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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
355/562

第355話 神牛の伝説

ダンジョン探索中に行方不明となったフェリペ皇子の海賊団。

これを救出するためエンリ王子は、タルタ海賊団全員に召集をかけ、ヤマト号に乗ってギリシャのミノス島を目指した。



ヤマト号の甲板であれこれ噂するエンリの部下たち。

「どんな所なんですか?」

そうヤマトが言うと、アーサーは「エーゲ海の中では一番大きな島ですよ」


「ダンジョンがある島かぁ」

そうジロキチが言うと、各自が勝手な空想を始める。

カルロが「瘴気が立ち込める中をモンスターが徘徊して・・・」

タルタが「モンスターが居る山の中に人知れず入口があって、這い出るモンスターに襲われた村の廃墟とか・・・」

ムラマサが「島の真ん中にある湖に生息する珊瑚が出す物質が、動物を巨獣モンスターに変身させるでござるよ。徘徊する巨獣を退治する冒険者ギルドが人型機械を駆って・・・」

「どこかで聞いたような話なんだが。で、ダンジョンはどうした?」と、残念顔で突っ込むエンリ王子。



エーゲ海に辿り着き、ミノス島に上陸してダンジョンを目指すエンリと部下たち。

陸上で活動できるようになったヤマトも一緒だ。


目的地に着くと、ダンジョンの周囲に街が出来ていた。

街は冒険者で賑わい、宿屋や食堂、武器屋、魔道具屋が並ぶ。

タルタ、唖然顔で「誰だよ。モンスターに襲われた村の廃墟・・・なんて言ってた奴は」

そんな彼に全員、あきれ声で「お前だろ」

そして彼等は、見覚えのある顔に出くわした。


「ナオフミさんとラフタさん、あなた達も?」

そうリラが二人に声をかけると、ナオフミが言った。

「ここに入ったまま消息を断った冒険者の捜索のために。大勢入って、誰も出て来ないって聞いたのですが」

「生存率ゼロかよ」とジロキチ。

「危険なダンジョンほど燃えるよね」とタルタ。

エンリは困り顔で「そういうマッチョは要らないから」

「けど・・・・・・」

ダンジョンから何組ものパーティが出て来るのを見て、エンリたち、声を揃えて「生存者、居るじゃん」



「それで、ここはどんな所なの? きっと何か秘密があるのよね。それが錬金術の手掛かりで・・・」

そう、ニケがハアハアしながらドアップで二人に迫ると、ラフタはきょとんとした顔で「錬金術ですか?」

ナオフミもきょとんとした顔で「黄金伝説とかの類かな? あの入口は石造りの建物の廃墟で、かつては宮殿だったらしいですから」

そしてエンリも「そこに莫大な金銀を集めた大王が居て・・・、ってニケさん、何やってるの?」

いつの間にか作業服姿でシャベルとツルハシを持って、ダンジョンの入口へ向かうニケ。


「まだ金銀が残ってるかも」

そう言うニケに、エンリは「いや、とっくの昔に持ち去られてると思うぞ」

「けど、周囲を支配する大きな帝国だったんですよね?」

そうリラが言うと、エンリが「こんな小さな島なんだが」

「エーゲ海の中では一番大きいから、たくさんの島を従える王で、そこの水軍をまとめて勢力を広げたんですよ」とアーサー。

タルタはワクワク顔で「つまり海賊王って訳か」


そんな彼等を横目で見つつ、エンリはナオフミに言った。

「それより、捜索する相手はまだ無事なんでしょうか。私たちも人探しに来たんですが」

「まさか、もう死んでるなんて事、無いですよね?」とリラも・・・。

