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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第348話 皇子の失恋

南方大陸南端のズールー族と反ズールー連合の争いは和解となり、反ズールー連合を支援していたオランダが武力で派遣した大艦隊は、エンリ王子たちにより撃破された。

そして、オランダ人植民都市「本家ケープ」は撤退した。


ズールー族やサン族、その他の現地人部族は条約を結び、正式な連合を組んだ。

そして、南方大陸南端地域に移民したオランダ人農業植民者たちは、この地に農民として留まるため、現地人部族連合と、結ぶべき条約について話し合う。

スタインが移民たちのまとめ役となり、エンリ王子たちとポルタ人もそれに協力する。


調印式で握手を交わす現地人部族連合の指導者ベルベドと、オランダ人入植者代表のスタイン。

握手を交わす二人を見て、アーサーはエンリに言った。

「これって、歴史が変わった結果ですよね?」

「そうだな」

「もし歴史が変わらなかったら・・・」

そうアーサーが言うと、エンリは「ベルベドが預言していたよな。ユーロの国に支配され続け、独立しても彼等の子孫が差別で多数の現地人を支配するって」

アーサーは「それって支配のために差別が必用だったから・・・ですよね? けど、その差別はやがて解消された。その後、どんな関係になったんでしょうか」


エンリは言った。

「どんな関係だろうと、そこは元居た民族の土地だった事は変わらない。けど、移住してきた人たちが、そこに何代にも渡って住んで築いたものの存在も事実だ。だから、共にその土地の民として生きる他は無いだろうさ。"自分たちが先住民だから移民の子孫は出て行け"とか、逆に"移民は少数派だから守られるために特権を保障しろ"とか言うかも知れない。けど、あるべき形はあくまで人として対等な者どうしとしての共存だよ」

「けど、多数側が国を牛耳って少数側を支配・・・ってのもありますよね?」とアーサー。

それに答えてエンリは「そのためにシーノは膨大な中華の人口を武器に、チベットやウイグルに移民を送り込んで、そこで多数派になろうと民族浄化なんて事をやってる。そういう体制支配で自分たち側に実質的な特権を与え、自分たちの文化や歴史を美化し他方を貶める洗脳を愛国教育と称してきた。そういう事をさせないための対等概念だよ。それに、そういう抑圧は集団どうしの対立的な関係として拡大するから、そういう対立がどちらからの攻撃によるものなのか、って話になる。あの大陸国みたいなのは権威主義独裁国による国側からの抑圧だが、例の半島国移民が固定化されたヘイト文化で移民先の国を攻撃するのは話が逆だよ」


アーサーは「対等を否定されるという事は、その尊厳を否定されるという事ですからね」

「だから当たり前に反発されるのさ。その反発自体を差別呼ばわりしても何も解決しない。対等とは互いの尊厳を承認し合う事であり、尊厳とは他者と対等たる事の自己主張だからね。他者に対する憎悪や復讐心を満たす事は尊厳じゃ無いし、財産のような実力とは無関係な、その社会での自由な人や集団としての正当性を自己主張できる権利の問題さ。そして個人どうし、集団どうしで相手方を加害者だの原始人だの格下だのと言い、相手の尊厳を否定する事が争いを引き起こす。だから、そういう事は止めようという話になる。結局差別ってのは集団によるものだから、必用なのは、その"憎悪を止める"という事を拒む集団側の反省だよ。例えば移住先を憎悪し続ける半島国人移民のようにね。だから、そんなに憎いなら何故帰国しないのか?・・・という疑問が自然に出て来る」とエンリは語る。

