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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
359/562

第359話 結界の女王

ダンジョン探索中に行方不明となったフェリペ皇子たちの捜索のためミノス島を訪れたエンリ王子たちは、同様の行方不明者捜索を目的としたナオフミたちと協力し、ダンジョンでの消失が、条件に合った者を招き入れる固有結界への転送である事を突き止めた。

そして幻覚魔道具を使って、その条件である「七人の子供」の姿になってフェリペたちの居る固有結界に入る。そこは女王パシパエとミノタウロスたちが、古代に生贄として差し出された子供たちとともに暮らす王国だった。

エンリたちはそこで暮らすフェリペたちを発見し、女王が差し向けたミノタウロス隊の襲撃を迎え撃って、これを拘束する。



エンリ王子たちは、拘束したミノタウロスたちを連れて女王の城へ向かった。


両腕を縛って首に縄をつけたミノタウロスたちの行列を見て、ジロキチが「こいつ等って、返して大丈夫なのかな? また襲って来るとか・・・」

それに対してエンリは言った。

「状況を把握できないのは向うも同じさ。何故大人がここに居るのか。そもそも、今になってこのダンジョンが外に通じたのは何故か。彼等はずっと、外との行き来を拒んで居たんだよね?」

「つまり、違う状況が生じたと?」

そうアーサーが言うと、エンリは「例えば、彼等が必要な何かが手に入る時代が来た・・・とか?」

「それが何かを、王子は解るのですか?」とアーサー。

エンリは「空想の段階だけどね」



城に着くと、城門が閉じている。

門の脇に、牛の角の生えた女性の巨大な石像が立っている。石像はエンリたちに語りかけた。

「あなた達はどうやってここに来たのですか? 入れるのは子供だけの筈なのに」


エンリは「テセウスという人物は、ここに来れたのですよね?」

「そうでしたね」

そう答える石像に、エンリは「そして彼は、ここを去ったのですよね? どうすればここを出る事が出来るのですか? 我々は、ここに迷い込んだ我が子を連れ戻しに来たのです」

石像は「その方法を私は知らない」

「誰が知っているのですか?」とエンリ。

「この迷宮を作った賢者なら、知っているでしょう」と石像。


「彼はどこに居ますか?」

そう問うエンリに、石像は「私は知らない」

「彼はテセウスをどうしたのですか?」

そう問うエンリに、石像は「私は知らない」

「ここは外と時間の流れが異なる。そして我々の時間と繋がった。何故ですか?」

そう問うエンリに、石像は「知らない」

「あなたに必要なものが現れたからではないのですか?」

そう問うエンリに、石像は「それは・・・」


エンリは「それは人化の魔法ですね?」

「それは・・・」

「あなたは、そのミノタウロスを愛してしまった」

「止めて」と石像は悲鳴に近い声で叫んだ。

「そうか。この人、牛フェチ・・・」

そうタルタが言うと、石像は「違います。あれは約束を違えて、神から送られたものと違う牛を差し出したから」


エンリは言った。

「それは逆ではないのですか? ここに魚に欲情するお魚フェチが居ます」

「えーーーーーーーーっ! いやだって魚ですよ? 有り得ないじゃないですか」


残念な空気が流れる中、エンリはムキになった。

「いや、私は同類として・・・」

「牛は魚より人間に近いです。( ー`дー´)キリッ」

ドヤ声でそう言う石像に、エンリは「キリッじゃねーよ!」


「まあまあ王子、落ち着いて」

そう言ってエンリを宥めるアーサーを他所に、石像は「いや、だって、さすがにそんな変態・・・」と追い打ちをかける。

エンリは全力で「これは個性だ!」と主張した。

「個性・・・ですか?」と、戸惑い声を発する石像。


そんな彼女にリラは語った。

「私、実は人魚なんです。海を愛する王子様に恋をして、半分魚のこの身を愛して貰えて、すごく幸せです。あなたのミノタウロスも同じではないのでしょうか。それはすごく素敵な事で、恥じる事は無いと思います」