「無事だと思います」

そう言ってナオフミは、青く光る小さな水晶玉を取り出した。

そして「彼らの身体機能が低下すると光は赤くなって、死ぬと光を失うんです」


「って事は、同様に戻って来ない人も、死んでいない確率は高いって事か」

安堵の表情を浮かべるエンリ王子たち。

「とりあえず、ここがどんなダンジョンなのか、情報が必用ですね」

そうアーサーが言うと、ナオフミは「長老が居るというので、話を聞けると思います」



近くの村に行って、長老に合う。


長老は、その地にまつわる伝説を語った。

「ミノス王は、クレタ王妃エウロペを、牛に姿を変えた神が誘惑して産ませた子供だったそうです」

「牛に誘惑された・・・って、もしかして牛フェチ?」

そうタルタが突っ込むと、エンリは「神様の何か精神的な力が働いたって事だろ」


長老は続きを語った。

「彼は兄弟と争って王位に就き、即位の儀式に使う牡牛を海神から与えられた。だが、王は海神が贈った牡牛の美しさを惜しみ、別の牛を生贄に使ったそうです。それを怒った海神は、王妃パシパエを牛に欲情するよう仕向けたとか」

「やっぱり牛フェチじゃん」とタルタが突っ込む。

「そしてパシパエが、海神が贈った牛と交わって生まれたのがミノタウロスだと・・・」と長老は続ける。

「ミノタウロスって普通のモンスターだと思ってたんだが」

そうタルタが言うと、エンリは「だから神話だってば」


長老は、更に続きを語った。

「ミノス王は名工ダイダロスにダンジョンを作らせて、ここに王妃が産んだミノタウロスを隠し、征服したギリシャから七人の子供を差し出させて、その生贄としたそうです。ダンジョンは通路が入り組んで入った者を迷わせ、出られなくなった侵入者の死体はミノタウロスの餌となった。そこに英雄テセウスが討伐に来て、彼に恋をした王女アリアドネは、ダンジョンを作ったダイダロスにテセウスを救う知恵を求めた。テセウスは授けられた秘策を以てミノタウロスを倒した。ミノス王はミノタウロス討伐に手を貸したダイダロスを憎みました」

「仕返しなら、テセウス本人にすればいいのに」とジロキチが突っ込む。

アーサーも「家族を破滅させたカルトを恨んで、幹部を殺さず祝辞を読んだだけの政治家を殺した、どこかの八つ当たりテロリストみたいな話だよね」


そして長老は、更に続きを語った。

「ダイダロスは鳥の翼を利用した魔道具で、幽閉された塔から脱出しました。ミノス王は逃亡した彼を探すため、懸賞金付きの謎解きを募集した。これを解けるのは知恵者のダイダロスしか居ない。そして、これに答えたシチリア島の王に、ダイダロスの引き渡しを要求しました。シチリア王は彼を引き渡すと称してミノス王を招き、ミノス王は謀殺されたそうです」



長老の語りを聞き終えて、あれこれ言うエンリと部下たち。

「何でしょうね?」

そうアーサーが言うと、エンリは「まあ、伝説だから」

「けど、って事は、あれは人工のダンジョンなのかな?」

そうタルタが言うと、ナオフミは「いや、入口は石造りだけど、中は洞窟だって聞きましたよ」

「ってか、一人も生きて帰った奴が居ないって言うけど、冒険者たちは生きて出て来てるよね」とジロキチ。


その疑問に長老が答えた。

「"妖精の糸巻き"という魔道具のおかげです」 

「それって・・・」

「英雄テセウスがミノタウロスを倒すために、絶対に出られないダンジョンを出る方法を授かった、って話がありましたよね。それは、糸巻きを持って糸をたらしながら歩くんです」と長老が解説。

