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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第361話 知恵の果実

行方不明となったフェリペたちを取り込んだダンジョン内の固有結界は、ミノタウロスを愛した王女パシパエが現世から隠れて暮らすための子供の国だった。

エンリは彼女が愛したキングミノタウロスに人化の魔法を受けさせ、役目を終えた固有結界は消滅し、パシパエと子供たち、そしてミノタウロスたちは現世に帰還した。

エンリはフェリペと部下たちを連れて、ダンジョンの正体を見極めるべく更に深部を目指し、ついにその核心を掴んだ。



湖から出て、みんなの所に戻ったエンリは、湖の中で見て考えた事をみんなに話した。

「つまりこの洞窟って、物質と空間がネガポジ反転した木の幹と枝って訳ですか?」とアーサー。

ヤンが「独立した異界空間が実る地底の世界樹・・・ねぇ」

「その知性が賢者ダイダロスのオベリスク?」とマゼラン。

「あれは通信端末みたいなもので、全体が生命の樹と同じ構造を持つ一種の知性体なのでしょうね」とアーサーが解説。


ニケはワクワク顔で「もしかして、これが賢者の木?」

タルタは「けど、俺が実を食べたのは普通に木だったぞ」

「それは苗木みたいなものなんじゃ・・・」

そう若狭が言うと、ニケは「だとしたら、その根源ってあるのよね?」


「あるとしたら、根本に相当するマルクトのセフィロでしょうね」

そうアーサーが言うと、エンリは考え込む。

そして「この湖みたいな水の溜まった竪穴が幹で、その底って訳か」

みんながワクワク顔で「行ってみようよ」



リラがウォータードラゴンを召喚し、全員が呼吸の魔道具を咥えて、その中に入る。

そしてウォータードラゴンは湖へ。だがそれは、間もなく渦に捕えられ、激しい水流に翻弄される。


リラが「水の流れが激しいです」

「船酔いしそう。気持ち悪い」とタルタが言い出す。

ヤンとマーモが「それでも海賊かよ」

「僕も気持ち悪いです」

そう言い出したフェリペを庇って、ライナが「どうにかなりませんか?」


エンリは水の魔剣を抜いてウォータードラゴンの外に突き出し、再び、周囲の水との一体化の呪文を唱えた。

ウォータードラゴンは渦から離れ、安定した流れを作って底を目指す。



湖の底には、光に満ちた空間があった。

「ここは?」

リラがウォータードラゴンから出て、普通に呼吸できる事を確認。

全員がウォータードラゴンから出る。


周囲を見回して、エンリが言った。

「聖杯が居た場所と同じだな」

フェリペも「ロキと出会ったのも、こんな所だったよね」

アーサーは「ここは精霊の世界ですね。それで、この世界樹のマルクトなんだろうと思います」


オベリスクが立っていた。

パシパエの城の地下にあったものと同じ形だが、かなり大きい。


エンリはそれに手を当てて、それに問いかけた。

「あなたは誰ですか?」

「世界です」とオベリスクは答える。

「世界とは?」

エンリがそう問うと、オベリスクは言った。

「あなたが居る場所。あなたの隣にいる人が居る場所。あなたとあなたの隣人が居る場所。全員が居る場所。どれも世界であり、それは階層構造を以てつながり、独立しつつ互いに干渉し合う実在。あなた自身もまた一つの世界です」


「つまり、あなたはそれらを統べる者という訳ですか?」

そうエンリが言うと、オベリスクは「世界を統べる者など居ません」

「けど、私という世界を統べる者は、私自身なのではないのですか?」とエンリ。

するとオベリスクは「あなたは一人ではありません」

「そりゃ、俺は仲間も家族も居て、ぼっちじゃないからな」

エンリがそう言うと、オベリスクは残念そうな声で「いや、そういう意味じゃなくて・・・・」


そしてオベリスクは気を取り直し、言った。

「あなたの中には、いろんなあなたが居る。卓越を望むあなた。豊かな消費を望むあなた。洗練を、完璧を、持続を、平穏を、煩わされる事の無い安逸を・・・・・。各自別々の想いを満たそうと、あなたを奪い合う」

