第342話 和解の大陸
南方大陸南端の現地人たちが二手に分かれて戦う、ズールー族と反ズールー連合の戦い。
反ズールー連合にオランダ人たちが加担し、総攻撃が始まる中、エンリはサン族の族長集落でトカゲのドラゴンの司祭ニカウとともに、連合側族長たちに和解を解く。
そして陥落の窮地に立つズールー族長集落では、エンリの部下たちが支援のため急行するとともに、元祖ケープのポルタ人市民軍の救援を取り付けた。
市民軍を動かすためのリラ妊娠の空騒ぎが収まると、アーサーは「とにかく俺たちも加勢するぞ。市民兵が来るまで何としても保たせるんだ」
ベルベドのモンスターたちはあらかた倒され、村の中に攻め込まれている。
村の集会用の建物に女子供が避難し、広場ではベルベドが呪文を唱え、バリケードを築いて兵士たちが弓矢で敵を防いでいる。
オランダ人魔導士が操るゴーレムたちが草葺の家の背後から現し、バリケードを破壊しようと迫る。
ファフがドラゴン化し、その尻尾がゴーレムたちをなぎ倒し、炎を吐いて威嚇した。
怯む反ズールー派の兵。
ズールーの部族兵たちが歓声を上げる。
「味方のドラゴンが来てくれた」
タルタ・ジロキチ・カルロが剣を抜いて気勢を上げる。
「反撃だ! 俺達に続け!」
部族兵たちは「いや、そんな少数で言われても・・・」
「数なら・・・」
そう言うと、アーサーはスケルトン軍団を召喚。スケルトンたちは整列し、銃を構えて一斉射撃。
退く反ズールーの現地兵に代り、東インド会社傭兵団の銃兵隊が鉄砲を構えて一斉射撃。
敵の銃兵陣にタルタが鋼鉄砲弾で突入し、部分鉄化で大暴れ。
敵が混乱した隙に突入して斬り込むジロキチ、カルロ、そして妖刀化したムラマサを抜いた若狭。
そんなエンリの部下たちを見て、オランダ側に参加していたフェリペが気勢を上げた。
「父上の海賊団だ。みんな、今日こそ修業の成果を見て貰うぞ」
シャナ、マゼラン、チャンダが抜刀してジロキチたちに立ち向かう。
マゼランを押しまくるジロキチを、仮面をかぶったフェリペが操る無数の仮面が宙を舞って牽制する。
上空からヤンが操る飛行機械が銃撃。これに対して、ニケの銃弾がその回転翼の軸を撃ち抜いて撃墜。
ファフはベルベドのドラゴンに加勢し、二体一になったドラゴンの戦いは明かに優勢となる。
「この勢いで押し返すぞ」
そう叫んでズールー側が気勢を上げると、オランダ人魔導士たちの光の波濤で、スケルトン軍団は壊滅した。
「そんなぁ」
「このまま奴らの村を占領するぞ」
そう叫んで突入しようとする反ズールー兵たちを、リラが召喚したウォータードラゴンが口から吐く水の散弾が迎え撃つ。
その時、反ズールー軍の背後に、元祖ケープの市民兵の騎馬隊が突入した。更にその背後からはポルタ市民の銃歩兵隊。
「間に合ったんだ」
そうアーサーが叫び、エンリの部下たちの表情が明るさを増した。
そして、ウォータードラゴンの頭上に居るリラに、元祖ケープの騎馬隊長は叫んだ。
「リラさん、下がって下さい。我々が来た以上は身重な体で戦わせる訳にはいかない」
「身重だって?」
そう言ってリラを見るズールーの兵たちに、騎馬隊長は言った。
「彼女はエンリ王太子の子を宿している。我々は生まれ来る子供のために、ポルタの拠点と共存するあなた達を助けます」
ズールー兵たちの表情に明るさが増し、彼等は拳を上げて叫んだ。
「あのエンリさんの子が・・・」
「人魚姫がお母さんに・・・」
「戦うぞー」
そんな彼等の気勢が、戦場に身を置くフェリペの耳に入った。
「あの、リラ姉様が子供を・・・って、僕の弟か妹だよね?」
嬉しさと動揺の表情を見せる幼いフェリペ。
「フェリペ様・・・」
そう呼びかけるマゼランを見て、フェリペの嬉しさが動揺を押し切った。
「僕、ポルタの人たちに味方する。父上は僕が乗り越えるべき相手だ。けど、弟は僕が守るべき相手だ」
そう宣言するフェリペに、マゼランは「けどメアリさんは?」
「姉様だってエリザベス姉様と同じ姉妹の絆で結ばれてるんだ。僕たち兄弟の絆の大切さは、きっと解ってくれる」とフェリペ皇子。
「そうなのかなぁ」と疑問顔で呟くマゼランに、フェリペは言った。
「とにかく父上たちと合流するぞ」
フェリペはマゼランたちと戦っているジロキチに言った。
「僕たち、リラ姉様のお腹に居る弟のために、父上の元に戻ります」
