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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第36話 南海の覇権

アラビアの海の交易圏を巡る聖櫃戦争が始まった。

アラビア側の戦士を相手に苦戦するエンリ王子とその仲間。


ジンを召喚したアラジンと戦っていたアーサーの呼びかけに応じ、魔法の絨毯を駆使するアリババと戦っていたエンリは、標的を変える。

エンリはアーサーを追い回すジンを指して「ファフはあのデカ物の相手をしてくれ」

「了解」

そう言ってジンに襲いかかるドラゴン。巨大な魔物どうしの取っ組み合いが始まる。


その隙にアーサーは呪文を唱えて巨大な竜巻を起こし、アリババがそれに巻き込まれた所をエンリが炎の巨人剣で攻撃。

魔法の絨毯に火がついて、アリババは地面に墜落した。



「やってくれたな。だがな、俺が魔法しか使えないとでも思ったか。むしろこっちが本業だ」

そう言ってアリババは三日月刀を抜いて斬りかかる。魔剣で応戦するエンリは、アリババの剣戟に圧倒される。

あちこちに手傷を負うエンリ。

「とどめだ」とアリババがエンリに振り下ろす刀を風圧の壁が阻んだ。

アリババの周囲を同様の風圧の壁が閉ざしている。アーサーが風の牢獄の呪文を使ったのだ。


「これで俺を閉じ込めたつもりか。だがな、風には土だ」

そう言うとアリババは、土の破鎚の呪文を使う。地面から突き出す突起で風の壁を削りにかかる。

アーサーは「長くは保ちません。王子、今のうちに回復を」

だがエンリはアーサーに「そんなの後回しだ。それより、こいつらジロキチでなきゃ駄目だ。アーサーは苦戦しているジロキチに加勢してくれ」



アーサーはカシムにウォーターアローの呪文で水魔法攻撃。

カシムは剣で防ぐが飛沫でずぶ濡れになり、酔いが醒める。

カシムは慌てて麻薬タバコを吸おうとするが、濡れて火が付かない。

「いかん、麻薬が切れたら禁断症状がぁ」と、カシムは苦しみ出す。


ジロキチは峰打ちでカシムを気絶させると、風の牢獄を破って出て来たアリババを倒した。

そして、カルロに加勢して、彼と互角に戦っていたシンドバッドを倒す。



「こっちも片付いたわよ」と言って、ニケとタルタがエンリ王子の元へ。

ニケは言った。

「鉄化したタルタを齧ってた虎にマタタビ毒の吹き矢をお見舞いしたの、ネコ科の動物はマタタビで大抵ああなるわよ」

ニケが指した方向には、酔っぱらってゴロニャン状態のタイガ虎が居た。



その時。マサイが槍を掲げて勝ち鬨を上げていた。

「やったぞ、我等サバンナの戦士の力、思い知ったか」


その少し前・・・。

二人のランサーの戦いでは、長短二本の槍でカールを押していたマサイだったが、カールも負けてはいなかった。


手に汗握って戦いを見守るカールの婚約者は、彼女の恋人が押され気味になる姿を見て、思わず叫んだ。

「先生、頑張って。そいつやっつけたら、私の処女、あげちゃうから」


カールは真っ赤になって「こんな時に何言ってるんだ」

「隙あり」

そう叫んだマサイの長槍で頭を殴られ、カールは気絶。

「あーあ。先生ってば」と残念そうな彼の婚約者。



そして勝ち誇ったマサイが叫ぶ。

「我等サバンナの戦士の力、思い知ったか。次はどいつが・・・って、あれ?」


既に味方が殆ど倒されている。

敵に囲まれた彼は、ニケの吹き矢で倒された。



ドラゴンとジンの戦いはまだ続いている。

ジンを操るアラジンの宝具である魔法のランプを、ニケの銃弾が叩き落とす。魔法が中断してジンは消えた。


仲間とともにアラジンを囲み、エンリは言った。

「味方は全員やっつけだぞ。降参するか?」

「それはどうかな」と不敵な笑みを浮かべるアラジン。


アラジンは呪文を唱えた。

「聖戦に倒れし戦士を癒す天界の乙女らよ。彼らに立ち上がり汝らを守る力を与えよ。全ての戦士に回復あれ」

古代語の呪文とともに描かれる立体魔法陣から六体の少女の姿の妖精が現れる。

そして倒れていたアラビア側戦士たちにキス。六人が復活。