「どうすれば良いというのですか?」

そうエンリが問うと、オベリスクは「より多くの想いを満たそうと、人は知恵を求め、知識を求め、その使い方を知って、より賢くなる。そしてそれが自分を、更に他人を振り回す」

「あなたは知恵の実なのですか?」

そうエンリが問うと、オベリスクは「そう呼ぶ人も居ます。私は多くの人に、知恵を分け与えてきました。彼等は本質的には何も変わりません。けど、それでいいのです。知恵はそれで何かを実現するための道具であり、それをどう使うかは、その人次第です。けれども、知らなかった事を知るのは、それ自体にも意味があります」


その場に居た全員、互いに顔を見合わせ、そして全員でオベリスクに手を当て、知恵の分与を願った。

そして、何かが心に入ってくるのを感じた。

(これが世界?)


それを終えて手を離し、彼等は互いに顔を見合せる。

そして「どうだった?」

「何かのイメージが頭の中に入ってきたような気がするけど、よく解らない」と女官の三人が言う。

アーサーは「何かを理解するには時間がかかるからね」


するとニケがオベリスクに言った。

「それより、鉄を金にするには、どうするの?」

「それは専門分野ではありません」とオベリスク。

ニケは「あなたは賢者の木なのよね? 錬金術の知識をくれるんじゃ無いの?」

「それは方向性が違うんですけど・・・・」とオベリスクは困り声で・・・・・。

ニケは「ミノス王に知恵を授けたのは、あなたよね?」

「そうとも言えますが・・・」

そう戸惑い声で言うオベリスクに、ニケは「それで彼は触る物を金に変える力を得たのよね?」

オベリスクは「はぁ?」と唖然声で・・・・・・・・。


アーサーが言った。

「ニケさん、触った物を金に変える王様って、ミノス王じゃなくてミダス王だよ」

「だってタルタが・・・」

そうニケが言うと、タルタは頭を掻いて「そーいやそーだっけ」

エンリが「もしかして、名前が似てたからごっちゃになってた?」

「つまり勘違い?」とアーサー。


「そんなぁ。私の努力は何だったのよ。私のお金ーーーー」

そう言って地団太踏むニケを横目に、エンリはオベリスクに問うた。

「あなたはミノス王の願いを叶えたのですよね? 彼の娘であるパシパエさんに、居場所としてその果実である固有結界の一つを与えた」

オベリスクは「強い想いで自らの世界を求める者が、その果実を齧る事でその世界の主となり、そしてその者が求めた条件に合う人たちを選んで受け入れる。様々な人達がこのダンジョンで果実を手に入れ、彼等の世界を手に入れた。けれども果実はいつか落ちる。そして数千年の後、その種がどこかで芽吹くのです」



再び全員、リラのウォータードラゴンに乗って水中に入り、上を目指して帰還した。

ドラゴンの中であれこれ言う仲間たち。


「あのイメージって何だったのかな?」

そうリンナが言うと、ルナが「綺麗な何か・・・としか言えないよね?」

「けど、美しさって何なんでしょうね?」とリラ。

エンリは「哲人たちがあれこれ議論したけど、出た結論は調和だそうだよ」

「つまり、いろんな人や想いが折り合いをつけて・・・って、あのオベリスクも言ってたけどね」

そうアーサーが言うと、ニケは「つまんない答えよね。とにかく私はお金が欲しい」


するとヤンが「それをどう使うかだよね。派手にパーッと使えば、すぐ無くなる。節約しながらだと、思い切った使い方が出来ない」

「メリハリを付けて好きな事に重点的に使うってのはどうよ」とタルタ。

マゼランが「つまり、食うものも喰わずに押しのグッズを集めるみたいな?」

全員溜息をついて「それも何だかなぁ」

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