「・・・・・・・・・・」

エンリは「本当は、あなたが彼を生贄にするのを止めた」

「・・・」

「本当は何があったのですか?」とエンリ王子。



城門が開き、ミノタウロスに先導されて城内へ。そして謁見の間へ。

そこには女王とキングミノタウロスが居た。

そして女王が語る、彼女とミノタウロスの出会い。



パシパエはミノス王の娘だった。彼女の祖父が没し、父のミノスは兄弟との争いで勝ち残って新王となった。

即位の儀式では、海神の聖地で、生贄とする野生の牛が選ばれる。

人が罠を仕掛け、神は自らが選んだ牛を罠に送り込むのだ・・・とされる。

罠は、牛の餌の器の上に檻を吊るすという、簡単なものだ。


罠を仕掛けながら、あれこれ会話する役人たち。

「それが儀式用に奮発したっていう餌か?」

そう言って檻の仕掛けをセットとしてる役人に、餌の器を据えている役人は言った。

「高級大豆を配合した飼料と麦の発泡酒だぞ。東の国では霜降りという最高級ビーフを育てるのに使われるそうだ」

別の役人が「まさかミノタウロスがかかったりしないよね?」

更に別の役人が「あいつら、それなりに知能があるからな。こんな罠にかかったりしないだろ」


一晩経って役人が罠の所に行くと、ミノタウロスがかかっていた。

命乞いをするミノタウロス。

「お願いです。見逃して下さい。家には病気の妻と十匹の子供が」

「けど、神様が選んだ牛だもんなぁ」

そう困り顔で役人が言うと、ミノタウロスは「童貞のまま死にたくないです」

「いや、妻と十匹の子供はどーしたよ」と、別の役人が疑問顔で・・・。

更に別の役人が「けど生贄って、祭りのご馳走として食べるんだよね? 本当にこれ、食べるの?」

別の役人が「半分くらい人肉みたいなものだよなぁ」


「そうですよね。知能のある生き物を食べちゃ駄目ですよ。鯨なんか人間の次に賢いから、それを食べるのは人食い人種と同じだって」

そうミノタウロスが言うと、一人の役人が残念顔で「いや、鯨が賢いってのはヘイトカルトのデマだけどね。あんな緑豆真理教とか海の犬同胞団みたいな奴らのヨタ話持ち出すのは、逆効果だぞ」

「それに、神様が選んだ牛だもんなぁ」

そう、別の役人が言うと、ミノタウロスは「そんなの迷信ですよ」

更に別の役人が、困り顔で「ファンタジー生物が言う台詞じゃ無いと思うぞ」


そんな中、現場に来たパシパエ王女が、何やら揉めている様子に気付いた。

そして役人たちに「どうしたのですか?」と尋ねる。

「これは王女様。実は・・・」

パシパエ王女は役人の話を聞き、檻の中のミノタウロスを見た。

そして彼女は言った。

「助けてあげませんか?」

彼女は思った。(何て素敵な牛・・・・・・・・)



