第35話 七人のサーバント
エンリ王子が拓いた航路でアラビアの海に進出したポルタ商人と、そこを縄張りとしていたアラビアの商人との対立。
それは「聖櫃戦争」と呼ばれる双方の魔導士の代表戦で決着をつける事になった。
戦場は広大な砂漠。
灼熱の日光が岩盤を風化して生じた砂地の中、風化され残った様々な形の岩があちこちに林立する。
その中で、双方の軍と教団の人たちが対峙する。
聖櫃戦争が開始された。
魔法陣を刺繍で描いた大きな絨毯が二枚。
それぞれの魔法陣の前で、双方の魔導士マーリンとシーナーが古代語の呪文を詠唱する。
それぞれの魔法陣の中、光とともに白衣を纏った老人が出現した。
「神を崇めよ」
そう叫ぶ老人の姿のそれの前に、その場に居る人々が一斉に平伏する。
「こういうのって苦手なんだけどなぁ」とエンリは呟く。
そして。魔法陣より出現した二人の神らしき存在が同時に宣告した。
「これより聖櫃戦争を宣戦し布告する。我のサーヴァントとして名誉を与えし戦士よこれへ、その名は・・・」
先日"内定啓示"と称して指定されていた双方のサーヴァントの名が呼ばれる。
呼ばれた順に前に進み出る。
そして二人の「神」は言った。
「では、各自一つの宝具をもって戦うべし」
その時ジロキチが「あの、質問なんですけど」
「許可する」とユーロ側の神。
「俺の刀は四本あるんですが、四刀流なんでワンセットって事でいいでしょうか」とジロキチ。
「許可する」とユーロ側の神。
ニケが「私の短銃も二つあるんですが」
「許可する」とユーロ側の神。
更にニケは「吹き矢と投げナイフも付属品って事でいいでしょうか」
「許可する」とユーロ側の神。
カルロが「俺、ナイフいっぱい持ってるんですが」
「許可する」とユーロ側の神。
エンリが「騎乗するドラゴンは宝具ですよね? けど移動手段だけじゃ戦えないから魔剣も一緒でいいですか?」
「許可する」とユーロ側の神。
「ルール、ガハガバだな。意味あるのかよ」とタルタがあきれ顔。
アーサーが「アイテムボックス内の魔道具は一式って事でいいでしょうか」
「さすがにそれは」とユーロ側の神。
「けど、ギルガメッシュというサーバントは、世界中の宝刀や宝槍を所有物として湯水の如く使ったそうですが」とアーサー。
「では許可する」とユーロ側の神。
「いいのかよ」とタルタがあきれ顔。
そして二人の神が同時に宣告する。
「では神の僕らよ。神より授かりし身命を賭して戦い、神の威光を示せ。開戦である」
「では神様、指揮を」とサーヴァント達。
二人の神はそれに答えて言った。
「良きに計らえ」とユーロ側の神。
「全力で戦いなさい」とアラビア側の神。
双方のサーヴァントたち、唖然。そして言った。
「それだけですか? 何か、奇跡みたいなの、無いの?」
アラビア側の神は言った。
「悪いけど、800年前に君達のリーダーに回数無制限の啓示与えたので打ち止めって事になってるんで」
ユーロ側の神は言った。
「神を試してはいけないと、聖書に書いてあるよね?」
双方のサーヴァントたち、唖然。
そして「まあいいや、とにかく行くぞ」と、それぞれの戦いが始まった。
二人のランサーが槍の腕を競う。
聖槍を振るうカールに対するマサイは、6mもの長大な槍を目にも止まらぬ速さで振るい、あたかも無数の槍を繰り出すが如く突く。
これを聖槍で受け流すカール。
カールは呟いた。
(リーチが全く違う。これじゃ防戦一方だ。だけど槍は長ければいいってもんじゃないぞ)
長槍の一撃をかわしたカールはマサイの懐に飛び込む。
「貰った!」
そう彼が呟いた瞬間、マサイは左手に短い槍を持って、目の前に迫るカールを突く。これを間一髪でかわすカール。
「投げ槍か」とカール。
「短い槍にはそれなりの使い道があるのですよ」とマサイ。
右手に長槍、左手に短槍を持つマサイに対して、再び距離をとったカール。
カールはマサイの長槍を見て「その槍って本来、両手で使うものですよね?」と問う。
マサイは「鍛えてますんで」
三日月刀を両手にかまえるシンドバット。カルロもまた両手にナイフを持って切りつける。
目にも止まらぬ速さで四本の刃物がぶつかる。
「なかなかやるな」とシンドバッド。
「こういうの、飽きませんか?」とカルロ。
「魔法でも見せてくれるのか?」とシンドバッド。
カルロは「いえ、手品を。右手に持った一本のナイフ。手を一振りすればあーら不思議。・・・一本が二本」
右手の中に現れた二本のナイフを投げるカルロ。
右手の三日月刀で弾き返すシンドバット。
「二本が三本」
そう言って、左手の中に現れた三本のナイフを投げるカルロ。
両手の三日月刀で弾き返すシンドバット。
「三本が六本」
そう言ってカルロが上着を開くと、両の内ポケットに多数のナイフ。両手で六本のナイフを投げる。