「いや、それは・・・」
実は妊娠というのは嘘・・・と言いかけたジロキチの後頭部を、ニケがハリセンで思い切り叩き、そしてニケはフェリペに言った。
「よく決心したわね。きっとリラもお腹に居る赤ちゃんも喜んでいるわ。いいお兄ちゃんを持ったって」
「はい、ニケおばさん」
そう言ったフェリペに、ニケは「ニケお姉さん、ね」と訂正を求める。
意気上がるズールーとポルタ人の兵を遠巻きにしていた離脱ズールー兵たちにも、リラの妊娠の話が伝わる。
彼等は口々に言った。
「俺たちも戦わなくていいのかなぁ」
「けど家族が人質に・・・」
「きっとあいつ等なら解ってくれる」
多くの部族兵が戦闘に参加し、二体のドラゴンと戦っていたアラストールも味方についた。
そして完全に形成は逆転したかのように見えた。
だがその時、戦場に向けて、新たに怒涛の如く迫る一団があった。
ゴイセン海賊団だ。
リバイアサンが召喚され、三体のドラゴンがこれに立ち向かう。攻撃魔法で応戦するリバイアサン。
「やっと大暴れ出来るぞ」
そう言って指ポキするマッチョたちに、ウィル団長は「お前等、ポルタの奴らを何人やれるか競争だ。優勝した奴には秘蔵の酒をおごってやる。
歓声とともに、重量級の武器を持った腕自慢のマッチョの大群が押し寄せる。
「奴らを食い止めるぞ」
そう叫んで、剣を持って先頭に立つタルタ、ジロキチ、カルロ、若狭、そしてマゼラン、チャンダ、シャナ。
現地兵の先頭で銃を連射するニケ、ヤン、マーモ。
その背後から攻撃魔法を放つアーサーとリラ、そして三人の女官たち。
タマはケットシーの小さな体でマッチョたちの周りを跳ね回って魔法を連射し、フェリペもまた宙に浮く無数の仮面を足場に、風のように跳ね回って短剣でマッチョたちに手傷を負わせる。
その時、上空に一体のドラゴンが飛来した。サン族のトカゲのドラゴンだ。
背中に反ズールーの族長たち。それに混じって、エンリ王子の姿もある。
サン族の族長が拡声の魔道具で戦場に呼び掛けた。
「アフリカの民たちに告げる。直ちに戦争を停止せよ。我々は預言者ベルベドの言葉を信じ、この大地を我等の手に保つべく結束すると決めた」
「説得に成功したんだ」
そう言って歓声を上げるエンリの部下たち。
現地兵たちは互いに武器を捨てて手を取り合い、不利となったオランダ勢力は本家ケープへと撤退した。
ドラゴンの背から降りて来るエンリ王子に駆け寄る幼いフェリペ。
「父上ーーーーーー」
「戻って来てくれたか、フェリペ」
そう言ってフェリペを抱き抱えるエンリに、フェリペは嬉しそうに「おめでとうございます、父上、リラ姉様」
エンリも嬉しそうに「やったぞ、和平実現だ。ケープの奴らも御苦労だった。これで俺たちはここから去らずに済む」
「それでリラ姉様のお腹の子はいつ産まれるんですか?」
そうフェリペに言われ、エンリは唖然顔で「はぁ?」
「僕の弟なんですよね?」
そうフェリペに言われ、エンリは、隣に来ていたリラに「・・・そうなの?・・・」
もじもじするリラの肩に手を置くエンリの表情が、見る見る嬉しさに満ちる。
そして「でかした、リラ。俺の二番目の子だぞ。今度はポルタ王位を継がせる番だ」
「あの・・・」とリラは困り顔。
エンリはリラを抱き抱えて「みんな、お祝いだ。酒もご馳走もガンガンやるぞ」
「あの・・・」とリラは困り顔。
エンリは両手に扇子を持った小踊り状態で「すぐポルタに戻って盛大に祝賀だ。一週間くらい休日にしよう」
「あの・・・」とリラは困り顔。
エンリは天使の群れに囲まれた幻想の中で「税金免除して国民に祝賀給付。受刑者は全員恩赦だ」
「こういう時は空から金貨を撒くのよね?」
調子に乗って、とんでも無い事を言い出すニケに、アーサーは「ニケさん何言ってるの?」
だが、エンリ王子は「いや、お祝いのお金を惜しんだりするもんか。後は野となれ山となれだ」
「じゃなくて、妊娠って実は嘘」
アーサーのその言葉で、エンリは唖然顔で「はぁ?」
事情を説明するリラとアーサー。
そして・・・・・・・・。
真っ暗な背景の中を真っ逆さまに落ちる幻想の中で、エンリは叫んだ。
「そんなぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」