女王が語る物語を聞き終え、あれこれ言うエンリたち。

「そんな檻、キングミノタウロスだったら自分で破れるんじゃ無いの?」

そうタルタが言うと、キングミノタウロスは「私はこの迷宮の中でレベルアップして、あのミノタウロスたちを統率する力もついたんです」

「それで、人化の魔法というのは?」とパシパエが訊ねると、アーサーが答えた。

「主と認めた魔物に自らの形相を与え、魔物が人の姿になれるようにするんです」


パシパエはリラに「あなたも人化の魔法を受けたのですね?」

「はい。私は人にも人魚にもなれます。王子様はどちらの姿の私も愛してくれます」

そうリラが答えると、エンリは彼女の手を執って「姫」

「王子様」とリラはエンリに寄り添い・・・。

「姫」・・・。

アーサーは困り顔で「そういうのは後にして」


「ファフもドラゴンだけど、人化したよ。主様、すごく優しいよ」

そうファフが言うと、ラフタは「エンリさんってロリコン?」

エンリは慌てて「違うから」

そしてエンリは、パシパエとキングミノタウロスに問うた。

「人化、受けますか?」

二人は互いに顔を見合せ、そしてパシパエは「お願いします」



アーサーは人化の魔道具を出した。

「では、この小瓶に主となる者の・・・」

そうアーサーが言いかけると、カルロが「精液を入れるんですよね?」

パシパエは顔を真っ赤にして「出ませんよ」

ニケはハリセンでカルロの後頭部を思い切り叩いた。


アーサーは慌てて「普通に血でいいんで」

「もしかしてエンリさん・・・」とラフタはドン引き顔でエンリを見る。

エンリは冷や汗顔で「勘弁してくれ」

フェリペは不思議そうに「あの、父上。精液って何ですか?」



人化の魔道具の小瓶にパシパエの小指から採った血液を入れ、アーサーは人化の儀式を行った。

そしてキングミノタウロスはマッチョな男性の姿になった。

人の姿になった自らに最初は戸惑う人化ミノタウロスだが、次第に慣れ、そして彼とイチャラブを始めるパシパエ・・・。

やがて二人は他人の目がある事を思い出す。


彼等が二人の世界から戻って来ると、エンリは尋ねた。

「この迷宮って、木の枝葉のように錯綜する通路のあちこちに異世界の入口があるんですよね。そんな迷宮をどうやって作ったんですか?」

「それは、この迷宮を造った賢者ダイダロスが知っている筈です。彼の所に案内します」とパシパエ女王。


エンリたちは彼女に案内され、城の地下の階段を下る。

そしてパシパエは地下室の扉を開け、「彼がこの迷宮を造った賢者ダイダロスです」


そこには人の背丈ほどのオベリスクが立っている。

「これが?」と戸惑う一同。

エンリは「人間じゃなかったんだ」

「人と同様に知性を有する、この迷宮の魂のような存在なのでしょうね」

そう言ってアーサーはオベリスクに手を触れた。


「あなたは誰ですか?」

アーサーがそう呼びかけると、オベリスクは声を発した。

「私はダイダロス。迷宮と人とを橋渡す者です」

「この迷宮はあなたが造ったのですか?」

そうエンリが問うと、オベリスクは「作った・・・というのとは違います」

「あなたは何なのですか?」

そうアーサーが問うと、オベリスクは「遥かな昔、人の祖先は猿だった。彼等は私に触れる事で、知能を得て人間へと進化したのです」

「どこかで聞いたような話だな」とエンリは呟く。


「あなたが我々をここに招いたのですか?」

そうエンリが問うと、オベリスクは「ここは子供しか居ない。王女がそう望んだから。だが、あなた方の子をここに招く事で、必ず来て解決をもたらすと知っていました。これでミノス王との盟約を果たす事が出来た。魔物を愛した王女に居場所を与えるという・・・。果実は熟れて落ち、囚われた人々は解放されます」



エンリたちの視界が白い光に覆われた。

城の外に居る子供たちも、ミノタウロスたちも・・・。

そして結界の中の世界は消え、気が付くとそこは迷宮の通路。

大勢の子供たちもミノタウロスたちも、そして王女とその恋人の人化ミノタウロスも居た。


ナオフミは周囲を見回し、そして「戻ってこれたんですね?」

エンリは「囚われた人々は解放・・・って言ってました。他の迷宮内の異世界も同じだと思います」

「って事は、ナオフミさんの捜索対象も?」

そうリラが言うと、ナオフミは「私は彼等の安否を確認します」

ラフタが「それよりこの子供たち、どうしますか?」

「私とミノタウロスたちが彼等を守って迷宮の外に出ます」とパシパエ。


「それで、エンリさんたちは?」

そうナオフミが言うと、エンリは仲間たちと顔を見合せて「どうする?」

タルタが「この先、見届けたいよね?」

フェリペが「やっぱり冒険はエンディングを見るまで終われないよね?」

「それに、この迷宮が何なのか。手掛かりが掴めそうな気がするんだ」とエンリは言う。

「決まりですね」とアーサー。

そしてエンリはナオフミに言った。

「俺たち、先に進みます」



パシパエやナオフミ、そして大勢の子供たちと別れ、エンリとフェリペ、そしてその部下たちは迷宮の先へと進んだ。

多くの枝道を横目に坂道を下り、通路は更に広くなり、流れる水量も多く、そして出現するモンスターも大型化する。

大型で強力なモンスターが無数の小型モンスターを引き連れて襲撃する。

そんな戦いを繰り返して、やがて彼等は大きな空間に出た。


広い通路の先に崖が落ちて行き止まりとなっており、崖の下に大きな円形の湖がある。

湖の周囲はぐるりと崖に囲まれ、向うの崖面に幾つもの通路の入口。崖はずっと上まで続き、そこにも無数の大きな横穴が上の方まで点々と口を開けている。

各横穴からの流れが滝となって落ち、流れ込んだ大量の水が湖の中央で渦を成して吸い込まれている。

そんな気色を見て、タルタが「ここで行き止まりって事か?」

アーサーが「けど、この湖の底って、随分深そうなんですけど」


その時、湖の水面が山のように盛り上がり、咆哮とともに巨大なドラゴンが出現した。

「あれがここのラスボスかぁ」とマゼラン。

「倒すぞ」とエンリが号令。

するとリラが「けど、周りの崖にも・・・」


向う側の崖面の横穴に数匹のラミアとアラクネ。

崖面に穿たれた他の無数の横穴にも・・・。それらが一斉に魔法攻撃を放った。

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