「さぁ、バトル再開だ」と仲間とともに構えるアラジン。

タルタは「そんなのアリかよ」と・・・。



その時、戦いを見ていた人魚姫リラがエンリに呼び掛けた。

「王子様、私も居ます」


「そうか」とエンリは叫んで、ユーロ側の神に言った。

「あの、神様。実は彼女も人魚で俺の乗り物セットって事でいいですか?」

「ここには水がありません。人魚には乗れません」と、ユーロ側の神。

エンリは「水があればいいんですよね? アーサー!」

「了解」とアーサー。


アーサーはウォータードラゴンの呪文を唱えた。

魔法陣から出現した大量の水が巨大な蛇の姿で宙をくねる。

リラが人魚の姿でエンリを乗せ、水でできた大蛇の背を泳ぐ。


そしてエンリはユーロ側の神に「これでこいつは俺の宝具ですよね?」

「許可します」とユーロ側の神。

エンリは「よし、リラ、やってやれ」

「はい、王子様。皆さん耳を塞いでください」

そう言って歌うリラ。セイレーンボイスの魔力で激しい睡魔に襲われた七人の敵は眠った。


「勝負あったな」とアーサー。

「俺たちの勝ち・・・ってあれ?」

そう言いかけてエンリが周囲を見回すと、敵味方の観戦していた人達も全員眠っている。

「神様まで寝てるけど、いいのか? これで」とあきれ顔のタルタ。

エンリは敵方の戦士を指して、仲間たちに「とにかくこいつ等縛り上げて全員たたき起こせ」



目を覚ました二人の神が宣言する。

「勝者、マーリン。これより聖櫃が復活する」


エンリが「いよいよ願望器が」とわくわく顔。

「お金ガッポリ貰える」とニケ。

「王子様と結婚」とリラ。

「最強の男になれるんだ」とジロキチ。

「世界の女は俺の物」とカルロ。


「ってか、あれが秘宝なんじゃなかったっけ?」とタルタ。

「そうかも知れないってだけ」とエンリ。

「違ったとしても、秘宝下さいって言えばいいんじゃない?」とニケ。

「その手があったかー」とエンリ。


「いや、自分で探してこその海賊のロマンだ」とタルタ。

「だったら、在処教えてくれって頼んだらいいのよ」とニケ。

「その手があったかー」とエンリ。

タルタは「いいのか? それで」



光の中に出現した聖櫃を見て仲間たちが好き勝手言う。

「普通の宝箱みたい」とニケ。

「豪華ではあるけど」とジロキチ。

エンリが「気のせいかな? グングニルの槍と作りが似ているような・・・」


「まあ、箱は箱だ。その中にあるものに意味があるんだよ」とアーサー。

「タブレットだったよね? それで、どんな願いも叶うと?」とタルタ。

「ってか、書いてるのって、あの十戒ってやつ?」とエンリ。

アーサーが「その元になった本来の啓示なんだそうだ。その内容は失われているっていうんだが」



聖櫃を開けると、文字の書かれたタブレットがある。


エンリが読み上げる。

「どれどれ・・・。強欲は大罪なり。神が与えし恩恵を喜びとし、そを汝の願望とせよ。されば汝の願望は既に叶いたり。・・・って、何これ?」

「つまり、お前等の願望はもう叶ってるんだから文句無いよね? って訳だ」とタルタ。


カルロが「これって詐欺じゃん」

「お金くれるんじゃなかったの?」とニケ。

「世界の女は?」とカルロ。

「最強の力は?」とジロキチ。

「ふざけんな」と仲間たち。


そんな仲間たちにタルタは「それで、これがあの、ひとつながりの大秘宝なのかな?」

「んな訳あるかぁ!」と仲間たちは口を揃えた。



そんな仲間たちを宥めつつエンリは言った。

「まあまあ、目的は戦争回避なんだからさ。って事でオッタマの皆さん。俺たちの勝ちって事でいいよね?」

「それは・・・」とアラビア側の代表は口ごもる。

エンリは「いいよね?」

「・・・仕方ありませんな」とアラビア側代表。



その時、聖櫃を見ていたアーサーがそれを発見し、そして言った。

「あの・・・、この聖櫃、偽物ですよ」

「何ですとー」と驚愕の声を上げる一同。


アーサーは箱の隅を指して「だってここに・・・998年、コンスタンティ製」

「コンスタテンティの偽聖遺物工場で作ったんだ」とエンリ。

「誰がこんなものを持ち込んだ」とシーナー。