「個人レベルでの差別はどうなんでしょうか?」

そうアーサーが言うと、エンリは「個人レベルでの認識を集団内で均一にするのは難しいだろうね。けどそれ以前に、集団レベルで憎悪を維持し相手の尊厳を否定し続けるなら、集団が差別を個人に奨励するという事になる。その集団がそれを差別と認めなくても差別は差別だよ。報道や教育まで丸ごと隣国に対するヘイトなのに、それを認めず"自分達側にヘイト本が存在しない"と言い張る、例の半島国みたいな。あの半島国人たちは事実を以て隣国が自分たちを批判する事を差別だと言うが、それは半島国人自身が作った悪しき現実を改める事を求める、一人の人間としての意見だから差別でもヘイトでも無い。そして半島国人たちの隣国に対する攻撃宣伝は、子供のうちから教育で人工的に定着させ、憎悪のために歴史の捏造までするのだから差別以外の何物でも無い」


「差別って無くならないのでしょうか?」

そうリラが言うと、エンリは言った。

「何を差別と言うかという問題だよね。差別というのは誰を・・・というより、その誰かに対する何を差別とするかの問題だよ。外国人を収容所に入れるのは差別だが、政治に参加させないのは差別じゃ無い。ある問題で差別された側が、別の問題で相手を差別する・・・なんて事は普通にあり、それだって防ぐべき差別問題だ。差別じゃ無いのを差別呼ばわりするなら、それ自体が差別になり得る。どこぞの国のお役所みたいに、13種類の差別問題を特定して"誰某に対するものだけが差別でそれ以外は差別じゃ無い"・・・なんて言ってるようじゃ・・・ね。差別を認定し訴えるのは誰かの特権じゃ無い。みんなが自分を含めたみんなを守るために理屈で考える事だよ」

「もしそれをその集団が差別と認めて止める必用性を受け入れたとしたら、それは問題の半分は片付いたという事なんでしょうね」とアーサー。

「逆にそれで他方が"自分たちが被差別者だと認められた"と解釈して、何が差別かを恣意的に決める特権を得たと思い込み、優位に立ったつもりで相手側を威嚇するようでは、本当の解決は遠のくだけだよ」とエンリ王子。



