る時間だと思うんですけど、シャナさんはどちらに?」

「夕食のメロンパンを買ってきたんだが」と言う、彼女の買い物籠の中味は全部メロンパン。

「・・・・・」

残念な空気が漂う中、リンナは「こうなったら、練習あるのみよ」



三人は街に出て、料理の本をしこたま買ってきた。

そして適当に食材を買って官舎に戻り、三人で台所に行くと、チャンダがカレーを作っていた。

彼は三人を見て「お腹空いたでしょ? もうすぐご飯だから」


残念な空気が漂う中、ライナが呟く。

「いいのかなぁ。女の子が三人も居るっていうのに」

リンナが「料理は女子力の要だよ」

ルナはあきれ顔で「あんた達、何と戦ってるのよ」


五人で食卓を囲む。

シャナがメロンパンを齧り、残りの四人は大皿のカレーを食べる。

ライナが「美味しいですね」

リンナは「こういうのを敗北の味って言うのよね」と呟く。

そんな二人に、ルナはあきれ顔で「だから何と戦っているのよ」



三人で夕食後の後片付けをしつつ、ライナは思った。

(よく考えたら、得意分野で勝負すればいいだけじゃん)



翌日、ライナは台所でお菓子を焼いた。

そしてお茶と一緒にお盆に乗せて、居間に居るチャンダの所へ・・・。

「チャンダ様、お菓子を焼いたんですけど、一緒に食べません?」


チャンダがライナとお菓子を食べていると、リンナとルナが来た。

チャンダと一緒にお菓子を食べているライナを見て、リンナは不機嫌そうに「あんた、マゼラン様狙いじゃ無かったっけ?」

ライナは困り顔で「そういうつもりじゃ」

そんな二人にチャンダが「お前等も一緒に食べたらどうだ?」


リンナとルナが躊躇っていると、シャナが来た。

「あ、お菓子か」

そう言いながら、一緒にお菓子を食べるシャナ。

そして「それなりに美味いな。メロンパンには劣るけど」

そんなシャナを見て、ライナとリンナは思った。(この人、メロンパン以外も食べるんだ)


そしてリンナも座ってお菓子を食べ始めるが、ルナが何やら窓の外を見て、ぼーっとしている。

「ルナは何やっているのよ」

そうライナが言うと、ルナは「フェリペ様、どうしてるかな」

そう呟く彼女を見て、ライナも「マゼラン様、どうしているかな」と呟く。



三人は次第にチャンダの官舎にも馴染んだ。

そして三人はアルバイトを始めて小遣いを稼ぎ、三人で遊びに行く。

官舎でも、人数にものを言わせて我が物顔にそこを仕切り始め、次々と立ち入り禁止場所を設定。


次第に窮屈を感じ始めるチャンダを察するリンナ。

三人で掃除をしている中で、リンナは他の二人に言った。

「そんなにあれこれ決め事作らなくても」

ライナは「リンナはチャンダ様に甘いのよ」


そのうち、リンナがチャンダの部屋に入り浸ると、ライナとルナが「リンナは付き合いが悪い」と言い出す。

台所に三人でわいわいやっている所にチャンダがお茶道具を取りに来る。

お湯を沸かすチャンダは、チラチラと物欲しそうに自分を見るリンナに気付く。



そんな様子がシャナを通じてマゼランに伝わった。

従者の控室に居るマゼランとチャンダの雑談で、そんな話題が出た。


「何なんだろうな?」

そうチャンダが言うと、マゼランは「女子会って奴だろ?」

そして彼はチャンダに「とりあえず、リンナをどこかに誘ってやったらどうだ?」

「けど、あの二人が、どっちが優先だとか言い出すからなぁ」

そう困り顔で言うチャンダに、マゼランは「だったら・・・・・」



次の日の夜・・・・・。


「チャンダ様、お風呂どうぞ」

そう女の子たちに促され、チャンダは浴室へ・・・。

脱衣場で服を脱ごうとするチャンダに、リンナが「洗濯物はこちらの籠に入れておいて下さいね」

チャンダはズボンを脱ぎ、シャツを脱いで、洗濯物の籠へ入れ、浴槽に浸かる。


風呂から上がり、パジャマを着て、まったりしている時、チャンダはふとズボンのポケットの中を思い出した。

「まずい。ポケットに入れたまま洗濯に出しちゃった」


彼が部屋を出て風呂場に行くと、ライナに出くわす。

「洗濯物は?」

そう問われて、ライナは「洗い終わって、物干し部屋に干しておきましたけど


チャンダは焦った。

洗濯物部屋は女の子たちの取り決めで、立ち入り禁止だ。自分達の下着が干してあるからと・・・。

彼は脳内で呟く。

(一緒に洗って壊れたりしなきゃいいけど。どうしよう。真夜中にこっそり取りに行くしか無いな)


チャンダは真夜中に起き上がって物干し部屋へ。

女の子の下着を見ないようにしつつ、自分のズボンを探し、ポケットの中を確認する。

(あった)

その時、いきなりライナが・・・。

「チャンダ様、何をなさっているんですか?」

チャンダは、探し物を慌ててパジャマのポケットの中へ。



「それで追い出された?」

ヤマト号の船室で、状況を話すチャンダに、マゼランがそう言うと、チャンダは「ってか、居辛くなって出てきたんだが」

「追い出されたようなものだろ」とマゼラン。

「まあ、ここならヤマトさんのご飯も食べられるし」

そんな事を言うチャンダに、マゼランは言った。

「けど、あそこはお前の官舎で、あいつ等は居候だろ。それに誤解な訳だし」

「下着目当てだって聞かないんだよなぁ」とチャンダ。


マゼランは溜息をつき、語り出した。

「ある国の兵学校でサバイバル訓練があったそうだ。男女一緒で食料現地調達による数日間のテント生活を、って趣旨なんだが、ある班ではそういうのが得意な奴が居て、最初はトップの評価を受けてた。ところが、他の班から一人の女の子が来て、自分の班のボスの独裁から逃げて来た、って言ったそうだ。彼等の班は彼女を受け入れたが、まもなくその班で下着ドロ騒ぎが起こり、その下着はサバイバルの得意な奴の荷物から見つかった」

チャンダは「その、逃げて来たって子が実は犯人で、そいつを潰すために送り込まれたスパイなんじゃ無いのか?」

するとマゼランは「みんなも薄々気付いてたんだが、誰もそれを言い出せず、彼は班から追い出されて、その班は最下位になったと・・・」

「怖いよなぁ」と言って溜息をつくチャンダ。


「フェリペ様に相談したらどうかな?」

マゼランがそう言うと、チャンダは「六歳児には理解出来ないだろ」

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