続けて、マーリン側の魔法陣の絨毯の端を捲ったファフが言った。

「ねえねえ、絨毯の下に何かあるよ」

マーリンは慌てて「それは駄目」


穴が掘られていて、その中に大きな木箱がある。

開けると誰かが居た。

その人物にエンリはあきれ顔で話しかける。

「さっきの神様ですよね? 何やってるんですか?」

「いや、その・・・」と箱の中の人物は口ごもる。


全員「これ、マーリンさんの魔法」と言ってマーリンに疑惑の視線を向ける。

マーリンは困り顔で「召喚魔法で知性のある存在を呼び出すのは大変なのよ」



アラビア側の代表は言った。

「あなた方はこんなインチキを。これでは、さっきの敗戦は無しとするしかありませんね。我々はちゃんとやったのだから」


だが、続いてシーナー側の魔法陣の絨毯の端を捲ったファフが言った。

「ねえねえ、こっちの絨毯の下にも何かあるよ」

シーナーは慌てて「それは駄目」


絨毯の下に掘られた穴の木箱から、オッタマ側の偽神様登場。

全員「シーナーさん?」と言って疑惑の視線を彼に向ける。

シーナーは困り顔で「召喚魔法で知性のある存在を呼び出すのは大変なんですよ」



残念な空気の中で、アラビア側代表は言った。

「とにかく代表戦は仕切り直しです」

それに対してエンリは「その前に、再建したというオッタマ海軍というのを見せて貰えませんか」



港の奥側は城壁によって視界を遮られ、その城壁の一画に三階建ての石造りの櫓建物がある。

アラビア側代表はその建物を指して「この最上階からご覧になれます」


最上階の壁一面に大きなガラス窓。その窓を通して港を一望する景色が広がる。

港の水面を埋め尽くす無数の軍艦。

「すげーーーー」とエンリ王子たち一同は驚きの声を上げた。

「納得いただけましたかな?」と、アラビア側代表。



だが、それを眺めるエンリは、その光景に不自然なものを感じた。

(何かがおかしい)


窓を見ながら部屋の中を歩き、そしてエンリは訊ねた。

「一つ質問ですが、ガラス窓というのは外の光を取り入れるためのものですよね? 今は晴れた昼間で光は十分にある、なのになぜ部屋の中で、こんなに明かりを灯しているのでしょうか」

「そ・・・それは、明かりを灯すのは豊かさの証です」とアラビア側代表。


そしてエンリは「ガラスの向こう側に艦隊を浮かべた港の景色を描いた大きな絵を貼っている訳じゃないですよね?」

アラビア側代表は焦り顔で「そんな馬鹿な」


「ニケさん、やっちゃって」とエンリはニケに・・・。

「弁償とか無しだからね」

そう言って、窓に向けて短銃を連射するニケ。

窓の中央が壊れて大穴が空き、割れたガラスの割れ口に、絵の描かれた紙の破れ目が揺れている。

割れた所から光が差し込み、その向こうには船ひとつ見えない港の水面があった。


エンリは言った。

「本物の景色みたいにリアルに見えるのは遠近法の効果。これ、ミケランって画家に注文して描かせたものですよね?」

タルタが「そういえばレオナルド爺さんがそんな事言ってたっけ」



そんな彼等にアラビア側代表は「よくぞ見破った。だが、見られた以上、生かして返す訳にはいかない」

隠し扉から湧いて出る暗殺教団のアサシンたち。


「ファフ」とエンリが号令。

「了解」

そう言ってファフはドラゴン化し、最上階の壁と天井を破壊して空に飛び立つ。

その背中に乗ったエンリ王子たち。

瓦礫の散らばる床で茫然と彼らを見上げるオッタマの人たち。


そんな彼等を見下ろして、エンリはファフの背中から大声で呼びかけた。

「交易路は自由という事にしませんか」

「そうはいかない。この海はずっと私たちの物だったんだ」とアラビア側代表は叫ぶ。



エンリは言った。

「我々は新たな交易路を開いてここに来た。あなた達だけでなく、インドやジャカルタやジパングの人たちと取引するために。彼らはあなた方の所有物ではない。我々と直接取引する権利がある」

アラビア側代表は溜息をつき、そして言った。

「解りました。交易は互いに干渉しない。それで合意としましょう」

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