オランダ人移民たちは居住の権利を得た。

それとともに、現地人たちの社会を奴隷を必用としない安定したものに変えるために必用な様々な知識についての話し合いにも、彼等は参加した。


元祖ケープの商館に現地人の代表とポルタ人・オランダ人の関係者が集まる。

「農業に牧畜に鉱山に・・・」と、議長役のケープ商館長が項目を挙げる。

「製鉄は?」とズールー族の代表。

エンリは「金より緊急性は高いと思う」


「農業や牧畜の指導者は大勢必用ですよね?」

そうサン族の代表が意見すると、ケープの商人ギルド長が「っていうか、オランダ人は農民なんだから、彼等が教えたらどかと」

「スタインさんは牧畜を教える事は可能ですよね?」

そうエンリが言うと、スタインは「そのつもりです」


するとニケが「それよりお金儲けよ。私がここに残って指導するわ」

「詐欺とか教えるから却下」

そうエンリがストップをかけると、ニケは「私を何だと思ってるのよ」

「ってか、掘り出した金をネコババする気だろ」とタルタ。

「窃盗行為の出来ない呪い、まだ有効なんだが・・・」とエンリ。

ニケは「解除してよ。私のお金ー」


「文字は必要だよね? あと計算とかも」

そうアーサーが言うと、現地人族長の一人が「そういうのは今まで、ある程度伝わってますよ」

エンリが「ポルタ大学から誰か派遣出来るだろ? 海賊学部からは何かある?」

ズールーの部族軍隊長が「剣術とか砲術とか、海で戦うスキルを・・・」

タルタが「海賊のロマンの何たるかを」

ジロキチが「四刀流の後継者」

ニケがそんな二人をあきれ顔で見て、「ってか先ず航海術でしょ」


何故か参加していたライナが「メイドの作法は?」

リンナが「それより執事でしょ」

「ケープにメイド喫茶や執事喫茶があるから、そこの人から指導して貰えばいいよ」とエンリ王子。

そしてエンリは「法学は必要だよね?」

「いや、裁判なら伝統的なのがありますから」

そう現地人族長の一人が言うと「っていうか、部族連合なら条約だよ。フランスの賢者グロティウス氏に弟子を紹介して貰うってのはどうかな?」


「あと魔法の専門家ね」

そうエンリが言うと、アーサーが「ベルベドさんの方がレベルは高いと思いますよ」

エンリは「じゃなくて、彼から教わるんだよ。預言の能力とか」



会議が終わると、エンリは、メアリ王女が拘束されている部屋に来た。


エンリを見ると、メアリは「私を引き渡すのね?」

「イギリスとの約束だからね」

そうエンリが言うと、メアリは「きっと処刑されるわ。けど、覚悟は出来ている」

「意外だな」

そう呟くエンリに、メアリは「権力争いは王族の宿命よ。だから豊かな生活が保障され、骨肉の争いを勝ち進んで国家の頂点に立つ。負けて落ちれば泥となる。太く短い人生、それなりに楽しかったわ」