「それだと、すぐ足りなくなるんじゃ無いの?」

そう疑問を呈するニケに、長老は「糸巻きの軸の筒の中に人口妖精が居て、無限に糸を紡いでくれるんです」


ニケはテンションMAXのはしゃぎ声で叫んだ。

「すごいじゃない。織物の機械化で糸が不足しがちなのよ。そのやり方で魔法で不足している糸を大量生産すれば、お金ガッポガッポ」

長老は「霊体で紡いだ糸なので、そのうち消えてしまうんですけどね」

ニケは真っ白に燃え尽きた。



妖精の糸巻きを買うため、ダンジョン前の街の魔道具屋に行く、エンリとナオフミたち。

店員の話では、長老の家の地下室にあったものを真似て、魔道具職人が量産しているという。

エンリたちとナオフミたちが一個づつ買う。

「あと、ダンジョンのマップはどうですか? 何組ものパーティが協力して作ったものです」

そう店員に勧められ、エンリたちとナオフミたちが一枚づつ買う。


代金を払いながら、エンリは部下たちに言った。

「そういえば、フェリペたちがここで消息を断ったってのは、誰か知らせてくれた人が居るのか?」

「そーだった。知らせたのはヤンとマーモですよ」とアーサー。

「彼等はどこに居るんだ?」

そうエンリが言うと、アーサーは「どこだろう・・・」


すると店員が「その二人なら、店の奥に居ます。魔道具製作を手伝って貰っています」

「そーいやあいつ等、技術屋だったっけ・・・」とエンリは呟いた。



店の奥に案内される。

妖精の糸巻きを作っているヤンとマーモが居た。


「お前等、無事だったのか」

そうエンリが声をかけると、ヤンが涙声で「エンリ王子・・・」

マーモも涙声で「我々がついて居ながら、皇子を守る事も出来ず・・・」

そんな二人を慰めるつもりで、エンリは二人の肩に手を置いて「気にするな。そもそも、消えた奴らはお前等より戦闘力上だよね」

更に落ち込むヤンとマーモ。


そんな二人にリラが言った。

「気にする事は無いです。二人は航海士で医師で、いろんな事が出来るんですから」

ニケも「そうよ。船を動かす航海士と命を預かる医師は、海に生きる者の命綱なのよ」

「それってニケさんの事だよね?」

エンリがそう言うと、ニケはドヤ顔でふんぞり返って「そうよ。私がこのチームを支える女神よ。平伏しなさい、讃えなさい、ほーっほっほっほ」

「そうやって調子に乗ったりしなきゃ・・・・・」と、エンリの部下たち一同、溜息をつく。


「けど、何か忘れてるような気がするのよね」

そうニケが言うと、エンリは「忘れた方がいい事だったような気もするが・・・」



フェリペが行方不明になった状況について、ヤンとマーモから話を聞く。


「九人チームでダンジョンに入り、魔物を倒しながら奥に進んだんです」

そう語るヤンに、エンリは「戦いの中で、はぐれたとか?」

「そういう訳では無いんですが」とマーモ。

ジロキチが「落とし穴とか回転扉みたいな罠の類か?」


「それが、目の前からいきなり消失して・・・」

そう答えるヤンの言葉に、アーサーは「転移トラップかな?」

「魔法陣みたいなのは、無かったですけどね」とマーモ。

エンリは「場所は解るか?」


魔道具屋から買った未完成地図を見て、フェリペたちが消えた場所を特定する。



ヤンとマーモはエンリたちと合流する事になり、二人は店主から、これまでそこで働いた報酬を受け取る。


魔道具屋を出ると、ヤマトが言った。

「ご飯にしません? 造船科の皆さんに改修して貰って、せっかく船を離れられるようになったんですから」

「早速、冒険世界をエンジョイしたいと?」

そうエンリが言うと、ヤマトは「冒険なら、先ず宿屋と酒場ですよね?」

「そうなのかなぁ」と全員、顔を見合せる。


「ヤマトさんのあの食欲で、支払い足りるか?」とジロキチが言い出す。

ニケも「一旦船に戻ろうよ」

するとリラが「けど、彼女、ずっと我慢してきたんですよ」

タルタも「そうだよ。可哀想じゃん」


するとナオフミが言った。

「それなんですが、俺たちも宿を確保しようとしてたんだが、宿屋はどこも満室で、酒場も満席」

「・・・・・・・・」

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