その瞬間、シンドバットの姿は消えた。
そしてカルトの背後に現れたシンドバットが切り付けようとした瞬間、カルロは振り向いてナイフで水平に切り付ける。
飛びのくシンドバット。
「面白い手品だ。けどそういうのは俺も得意」
そう言うとシンドバットは両掌に出現した六本のくないを投げ、カルロは両手のナイフで全て叩き落とす。
シンドバッドは「東の国のアサシンから教わった。手裏剣と言うそうだ」
両手両足に四本の刀を持って構えるジロキチに、カシムは言った。
「俺の教団の流儀でな、とりあえず一本吸わせてもらう」と言って、煙草入れから一本取り出し、火をつけて咥える。
ジロキチは「あそこで吸うのは麻薬だろ。それって子供を洗脳して暗殺者に仕立てるのに使うんじゃないのか?」
「いろいろ使い道があるのさ。東の国の大林山の道師から教わった」とカシム。
「人間辞める薬だって聞くが」とジロキチ。
「それで人間を越える力が現れる」とカシム。
美味しそうに煙を吸って吐き出すカシム。
「ぷはー」
まもなく効き目が現れた。
「ちょうちょが一匹、ちょうちょが二匹」
そう呟くカシムの緩んだ表情、焦点の定まらない目つき、ふらつく足取り。
それを見てジロキチはあきれ顔で呟いた。
「何が人間を越える力だ。さっさと終わらせよう」
ジロキチは右手の刀の背でカシムの頭を一撃・・・の筈が、カシムは有り得ない角度でのけぞってかわしざまに、右足でジロキチの刀を持つ右手を蹴り上げる。
宙を舞った刀を慌てて受け止めるジロキチは思わず叫ぶ。
「こいつ!」
両手と右足の三本の刀で目にも止まらぬ速さの剣戟を繰り出すジロキチ。
それを、ふらつく足取りとくねくねした動作で軽くかわすカシム。
「お前、酔拳使いか」とジロキチはカシムに・・・。
カシムは「酒に酔って変幻の境地を得て拳を繰り出す最強の奥義が酔拳。麻薬で更に酔って最強。剣を使えば更に最強」
くねくねとジロキチの刀をかわしつつ繰り出すカシムの剣戟に、次第に押されるジロキチ。
タルタに対峙するタイガは言った。
「私の前世は虎でした。母虎とともに飢えて死にかけた時、高徳の修行者が現れ、私たちを憐れんで崖から身を投げ、自らの肉をもって私たちを救いました。私たちはそれで救われましたが、その時食べた人肉の味が忘れられず、多くの村を襲って人を食い殺しました。そんな時、あの賢者が転生した姿で現れ、私たちを救いました。そして私は人間に転生したのですが、前世で多くの人を殺した罪の報いで、今もこんな姿になるのです」
そう言ってタイガは虎に変身した。そしてタルタに飛び掛かってその喉に噛み付いた。
だが、鉄化したタルタには歯が立たなかった
ニケとピグミー。
ニケの短銃が打ち出す銃弾を、小さな体と敏捷な身のこなしで軽くかわし、弓矢を連射するピグミー。
それをかわしながら、岩だらけの荒れ地に駆け込むニケ。
林立する岩の間を走り、岩の影から互いを狙い撃つ。
「あんなに的が小さいなんて反則よ」とニケは焦り顔で呟く。
押されるニケはすぐに銃弾を打ち尽くす。
そして投げナイフで応戦。間もなくそれも尽きる。
岩陰で焦りながら銃の弾を込める。
その時、ニケの頭上から声が聞こえた。
「こっちだ」
そう言ってピグミーが岩の上から放った矢を受けてニケは倒れた。
うつ伏せで倒れているニケの脇に立つピグミー。
「悪いが俺も戦士。とどめを刺させてもらう」
そう言ってピグミーは弓矢を構え、足でニケの体を転がして仰向けにする。
その時、ニケが咥えていた吹き矢が放った小さな矢。
それを胸に受けてピグミーは倒れた。
ニケは起き上り、倒れたピグミーを見下ろして言った。
「痺れ薬よ。あなたのも毒矢なんでしょ? けど、解毒剤は私の専門分野なの」
ドラゴンに乗ったエンリ王子と魔法の絨毯に乗ったアリババの空中戦。
アリババが放つ風の矢をドラゴンの鱗が跳ね返す。
だが、すばしっこく飛び回るアリババはドラゴンを翻弄し、ファフの炎もエンリの魔剣の巨人剣攻撃も軽くかわされた。
地上ではアーサーと対峙するアラジンが魔法のランプで巨大なジンを召喚。
「ご主人様、ご命令を」
そう言うジンにアラジンは「奴を倒せ」
襲いかかる巨人に攻撃魔法を繰り出すアーサー。
ジンは全ての魔法を跳ね返した。
「ジンに魔法は利かない。相性最悪だな」とアーサーは呟きながら、踏みつぶそうとするジンの足から必死に逃げた。
アーサーは、高みの見物を決め込む自軍の神に、大声で尋ねた。
「あの、神様、同じクラスどうしでなきゃ駄目ですか?」
「そんな決まりはありません」と神。
「そうなのかよ」とアーサーは唖然とすると、空に居るエンリ王子に大声で叫んだ。
「だったら王子、選手交代だ」
「解った」とエンリは応える。