そんなメアリの語りを聞いているエンリの所に、本家ケープの職員が報告を持って来た。

「あの王子、メアリ王女から金を貰ってドイツ亡命の手助けをしようとしていた者が、口を割りました」

「やっぱり」と言って溜息をつくエンリ。

メアリは鬼の表情とヒステリックな声で「私はどうなるのよ!」



その後、エンリの居る部屋にフェリペ皇子が来た。

そして「メアリ姉様をイギリスに引き渡せば、さっと殺されます」

「だろうな」

「彼女はエリザベス姉様の血を分けた仲良し姉妹です。エリザ姉様は悪い家来に騙されて、女王の立場を守るために仕方なく・・・。僕は姉様を守るために・・・」

そう言うフェリペを見て、エンリは溜息をつくと「お前、仲良し姉妹とか本気で信じているのかよ」

「エリザベス姉様みたいな理想の女性は、みんな百合姉妹です」

そう言うフェリペを見て、(誰だよ、そんなの五歳児に吹き込んだのは)と脳内で呟くエンリ王子。


「お前、恋愛の仕方とか誰かに教わったか?」

そうエンリが質すと、フェリペは「マーリンさんに教わりました」

「恋の駆け引きとかも?」

そう問うエンリに、フェリペは「教わりました。けど、よく解らなかった」

(って事は、あの三人の女官だな)とエンリは脳内で呟く。


そしてエンリは、ライナ・リンナ・ルナを部屋に呼んだ。


「フェリペの恋愛について、マーリンから何か言われたよね?」

そうエンリが問うと、ライナは「はい」

「恋の駆け引きとかも?」

そうエンリが問うと、ライナは「はい」

「当て馬を仕立てろって?」

そうエンリが問うと、「それは・・・」

そうライナが言葉を濁すと、ルナが「フェリペ様のためです」


エンリは「他の女と仲良くさせて、好きな女に危機感を持たせろと? 自分がこの女に取られてしまうんじゃ無いかって?」

「・・・」

「それがメアリ王女って訳か?」

そうエンリが確認すると、リンナが「はい」

そんな会話を聞いて、次第に自分がやってきた事が見え始めてきたフェリペ。

「それじゃ、エリザ姉様は僕を取り合ってメアリ姉様と喧嘩を?」

「フェリペ様・・・・・」と目の前の幼児を見て呟く三人。

そしてフェリペは「そんな筈無いよ。だってエリザ姉様は素敵な女性で、素敵な女性は家族と仲良しで百合姉妹が居るって」


エンリは記憶の魔道具を取り出した。

「それは?」

そう不安そうに聞くリンナに、エンリは「マーリンから買い取った通信魔道具の音声記憶だ」

「つまり盗聴・・・」

そう呟く三人の女の子に、エンリは「マーリンはお前等をネタにして遊んでいたんだよ」

ルナが「けど何の?・・・って、もしかしてフェリペ様とエリザベス様の?」


「も、あるけどね、これはエリザベスとメアリの通信音声だ」

そう言って、エンリは音声記憶を再生した。魔道具からメアリ王女の勝ち誇った声が響く。

「あなたは私から王太子の座を奪って、もうすぐ即位なのよね。好きな子を私に奪われて泣くくらい自業自得よね」

それを聞いて、真っ青になるフェリペ皇子。

そして「僕、エリザ姉様に何てことを・・・」


部屋を飛び出すフェリペ皇子。

「フェリペ様」

そう辛そうにフェリペに呼び掛ける三人に、エンリは「そっとしておいてやれ」

「けど・・・」

そうルナが言うと、エンリは「あいつの事はリラに任せてある」

そんなエンリに、ライナが「ところでマーリンさんから何でそれを買ったんですか?」

「ボエモン侯爵一晩でな。イザベラに手を回してスパニア国教会聖騎士団の慰安旅行にかこつけて・・・ってな訳だ」とエンリ。

女官三人唖然。



「フェリペ様」

廊下で泣いているフェリペに、リラがそう呼びかける。

フェリペの小さな肩に左手を添え、ハンカチを涙にぬれた彼の目に当てるリラ。

「リラ姉様。僕・・・・・」

そう、消え入りそうな声を発するフェリペに、リラは「私もマーリンさんから同じ事を教わりました」

「恋の駆け引き?」

そう怪訝声で問い返すフェリペを抱きしめ、リラは言った。

「はい。人間の体を貰う時、代償として声を差し出したのですが、それだと好きって言えなくなるって言ったら、自分から思いを伝えたら負けだって。けど、大好きな人を負かすような恋愛に疑問を感じて、王子様に筆談で想いを伝えて、それで愛して貰えるようになりました。恋に勝ち負けなんて無いって、私は思います」

「解ったよ。僕、ちゃんとエリザ姉様に好きって言う」

そう言って、フェリペはリラの抱擁を解き、すっきりした表情で立ち上がった。



エンリとリラが見守る中、フェリペは通話の魔道具を取り出した。

そしてロンドンに居るエリザべスに・・・・・。

「こんにちは、エリザ姉様」


「こんにちは、フェリペ君」

そうエリザベスが返すと、フェリペは「僕、姉様に謝らなきゃいけない事があります」

「なあに?」

「姉様、メアリ姉様と仲悪かったんですよね?」とフェリペ。

「そうね。あの人って嘘つきで裏表があって、性格も最悪で」とエリザベス。

フェリペは言った。

「そんなメアリ姉様と仲良くすれば、エリザ姉様が焦って僕を見てくれるって・・・。こういうの当て馬って言うんですよね? それで姉様、すごく嫌な思いをしましたよね?」

エリザベスは「そうね。悲しかったわ」


「ごめんなさい」

そう言って謝罪するフェリペに、エリザベスは「いいわ。赦してあげる。その代わり、これからは私の言う事を聞くのよ」

「はい、姉様」

そしてエリザベスは「私がして欲しい事は、言わなくても察して、ちゃんとやってくれるわよね?」

「はい、姉様」

更にエリザベスは「出来ないなんて言わないわよね? だってあなたは謝ったんだもの。つまり自分が加害者だと認めたのよね? 私はあなたの大好きな、けど、いっぱい傷つけられた被害者。被害者中心主義って知ってる?」

「はい」

そして、更にエリザベスは「いい子ね、可愛いフェリペ。私は主であなたはペット。絶対逆らえない、全てを捧げて奉仕する事で私の愛を渇望する可愛い奴隷。ほーっほっほっほ」



「もういいです」

そう言って、フェリペは通話を切った。

「ちょっと、フェリペ君?」

通信を切られてしまったエリザベスは、慌てて連絡をかけ直すが、着信拒否されていた。


エリザベスは真っ青になり、おろおろ声で、脇で聞いていたヘンリー王とドレイク提督に「どうしよう父上、ドレイクおじ様」

ドレイクはあきれ顔で「今のはさすがに大人げないと思います」

ヘンリー王もあきれ顔で「相手は五歳だろ。さすがに引くぞ」

エリザベス王女、天を仰いで「そんなぁ!」

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